重力波 - 日経サイエンス

05
2016
Vol.46 No.5
Digest
ダイジェスト
大特集
重力波
重力波の直接観測 3つの意義 ……34 ページ
大栗博司(米カリフォルニア工科大学/東京大学) 重力波とは何か……37 ページ
編集部
GW150914 の衝撃 ……38 ページ
中島林彦(編集部)
協力:大橋正健(東京大学宇宙線研究所)/田中貴浩(京都大学)
KAGRA 始動……50 ページ
中島林彦(編集部)
協力:大橋正健(東京大学宇宙線研究所)/田中貴浩(京都大学)
ビッグバンから上がるのろし
原始重力波に挑む……58 ページ
L. M. クラウス(米アリゾナ州立大学) 「宇宙の初期シナリオに新たな視点」……68 ページ
語り:佐藤勝彦(自然科学研究機構)
2 月 12 日日本時間の午前零時半,米ワシントンのナショ
ナル・プレスクラブで始まった重力波望遠鏡 LIGO のグルー
プによる記者発表のウェブ中継を多くの人が息を詰めて見守
った。
「LIGO が重力波を捉えた」という噂が広まっていたが,
LIGO は試運転中で,捉えたとしても重力波の兆候くらいの
ものではないかとの見方があった。そうであっても大発見だ
日経サイエンス
が,実際の LIGO の発表は専門家の予想のはるか上を行った。
重力波のシグナルは疑いようのないほど明瞭で,その波形は,
重力波が予想外の天体現象で生じたことを物語っていた。
2
日経サイエンス 2016 年 5 月号
認知科学
人と動物を分かつもの
動物は理解? 赤ちゃんはどこから来るのか……80 ページ
H. ダンスワース(米ロードアイランド大学)
ゴリラのココは人に飼われている雌のローランドゴリラで,
手話で意思を伝えることができる。出産年齢を過ぎた彼女に
母親になるための 4 つの選択肢を見せたところ,指さしたの
は「他の雌を迎えて赤ちゃんを出産してもらう」という方法
だった。だが,類人猿とヒトの進化を研究している著者は,
VALERIE KUYPERS Getty Images
動物にはセックスで子どもができることを理解するのに必要
な認知能力が欠けていると反論する。類人猿の知能は高いが,
抽象的な推論を行っているという証拠はなく,生殖に関する
知識を他者に伝える術もない。動物が見せる親としての愛情
深い振る舞いにはホルモンの作用が関係しており,そこには
生殖と出産,血縁を結びつける知識は不要だ。
持続可能性
干ばつと悪政で崩壊
シリア危機を招いた気候変動……86 ページ
J. ウェンドル(フリーライター)
シリアから数多くの難民が海を渡って欧州諸国に逃れてい
る。脱出途上で溺死した子供の写真が世界に大きな衝撃を与
えた。悲劇を招いた原因は何だったのか? 内戦やテロ組織
イスラミックステート(IS)の暴力など,民族間対立や宗教
的な背景に目がいきがちだが,それだけではない。シリアで
は気候変動と政府の誤った政策によって干ばつの影響が深刻
化し,100 万人を超す農民が土地を捨てて過密な都市部へ移
住を余儀なくされた。水不足と農地の荒廃,汚職が社会の崩
JOHN WENDLE
壊につながったという。気候科学者によると,シリアの干ば
つは今後さらに頻繁になり,悪化する。この傾向は中東と地
中海沿岸の全域に拡大する恐れがある。
日経サイエンス 2016 年 5 月号
3
Digest
ダイジェスト
健康
苦味に鈍いと感染?
SCIENCE SOURCE
体を守る苦味受容体 …… 72 ページ
受容体が侵入細菌に対する素早い防御反応を誘発しているこ
とが最近の研究で判明した。有害な細菌が出す苦味物質を検
知して,線毛運動で排除したり,殺菌作用のある一酸化窒素
を放出させたり,抗菌タンパク質を放出させたりする。こう
R. J. リー/ N. A. コーエン(ともに米ペンシルべニア大学)
した苦味受容体の機能が鈍い人は感染症にかかりやすい傾向
甘味や苦味,酸味などの味を感じているのは,舌にある味
容体はこれを検知するセンサーとして進化したと考えられる。
覚受容体だ。特に苦味受容体は種類が多いうえ,鼻や気道,
そのセンサーが免疫系の早期警戒部隊として働いているのは
心臓,肺,腸などにも存在している。いったいなぜ? 苦味
理屈にかなっているわけだ。
4
も認められた。そもそも苦味は有害物質のサインで,苦味受
日経サイエンス 2016 年 5 月号
動物行動学
女王の命令にあらず
アリのコロニーは 1 匹の女王アリと多数の働きアリ(不妊
のメス),いくらかのオスで構成され,働きアリがせっせと
食べ物を集めたり巣を修復したりして見事な社会を築いてい
アリの集合知……94 ページ
る。だが,女王アリが権力を振るって働きアリに指令してい
D. M. ゴードン(米スタンフォード大学)
るわけではない(怠け者の「首をはねよ!」と命ずることも
ない)
。コロニーに特別な司令官はおらず,個々のアリがコ
ロニー全体の利益を 考えて いるわけでもなさそうだ。な
のになぜ,統率の取れた集合行動ができるのだろうか? ア
リの観察と実験から,匂いに基づく単純な相互作用から集合
行動が生まれてくる仕組みが見えてきた。中央制御なしに機
ALEX WILD
能する人工システムを考えるヒントにもなりそうだ。
地質学
桁外れの巨大噴火
大絶滅を解剖する……92 ページ
H. リー(サイエンスライター)
6600 万年前に恐竜を滅ぼした出来事を含め,地球上の動
植物の大半を壊滅させた過去 5 回の大量絶滅は「ビッグファ
イブ」と呼ばれている。その原因として考えられているのは,
小惑星衝突やガス放出微生物,火山噴火などだ。最近の研究
で,ビッグファイブの 4 回までは,ほぼ同時期に大噴火が起
こって大気に致命的な変化が生じていたことがわかった。シ
ベリアやデカン高原など世界には桁外れの大噴火でできた
「巨大火成岩岩石区」と呼ばれる地域があり,それらの火成
Emily Cooper
岩の年代を高精度で測定した結果だ。例えば白亜紀末の恐竜
絶滅に関しては,小惑星衝突のエネルギーが激しい火山噴火
を増進した面もあるらしい。
日経サイエンス 2016 年 5 月号
5