『漢』感興起 第4回

漢 検 生 涯 学 習 ネットワ ー ク
かんかんこうきき
∼ 巷に 生 き る 漢 字 あ れこれ ∼∼
﹁観感興起﹂…目で見、
心に感じ、感動して奮起すること。
文 字を作りたい﹂という 方 針を打 ち出して作 られる書
コンセ プト が ぶ れないよ う
5 0 0 字ですから、途 中で
に描 き 進 めな け れ ばな り ま
体もあります。
コンセプトが決 まると、デッサンを行います。 ミリ
と が あるので、5 0 0 字の
せん。それでもぶれてくるこ
う ちでも 最 初に作った 自 分
四 方の紙に文 字 を 手 作 業で描いていき ま す が、ここで
のデッサ ンを 常 に 見 返 す よ
は、コンセプトがぶれないように一人のデザイナーで基
本となる5 0 0 字を全て描きあげます。
一つの書 体で約
ジが揃っているかの確認も行っています。
後、同じ形状を持つグループで分け、コンセプトイメー
みたり、ユニバーサルデザ
―小田さんが手が
ン﹂です。最 初の構 想
うことで作った﹁黎 ミ
れい
新しい明朝体を、とい
い う 明 朝 体 に 対 して
あった﹁リュウミン﹂と
そ れ まで 我 が 社 に
ものは?
けた書 体で印 象 深い
目にする書体となります。
を繰り返し、ようやく普段
あ ら ゆ る 角 度 か らの 確 認
い か チェック を し た り と、
イ ンの 観 点 か ら 読 み や す
メ ー ジして 文 章 に 組 んで
実 際 使 わ れる 状 況 を イ
さまざまな立 場を通して感じる、またそれぞれの角 度
ナ ー で は 、漢 字 と 特 別 な 関 わ り 合 いを 持つ人 を 取 り 上
げ、その人ならではの﹁漢字模様﹂について伺います。
だ ひでゆき
今 回は、印 刷 物の書 体を作 成しているモリサワ文 研 株
お
式 会 社のタイプフェイスデザイナー・小 田 秀 幸さん。いつ
も目にする書 体 が 作 られていく様 子と、そこに込 められ
た想いを伺いました。
― 明朝体、ゴシック体、教
科 書 体 …世の中には様 々
デッサン﹂を担当されているそうですが。
― 小田さんはその﹁基本となる500 字の
な 書 体 が あ ふれていま す
デ ザ イ ンさ れ、作 成 さ れ
が、そ れ ら は ど の よ う に
その幅やバランスは微妙に異なっている。
だけで
に
年、完成まで
年かかりました。
ト を 決 定 し ま す。市 場 か
参 考にすると、ど う しても だ ん だ ん 似て
はあえて参 考にしないようにしています。
たな 書 体 を 制 作 する際には、既 存の書 体
がけて良かったと感激しましたね。
ました。初めての挑戦でもありましたから、黎ミンを手
完成したときは、それは嬉しかったし、何よりホッとし
いといけませんでしたので、プレッシャーもありました。
すし、リュウミン同等の、いやそれ以上のものを作らな
らの 要 望 や 流 行 を 反 映 し
きてしまいますから。
一万字の基本となる
明 朝 体 や ゴシック体 というのは その会 社の顔にな り ま
デザイナーが
﹁このような
て作 られる書 体 もあれば、
け、微調整しながら仕上げていきます。新
「憾」
「撼」
「轗」は全て旁に「感」を持つが、
さ らに紙 を 重 ね、定 規 な どを 使って肉 付
さらに紙を重ねてラフを描きます。それに
デッサンは、まずその字の骨 格を描 き、
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一文字一文字丁寧に手描きされている。
を作るか﹂というコンセプ
教えてください。
ていくの か、その 過 程 を
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積み上げられたデッサンの束。
まずは﹁どのような文字
「口」
という部品に分けられている漢字群。
様 々 な 修 正 を 加 え ま す。
も、微 妙に幅やバランスを変 えて作 成しています。その
きるとは驚きです。
― それにし てもたった 5 0 0 字 で一万 字の漢 字 を 表 現 で
うにしています。
一万 字ありますが、この5 0 0 字にはその一万 字のほと
んどの形状が含まれているのです。
そしてその字を元にして、複数のメンバーで残りの文
字 を一字 ずつ描 き 上 げま す。それでも一万 字 全てのデッ
紙を重ね、微調整しながら丁寧に描いていく。
基本的には、ですけれどもね。同じ部品を持つ漢字で
サンを終えるまでに1 年から2 年かかります。
左から、字の骨格、
ラフデッサン、清書。
取り込み、デジタル化して
︵漢検四字熟語辞典より︶
60
その後コンピューターに
4回
から観ると、漢 字の姿は一様ではないようです。このコー
第
4
せた
― 新しい明朝体﹁黎ミン﹂のコ
― そ れ では 最 後 に、小 田
さ んのお 仕 事 を 表 す 漢 字
― 文 字の
﹁空間﹂
?
一文字を教えて下さい。
文 字一文 字 作っていく、と
﹁真 ﹂です。真心込めて一
を 塗 りつぶ す、 墨 入 れとい う 仕 事 ば か り を 3 年 ほ ど
やっていました。昔は先 輩は何 も教 えてくれなくて、 見
私 がこの仕 事 を 始 めた 頃 、 先 輩 が デッサンした もの
て盗むしかありませんでした。先 輩が型を取り、自 分が
ださい。
ンセ プ ト を 具 体 的 に 教 え て く
りしていて安定感があり、素直
﹁黎ミン﹂
は懐が広く、すっき
ル化が進み、いま、文字は
いう 想いか らです。デ ジタ
きま す 。
ですから心を込 め
一度 作ると 永 遠に残ってい
悪いのか考え、自 分 だったらこうするのにと思 うことも
あ り ま した。そ う してある 程 度 形 を 覚 えて7 年 ぐ らい
塗りこんだ後の字をじっと見つめては、どこが良いのか
した 時に、ある日 突 然﹁ 空 間ってこう取ればいいんだな﹂
とダメだと思っています。
てき ちんと 作っていかない
くモダンで、あらゆる場 面に使
仕 上 げてあります。伝 統 的な明
いやすいよう、癖のない書 体に
格を見るでしょう。そ うではなく、その字を取り巻いて
と気 づいたのです。文 字を見るとき、通 常はまずその骨
な 感 じの書 体です。抑 揚 が 少 な
朝体は、横棒の線が細すぎてゴ
字にのって歴 史を動かすような場 合もありますよね。そ
文字は、文化だと思っています。さまざまな情報が文
シック体と並んだときにか弱 く
ちろん骨 格 も大 事ですが、 骨 格 だけを見ていると文 字
のような想いで、文字を作っています。
いる余 白や、四 角で囲まれた空 間に着 目 するのです。も
す。逆 にこの 空 間 が 分 か る
の 良 さ が 分 か ら な いので
悪 し が 見 えて き ま す。他 の
モリサワの字なんです。文 字 通り刻み込 まれて残ってい
板が設置されているのですが、そこに刻まれている字が
私が使 う 駅の近 くの博 物 館には、石で作 られた 案 内
― 何か形を残せるって素敵ですね。
文 字 を 作るときにも、その
よ うになると、 文 字の良 し
空 間 を あわせることができ
くことは凄いことだし、嬉しいことですね。
そのものの大 きさは 違 う ん
イ ン タ ビュー 後 記
― ありがとうございました。
る よ う に なって く る。空 間
ランスの取 り 方 が 揃 う んで
ですが、ほどよい均 等さ、バ
すね 。
文字を見て、懐かしい感じを受けたり、かわいらしい
イメージを持ったり、また手書きであれば書いた人の人
とな り を 思い浮 かべた り す ることは 少な く あり ませ
るからなのでしょう。
今回の取材を通して、
バリエーショ
ん。
書体は、情報だけではない何かを伝えることができ
からこそ、
できることなのかもしれません。
た。
一文字一文字に真心を込めて制作されている書体だ
き手の心﹂を蘇らせる役割を担っているように感じまし
ン豊かな書体はデジタルの世界で失われかけていた﹁書
漢字は、画 数が多いものより少ないもののほうが難し
難しいところですね。
す。様々な文字の空間、太さ、大きさを揃えていくのが、
由 が 利 かないので、逆にバランスが 取 りや す くなり ま
いか らです。画 数 が 多いとマス 目いっぱいに詰 まって自
いです。空 間やバランスをどう取るか、選 択の余 地が多
りますよね。
― 漢 字の形もそれぞれで、特 徴 的な空 間があるものもあ
空間の入る位置は漢字によってさまざま。
見 えること が あ り ま した。しか
もの書体、数十万字が生まれ、ギネスに認定され
るまでになりました。
― そのコンセ プトは 書 体のどのよ う なところに表 れてい
ますか?
漢字の構成部分である
﹁口﹂
、もしくは
﹁田﹂﹁曲﹂
などの
四角で囲まれた箇所を見ると、その文字の性格が分かる
んです。
いろんな書体がありますが、その特徴は口の形に
最も表れますね。黎ミンはこの四角で囲まれた箇所が大
きいので、字そのものも大きく見えます。どっしりしてい
て、見た目にも読みやすい、その上ですっきり感を出し⋮
ひし形の漢字、細長い漢字など、
し そ れ ら の 明 朝 体 の バリエ ー
ションは縦 線の幅 を 太 くした も
のしかなく、横線が太めの明朝
体はありませんでした。そこで、
縦 線の幅のみならず横 線の幅に
も バリエーションを 持 たせたの
が 黎 ミ ンです。縦 線 と 横 線の幅 を さ ま ざ まに組 み 合 わ
このほか、あと30書体の縦線と横線の太さがそれぞれ異なる黎ミンがある。
というコンセプトはこのように表れています。文 字には、
今 日
黎ミン Y40 U
黎ミン Y30 B
黎ミン Y10 EH
黎ミン L
余白というか、特徴のある﹁空間﹂というものがそれぞれ
あるのです。
5
永 永 永 永
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