11 2016 Vol.46 No.11 Digest ダイジェスト 創刊 45 周年大特集 宇宙 特集 宇宙の超巨大構造 天の川銀河を従えるラニアケア超銀河団……30 ページ N. I. リベスキンド(独ポツダム天体物理学研究所)ほか 宇宙で最も空っぽな場所 スーパーボイド……40 ページ I. ザプーディ(米ハワイ大学) 銀河は一様分布しているのではなく,群れ 集まって銀河団をなし,銀河団は寄り集まっ て超銀河団を作り,これらが並んで巨大なフ ィラメントやシートを形成する。そうしたも のが存在していない領域はボイドと呼ばれる 非常に空虚な空間だ。超銀河団とボイドで特 徴付けられる宇宙の大規模構造における天の 川銀河の 立ち位置 に関して,最近,新発 見があった。天の川銀河が属する超銀河団が 従来考えられていたよりもはるかに巨大であ ることがわかり,この新発見の超巨大構造は ラニアケア超銀河団と名づけられた。これま で考えられていたボイドよりもさらに巨大な Bryan Christie スーパーボイドの存在も明らかになった。宇 宙の大きな謎,暗黒物質と暗黒エネルギーの 解明ための新たな手がかりになりそうだ。 4 日経サイエンス 2016 年 11 月号 特別インタビュー 極大と極小を結ぶ挑戦 梶田隆章が語る 宇宙・素粒子研究の未来……50 ページ 語り:梶田隆章(東京大学宇宙線研究所) 聞き手:中島林彦(編集部) 昨年ノーベル賞を受賞した梶田隆章博士は,ニュートリノ に質量があるために生じる「ニュートリノ振動」の発見で知 られるが,現在は東京大学宇宙線研究所長としてニュートリ ノはもちろん,重力波や宇宙線,暗黒物質などの様々な宇宙・ 素粒子関連プロジェクトに関わっている。宇宙と素粒子には 強い結び付きがある。例えば宇宙における物質と反物質の不 均衡は大きな謎だが,謎解きのカギはニュートリノにおける 粒子と反粒子の振る舞いの違いにあるとみられ,天文観測で 日経サイエンス 存在が明らかになった暗黒物質の正体は新タイプの素粒子だ と考えられている。本誌創刊 45 周年の記念インタビューと して梶田博士に宇宙・素粒子研究の将来展望を聞いた。 天文学史 天文学の黎明を知る 新連載「nippon 天文遺産」 天文遺産への思い …… 62 ページ 渡部潤一(国立天文台) 日本の天文学はいかなる歩みを経て今日に至ったのか。江 戸時代に遡る天文台の遺構や天体望遠鏡などの観測機器,暦 や歴史的な天文書など,いわゆる「天文遺産」を通じて天文 研究の大きな流れを知り,先人の努力と情熱を感得すること は,天文学の現在を深く理解し,将来を展望するのに役立つ。 この分野に造詣が深い国立天文台の渡部潤一副台長の協力を 得て日本の主な天文遺産を紹介する連載を始める。初回は渡 部副台長に天文遺産にかける思いと天文遺産をめぐる最近の 日経サイエンス 動きを聞いた。天文遺産の保全に取り組むきっかけは,子ど も時代の遊び場だった故郷,会津の鶴ヶ城近くの築山が,現 存する日本最古の天文台跡と知ったことだったという。 日経サイエンス 2016 年 11 月号 5 Digest ダイジェスト 進化 生命進化の 両刃の剣 ハンチントン遺伝子のパラドックス……70 ページ C. ズッカート/ E. カッターネオ(ともに伊ミラノ大学) ハンチントン病は両親いずれかの原因遺伝子に異常がある と 50 %の確率で発症する遺伝性疾患だ。この遺伝子には 「CAG」の 3 塩基配列が繰り返される領域があり,36 個以上 の反復配列を持つ人が発病する。こうした反復配列はゲノム の がらくた と考えられていたが,最近になって神経系の 発達や進化に関わっていることがわかった。将来ハンチント ン病を発症するかどうかにかかわらず,反復配列の多い人ほ ど特定の脳領域のニューロン数が多く,高い認知機能を示す。 ANDREA UCINI ハンチントン遺伝子の進化の源は単純なアメーバ細胞にあり, 現在のヒトへと脈々と受け継がれてきた。有害と思われてい た遺伝子には進化の謎を解く手がかりが隠されいる。 疫学 保健衛生の基盤整備 人類の健康診断……76 ページ W. W. ギブズ(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部) 先進国ではがんと生活習慣病,途上国ではいまもなお感染 症が問題──という認識は概ね正しいものの,健康問題に関 する多くの既存データは不正確または欠落しており,国別の 比較が困難なものもある。そこで内科医で経済学者のクリス トファー・マレーは全世界の疾病・障害の実情把握に取り組 んできた。ビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援を得て 2007 PETER AND MARIA HOEY 年にワシントン大学(シアトル)に「保健指標評価研究所 (IHME)」を設立,データを全世界から集めて高度なスー パーコンピューターモデルで処理し,信頼性の高い数値を算 出している。人類の健康状態を顕わにしたこのデータ集から, 多くの新事実が浮かび上がってきた。 6 日経サイエンス 2016 年 11 月号 進化 多様化で繁栄実現 恐竜時代の哺乳類 ……90 ページ S. ブルサット(英エディンバラ大学) Z.-X. ルオ(米シカゴ大学) 恐竜が王者として君臨していた中生代,哺乳類の遠い祖先 はその影に怯えながら小さな虫を追いかけてひっそりと暮ら していた──。そんなイメージを払拭するような発見が世界 で相次いでいる。この 15 年で初期哺乳類の化石が続々と見 つかり,恐竜が地球を支配する以前から哺乳類は多様に進化 し環境に適応していた証拠が得られた。哺乳類の祖先は脳の 巨大化を実現したことで,恐竜とは異なる鋭い感覚を獲得し, 複雑な歯を進化させ,代謝を向上させて寒さや暗闇の中で生 JAMES GURNEY きる能力を身につけた。恐竜と共存しながら力を蓄えた哺乳 類は,恐竜がいなくなった途端,その空きスペースに一気に 拡大したと考えられる。 農業 塩害に負けない作物を 塩水で農業……82 ページ Photograph by Plamen Petkov.TOMATO PLANT PROVIDED BY JAN HICKCOX, MARILYN HOCK AND MARCH FARMS OF BETHLEHEM, CONN. M. ハリス(科学技術ライター) 世界の灌漑農地の 1/4 近くは,不適切な灌漑法のせいで塩 害に侵されている。また数千万ヘクタールの農地が,海面上 昇による塩水侵入の危機にある。こうした高塩分の場所で作 物を育てることができたら,今後増加が予想される世界人口 を養う食料を供給できるかもしれない。このため,海沿いの 湿地などに茂る特殊な「塩生植物」をまねて,耐塩性の遺伝 子をイネなどに導入して改良する方法が開発された。例えば 米カリフォルニア大学のチームはアルファルファからトウジ ンビエ,ピーナツ,イネまで,数千株の様々な遺伝子導入植 物を育てて実験している。ただ一方では,遺伝子改変による 予期せぬ影響を懸念する声もある。 日経サイエンス 2016 年 11 月号 7
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