惑星研究最前線 - 日経サイエンス

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2016
Vol.46 No.4
Digest
ダイジェスト
特集
惑星研究最前線
太陽系にもスーパーアース? 惑星Xを探せ……34 ページ
M. D. レモニック(サイエンスライター) 系外衛星を発見? 第 2 の土星リング…… 42 ページ
冥王星も一員であるカイパーベルト天体と呼ばれる小天体
群の中には偶然の一致とは考えられないほど似た特徴の軌道
を持つものが存在する。それら天体の軌道は未知の「惑星 X」
の重力の影響を受けて調整された可能性があり,熱心な探索
が続いている。去る 1 月,米カリフォルニア工科大学のグル
ープは冥王星に代わる真の「第 9 惑星」が存在すると発表し
たが,これもそうした研究の 1 つだ。太陽以外の星を周回す
る「系外惑星」の研究も新たな展開を見せている。土星をは
M. ケンワージー(蘭ライデン天文台) るかにしのぐ巨大リングを持つ系外惑星が見つかり,そのリ
マイヨール博士が語る 系外惑星発見物語…… 52 ページ
わかった。系外惑星は天文学の最もホットなテーマの 1 つ。
語り:M. マイヨール(スイス・ジュネーブ大学) ングの間隙の中に火星サイズの衛星が存在するらしいことも
現在の研究の隆盛は約 20 年前,天文学者も驚くような姿の
系外惑星第 1 号が発見されたことに端を発する。発見までの
RON MILLER
歩みを発見者当人が語った。
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日経サイエンス 2016 年 4 月号
医学
昆虫の脱皮にヒント
遺伝子スイッチ……58 ページ
J. コズベック(サイエンスライター)
様々な遺伝性疾患を治すために正常に機能する遺伝子を患
者に導入する遺伝子治療は期待の先端医療だが,初期の試み
は問題続きだった。導入遺伝子を目的の場所で適切に活性化
させる制御ができなかったのが一因だ。そこで,治療用遺伝
子に スイッチ を取り付け,
必要に応じて活性を確実にオン・
オフする研究が進んでいる。1 つは昆虫の脱皮に注目したも
の。エクジソンという 脱皮ホルモン が脱皮に関する様々
GIORDANO POLONI
な遺伝子を起動するマスタースイッチになっており,この仕
組みを人間用に手直しした。がん免疫療法と組み合わせた米
国での臨床試験で有望な結果が出ている。リボザイムという
RNA を用いて遺伝子の発現を制御するアプローチもある。
医学
小さな集団から世界へ
人々のためのゲノミクス……92 ページ
K. A. ストラウス(特別子どもクリニック)
米ペンシルベニア州南部で暮らすマークとルース(ともに
仮名)の兄妹はともに「MTHFR 欠損症」という遺伝子疾
患をもって生まれた。4 歳のときに診断されたマークには神
経障害が残ったが,兄の遺伝子データをもとにした新生児ス
クリーニング検査のおかげで生後 2 週間で治療を始めたルー
スは,その後 12 年間を元気に過ごしている。安価な遺伝子
スクリーニング法が発達したことで,現在では数十種類の遺
伝性疾患の早期発見,早期治療が可能になった。こうした研
GRANT DELIN
究は,アーミッシュやメノナイトといった特定のコミュニテ
ィに多発する遺伝子疾患から始まり,最近では双極性障害の
ような一般的な病気への取り組みにつながっている。
日経サイエンス 2016 年 4 月号
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Digest
ダイジェスト
素粒子物理学&地球物理学
火山を
レントゲン撮影
素粒子で地球を透視……64 ページ
田中宏幸(東京大学地震研究所)
G. ベッリーニ/ P. ストロリン
(ともにイタリア国立原子核物理学研究所)
地球の中を直接見ることはできないが,地球内部を
伝わる波,
「地震波」を各地で観測して,その伝わり
具合を詳しく調べることで地球の内部構造がわかって
きた。実は地震波以外にも地球内部を通り抜けるもの
がある。ミュー粒子とニュートリノという 2 種類の素
粒子だ。ミュー粒子は宇宙から降ってくる高エネルギ
ー粒子が大気と衝突して生じるもので,地下 100m
以上まで侵入してくる。一方,ニュートリノは地球内
部に膨大な量が存在する放射性元素が崩壊する際に発
生して地表まで出てくる。そこでこれら 2 種類の素粒
東京大学地震研究所・田中宏幸
子を使って地球を透視しようという研究が進んでいる。
ミュー粒子を使えば火山の上部に上がってきたマグマ
の状態がわかり,ニュートリノを測定すれば地球の熱
源となっている放射性元素の存在状況を探ることがで
きる。日本とイタリアが研究をリードしている。
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日経サイエンス 2016 年 4 月号
原発事故&物理学
溶け落ちていた核燃料
福島第 1 原発の炉心を見る……74 ページ
吉川和輝(日本経済新聞)
5 年前,東北地方を襲った巨大地震による大津波で東京電
力福島第 1 原子力発電所の 6 基の原子炉のうち 1 号機から 3
号機まで 3 つの炉でメルトダウン(炉心溶融)が起きたとみ
られている。廃炉を進める上で,溶け落ちた核燃料の取り出
しが最大の課題だが,その所在が不明だ。そこで空から降り
注いでいるミュー粒子という素粒子を X 線のように使って,
事故を起こした炉の内部を写し出す試みが進んでいる。これ
までの調査で 1 号機の炉心部は空で,核燃料が完全に溶け落
ちたことがわかった。2 号機も大部分の核燃料が溶け落ちた
東京電力
ことが判明した。今後は新開発の装置を使って,溶融した核
燃料が存在するとみられる原子炉底部を探る計画だ。
エネルギー
石炭火力クリーン化に壁
CO2 回収 夢と現実……80 ページ
D. ビエッロ(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)
石炭火力発電所から出る CO 2 を回収して地中に貯留する
プロジェクトが地球温暖化対策の主役として各国で期待され
ている。石炭火力発電への依存度が高い米国では,低品質の
褐炭をガス化し,タービンで燃やして発電しつつ,発生した
CO2を回収して油田に注入する巨大プラントの建設がミシ
シッピ州で進んでいる。注入した CO 2 の 1/3 が地中にとどま
るとされるが,石油を燃やせば新たに CO 2 が出る。またミ
シシッピ州のプラントや同様の施設はコストが非常に高く,
JEFF WILSON
経済的な懸念も出ている。すでに 33 の CO 2 回収・貯留プロ
ジェクトが停止または中止となった。有効で手頃な炭素回収
手段がないと,COP21 の合意の実現が危うくなりそうだ。
日経サイエンス 2016 年 4 月号
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