アジア景気にとって外需は引き続き重石に(Asia Weekly

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ASIA Indicators
定例経済指標レポート
アジア景気にとって外需は引き続き重石に(Asia Weekly (2/22~2/26))
~インフレ圧力の低下は内需の下支えに繋がっている可能性~
発表日:2016 年 2 月 26 日(金)
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522)
○経済指標の振り返り
発表日
指標、イベントなど
結果
コンセンサス
前回
▲0.6%
▲0.6%
▲0.6%
+2.7%
+2.5%
+2.5%
3.3%
3.3%
3.3%
+1.8%
+1.8%
+2.0%※
(マレーシア)1 月消費者物価(前年比)
+3.5%
+3.7%
+2.7%
(香港)10-12 月期実質 GDP(前年比)
+1.9%
+2.2%
+2.3%
3.91%
3.90%
3.88%
(タイ)1 月輸出(前年比)
▲8.91%
▲6.45%
▲8.73%
1 月輸入(前年比)
▲12.37%
▲8.50%
▲9.23%
(香港)1 月輸出(前年比)
▲3.8%
▲3.2%
▲1.1%
1 月輸入(前年比)
▲9.0%
▲6.3%
▲4.6%
2/26(金) (ニュージーランド)1 月輸出(億 NZ ドル)
39.0
37.1
44.3
1 月輸入(億 NZ ドル)
38.9
39.5
44.6
▲0.5%
▲5.1%
▲11.9%
2/23(火) (シンガポール)1 月消費者物価(前年比)
(香港)1 月消費者物価(前年比)
1 月失業率(季調済)
2/24(水) (シンガポール)10-12 月期実質 GDP(前年比/改定値)
2/25(木) (台湾)1 月失業率(季調済)
(シンガポール)1 月鉱工業生産(前年比)
(注)コンセンサスは Bloomberg 及び THOMSON REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。※は速報値
[シンガポール] ~インフレ低下で内需に底堅さも、外需を巡る不透明感は先行きも景気の重石になろう~
23 日に発表された1月の消費者物価は前年同月比▲0.6%と 15 ヶ月連続でマイナスとなり、前月(同▲0.6%)
とマイナス幅は同じであった。ただし、前月比は▲0.22%と前月(同+0.01%)から3ヶ月ぶりに下落に転じ
ており、依然としてディスインフレ基調が続いている。生鮮品を中心に食料品価格には上昇圧力が強まる動き
がみられる一方、原油安の一段の進展を背景にエネルギー価格の下落圧力が強まっており、生活必需品を巡っ
てはまちまちの動きとなっている。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+0.39%
と前月(同+0.26%)から加速しているものの、前月比は▲0.02%と前月(同+0.28%)から2ヶ月ぶりに下
落に転じており、エネルギー価格の低下による輸送コストの鈍化に伴い消費財全般で物価上昇圧力が後退して
いることが影響している。さらに、景気の先行き不透明感を反映してサービス物価の上昇圧力も後退している。
24 日に発表された昨年 10-12 月の実質GDP成長率(改定値)は前年同期比+1.8%となり、先月発表され
た速報値(同+2.0%)から下方修正された。ただし、前期比年率ベースでは+6.24%と速報値(同+5.70%)
から上方修正されており、前期以前について過去に遡って下方修正されたことが前年比の伸びの上方修正に繋
がっている。なお、前期(前期比年率+2.26%)からは成長率が加速しており、景気の底離れが進んでいる様
子はうかがえる。分野別では、中国経済の減速など世界経済を巡る不透明感が重石となる形で製造業の生産が
鈍化している上、サービス部門では輸送関連が鈍化したものの、その他のサービス部門では底堅い内需が下支
えに繋がっているほか、建設部門における生産拡大も景気の押し上げに繋がっている。特に、サービス部門で
は金融取引の拡大が全体の押し上げに繋がっている。需要項目別では、原油安によるインフレ圧力の低下で実
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容
は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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質購買力が押し上げられるなかで個人消費の伸びが加速したほか、公共投資の進捗などを反映して固定資本投
資も加速するなど内需全般で堅調さが確認された。ただし、企業部門の設備投資意欲の弱さに伴い輸入が鈍化
した結果、純輸出の成長率寄与度が大幅プラスに転じたことも成長率の加速に繋がっている。結果、昨年通年
の経済成長率は前年比+2.0%と前年(同+3.3%)から減速し、世界経済の影響が直撃した 2009 年(同▲0.6%)
以来の低い伸びに留まった。当局は今年の成長率について「先進国の堅調な景気を追い風に昨年に比べてやや
改善するものの、下振れリスクは残る」として「1~3%」に留まるとの見通しを示している。
26 日に発表された1月の鉱工業生産は前年同月比▲0.5%と 12 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなったもの
の、前月(同▲11.9%)からマイナス幅は縮小している。前月比も+9.3%と前月(同▲5.4%)まで2ヶ月連
続で減少が続いた反動も重なり3ヶ月ぶりに拡大に転じており、月ごとの生産の変動幅が大きく全体の動向に
与える影響も大きいバイオ・医薬品関連で生産が急拡大したことが影響している。ただし、バイオ・医薬品関
連を除いたベースでも前月比+4.4%と前月(同▲5.9%)から3ヶ月ぶりに拡大に転じており、主力の半導体
を中心とする電子部品及び電気機器での生産拡大が全体の押し上げに繋がっている。
図 1 SG インフレ率の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 2 SG 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 3 SG 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
[香港]
図 4 SG 鉱工業生産の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
~中国本土の景気減速が重石となる形で、景気に一段と下押し圧力が掛かる展開は避けられない~
23 日に発表された1月の消費者物価は前年同月比+2.7%となり、前月(同+2.5%)から加速した。ただ
し、前月比は+0.00%と前月(同+0.24%)から上昇ペースは鈍化しており、物価上昇圧力は一段と後退して
いると判断出来る。生鮮品を中心に食料品価格には上昇圧力がくすぶる一方、原油価格の下落を反映してエネ
ルギー価格は下落基調を強めるなど、生活必需品を巡る物価動向はまちまちである。しかしながら、エネルギ
ー価格の低下に伴う輸送コストの低下により消費財全般で物価上昇圧力は後退しているほか、中国本土の景気
減速による先行き不透明感はサービス物価を下押ししている。香港では、2007 年以降断続的に公営住宅を対
象とした賃料減免措置をはじめとする物価支援策が行われているが、その効果を除いたベースでは前年同月比
+2.6%と前月(同+2.4%)から加速しているものの、前月比は▲0.08%と前月(同+0.32%)から 10 ヶ月
ぶりに下落に転じるなどディスインフレ圧力がくすぶっている。
同日発表された1月の失業率(季調済)は 3.3%となり、前月(3.3%)から7ヶ月連続で横這いでの推移
が続いている。失業者数は前年同月比▲0.1 万人と前月(同▲0.1 万人)からほぼ横這いで減少基調が続いて
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容
は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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いる一方、雇用者数は同+1.0 万人と前月(同+2.2 万人)から依然として拡大しているものの、徐々に拡大
ペースは鈍化している。雇用調整圧力が高まりつつあるにも拘らず失業率が横這いで推移している背景には、
労働力人口が前年同月比+1.0 万人と前月(同+2.1 万人)から拡大ペースが鈍化していることが影響してお
り、なかでも男性で鈍化基調が急速に強まっている。これは中国本土経済の減速が強まるなか、景気の先行き
不透明感が強まっていることを受け、求職自体を諦める自発的失業が増加している可能性があり、雇用環境は
見た目以上に悪化している可能性が考えられる。
24 日に発表された昨年 10-12 月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.9%となり、前期(同+2.3%)か
ら減速した。前期比年率ベースでも+0.95%と前期(同+2.22%)から減速しており、中国本土における景気
減速をきっかけに世界経済の不透明感が強まるなかで同国景気の勢いは一段と弱まっている。原油をはじめと
する国際商品市況の低迷に伴うインフレ圧力後退により家計部門にとっては実質購買力の向上に繋がってい
るものの、個人消費は依然として力強さを欠いており、雇用環境の悪化が重石になっている可能性がある。さ
らに、海外経済の不透明感は輸出の足かせとなるなか、政府主導による公共投資が固定資本投資を押し上げた
ものの、これに伴う輸入増の影響で外需の成長率寄与度はマイナスに転じている。こうしたことも景気の足か
せになっている。結果、2015 年通年の経済成長率は前年比+2.4%と前年(同+2.6%)から減速しているが、
同日政府が発表した今年度予算案では今年の経済成長率見通しを+1~2%とすることが示されており、一段
と景気の減速感が強まる可能性が高いと見込まれる。
25 日に発表された1月の輸出額は前年同月比▲3.8%と9ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、前月(同▲
1.1%)からマイナス幅も拡大している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は2ヶ月ぶりに減少
に転じており、中国本土経済を巡る不透明感に加えて世界経済も勢いを欠く展開が続くなか、輸出に底入れの
動きが出にくい状況が続いている。一方の輸入額は前年同月比▲9.0%と 12 ヶ月連続で前年を下回る伸びとな
り、前月(同▲4.6%)からマイナス幅も拡大している。前月比も2ヶ月ぶりに減少に転じており、原油をは
じめとする国際商品市況の低迷が続いていることに加え、中国本土景気が減速感を強めていることも輸入の下
押しに繋がっている。結果、貿易収支は▲174.82 億HKドルと前月(▲457.06 億HKドル)から赤字幅が大
幅に縮小している。
図 5 HK インフレ率の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 7 HK 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 6 HK 雇用環境の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
図 8 HK 貿易動向の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容
は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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[タイ]
~国際商品市況の調整による影響に加え、内・外需の弱さも貿易動向の足かせになっている模様~
25 日に発表された1月の輸出額は前年同月比▲8.91%と 13 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、前月(同
▲8.73%)からわずかながらマイナス幅が拡大している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も2
ヶ月ぶりに減少に転じており、低迷が続く輸出は依然として底入れが進まない展開が続いている。中国の景気
減速に伴い足下ではASEAN周辺国の景気も勢いを欠く展開が続いており、輸出に下押し圧力が掛かりやす
くなっている。さらに、主力の輸出財であるコメや天然ゴムについては国際商品市況の低迷が価格の重石とな
っており、これも輸出額が上向きにくい一因になっていると考えられる。一方の輸入額は前年同月比▲12.37%
と 11 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、前月(同▲9.23%)からマイナス幅も拡大している。前月比も2
ヶ月連続で減少している上、そのペースは加速するなど輸入の鈍化基調が強まっている。原油をはじめとする
国際商品市況の調整が輸入額の下押し圧力になっている側面はあるものの、足下では個人消費など内需も全般
的に力強さを欠いていることも輸入の鈍化に繋がっている。結果、貿易収支は+2.38 億ドルと前月(+14.87
億ドル)から黒字幅が縮小している。
図 9 TH 貿易動向の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
[ニュージーランド] ~乳製品をはじめとする食料品の輸出環境については底堅さがうかがえる展開~
26 日に発表された1月の輸出額は前年同月比+5.9%となり、前月(同+0.6%)から加速した。前月比も
+9.5%と前月(同▲2.5%)から2ヶ月ぶりに拡大に転じており、原油をはじめとする国際商品市況が一段と
調整したことを受けて原油関連のほか、鉱物資源関連の輸出額に軒並み下押し圧力が掛かる一方、主力の乳製
品や果物をはじめとする食料品の輸出増加が全体の押し上げに繋がっている。国・地域別では、最大の輸出先
である中国向けは一進一退の展開が続いているほか、中国に次ぐ輸出先である豪州向けは力強さに欠ける一方、
米国や欧州など先進国向けやASEAN向けなどの堅調さが全体を押し上げている。一方の輸入額は前年同月
比+7.2%となり、前月(同▲3.0%)から2ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じている。前月比も+6.0%と
前月(同▲8.5%)から2ヶ月ぶりに拡大に転じており、原油安を背景に石油製品関連で下押し圧力が強まっ
たほか、国内景気の不透明感を反映して機械関連でも鈍化基調が強まったものの、服飾関連をはじめとする日
用品全般における輸入額の増加が全体を押し上げている。結果、貿易収支は+0.08 億NZドルと前月(▲0.38
億)NZドルから8ヶ月ぶりにわずかながら黒字に転じている。
図 10 NZ 貿易動向の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容
は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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[台湾]
~輸出低迷の余波を受ける製造業のみならず、幅広い分野で雇用調整圧力が強まっている模様~
25 日に発表された1月の失業率(季調済)は 3.91%となり、前月(3.88%)から 0.03p 悪化した。この結
果、失業率は直近のピークである昨年7月以降6ヶ月連続で悪化している。なお、雇用者数は前月比+0.2 万
人と力強さはないものの依然拡大基調を続けているが、前月(同+0.5 万人)から拡大ペースは鈍化している。
中国本土をはじめとする世界経済を巡る不透明感などを理由に輸出が低迷するなか、製造業において雇用調整
圧力が強まっているほか、建設や不動産関連でも雇用が急激に縮小している上、これまで比較的堅調な推移を
みせてきたサービス関連でも雇用の拡大ペースが鈍化するなど、幅広い分野で雇用に下押し圧力が掛かってい
る。一方、失業者数も前月比+0.4 万人と前月(同+0.5 万人)から増加ペースこそ鈍化しているものの、新
卒者及び既卒者問わずに増加しており、雇用環境は厳しさを増している。
図 11 TW 雇用環境の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
[マレーシア]
~前年の反動でインフレ率は加速するも、全般的なディスインフレ基調は変わっていない~
24 日に発表された1月の消費者物価は前年同月比+3.5%となり、前月(同+2.7%)から加速した。ただ
し、前月比は▲0.26%と前月(同+0.00%)から4ヶ月ぶりに下落に転じるなど物価上昇圧力は後退しており、
前年比の伸びが加速した背景には、昨年1月は原油安の影響でエネルギー価格や輸送コストが軒並み大きく下
落しており、その反動が出たことが影響している。食肉や生鮮品を中心に食料品価格に上昇圧力はくすぶるも
のの、年明け以降の一段の原油安を追い風にエネルギー価格は下落基調を強めるなど、生活必需品の物価はま
ちまちの動きが続いている。ただし、エネルギー価格の下落に伴う輸送コストの低下は消費財全般で物価上昇
圧力を後退させているほか、足下では先行きの景気に対する不透明感が影響する形でサービス物価の上昇圧力
も後退するなど、全般的にディスインフレ基調は続いている。
図 12 MY インフレ率の推移
(出所)CEIC より第一生命経済研究所作成
以
上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容
は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。