米利上げ後のドル円相場を展望する

米利上げ後のドル円相場を展望する
齊藤 聡
マーケットアナリスト
SMBC信託銀行
プレスティア投資調査企画部
米国では10月の雇用統計で失業率が5.0%と7年半ぶりの水準まで低下するなど雇用環境の改善が継続して
おり、個人消費の堅調さを伴い景気は順調に回復している。当行は11月分の同統計(12月4日発表)でも非農業
部門雇用者数が前月比21万人増と労働市場改善の目安(同20万人増)を上回るほか、失業率は10月から変わ
らず低水準にとどまると予想、12月15、16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ決定を見込んで
*1
いる 。
過去の利上げ局面における為替相場の動きを確認すると、傾向として「利上げ開始から3-6カ月程度はドル安
円高が進行しやすい」ことが挙げられる(図表1)。今次局面においては、利上げ開始が織り込まれていくなかでド
ル高が進行してきたため、実際に利上げが開始されればいったんは材料出尽くしでドル安円高圧力がかかる可
能性がある。一方、日本では日銀が「2%物価安定目標」の達成に向けて量的・質的金融緩和(QQE)を実施して
いる。ただ、11月27日に発表された10月の全国コア消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)は前年比0.1%低下
と3カ月連続のマイナス。原油安の影響が剥落し、今後はコアCPIが上昇する公算が大きいとはいえ、賃金上昇
を通じた物価押し上げを重視する日銀は、企業業績の落ち込みは無視できず、円高や株安が進行する場合には
QQEの再拡充を検討する可能性が高いように思える。なお、 日銀短観(9月調査)では117円39銭が大企業製造
業の2015年度通期の想定為替レートとされており、仮にこの水準を下振れると企業業績の下押し要因となるため、
市場では追加緩和観測が広がり得るだろう。米国の利上げというイベントを手掛かりにドル円が高下する場合で
も、下落基調が長期にわたる可能性は低いとみる。
また、他方では「利上げ開始6カ月後から、利上げサイクル終了まででドル円は上昇したケースが多い」というポ
イントも指摘できる(図表1)。一般的に継続的な利上げは景気減速要因として捉えられる。だが、今月18日に公
表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では「FOMC参加者は概して、金融緩和を徐々に取り除くこと
がおそらく適切であろうということに合意した」とされた。また、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長も23日に
「積極的な利上げ」に警戒感を示しており、利上げペースは緩慢になる公算が大きく、緩やかな景気回復が続くと
みられる。加えて、債券市場では2年債利回りの上昇を背景に日米短期金利差が拡大し、ドル円を支援するだろ
う。仮に過去の傾向に沿ってドル円の下落が進行する場合には、その時点の状況を慎重に見極める必要がある
ものの、押し目の好機となるのではないかと筆者は考えている。
本レポート記載のマクロ経済見通しは、当行がライセンス契約を結んでいるCiti Researchの予測を参照しています
*1 “U.S.Economic Views”, 2015.11.19 Citi Research
【図表2:米日短期金利差とドル円の推移】
【図表1:米利上げ開始前日からのドル円の変動幅】
(%)
9
8
2週間後まで
(14日)
1986.12-1987.10
1988.03-1989.06
1994.02-1995.07
1997.03-1998.09
1999.06-2001.01
2004.06-2007.09
平均
中央値
-4.2
2.5
-4.1
2.7
0.2
0.4
-0.4
0.3
ドル円の変動幅(円)
1カ 月後
3カ 月後まで
6カ 月後まで
まで(30日)
(90日)
(180日)
-10.5
0.9
-2.8
3.1
-5.6
3.8
-1.9
-1.0
-10.6
6.4
-6.5
-8.2
-15.1
3.1
-5.2
-7.3
-19.4
10.3
-7.9
-0.8
-18.1
-4.6
-6.8
-6.2
次の利下げ
前日まで
-20.5
17.6
-23.4
12.9
-6.6
6.9
-2.2
0.1
7
6
(1ドル=円)
170
米日短期金利差(左軸)
FF金利(左軸)
ドル円(右軸)
160
150
140
5
130
4
120
3
110
2
100
1
90
0
80
-1
1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
70
※グレー部分は利上げ局面
出所:SMBC信託銀行プレスティア
本レポートは、株式会社SMBC信託銀行(以下「SMBC信託銀行」といいます)が経済、市況他、投資環境に関する情報をお伝えすることのみを目的として作成
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のいかなる内容も、 将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。投資の選択や投資時期の決定は必ずご自分の判断でなさるようお願いいたし
1
ます。