兵庫県におけるレタス菌核病の ヘソディム 兵庫県立農林水産技術総合センター 〒679-0198 兵庫県加西市南ノ岡甲1533 TEL:0790-47-2448 ― 115 ― 対 象 診断手順 1 レタス菌核病とは レタス菌核病とは 病原体 病原体 調査方法 糸状菌の一種 子のう菌類 糸状菌の一種 Sclerotinia 子のう菌類 sclerotiorum Sclerotinia sclerotiorum 評価方法 写真 土壌表面に形成された子のう盤 写真 土壌表面に形成された子のう盤 病徴および標徴 病徴および標徴 診 断 票 対策技術 最も特徴的な標徴はネズミの糞状の黒い菌核を形 成します。菌核を形成するまでは明白色の菌糸が 最も特徴的な標徴はネズミの糞状の黒い菌核を形 標徴となります。菌核が未成熟の場合、白い菌糸 成します。菌核を形成するまでは明白色の菌糸が の固まりが見られます。 標徴となります。菌核が未成熟の場合、白い菌糸 病徴は、外葉の基部から発病することが多く、水 の固まりが見られます。 浸状の褐変が見られ、萎れます。病徴が進むと腐 病徴は、外葉の基部から発病することが多く、水 敗、枯死します。 浸状の褐変が見られ、萎れます。病徴が進むと腐 敗、枯死します。 留 意 点 伝染方法 伝染方法 そ の 他 圃場に残された菌核から、子のう盤(写真)を形 成し、子のう胞子を飛散させ伝染します。土壌中 圃場に残された菌核から、子のう盤(写真)を形 の菌核から直接菌糸を伸ばし、伝染することもあ 成し、子のう胞子を飛散させ伝染します。土壌中 ります。 の菌核から直接菌糸を伸ばし、伝染することもあ ります。 ― 116 ― 象 診断手順 調査方法 評価方法 診 断 票 〈ほ場診断手法の概要〉 〈ほ場診断手法の概要〉 ①前年の発病株率の調査 ①前年の発病株率の調査 ②聞き取り調査 ②聞き取り調査 聞き取り調査票に基づき、圃場毎に 聞き取り調査票に基づき、圃場毎に 必要な項目を聞き取ります(下記の聞 必要な項目を聞き取ります(下記の聞 きとり票) きとり票) ③ほ場における菌核残存調査 ③ほ場における菌核残存調査 (①ができない場合に実施) (①ができない場合に実施) 2 対 診断手順 診断手順 対策技術 留 意 点 そ の 他 ― 117 ― 対 象 診断手順 3 調査方法 調査方法 評価方法 ①前年の発病株率の調査 収穫時に発病株率を調査します。最低でも、 1ほ場に100株を調査します。20株ずつ5カ 所に分けて調査します。 灰色かび病と間違えることが多く、①明白色 な菌糸、②菌核の形成(白い未熟菌核を含む) で、判断します。 診 断 票 ②聞き取り調査の詳細 前項の聞き取り調査票を用いて、ヘソディムを 行うほ場毎に生産者の聞き取りを行います。 (2の項目参照) 対策技術 留 意 点 ③ほ場における菌核残存調査 (①が不明な場合に実施します) 次項以降の (1)土壌からの菌核病菌菌核の比重選別回収法に よる回収 もしくは (2)水稲移植初期における菌核のすくいとり調査 を実施し、回収された菌核の個数を調査します。 そ の 他 ― 118 ― 菌核を選別し、切断調査で確認し そ の 他 ― 119 ― 留 意 点 Step5 必要に応じてクロラムフェニ コール添加PDA培地で分離・確認 対策技術 Step4 ます。 診 断 票 Step3 30分程度静置後、3mm目合以下の 篩等で浮遊物を回収します。 評価方法 Step2 乾燥土壌に等容積量または倍容積量の比 重1.13溶液(3molKClまたは硫安2.6kg/10L、 食塩2.0kg/10L)を添加後、十分に混和します。 調査方法 Step1 調査圃場の土壌表層5cmから 土壌を10kg採集し、十分乾燥させます。 診断手順 土壌採集方法:1圃場につき5カ所(対角線採土法:圃場4隅と中央 部)より表層5cmの土壌を各カ所2kgずつ採土します。採土時期は定植 直前に行います。 象 (1)土壌からの菌核病菌菌核の比重選別回収 法による回収(森 2015) 対 3 対 象 診断手順 3 (2)水稲移植初期における菌核の すくいとり調査 調査方法 〈調査時期〉 水稲移植1週間程度までに行います。 〈方法〉 評価方法 診 断 票 対策技術 (1)D型の魚すくい網で水田の角4 隅の3m(図)を畦沿いに水面 の浮遊物をすくいます。 (2)網に入れたまま、浮遊物をよく水で洗浄します。 (3)よく水を切って、ビニール袋等に入れて持ち 帰ります。 (4)持ち帰った浮遊物を、 白いバットなどに少量 とり、水を満たして、 ゴミを取りのぞき、残った ものから、菌核を探します。 留 意 点 そ の 他 (5)菌核か紛らわしい場合は、カッター等で切断 し、その感触や断面の色(外皮が黒く、内部 が薄いオレンジ)で判断します。 (6)場合によっては、エタノール、アンチホルミン などで表面消毒後、クロラムフェニコール 100ppmを加えたPDA培地に置床し、菌核の再 形成を確認します。 ― 120 ― ておらず、過去の発 必須防除がなされ その後一ヶ月おき 病も認められていな ていたにも関わら に菌核病対象の防 除が実施されてい いか、わずかに発病 ず発病があった した程度であった た。 問 診② 水稲作ありもしく は前作終了後に14 前作終了後に水 日以上の連続湛水 稲・湛水処理なし あり 0 (排水性) 発病が助長される傾向 があります 0 良~並 0 +2 評価方法 (湛水対策等) 排水性の悪い圃場では 問 診③ +1 +1 他の圃場に比べ 不良 +1 兵庫県のレタスにおける作型別の菌核病の初発時期と必須防除適期 対策技術 前作の発病株率が不明な場合、以下の調査結果を置き換える 診断項目 レベル1 レベル2 レベル3 菌核比重選別回収法による菌核数 1個以上10個未満 10個以上 0個 もしくは 0 +1 +2 水稲移植期におけるすくい取り調査 0個 1個以上10個未満 10個以上 0 +1 +2 診 断 票 診断点数合計 *1は下図の必須防除時期における防除を指す 調査方法 必須防除に加え、 布時期によっ (薬剤防除対策) て発病状況が 大きく影響しま す 水稲もしくは湛水処 理がなければ菌核 の生存が増加します 診断点数 診断手順 レベル3 10%以上 +2 象 診断項目と各項目毎の発病ポテンシャルレベルの診断票 診断項目 レベル1 レベル2 前作の 0% 10%未満 前作の発病が菌核の残存 発病株率(%) と次作の発病に影響します 0 +1 *1 問 診① 薬剤とその散 必須防除 がなされ 対 4 評価方法 留 意 点 そ の 他 ― 121 ― 対 象 診断手順 5 診断票 診断票 調査方法 3項目の診断項目の結果から診断点数をあてはめ、その合 3項目の診断項目の結果から診断点数をあてはめ、その合 計から、各ほ場の発病ポテンシャルレベルを推定します。そ 計から、各ほ場の発病ポテンシャルレベルを推定します。そ の発病ポテンシャルレベルから、防除対策の選択に繋げます。 の発病ポテンシャルレベルから、防除対策の選択に繋げます。 診断票の記入例 診断票の記入例 診断項目と各項目毎の発病ポテンシャルレベルの診断票 評価方法 診断項目 レベル1 レベル2 診断項目と各項目毎の発病ポテンシャルレベルの診断票 前作の 0% 10%未満 診断項目 レベル1 レベル2 発病株率(%) 0 +1 前作の 0% 10%未満 問 診① *1 発病株率(%) +1 必須防除 0がなされ 必須防除がなされ 問 診① *1 ておらず、過去の発 必須防除 がなされ ていたにも関わら (薬剤防除対策) 病も認められていな ておらず、過去の発 必須防除がなされ いか、わずかに発病 ていたにも関わら (薬剤防除対策) 病も認められていな ず発病があった した程度であった いか、わずかに発病 ず発病があった した程度であった 0 +1 診 断 票 問 診② 問 診② レベル3 10%以上 レベル3 +2 10%以上 +2 必須防除に加え、 た。 +2 +2 対策技術 他の圃場に比べ +1 不良 他の圃場に比べ 不良 +1 診断点数合計 +1 診断点数合計 *1は下図の必須防除時期における防除を指す 1 1 その後一ヶ月おき 必須防除に加え、 に菌核病対象の防 その後一ヶ月おき 除が実施されてい に菌核病対象の防 た。 除が実施されてい 0 +1 水稲作ありもしく は前作終了後に14 前作終了後に水 水稲作ありもしく 日以上の連続湛水 は前作終了後に14 稲・湛水処理なし 前作終了後に水 あり 日以上の連続湛水 稲・湛水処理なし あり 0 +1 (湛水対策等) 問 診③ 良~並 (湛水対策等) 0 問 診③ 良~並 (排水性) 0 *1は下図の必須防除時期における防除を指す (排水性) 0 診断点数 診断点数 1 1 0 0 0 20 2 留 意 点 前作の発病株率が不明な場合、以下の調査結果を置き換える 診断項目 レベル1 レベル2 レベル3 前作の発病株率が不明な場合、以下の調査結果を置き換える 菌核比重選別回収法による菌核数 1個以上10個未満 10個以上 0個 診断項目 レベル1 レベル2 レベル3 もしくは 0 +1 +2 菌核比重選別回収法による菌核数 1個以上10個未満 0個 10個以上 水稲移植期におけるすくい取り調査 1個以上10個未満 0個 10個以上 もしくは 0 +1 +2 0 +1 +2 水稲移植期におけるすくい取り調査 0個 1個以上10個未満 10個以上 0 +1 +2 発病ポテンシャルレベル そ の 他 発病ポテンシャルレベル 3 3 2 1 2 1 診断点数合計 診断点数合計 4以上 4以上 1~3 0 1~3 0 発病ポテンシャルレベル2 発病ポテンシャルレベル2 にあった防除法の選択へ にあった防除法の選択へ ― 122 ― レベル2 レベル2 ・各作型の必須防除適期に1回防除 ・各作型の必須防除適期に1回防除 ・各作型の必須防除適期に1回防除 + ・各作型の必須防除適期に1回防除 + ・その後の30日後の防除 ・その後の30日後の防除 ・水稲作の実施もしくは夏期の最低14日間の連続湛水処理 + ・水稲作の実施もしくは夏期の最低14日間の連続湛水処理 ・ミニタンWG(コニオチリウムミニタンス水和剤)の施用 + ・ミニタンWG(コニオチリウムミニタンス水和剤)の施用 + ・各作型の必須防除適期の1回防除+30日後の防除 + ・各作型の必須防除適期の1回防除+30日後の防除 ・排水対策 ・排水対策 ・発病株のほ場外 への持ち出し ・発病株のほ場外 への持ち出し 対策技術 レベル3 レベル3 (どのレベルでも必要) 診 断 票 レベル1 レベル1 共通の防徐対策 (どのレベルでも必要) 共通の防徐対策 評価方法 レベル 防除対策 防除対策 調査方法 発病ポテンシャル レベル 発病ポテンシャル 診断手順 表 発病ポテンシャルレベル別の防除方法 表 発病ポテンシャルレベル別の防除方法 象 これまでに、様々な防除方法が開発されてきました。 これまでに、様々な防除方法が開発されてきました。 しかし、各圃場の汚染レベルにあった防除方法を しかし、各圃場の汚染レベルにあった防除方法を 選択しなければ、防除効果が不十分であったり、 選択しなければ、防除効果が不十分であったり、 過剰防除になる可能性もあります。 過剰防除になる可能性もあります。 そこで、全項目で評価された発病ポテンシャルから そこで、全項目で評価された発病ポテンシャルから 各圃場にあった防除方法を選択します。 各圃場にあった防除方法を選択します。 対 6 対策技術の方法と選択 対策技術の方法と選択 留 意 点 そ の 他 ― 123 ― 対 象 診断手順 7 留意点 調査方法 ○ミニタンWG(コニオチリウム ミニタンス製剤)について 本剤は生物農薬です。以下の点に留意してください。 ・散布時期については夏期の高温期の散布は避けてくださ い。 ・ほ場全面に均一に散布して、軽く耕耘します。 ・保管については冷蔵庫(4℃)に保管してください。 一度開封したものは使い切るようにしてください。 評価方法 診 断 票 対策技術 留 意 点 そ の 他 ― 124 ― 法〉 そ の 他 ― 125 ― 留 意 点 菌核の生存が確認された場合は、防除暦に従って 適正に防除し、翌年以降の湛水方法の見直しが必要 です。 対策技術 (1)水稲終了後に、ほ場の4隅の額縁部分(図)を コンクリート畦であれば、壁沿いの土壌を スコップでサンプリングします。 (2)4隅あわせて、生土で10~15kg程度サン プリングします。 (3)土壌を雨の当たらないところで乾燥させます。 (4)以下菌核病菌菌核の比重選別回収法による回収 (森 2015)と同じ 診 断 票 〈方 評価方法 水稲収穫後~秋のレタス定植まで 調査方法 水稲終了後の菌核生存調査 〈調査時期〉 診断手順 菌核の死滅には湛水処理が効果的ですが、青刈りで 湛水期間が短かったり、額縁部分の水深が浅く、湛 水が不十分になり、菌核が生存する可能性があります。 そこで、水稲終了後に以下の方法で、土壌サンプリ ングし、菌核比重選別回収法を行うと効率よく菌核の 生存が確認できます。 象 8 対 その他 対 象 診断手順 8 【参考文献】 調査方法 岩本 豊・西口真嗣・小川宗和(2015)レタス・キャベツ菌核病 に対するConiothyrium minitans製剤の最適な処理方法 関西病虫 研報(57):19-23 評価方法 黒田克利・鈴木啓史・辻 朋子(2015)菌核病菌が子のう盤形成 能を消失する湛水処理の条件.植物防疫69 386-389. 森 充隆ら(1998):平成10年度四国農業研究成果情報 森 充隆ら(2015)土壌中の菌核病菌の菌密度推定法 81(1):85(講要) 日稙病報 診 断 票 森 充隆・十河和博(2003)レタス菌核病、灰色かび病の防除適 期.四国植物防疫研究.38:62.(講要) 対策技術 留 意 点 そ の 他 ― 126 ―
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