がん免疫療法 - 日経サイエンス

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2016
Vol.46 No.8
Digest
ダイジェスト
特集
量子コンピューター
難関を突破するモジュール量子計算……34 ページ
C. R. モンロー(米メリーランド大学)ほか 量子暗号が登場する日……44 ページ
T. フォルジャー(サイエンスライター) 量子暗号研究 日本の最前線を見る……54 ページ
KYLE BEAN
武岡正裕(情報通信研究機構) 「状態の重ね合わせ」や「量子もつれ」という量子世界の
不思議な現象を活用して膨大な計算を一挙にこなす──そう
した量子コンピューターの実現はまだ遠い先だと考えられて
いたが,認識は大きく変わってきた。壊れやすい量子状態を
乱さずに多数の量子ビットをつなぐ「モジュール量子計算」
の試みが進展したためだ。量子ビットとして原子・イオン,
COURTESY OF KATHERINE MONROE
超電導回路,結晶欠陥を利用する方法を紹介する。早ければ
10 年後にも実用的なマシンが登場するかもしれない。そう
なるとオンライン取引などで現在広く使われている暗号は破
られてしまう。これに対抗できるのはやはり量子の力。原理
的に盗聴不可能な通信を実現する量子暗号技術の開発が急ピ
ッチで進んでいる。
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日経サイエンス 2016 年 8 月号
天文学
木星の移動が生む秩序
太陽系 混沌からの誕生……70 ページ
K. バティギン(米カリフォルニア工科大学)
G. ラフリン(米カリフォルニア大学サンタクルーズ校)
A. モルビデリ(仏コートダジュール天文台)
太陽系以外の惑星系がたくさん発見されるにつれ,太陽系
の構成がかなり特異であることがわかってきた。多くの惑星
系では,太陽系でいえば水星よりもさらに主星に近いところ
に惑星が存在する。また太陽系の惑星の公転軌道は円に近い
KENN BROWN, MONDOLITHIC STUDIOS
が,多くの惑星系では,かなりいびつな楕円軌道になってい
る。こうした特異性を最もよく説明できるのは,数十億年前,
巨大ガス惑星である木星と土星の軌道が大移動し,太陽系全
体が不安定になったとする説だ。この激動の時代には,惑星
が太陽に落ち込んだり,逆に太陽系を飛び出して星間空間ま
で弾き出されたりしたようだ。こうした大変動がなかったら
地球での生命の誕生と進化は起きなかったかもしれない。
進化
翼長 7m の巨鳥
史上最大の飛ぶ鳥 ペラゴルニス……82 ページ
D. T. セプカ(ブルース博物館)
M. ハビブ(米・南カリフォルニア大学)
世界最大の鳥は? 現生の鳥でいうと,飛べないものでは
ダチョウの仲間が最も大きく,飛ぶ鳥ではアホウドリの仲間
(翼長 3m を超える)が最大であるとされる。だが,かつて
はアホウドリをはるかに上回るスーパーバードが空を舞って
いた。ペラゴルニス類と呼ばれる一群で,なかでも近年に著
者の 1 人であるセプカによって化石が再発見されてペラゴル
ニス・サンデルシと命名された種は翼長が 7m 近くあったと
考えられる。ペラゴルニス類はどうしてそんな巨大サイズに
JAMES GURNEY
進化し,いったいどのように空を飛んでいたのか? 恐竜絶
滅後に栄え,300 万年前ころに姿を消した驚異の絶滅鳥類の
姿が詳しく浮かび上がってきた。
日経サイエンス 2016 年 8 月号
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Digest
ダイジェスト
特集
がん免疫療法
がん免疫療法 2016 3つのアプローチ……56 ページ
K. ウェイントラーブ(サイエンスライター) 本庶 佑 免疫チェックポイント阻害剤に道……66 ページ
竹下敦宣(日本経済新聞) 坂口志文 制御性 T 細胞を発見……68 ページ
DANIEL HERTZBERG
永田好生(日本経済新聞) 免疫系の能力を増強し,がん細胞を攻撃する「がん免疫療
法」が近年に目覚ましい成果を上げ,新段階を迎えた。なか
でも「免疫チェックポイント阻害剤」
「樹状細胞ワクチン」
「キ
メラ抗原受容体発現 T 細胞(CAR-T)
」という 3 つの新アプ
ローチが注目され,悪性の皮膚がんや白血病などの治療で好
ANNIE MARIE MUSSELMAN ; AMY ECKERT
成績を収めている。副作用などの課題もあるが,より安全で
効果的な治療を目指す研究が続けられており,腸内細菌を調
整して望ましい免疫応答を引き出す試みも。免疫チェックポ
イント阻害剤に道を開いた本庶佑・京都大学名誉教授,がん
治療の新たな糸口として注目される制御性 T 細胞を発見した
坂口志文・大阪大学特任教授の研究を含め,新ステージに入
った免疫療法のいまをリポート。
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日経サイエンス 2016 年 8 月号
動物行動学
狩りのワザも学習
魚は天才ハンターだ!……90 ページ
J. バルコム(動物行動学者・著述家)
チンパンジーや一部の鳥が道具を使うことはよく知られる
ようになった。これに対し魚は総じて頭の悪い動物とされて
WARREN PHOTOGRAPHIC
きたが,近年の研究でこの見方は覆った。例えば,ある種の
ベラは水中の岩を一種の道具として使い,貝を岩にぶつけて
割って食べる。また,水鉄砲で獲物を撃ち落とすテッポウウ
オはその技能を他者から学んでいる。これは,この魚が仲間
の魚の視点に立って物事を把握できることを示している。
生態学
「アジアの宝石」を守る
ミャンマーのエコツーリズム ……94 ページ
R. ニュワー(サイエンスライター)
アウンサンスーチー氏が指導する新政権の発足に象徴され
PETER STUCKINGS Getty Images
るように,ミャンマーの民主化が近年で急速に進んだ。政治
的にも経済的にも世界から長らく切り離されてきたこの国は
新時代を迎えている。ただ,国土の近代化に伴って懸念され
るのが,「アジアの宝石」といわれる豊かな原生の自然を守
れるかどうかだ。エコツアーの振興を通じて生物多様性を保
存しようとする自然保護活動家たちの活動をリポートする。
地球温暖化
温暖化が招く別の危険
気候変動戦争を回避せよ……100 ページ
A. ホーランド(アメリカ安全保障プロジェクト)
地球温暖化の脅威は海面上昇だけではない。気候変動によ
って世界の特定地域が不安定化し,暴動や武力衝突,テロの
脅威が高まっている例が現実にある。それによって国益が脅
かされる事態が生じるのを避けるため,米軍は行動を始めて
The Voorhes
いる。極端気象→貧困の悪化→暴動→国家の破綻→戦争・テ
ロという因果の鎖を断ち切るべく米軍がアフリカとアジア太
平洋地域,北極で展開している取り組みの現状を紹介。
日経サイエンス 2016 年 8 月号
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