兵庫県におけるレタスビッグベイン病の ヘソディム 兵庫県立農林水産技術総合センター 〒679-0198 兵庫県加西市南ノ岡甲1533 TEL:0790-47-2448 ― 103 ― 対 象 診断手順 1 レタスビッグベイン病とは レタスビッグベイン病とは 症状 症状 調査方法 評価方法 レタスの葉脈付近の緑色が退色し、白色の葉脈 レタスの葉脈付近の緑色が退色し、白色の葉脈 が太くなったように見えます。葉縁の切れ込みが が太くなったように見えます。葉縁の切れ込みが 激しくなります。株を枯死させることはありませ 激しくなります。株を枯死させることはありませ んが、生育不良、 んが、生育不良、 結球不良、品質低 結球不良、品質低 下を起こし、収量 下を起こし、収量 が減少します。 が減少します。 診 断 票 病原体 病原体 対策技術 レタスビッグベイン病の病原体は、土壌に生息す レタスビッグベイン病の病原体は、土壌に生息す る糸状菌であるOlpidium virulentusによって媒 る糸状菌であるOlpidium virulentusによって媒 介されるウイルスで、病原ウイルスは 介されるウイルスで、病原ウイルスは Mirafiori lettuce big-vein virusです。 Mirafiori lettuce big-vein virusです。 留 意 点 伝染方法 伝染方法 そ の 他 罹病したレタスの根で形成された媒介菌 罹病したレタスの根で形成された媒介菌 Olpidium virulentusの休眠胞子が土壌に残り、 Olpidium virulentusの休眠胞子が土壌に残り、 次作の発病につながります。また、発病圃場の土 次作の発病につながります。また、発病圃場の土 壌が農業機械や苗に付着し、他の圃場への伝染に 壌が農業機械や苗に付着し、他の圃場への伝染に つながります。 つながります。 ― 104 ― 聞き取り調査票に基づき、圃場毎に 必要な項目を聞き取る(次頁聞き取り票)。 レタスの春作終了後(できれば1度、鋤いた 状態で)、土壌をサンプリングする。 (K.Momonoi et al. 2015) ― 105 ― そ の 他 富山県で開発された手法を用いて、土壌から RNAをキットを用いて抽出し、リアルタイ ムPCRという手法でウイルス濃度を測定する。 留 意 点 ③土壌ウイルス濃度の測定 対策技術 ②土壌サンプリング調査 診 断 票 ①聞き取り調査 評価方法 〈ほ場診断手法の概要〉 調査方法 定植約1ヶ月程度以降の葉を直射日光で透かして、 葉脈が太くなっているかで診断します。また、結球 期以降は外葉に発病が見られない場合でも結球葉内 部で発病が見られる場合もあります。 診断手順 〈レタスビッグベイン病の診断方法〉 象 2 対 診断手順 対 象 診断手順 2 聞き取り調査票に基づき、圃場の管理者より 詳しく聞き取りを行います。 調査方法 聞き取り調査票 記入日 ( 年 月 日) ◎生産者名 評価方法 ◎地域名 ○前作(昨年の冬作)について ■作物名 ( ) ■レタスの場合 品種 ( ) ■レタスの発病株率 (約 %) ■ビッグベイン病に対して行った防除対策は? ・キルパー処理 ・薬剤灌注(薬剤名: ) ・耐病性品種の利用(品種名: ) 診 断 票 ○昨年の2作目について ■レタスを作付けしたか? ・作付けした ・作付けしなかった ・他の作物を作付けした(品目: ) ■レタスを作付けした場合、ビッグベインの発病はあったか? ・発病あり(発病株率:約 %) ・発病なし 対策技術 ○圃場について ■比較的大きな雨(mm程度)が降って谷に水が溜まったあと、トラクターで耕耘できるまでの日数 ( 日程度) ■行っている排水対策(行っている項目すべて選択) ・本暗渠 ・弾丸暗渠 ・高畝栽培 ・溝切り機の使用 ・その他( ) ○レタス栽培時の石灰質資材の使用について ■使用している石灰質資材は? 資材名( ) ■使用頻度は? ・毎作必ず入れる ・入れない ・何作かに一度入れる 留 意 点 そ の 他 ― 106 ― ②土壌サンプリング調査の詳細 ②土壌サンプリング調査の詳細 留 意 点 そ の 他 ― 107 ― 対策技術 ある程度土壌が乾いた日にサンプリングする。春作 ある程度土壌が乾いた日にサンプリングする。春作 終了後、一度鋤いて均一になった状態でサンプリン 終了後、一度鋤いて均一になった状態でサンプリン グします。 グします。 (1)薄手のビニール袋(攪拌用)とジップロック式の (1)薄手のビニール袋(攪拌用)とジップロック式の ビニール袋(保存用)を用意します。 ビニール袋(保存用)を用意します。 (2)ほ場内の1カ所で深さ5~10cmの土壌を5点とり、 (2)ほ場内の1カ所で深さ5~10cmの土壌を5点とり、 攪拌用のビニールに入れ、空気でふくらませ、攪拌 攪拌用のビニールに入れ、空気でふくらませ、攪拌 します。 します。 (3)その袋の中から移植ゴテ1杯分を保存用袋に移しま (3)その袋の中から移植ゴテ1杯分を保存用袋に移しま す。 す。 診 断 票 〔ばらつきをなくすサンプリング方法の一例 〔ばらつきをなくすサンプリング方法の一例 〕 〕 評価方法 ・土壌のサンプリング方法 ・土壌のサンプリング方法 1筆にレタスビッグベイン耐病性品種と罹病性 1筆にレタスビッグベイン耐病性品種と罹病性 品種が定植されている場合は、別々にサンプ 品種が定植されている場合は、別々にサンプ リングを行うか、罹病性品種の作付けあとを リングを行うか、罹病性品種の作付けあとを サンプリングし、最大の発病ポテンシャルを サンプリングし、最大の発病ポテンシャルを 算出します。 算出します。 5点法に基づき、5カ所から土壌をサンプリン 5点法に基づき、5カ所から土壌をサンプリン グする。ウイルス濃度の測定には少量の土壌を グする。ウイルス濃度の測定には少量の土壌を 用いるため、ばらつきをなくすことが重要です。 用いるため、ばらつきをなくすことが重要です。 調査方法 前項の聞き取り調査票を用いて、ヘソディムを 前項の聞き取り調査票を用いて、ヘソディムを 行うほ場毎に生産者の聞き取りを行います。 行うほ場毎に生産者の聞き取りを行います。 (2の項目参照) (2の項目参照) 診断手順 ①聞き取り調査の詳細 ①聞き取り調査の詳細 象 3 対 調査方法 調査方法 対 象 診断手順 3 ②の続き 調査方法 (4)(1)~(3)をほ場内5カ所で行い、保存用袋でよく混 ぜます。 (5)保存用袋は冷蔵保存し、ウイルス検定に使用します。 ・土壌pHの調査 評価方法 診 断 票 風乾細土20gを100ml容量の振とうビンにとり、 蒸留水50mlを加えて、30分振とう後、1時間静置 します。測定前に軽く振とうして懸濁液とし、ガラス 電極を静かに液中へ浸し、30秒以上経過してpH分 析計の表示値が安定するのを待って、pH指示値を 読みとります。 対策技術 ③土壌のウイルス濃度調査(検定)の詳細 留 意 点 ②でサンプリングを行った土壌は検定をするまで は冷蔵で保存します。 低温状態でふるいにかけられるまで乾燥させ、 2mmの目合いのふるいをかけた土壌を、ウイル スの測定に用います。 そ の 他 《リアルタイムPCRによる土壌のウイルス濃度測定法 の詳細については別冊の高度化マニュアルを参照》 *このマニュアルでは、ビーズ式破砕装置をマルチビ ーズショッカー(安井器械)、リアルタイムPCR はStepOne plus(ABI)で測定した数値を採用 ― 108 ― 診 断 票 対策技術 病原ウイルスを媒介す 病原ウイルスを媒介す る糸状菌( る糸状菌(Olpidium Olpidium virulentus )は、土壌 virulentus)は、土壌 pHが6.0を下回ると感 pHが6.0を下回ると感 染が困難になることか 染が困難になることか ら、診断項目として有 ら、診断項目として有 効です。 効です。 評価方法 ②土壌のpH ②土壌のpH 調査方法 春作終了後の土壌でのウイルス濃度が、次作のレタ 春作終了後の土壌でのウイルス濃度が、次作のレタ スの発病に関係があります。春作レタス(2作目) スの発病に関係があります。春作レタス(2作目) の発病によっても、ウイルス濃度を上げてしまうこ の発病によっても、ウイルス濃度を上げてしまうこ とがあったり、耐病性品種と罹病性品種でウイルス とがあったり、耐病性品種と罹病性品種でウイルス の残り方が異なるため、前作発病度よりも関係が高 の残り方が異なるため、前作発病度よりも関係が高 くなります。 くなります。 診断手順 ①土壌のウイルス濃度 ①土壌のウイルス濃度 象 レタスビッグベイン病の発病ポテンシャルを推定する レタスビッグベイン病の発病ポテンシャルを推定する ために、土壌の化学性、物理性、土壌のウイルス濃度 ために、土壌の化学性、物理性、土壌のウイルス濃度 などと発病との関係を調査したところ、以下の4つの などと発病との関係を調査したところ、以下の4つの 診断項目が有効であると判断しました。 診断項目が有効であると判断しました。 4 対 評価方法 評価方法 留 意 点 ③土壌の排水性 ③土壌の排水性 ― 109 ― そ の 他 土壌水分がほ場容水量の40%以下であれば 土壌水分がほ場容水量の40%以下であれば Olpidium Olpidium属菌は感染しないことから、排水性と発病 属菌は感染しないことから、排水性と発病 の関係は大きくなります。 の関係は大きくなります。 対 象 診断手順 4 ④前年冬作の作目 調査方法 前作(前年同時期)がキャベツなどアブラナ科作 物の場合、土壌のウイルス濃度が下がる傾向があ ります。また、レタスであれば、耐病性品種に比 べ、罹病性品種でウイルス濃度が高くなる傾向が あります。 評価方法 ( 診 断 票 土 壌 中 の ウ イ ル ス 濃 度 ) 対策技術 p g / 乾 土 図 前年度作付け品種と土壌のウイルス濃度の関係 (各品種6圃場の平均) 留 意 点 そ の 他 ― 110 ― 診断点数 診断点数 +1 +1 +2 +2 診断点数合計 診断点数合計 ― 111 ― そ の 他 各圃場の発病ポテンシャル 各圃場の発病ポテンシャル レベルにあった防除法の選択へ レベルにあった防除法の選択へ 留 意 点 3 3 2 2 1 1 診断点数 診断点数 8以上 8以上 4~7未満 4~7未満 0~3 0~3 対策技術 発病ポテンシャルレベル 発病ポテンシャルレベル 診 断 票 レタス(耐病性)レタス(罹病性) レタス(耐病性)レタス(罹病性) 評価方法 レベル2 レベル3 レベル2 レベル3 0.2~1 1以上 0.2~1 1以上 +4 +7 +4 +7 6.0~6.5未満 6.5以上 6.0~6.5未満 6.5以上 0 +2 0 +2 6~9日 10日以上 6~9日 10日以上 +1 +3 +1 +3 調査方法 レベル1 レベル1 春における ~0.2未満 春における ~0.2未満 土壌のMilBVV濃度(pg/g乾土) +2 土壌のMilBVV濃度(pg/g乾土) +2 春における 6.0未満 春における 6.0未満 土壌のpH -2 土壌のpH -2 ほ場における排水性 5日以下 ほ場における排水性 5日以下 (聞き取り調査) -1 (聞き取り調査) -1 アブラナ科作物 前年冬作の作目 アブラナ科作物 前年冬作の作目 -1 -1 診断手順 診断項目 診断項目 象 4項目の診断項目の結果から診断点数をあてはめ、 4項目の診断項目の結果から診断点数をあてはめ、 その合計から、各ほ場の発病ポテンシャルレベルを その合計から、各ほ場の発病ポテンシャルレベルを 推定します。その発病ポテンシャルレベルから、防除 推定します。その発病ポテンシャルレベルから、防除 対策の選択に繋げます。 対策の選択に繋げます。 対 5 診断票 診断票 対 象 診断手順 6 対策技術の方法と選択 調査方法 これまでに、様々な防除方法が開発されてきました。 しかし、各圃場の汚染レベルにあった防除方法を 選択しなければ、防除効果が不十分であったり、 過剰防除になる可能性もあります。 そこで、全項目で評価された発病ポテンシャルから 各圃場にあった防除方法を選択します。 評価方法 表 発病ポテンシャルレベル別の防除方法とコスト 発病ポテンシャル レベル レベル1 診 断 票 レベル2 対策技術 レベル3 防除コスト 防除方法のリスク比*1 共通の防徐対策 (無処理に対して) (どのレベルでも必要) (10aあたり) ○種子代 約3,500円増加 0.4 (レガシーとエレガントを ・排水対策 耐病性品種の使用 (レガシーからエレガントに 比較した場合) 変換した場合の増加額) または ○薬剤代 定植時の薬剤灌注 ・トップジンM:約4,300円 → 0.66 ・大苗定植 ・ダコニール1000:約11,300円 → 0.74 ・アミスター20フロアブル:約25,500円 → 0.47 ・pHの低下 耐病性品種の使用 + 上記参照 ー 定植時の薬剤灌注 ・輪作 防除対策 キルパー処理 ○薬剤代 約30,000円(60Lの使用) 0.01 (その他に専用機の減価償却費など が必要) 留 意 点 *1 複数年の試験結果を固定効果モデルでの統合を行い、Mantel‐Haenszel法で解析 *2 キルパー処理の方法等詳細については http://www.naro.affrc.go.jp/org/warc/research_results/h17/03_kankyo/p65/を参照 そ の 他 キルパーマルチ畦内処理 ― 112 ― そ の 他 ― 113 ― 留 意 点 ・土壌のウイルス濃度の測定では、土壌破砕を行うビーズ式 ・土壌のウイルス濃度の測定では、土壌破砕を行うビーズ式 の破砕装置や、リアルタイムPCRの機種、試薬の種類により、 の破砕装置や、リアルタイムPCRの機種、試薬の種類により、 ウイルス濃度が変わることが考えられます。使用する機器等 ウイルス濃度が変わることが考えられます。使用する機器等 の組み合わせにより、基準値を再検討する必要があります。 の組み合わせにより、基準値を再検討する必要があります。 対策技術 ・耐病性品種は全く発病しないわけではなく、土壌ウイルス ・耐病性品種は全く発病しないわけではなく、土壌ウイルス 濃度などの条件により発病しますが、罹病性品種より発病程 濃度などの条件により発病しますが、罹病性品種より発病程 度は抑えられます。このマニュアルではエレガントのみを取 度は抑えられます。このマニュアルではエレガントのみを取 り上げていますが、他の品種は種苗メーカーカタログを参照 り上げていますが、他の品種は種苗メーカーカタログを参照 ください。 ください。 診 断 票 ○薬剤灌注処理 ○薬剤灌注処理 ・灌注薬量が少ない(登録の薬量に足りていない)。 ・灌注薬量が少ない(登録の薬量に足りていない)。 ・土壌水分が多すぎ、灌注しても土壌に保持されていない。 ・土壌水分が多すぎ、灌注しても土壌に保持されていない。 評価方法 ○キルパー処理 ○キルパー処理 ・穴あきマルチを使用した。 ・穴あきマルチを使用した。 ・生分解性マルチを使用した。 ・生分解性マルチを使用した。 ・処理後にマルチ上に畝間の土(無消毒)を大量に乗せた。 ・処理後にマルチ上に畝間の土(無消毒)を大量に乗せた。 ・キルパー処理後に、圃場が水に浸かった。 ・キルパー処理後に、圃場が水に浸かった。 ・処理後15日以内に定植した(薬害)。 ・処理後15日以内に定植した(薬害)。 調査方法 ・それぞれの防除手段は、施用方法や施用後の現象により効 ・それぞれの防除手段は、施用方法や施用後の現象により効 果が上がらない場合があります。よくみられるケースに次の 果が上がらない場合があります。よくみられるケースに次の ようなものがあります。 ようなものがあります。 診断手順 ・レタスビッグベイン病の発生には年次変動が見られます。 ・レタスビッグベイン病の発生には年次変動が見られます。 レタス定植後の降雨が多い、低温が続き、生育が遅れること レタス定植後の降雨が多い、低温が続き、生育が遅れること などにより、発病が増えます。そのため、発病ポテンシャル などにより、発病が増えます。そのため、発病ポテンシャル レベルが低く評価された場合でも、気象条件により発病が多 レベルが低く評価された場合でも、気象条件により発病が多 くなる可能性があります。 くなる可能性があります。 象 7 対 留意点 留意点 対 その他 象 診断手順 8 その他 その他 【参考文献】 調査方法 K. Momonoi, M. Mori, K. Matsuura, J. Moriwaki and T. Morikawa (2015)Quantification of Mirafiori lettuce big-vein virus and 【参考文献】 its vector, Olpidium virulentus, from soil using real-time PCR. 評価方法 Plant Pathology doi: K. 10.1111/ppa.12333 K. Momonoi, M. Mori, Matsuura, J. Moriwaki and T. Morikawa (2015)Quantification of Mirafiori lettuce big-vein virus and 岩本豊・相野公孝・松浦克成:作付け履歴がレタスビッグベイン病の発 its vector, Olpidium virulentus, from soil using real-time PCR. 病に及ぼす影響 :関西病虫研報(52):89-91(2010) Plant Pathology doi: 10.1111/ppa.12333 西口真嗣ら:亜リン酸資材による肥培管理を核としたレタスビッグベイ 岩本豊・相野公孝・松浦克成:作付け履歴がレタスビッグベイン病の発 ン病の発病制御技術 :植物防疫 第68巻 第10号(2014) 585-589 病に及ぼす影響 :関西病虫研報(52):89-91(2010) 診 断 票 西口真嗣ら:亜リン酸資材による肥培管理を核としたレタスビッグベイ ン病の発病制御技術 :植物防疫 第68巻 第10号(2014) 585-589 対策技術 留 意 点 そ の 他 ― 114 ―
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