1/5 ASIA Indicators 定例経済指標レポート アジア新興国の外需は依然一進一退(Asia Weekly (5/23~5/27)) ~シンガポールは内・外需ともに先行きに不透明感がくすぶる~ 発表日:2016 年 5 月 27 日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) ○経済指標の振り返り 発表日 指標、イベントなど 結果 コンセンサス 前回 3.97% 3.93% 3.92% 4 月鉱工業生産(前年比) ▲4.06% ▲1.60% ▲2.92% (シンガポール)4 月消費者物価(前年比) ▲0.5% ▲0.7% ▲1.0% (香港)4 月消費者物価(前年比) +2.7% +3.0% +2.9% 5/25(水) (ニュージーランド)4 月輸出(億 NZ ドル) 43.0 40.8 42.0 4 月輸入(億 NZ ドル) 40.1 39.8 40.1 (シンガポール)1-3 月期実質 GDP(前年比/改定値) +1.8% +1.9% +1.8%※ (タイ)4 月輸出(前年比) ▲8.00% ▲1.50% +1.30% 4 月輸入(前年比) ▲14.92% ▲7.65% ▲6.94% 5/26(木) (シンガポール)4 月鉱工業生産(前年比) +2.9% +1.6% +0.1% (香港)4 月輸出(前年比) ▲2.3% ▲7.6% ▲7.0% 4 月輸入(前年比) ▲4.5% ▲5.5% ▲5.8% ▲0.68% ▲0.80% ▲0.84%※ 5/23(月) (台湾)4 月失業率(季調済) 5/27(金) (台湾)1-3 月期実質 GDP 成長率(前年比/改定値) (注)コンセンサスは Bloomberg 及び THOMSON REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。※は速報値。 [シンガポール] ~内・外需ともに勢いを欠く展開が続くなか、先行きについても不透明感が残る模様~ 23 日に発表された4月の消費者物価は前年同月比▲0.5%と 18 ヶ月連続でマイナスとなったものの、前月 (同▲1.0%)からマイナス幅は縮小している。ただし、前月比は▲0.05%と前月(同+0.04%)から2ヶ月 ぶりに下落に転じており、生鮮品を中心に食料品価格に上昇圧力が掛かっているほか、このところの原油相場 の上昇を背景にガソリン価格も上昇に転じる動きがみられる一方、電力料金は大幅に下落するなど生活必需品 を取り巻く状況はまちまちの展開が続いている。なお、価格変動が大きい住宅関連などを除いたコアインフレ 率は前年同月比+0.82%と前月(同+0.55%)から伸びが加速し、前月比も▲0.01%と総合に比べて下落ペー スは抑えられている。景気の先行きに対する不透明感はくすぶるものの、一部のサービス物価で上昇圧力が強 まっているほか、輸送コストの上昇などを理由に幅広い消費財で物価上昇圧力が高まったことも影響している。 25 日に発表された1-3月期の実質GDP成長率(改定値)は前年同期比+1.8%となり、前月に発表され た速報値(同+1.8%)と同じ伸びであった。前期(同+1.8%)からも横這いで推移しており、世界経済を巡 る不透明感が高まるなか、都市国家である同国経済は一進一退の展開が続いている。前期比年率ベースでは+ 0.23%と前期(同+6.24%)に大きく加速した反動も重なり伸びが鈍化したものの、速報値(同+0.00%)か らわずかに上方修正されている。内訳をみると、中国経済の減速やそれに伴う世界経済の不透明感などを反映 して輸出に大きく下押し圧力が掛かったほか、雇用を巡る不透明感の高まりを反映して個人消費も落ち込み、 住宅を中心とする建設需要が落ち込んだことで固定資本投資も鈍化しており、内・外需ともに低迷している。 なお、前期においては在庫調整圧力が景気の足かせになったものの、今期については在庫の積み上がりが景気 下押しの抑制に働いており、来期以降の景気にとってこの調整が足かせとなる点には注意が必要である。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/5 26 日に発表された4月の鉱工業生産は前年同月比+2.9%となり、前月(同+0.1%)から伸びが加速した。 前月比も+4.81%と2ヶ月連続で拡大している上、前月(同+1.22%)からそのペースも加速しており、生産 に底入れの動きが出ている。月ごとの生産の変動幅が大きい上、生産全体に与える影響が大きいバイオ・医薬 品関連の生産が前月比+2.88%と前月(同+13.10%)に続いて拡大したことも影響しているものの、バイオ・ 医薬品関連を除いたベースでも同+5.09%と前月(同▲0.62%)から3ヶ月ぶりに拡大に転じており、主力の 機械製品や電子機器関連のほか、化学製品関連の生産が拡大したことが全体の押し上げに繋がっている。基調 としての生産は底打ちを果たしつつあると評することが出来るものの、外需を取り巻く環境に不透明感が残る なかでは先行きの底離れが進むとは見込みにくく、勢いに乏しい展開が続くと予想される。 図 1 SG インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 2 SG 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 3 SG 鉱工業生産の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [台湾] ~外需の不透明感を背景に生産に下押し圧力が掛かるなか、雇用を取り巻く環境も厳しい展開~ 23 日に発表された4月の失業率(季調済)は 3.97%となり、前月(3.92%)から 0.05pt 悪化した。失業者 数は前月比+0.6 万人と前月(同▲0.2 万人)から2ヶ月ぶりに拡大に転じており、新卒者で増加基調が強ま っていることに加え、既卒者については新卒者以上に増加圧力が強まる動きがみられる。一方、雇用者数は前 月比+0.6 万人と前月(同+0.6 万人)と同じペースで拡大が続いているものの、中長期的にみた傾向は頭打 ち感が強まる動きがみられるなど、景気の先行きに対する不透明感が雇用環境の足かせになりつつある。下押 し圧力が掛かり続けてきた製造業では底入れの兆しが出ている一方、建設需要の低迷を反映して建設関連の雇 用に一段と下押し圧力が掛かっているほか、サービス部門においても幅広い分野で雇用の拡大ペースが鈍化し ており、雇用を取り巻く環境は厳しさを増している。なお、労働力人口は前月比+1.2 万人と前月(同+0.4 万人)から拡大ペースが加速しており、労働参加率も 58.77%と前月(58.73%)からわずかに上昇するなど 労働市場を巡る環境がすべて悪化している訳ではないものの、外需の回復が望みにくい環境にあることを勘案 すれば、先行きもしばらく厳しい展開が続くことは避けられないと予想される。 また、同日に発表された4月の鉱工業生産は前年同月比▲4.06%と 12 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、 前月(同▲2.92%)からマイナス幅も拡大している。前月比も▲0.80%と前月(同+1.33%)から2ヶ月ぶり に減少に転じており、外需を巡る不透明感が重石となる形で一進一退の展開が続いている。分野別では、製造 業の生産に下押し圧力が掛かりやすい展開となっているほか、建設需要の低迷を反映して建設資材関連の生産 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/5 に大幅な下押し圧力が掛かったことも足かせになっている。 27 日に発表された1-3月期の実質GDP成長率(改定値)は前年同期比▲0.68%となり、先月発表された 速報値(同▲0.84%)から上方修正された。前期比年率ベースでも+3.14%と速報値段階(同+0.76%)から 大幅に上昇修正されているものの、前期以前が大幅に下方修正されており、改訂後の姿では昨年は4-6月期 から7-9月期にかけて2四半期連続でマイナス成長となるリセッションに陥っていたことになる。なお、同 期については前期に引き続き原油安の長期化に伴うインフレ圧力の低下を受けて個人消費が堅調なほか、年度 初めのタイミングゆえに政府支出が大きく押し上げられる動きがみられたものの、最大の輸出相手である中国 経済の一段の減速を受けて輸出は鈍化した。さらに、輸出の低迷を受けて企業の設備投資意欲が後退したこと で固定資本投資は大きく落ち込んでおり、これに伴って輸入の鈍化幅は輸出を大きく上回ったことから、純輸 出の成長率寄与度が大きくプラスに転じたことは成長率の加速に繋がっている。したがって、足下の景気は見 た目程力強いものではなく、先行きについても下押し圧力が掛かりやすい地合いが続くと予想される。 図 4 TW 雇用環境の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 5 TW 鉱工業生産の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 6 TW 実質 GDP 成長率(前期比年率)の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [タイ] ~輸出を巡る状況は一進一退の展開が続くなか、原油相場の上昇一服で輸入にも下押し圧力~ 25 日に発表された4月の輸出額は前年同月比▲8.00%となり、前月(同+1.30%)から3ヶ月ぶりに前年 を下回る伸びに転じた。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は2月に大きく拡大した反動も重なり 2ヶ月連続で減少基調が続いており、外需を取り巻く環境は一進一退の展開が続いていると判断出来る。中国 経済を巡る不透明感を背景にASEANを中心とする周辺国景気に下押し圧力が掛かっており、輸出に下押し 圧力が掛かりやすい地合いが続いている。一方の輸入額は前年同月比▲14.92%と 14 ヶ月連続で前年を下回る 伸びとなり、前月(同▲6.94%)からマイナス幅は拡大している。前月比も過去2ヶ月に亘って拡大が続いて きたこともあり、3ヶ月ぶりに減少に転じている。上昇基調を強めてきた原油相場が一服していることに加え、 輸出の低迷は原材料などに対する需要を下押ししたことも輸入の足かせになったと考えられる。結果、貿易収 支は+7.21 億ドルと前月(+29.66 億ドル)から黒字幅が縮小している。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4/5 図 7 TH 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [香港] ~インフレ動向は引き続き下向きのなか、輸出入に底入れの兆しも先行きの不透明感は変わらず~ 23 日に発表された4月の消費者物価は前年同月比+2.7%となり、前月(同+2.9%)から減速した。前月 比も▲0.97%と2ヶ月連続で下落している上、前月(同▲0.39%)からそのペースは加速しており、物価上昇 圧力は一段と後退している。このところの原油相場の上昇を反映してガソリンをはじめとするエネルギー価格 に上昇圧力が掛かっている一方、生鮮品を中心に食料品価格の下落基調が続いており、生活必需品の物価が落 ち着いていることが影響している。さらに、中国本土景気の減速懸念や景気の先行き不透明感を反映して不動 産価格の下落圧力が強まっているほか、サービス物価が下落していることも物価上昇圧力の後退に繋がってい る。なお、2007 年以降断続的に実施されている公営住宅を対象とする賃料減免措置をはじめとする物価支援 策の影響を除いたベースでも前年同月比+2.3%と前月(同+2.8%)から減速している。 26 日に発表された4月の輸出額は前年同月比▲2.3%と 12 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなったものの、 前月(同▲7.0%)からマイナス幅は縮小した。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比は、年明け以 降3ヶ月連続で減少基調が続いてきた反動も重なり4ヶ月ぶりに拡大に転じており、中国本土経済を巡る不透 明感はくすぶるものの、一進一退の展開が続いている。一方の輸入額は前年同月比▲4.5%と 15 ヶ月連続で前 年を下回る伸びとなったものの、前月(同▲5.8%)からマイナス幅は縮小している。前月比も2ヶ月連続で 増加基調が続くなど底打ちを示唆する動きがみられる一方、原油相場の上昇が影響している可能性があるほか、 中国本土景気を巡る不透明感は引き続き重石になることは避けられない。結果、貿易収支は▲310.27 億HK ドルと前月(▲470.28 億HKドル)から赤字幅が縮小している。 図 8 HK インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 9 HK 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [ニュージーランド] ~輸出は全般的に底入れを示唆する動きがみられるが、先行きは依然不透明な状況~ 25 日に発表された4月の輸出額は前年同月比+4.0%となり、前月(同▲14.3%)から2ヶ月ぶりに前年を 上回る伸びに転じた。前月比(季調済)も+23.4%と前月(同▲17.2%)まで2ヶ月連続で大幅減少が続いた 反動も重なり3ヶ月ぶりに拡大に転じており、外需の底入れを示唆する動きとなっている。前月まで大幅な減 少が続いた主力の乳製品や食肉など食料品関連で輸出額が拡大に転じたほか、木製品や機械製品関連の輸出も 拡大した。さらに、原油相場の上昇を反映して原油の輸出額も押し上げられており、全般的に拡大基調が強ま った。国・地域別では、隣国豪州向けは依然として勢いに乏しい展開が続いているものの、最大の輸出相手で 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 5/5 ある中国向けが堅調なほか、米国やEU、日本といった先進国向けの堅調が全体の押し上げに繋がっている。 一方の輸入額は前年同月比+1.5%となり、前月(同▲5.4%)から2ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じてい る。前月比も+12.2%と前月(同▲7.5%)まで2ヶ月連続で大幅な減少が続いた反動も重なり、3ヶ月ぶり に拡大に転じている。機械製品や電気機械関連の輸入は一進一退の展開が続いており、国内景気の一服感をう かがわせる動きはみられるものの、原油相場の上昇を背景に原油関連の輸入額が押し上げられたほか、服飾を はじめとする日用品全般で輸入額が拡大して輸入全体の押し上げに繋がった。結果、貿易収支は+2.92 億N Zドルと前月(+1.89 億NZドル)から黒字幅が拡大している。 図 10 NZ 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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