X 線の偏光を活用したスピンダイナミクス研究 Studying spin dynamics by using polarization of x-rays 和達大樹、松田巌(東大物性研、東大放射光) Hiroki Wadati and Iwao Matsuda (ISSP & SRRO, Univ. of Tokyo) 現在の物質科学においては、電子のスピンを活用するスピントロニクスは潮流となって久しく、 さらには磁場を使わずにスピン状態を制御することが特に興味を持たれている。我々は SPring-8 の BL07LSU において、X 線の偏光を最大限に活用した磁性研究を進めている。磁性研究の対象 としては特に強磁性体(波数: Q =0)と反強磁性体やらせん磁性体(Q が有限)があり、本 S 課題では 広く磁性体を研究するために、主に BL07LSU のフリーポートにおいて下記のように研究を進め てきた。 (1)X 線磁気カー効果(XMOKE) X 線磁気カー効果(XMOKE)は、磁化を持つ物 質に直線偏光した X 線を当てた時、その反射 X 線の偏光面が入射 X 線の偏光面から傾く現象で ある。円偏光でなく直線偏光によって強磁性秩 序を観測できるため、極めて有力な実験手法で ある。我々は Fe ナノ薄膜に対し図1のように、 Fe L 端のエネルギーの軟 X 線領域で共鳴磁気光 学カー効果を観測することに成功した。吸収端 で 10 度以上の巨大なカー回転角が観測され、こ れは従来の可視光 MOKE の 50 倍以上の大きな 値である。この結果は光学定数を用いた理論計 図1:Fe ナノ薄膜の Fe L 端でのカー回転 算でよく再現されている。XMOKE は今後、X 線 角と理論計算との比較。 自由電子レーザー(XFEL)や実験室の高次高調波 (HHG)光源において強磁性体を研究する際に非常に有望な手法と考えられ、 我々はすでに SCSS[1]や FERMI[2]でも成果を上げている。 (2)時間分解 X 線回折・吸収 我々は昨年度に共鳴軟 X 線回折装置の建設を完 了し、さらには時間分解軟 X 線分光実験ステーショ ンのレーザーを導入しての時間分解測定が可能で あることも確認した。図2に共鳴軟 X 線装置の模式 図を示す。今年度は、スピンダイナミクス研究のた め、レーザー励起・軟 X 線プローブによるポンププ ローブ法での時間分解型測定のセットアップを行 った。図2のように時間分解用の X 線検出器として、 X 線回折時の 2アームには APD(アヴァランシェフ ォトダイオード)と MCP(マイクロチャンネルプレ ート)を載せた。また、X 線吸収分光用に直線導入の 先端にも MCP をつけることで、蛍光収量法での時 間分解測定を可能にした。そして、強磁性を示す垂 直磁化膜 FePt の時間分解 X 線磁気円二色性(XMCD) 図2:共鳴軟 X 線装置の模式図。 や、電荷とスピンの整列を示す La1/3Sr2/3FeO3 薄膜の 時間分解共鳴軟 X 線回折に成功した。今後はこのシステムを用いて、レーザー励起磁化反転や 光誘起超伝導などの新現象の観測を目標としている。ps 以下の時間領域でのダイナミクス観測 には、SACLA や LCLS などの XFEL や、BESSY などのレーザースライシングが可能なビームラ イン[3]の併用が必要となる。 上記の BL07 での実験装置・手法開発を今後は、10 Hz さらには 30 Hz の高速偏光スイッチン グと組み合わせることで、微弱の XMCD・XMOKE 測定や、効率の良い時間分解測定を目指す。 [1] Sh. Yamamoto et al., Phys. Rev. B 89, 064423 (2014). [2] Sh. Yamamoto et al., Rev. Sci. Instrum. 86, 083901 (2015). [3] T. Tsuyama et al., arXiv:1511.03365v1.
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