「PID 制御」 下水道事業で使用される電力量は

JS技術開発情報メール№172 号掲載
◇ 「よく見かける下水道用語」 ◇
禁無断転載
「PID 制御」
下水道事業で使用される電力量は、日本全国の総電力量の約 0.7%を占め、処理水 1m3 当
りの電力使用量は 0.48kwh/m3 となっています。施設別では、処理場での使用電力量が約
90%であり、中でも反応タンクのエアレーションに要する電力量は処理場での 5~6 割程度
を占めているため、省エネルギーを考える上での重要な要素となっています。
最近の水質センサーの信頼性向上とともに風量制御技術の開発が活発になってきていま
す。特に、信頼性に優れメンテが容易な蛍光式 DO 計の開発により、DO 制御技術が大きく
前進した感があります。また、最近ではアンモニアセンサーも実用化のレベルになってき
ているようです。いくら制御技術が優れていても入力信号を与えるセンサーの信頼性がな
ければ絵に描いた餅のままでしょう。風量制御技術の中味もメーカーの企業秘密の壁に阻
まれて、ブラックボックスのまま使用前使用後の比較だけが紹介されることも多いようで
す。今回は、制御技術でも古典的なフィードバック制御の一つであります PID 制御の考え
方を紹介しますので、議論の端緒にしていただければと思います。
PID 制御を一つの式で表現すると次のようになります。
𝑡
𝑢(𝑡) = K p e(t) + K i ∫ 𝑒(𝜏)𝑑𝜏 +𝐾𝑑
0
𝑑𝑒(𝑡)
𝑑𝑡
もう後を読む気がしなくなるでしょうから、式の詳しい解説はしませんが、左辺が操作
量、右辺の第 1 項が比例制御(P)
、第 2 項が積分制御(I)そして第 3 項が微分制御(D)
を表しています。つまり、PID 制御とは比例と積分と微分を使った制御ということです。
P 制御では、目標値と現在値の差(偏差)に比例して操作量を決定します。偏差が大きけれ
ば大きいほど操作量は増大し、つまりアクセルが全開になり、偏差が 0 付近ではアクセル
はオフになります。このため、目標値のオーバーを小さくできその反動としてのハンチン
グ(いってこいの振動状態)も早く収束し制御量が安定します。
しかし、P 制御には 2 つの欠点があります。一つは、偏差が小さいときに操作量が小さく
なり過ぎ、制御量が目標値とずれたところで安定してしまうオフセットと呼ばれる現象で
す。上り坂になったのに、平坦時のアクセル操作では目標速度に達しない状態です。偏差
に比例するアクセルの踏み幅(Kp)を大きくすると上り坂ではいいのですが、平坦地では
加速と減速の幅が大きくなり過ぎてハンチングが生じることになります。I 制御では、偏差
の累積で操作量を決定します。P 制御では現在の状況しか見ていないのでオフセットの発生
を検知できませんが、I 制御では小さな偏差を累積させることで、累積値の正負の偏りが検
知できますのでオフセットが補正できます。
P 制御のもう一つの欠点は、反応性の低さです。急なカーブに差し掛かってセンターライ
ンから外れてきたときに、すぐに軌道修正しないとコースアウトする危険性がありますが、
P 制御ではセンターラインからの外れ方が大きくならないと修正しにくいために対応に時
間がかかってしまいます。D 制御では、前回の偏差と今回の偏差の差すなわち偏差の変化
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量によって操作量を決定します。カーブでのセンターラインからの外れ方の変化つまりカ
ーブの始まりを捉えてアクセル操作をすることができますので、P 制御の反応性の低さを補
うことができます。
オンオフ制御から進化した比例制御にその欠点を補う積分制御と微分制御を組合せたも
のが PID 制御といわれています。下水道のいろんな分野に使われていると思いますが、反
応タンクの風量制御、特に流入負荷変動の大きい場合に有効かもしれません。
(技術開発企画課)
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