飛ぶもののヒミツをさぐろう

大阪市立科学館研究報告 25, 133 - 136 (2015)
夏休み自由研究「飛ぶもののヒミツをさぐろう」実施報告
宏*
大 倉
概 要
空 気 中 を飛 行 する物 体 には揚 力 が働 く。翼 がある場 合 、大 きな揚 力 が働 くが進 行 方 向 に対 して翼 が
どのような向 きであるかが問 題 となる。いろんな飛 ぶものを工 作 し、どのような飛 び方 をしているのかさぐる
教室を実施 したので報 告 する。
1. はじめに 
につけたらいいか考え、付けてもらった。
飛行機の翼には揚力が生じる。しかしなぜ揚力
たいていの子は小さな羽根を後ろにつけてロケ
が生じるのかの説明は易しくない。翼の後縁に沿
ットのようにする。中には少し角度を付けて回転
って空気が流れると渦が生じるからである
1)-3)
、
がかかるように工夫をする子もいる。
な ど と い わ れ て も ピ ン と 来 る 人 は ど れ だ け いるだ
ろうか。ここでは揚力は働くものとして、揚力が
なぜ発生するかに深入りはしない。
ただ、揚力が働くためには、いわゆる迎え角、
進行方向に対して翼が一定の角度を保っていなけ
れば飛び続けることができない。ものを遠くまで
飛ばそうというのがメインテーマだが、今回はど
うすれば揚力が働き続けるか、どうすれば翼の角
度を一定に保てるかを隠れたテーマとしていた。
2. 内 容
2-1)風船ロケッ ト を 飛 ば そ う
飛行機は支えるもののない空中で姿勢を保って
しかし、残念ながらどんなに羽根をつけてもそ
飛んでいる。その前段として、ものを遠くまで飛
れだけでは遠くに飛ばないのである。次に帯状に
ばすには飛ばすもののバランスが大事であること
切った紙を渡し鉢巻のようにロングバルーンの頭
を知ってもらいために、ロングバルーンを投げて
に巻いて飛ばしてもらった。見違えるように飛ぶ
飛ばす実験をこどもたち全員にやってもらった。
ロケットに子どもたちの目が輝いた。
そのままではもちろん飛ばない。では、何かを
実は、風船ロケットは周りの空気から空気抵抗
風船に取り付けて飛ばしてみよう!ということで
だけでなくその胴体は揚力を受ける。しかし揚力
こどもたちに考えてもらった。羽根を付けたらい
の中心は胴体の中心にないため回転を起こす力の
いのではないかというアイデアは自然に出てくる。
モーメントが生じ真っ直ぐ飛ぶ姿勢を保てないの
そこで用意していた小さな紙の羽根を渡し、どこ
で あ る 。 向きが変わると 空気抵抗が大きくなり失
速し、ふらふらと落下してしまう。
 *
大証率科学館 中之島科学研究所
[email protected]
さ ら に 後 ろ に 尾翼を付 けた だ け で 前 に オ モ リ が
ないと重心はロケットの後ろ寄りになる。すると
大倉 宏
重心と尾翼の距離が縮まり尾翼の風見安定効果も
い 気 持 ち も あ っ た のだが 、そこまではできず、面
小さくなってしまう。
白い飛び方をするものがあるということで紹介し
オモリを付けることにより、胴体で発生する揚
た。
力 の 中 心 と 重心 が 近 く な り 回 転 を 生 じ さ せ るモー
メントが小さくなるとともに、尾翼の風見効果も
大 き く 効 く よ う に な り 、ロ ケ ッ ト は 安 定 し て 飛 ぶ 。
羽根だけで矢尻のない矢は真っ直ぐ飛ばないので
ある。
しかし、ここでは難しい解説は抜きに後半の飛
行機作りにつなげるため、飛ぶものはバランスが
取れると飛ぶようになるとだけ説明をした。
2-2)紙皿、紙コ ッ プ を 飛 ば そ う
飛行する板状のものには揚力が働く。しかし飛
行姿勢を安定に保てなければ落下してしまう。紙
皿のようなものを遠くに飛ばすにはどうしたら良
いか考えてもらった。
2-3)飛 行 リ ン グ
ペットボトルを輪切りにしたものを多数用意し、
何人かの子は回転をかけて投げることを提案す
オモリとして片方の縁にビニールテープを巻いた
る。フリスビーを知っている子もいる。たしかに
も の を 工 作 し た。アメフ トのクォーターバックが
少しは飛ぶようになるのだがまだ安定はしない。
投げるボールのように回転を掛けて投げると良く
紙皿の外周を重くすると慣性能率が大きくなり、
飛ぶ。
迎え角を保つことができるようになるので安定し
て飛ぶようになる。
しかし少々投げにくく、慣れないとどこに飛ぶ
か 分 か ら な い 。 程度丈夫 なものをと思い、ペット
単に外周を大きくするのではなしに、写真のよ
ボトルを使ったのだが、大勢同時に投げてもらう
うにスカートにするとさらによい。おそらく空力
こ と は で き な か っ た 。 紙 でも同じようなものが作
的な効果なのだろうが理由は良く分からない。フ
れるので紙でやれば良かった。
リスビーのようなものでドッチボールをするドッ
2-4)紙 飛 行 機
チビ―の円盤もこのような形をしている。
二 宮 康 明 博 士 の設計し たスカイカブⅣを工作し
た 。 同 機 は 、 紙の裏がシ ールになっていて、バル
サ胴に貼り付けるだけで作ることができる。
紙 皿 の 外 周 に帯 状 の 厚 紙 を ホ チ キ ス で 止め 、さ ら
に保護としてスポンジ製のすきまテープを巻い
た 。ひ っ く り 返 し て フ リ ス ビ ー の よ う に投 げ る と
紙飛行機は丁寧に作らないと良く飛ばない。左
良く飛ぶ。
右のバランスが取れていることも大事だが、前後
さらに、2つの紙コップの底を貼り合わせたも
のバランスが取れていることが大事だ。大人なら
のを輪ゴム3~4個をつないだもので飛ばす紙コ
10 分 も か か ら な い の だ が 、大 勢 の 子 ど も で は 数 倍
ップ飛ばしも紹介した。古くからあるデモンスト
時間がかかる。それでも 20 分 程 度 で 作 る こ と が で
レーションのようだが、最近では月僧秀弥氏が科
きた。
学の祭典などで紹介している
4)
。流れからすると
多くの実機の重心は、主翼の揚力の中心よりや
少し異質の実験で、実はこれで揚力の説明をした
や前になっているが、紙飛行機では後ろに来てい
夏休み自由研究「飛ぶもののヒミツをさぐろう」実施報告
る
5)
。 し か し 、 水 平 尾 翼 で ピ ッ チ ン グ (縦 揺 れ )安
今回はいろいろ盛りだくさんになってしまい、
定性を保っていることには違いはない。やや下向
テ ー マ が ぼ や け てしまっ た感があった。それでも
きにそっと投げ落とした時滑空してくれればバラ
飛ぶものネタはこどもに人気があり、多数の参加
ンスが取れているが、ストンと落ちてしまう場合
者があった。また男子が多いのかと思ったが男女
は 、 水 平 尾 翼 の 後 縁 (エ レ ベ ー タ )を 上 げ 、 逆 に 頭
半々くらいの参加であった。
を上げて失速する場合は下げるよう指導した。
外 で 思 い 切 り 投 げ た い と こ ろ だ が (実 は パ チ ン
コのような投機器があるのでさらに遠くに飛ばす
参考文 献
1) 松 田 卓 也 「 飛 行 機 は な ぜ 飛 ぶ か ま だ 分 か ら な
こ と が で き る )、時 間 が 少 な か っ た の と 収 集 がつか
い??」
なくなる恐れがあったので、家に帰って広いとこ
http://jein.jp/jifs/scientific-topics/88
ろ で 飛 ば し て く だ さ い (た だ し 、 他 の 人 や 車 に 注
7-topic49.html
意 )と し た 。
2-5)ブ ー メ ラ ン
飛行体の安定性から話が逸れてしまうのだが、
最 後 に 以 前 ブー メ ラ ン 世 界 チ ャ ン ピ オ ン の 栂井靖
弘氏
6)
に監修してもらい製作した紙ブーメランキ
2) 松 田 卓 也 「 飛 行 機 は な ぜ 飛 ぶ の か 」
http://djweb.jp/power/physics/physics_02
.html
3) 鈴木真二「『ベル ヌーイの 定理』説をめぐる論
争 を 解 く (2 )」
ットがあったので、それを作った。室内用のブー
http://www.flight.t.u-tokyo.ac.jp/~suzuk
メ ラ ン で 3 メー ト ル 程 の 円 を 描 い て 投 げ 手 のとこ
i/MSNsuzuki2.pdf
ろ に 戻 っ て 来 る 。 こ れ は 旋 回 半 径 が 小 さ い ので、
会場内で投げてもらうことができた。
4) 月 僧 秀 弥 「 飛 ぶ プ ラ コ ッ プ ― マ グ ヌ ス コ ッ プ
―」
http://www.kagakunosaiten.jp/convention/
pdf/2013/012.pdf
5) 鈴 木 真 二 「 紙 飛 行 機 が 飛 ぶ わ け ― 紙 飛 行 機 を
上 手 く 飛 ば す 科 学 (1 )」
http://www.flight.t.u-tokyo.ac.jp/~suzuk
i/MSNsuzuki3.pdf
6) 栂 井 靖 弘 「 ブ ー メ ラ ン の 楽 し み 方 」 メ デ ィ ア
ジャパン株式会社
サイエンスショーで使う「世界一かんたんブー
メラン」も紹介した。こちらは、旋回半径が大き
く大勢に投げてもらうことができないので、作り
方を説明し、材料だけ渡してもって帰ってもらっ
た。