06 2016 Vol.46 No.6 Digest ダイジェスト 特集 生物のGPS 空間認識のカギ握るグリッド細胞……32 ページ M. -B. モーザー/ E. I. モーザー(ともにノルウェー科学技術大学) VIKTOR KOEN 脳内マトリックスの衝撃 ……42 ページ 周囲の目印に対する自分の現在位置を把握する能力がなけ れば,動物は生きていけない。脳の深部にある神経細胞が協 力して,周辺環境を表す「認知地図」を作製している。これ らの神経細胞は GPS さながらの働きをし,新しい記憶の形 成とも密接に関連しているようだ。このネットワークの重要 な一員である「グリッド細胞」の発見で 2014 年のノーベル 生理学・医学賞を共同受賞したモーザー夫妻が,脳のナビゲ J. J. クニエリム(米テキサス大学) ーションシステムについて解説する。一方,動物の身体を構 動物の発生で働く細胞のコンパス 平面内細胞極性……48 ページ 分が身体の他の部分に対してどちらを向いているかを 知っ P. N. アドラー(米バージニア大学)/ J. ネイサンズ(米ジョンズ・ホプキンズ大学) 2 成する複雑な組織や器官ができあがるには,個々の細胞も自 て いなければならない。それを可能にしている「平面内細 胞極性」の仕組みが見えてきた。 日経サイエンス 2016 年 6 月号 生物学 ゲノム編集で農業激変! ? CRISPR と「組み換え」作物 バイオ農業の行方……68 ページ S. S. ホール(サイエンスライター) 新たに開発された CRISPR(クリスパー)という遺伝子 編集技術によって,これまでにない精度で生物のゲノムを改 /EMMA TODD(photo)/OWEN GILDERSLEEVE(illustration) 変できるようになった。操作が簡単で費用もかからないので, 農業関連の大企業だけでなく小さなベンチャー企業でも,こ の強力な新技術を活用できる。新技術の推進者は,過去何千 年も続いてきた伝統的な育種法よりも植物を乱す影響が少な いと主張している。米国の規制当局も同様の見方だ。外来遺 伝子を導入する在来技術と特定の遺伝子を改変する新技術の 違いは,「遺伝子組み換え作物」の定義を含め,組み換え食 品に関する規制の行方を変える可能性がある。消費者がどう 感じるかは未知数だ。 生態学 エコ観光のホットスポット エコツアーに揺れるガラパゴス……78 ページ P. トゥリス(サイエンスライター) ガラパゴス諸島への観光客が急増し,彼らが見に来た生物 多様性そのものが脅かされている。1990 年代初めに年間 4 万 1000 人だった観光客は 2013 年に初めて 20 万人を突破し, 2015 年には 22 万 4000 人を超えて記録を更新した。エクア ドル政府は観光収入増進策を奨励しているが,野生生物専門 家たちは観光客数を規制しないとガラパゴスは破滅すると指 MATT MOYER Getty Images 摘している。これらの専門家は年間の観光客数の上限として 24 万 2000 人を推奨する報告書を 2014 年初めにまとめたが, 政府の動きは鈍い。国立公園管理局は観光客の便宜を図るた めに遊歩道などの施設を整備している。果たして健全なエコ ツアーを育成できるのか,正念場だ。 日経サイエンス 2016 年 6 月号 3 Digest ダイジェスト 素粒子物理学 不可解きわまる 食い違い 中性子の寿命の謎……54 ページ G. L. グリーン(米テネシー大学) P. ゲルテンボルト(仏ラウエ・ランジュバン研究所) J-PARCで中性子を探る……62 ページ 中島林彦(編集部) 協力:三島賢二(高エネルギー加速器研究機構) 中性子は原子核に安定した状態で収まってい るが,例えば原子炉内でウランが核分裂反応を 起こしたりすると,中性子は原子核から飛び出 して単独の状態になる。こうした自由中性子は 不安定で,比較的短時間でベータ崩壊を起こし て陽子と電子などに変わる。自由中性子がベー タ崩壊するまでの寿命を世界最高レベルの精度 で測定する 2 つの実験が行われたが,結果にか なりの食い違いが生じている。両者の食い違い の原因を突き止めることは,宇宙の根幹に関わ る謎を解き明かすために極めて重要な意味を持 つ。 茨 城 県 東 海 村 の 大 強 度 陽 子 加 速 器 施 設 J-PARC では中性子の寿命を従来にはない手法 BILL MAYER で精密測定する実験が進んでおり,その結果が 世界的に注目されている。 4 日経サイエンス 2016 年 6 月号 公衆衛生 水流変化で汚染拡大 死をもたらす地下水 ヒ素汚染の恐怖……86 ページ K. デイグル(環境ライター) インドの多くの人々は飲料水を井戸水に頼っている。細菌 で汚れた地表の水を避けるために掘られたものだが,地下深 部にある天然のヒ素が溶け出し,人々の健康を害している。 PAULA BRONSTEIN さらに,人口増に伴う水利用の急増によって地下帯水層の水 流が変わり,以前はきれいだった井戸まで汚染が広がる事態 となった。土壌の化学特性などから危険地域を予測する研究 が進んでいるが,正確な地図の作製は難しい。 天文学 私の人生,ほうき星 ある彗星ハンターの思い出……96 ページ D. H. レビー(サイエンスライター・天文学者) 1994 年夏,木星に彗星が突っ込んだのを覚えている人も 多いだろう。この哀れな「シューメーカー・レビー第 9 彗星」 を前年 3 月に発見したのが天文学者のシューメーカー夫妻と この記事の著者であるカナダのサイエンスライター,レビー JAMEY STILLINGS だ。彼が彗星探しを始めたのは 1965 年のこと。熱心な天文 少年だったが,コメットハンターになろうと決めたきっかけ は意外なことにフランス語のテストだったという。 数学 数学とアートを結ぶ 優美なる方程式……98 ページ C. モスコウィッツ(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部) 著名な数学者と物理学者が選んだ 「最も美しい数学的表現」 がアクアチントというエッチング画になった。優美でときに COURTESY OF PARASOL PRESS 謎めいた記号が,私たちを視覚的に満足させる。世界各国の 画廊で巡回展が進んでいる「コンキニタス」と呼ばれるこの コレクションから,アンペールの法則,マクドナルド多項式, 種数 g の代数曲線のモジュラス空間,ニュートン法,電弱理 論のラグランジアンの 5 点を選んで誌上公開する。 日経サイエンス 2016 年 6 月号 5
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