SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) アゾ色素含有ウレタンウレア共重合体薄膜を用いた高密 度ホログラムメモリ 青島, 康郎 Citation Issue Date URL Version 2002-03-23 http://doi.org/10.14945/00003539 ETD Rights This document is downloaded at: 2016-02-25T11:34:50Z 電子科学研究科 0002516011 R 静岡大学 博士論文 アゾ色素含有ウレタンウレア共重合体薄膜を用いた 高密度ホログラムメモリ 2002年2月 大学院電子科学研究科 電子応用工学専攻 青島 康郎 概 要 近年、インターネットの普及などにより、情報量が急激に増加している0これ に伴い記録すべき情報量は指数関数的に増加している0この膨大な情報を記録 するために、光記録技術が発展してきている。しかし、現在の記録システムに は光の集光性以外はほとんど用いられていない。将来の超高密度・超高速記録 を実現する為には、波長、位相、偏光、といった光の優れた特性をできるだけ 多く利用することが不可欠である。 本研究では、そのような高密度記録を実現する為に、アゾベンゼン含有ウレタ ンウレア共重合体薄膜の特性を活かした二重ホログラム記録の実現を目的とし た。 第1章では、本研究の背景と目的を述べている0 第2章では、光記録に関する基礎として、光記録の分類および記録メカニズム について述べる。また近年の光記録研究の動向を述べ、本研究との関連性を述 べている。 第3章では、有機光学材料の持つ特性として第二高調波発生や電気光学効果の 原理およびその起源について記述し、無機材料との違いを述べている0また、 ウレタンウレア共重合体薄膜の基本的性質として、吸収および屈折率、非線形 性の測定に関して述べている0ウレタンウレア共重合体は大きな2次分子分極 率を持つアゾベンゼン色素を含有する高分子である。そのため、電界配向処理 を施すことにより二次非線形性が誘起される。そして、実際にウレタンウレア 共重合体薄膜にポーリング処理を施すことにより、第二高調波発生(SHG)を 確認した。このSHG測定により算出された非線形性の大きさは、d33=170pmN と極めて大きいことが確認された。 第4章では、Trans−Cis光異性化を利用した書き換え可能型光記録特性に関し て述べている。アゾベンゼン色素はTrans−Cis光異性化反応を起こすことで知 られている。このアゾベンゼン色素を側鎖に含むウレタンウレア共重合体の薄 膜に、特定方向の直線偏光を入射すると、Trans−Cis光異性化の繰り返しにより 色素分子の配向が誘起される。そして、さらに円偏光の照射および熱の作用に ょり、その分子配向を緩和させることができる0この性質を利用した分子配向 の誘起と緩和を、ウレタンウレア薄膜の透過率異方性測定により確認すること に成功した。 第5章では、ウレタンウレア共重合体薄膜の表面形状変化の測定に関して述べ ている。アゾベンゼン色素を含んだ高分子において、吸収ピーク付近の波長の レーザ照射により表面形状変化が生じる0ウレタンウレア共重合体薄膜に血+ レーザ(488mm)の二光束干渉露光を行い、周期0・8軸mの表面レリーフグレ ーティングを形成することに成功した。そして、膜の表面の形状をAFMにより 観測し、この観測結果と理論上の干渉縞の強度分布との比較を行った0その結 果、この形状変化の大きさが照射エネルギー密度に比例していることを確認し た。 第6章では、ウレタンウレア共重合体の2つの光学特性を利用して、同一箇 所に異なる情報を持つホログラムを別々に記録する2wayホログラムメモリに 関して述べる。まず、強度が空間的に変調された干渉縞を照射し,フイルムの 表面ホログラムを記録する0同時にフイルムの内部でもTrans−Cis光異性化に ょる分子配向が生じるため、表面と内部に同時にホログラムが記録される0次 に,内部に生じたホログラムを消去する為、熱処理あるいは円偏光照射により 分子配向を緩和する。そこで偏光方向が直交する2つの光によって偏光方向だ けが空間的に変調された干渉縞を照射し、再びフイルム内部に異なるホログラ ムを記録する。このように記録されたそれぞれのホログラムによる回折光は、 ぉ互いに異なる偏光方向であるため、検出用の偏光子の方向により別々に読み 出すことが可能である。さらに、二次元画像をそれぞれのホログラムに記録す ることにより、それぞれの画像を別々に取り出すことに成功した0 以上のように、本論文はウレタンウレア共重合体薄膜が有する特性を生かし たホログラムメモリに関する研究であり,記録の高密度化を目指すものである0 目 次 第1章 序論……………………………………………‥1 1−1研究の背景………………………………………‥1 1−2 研究の目的と概要…………………………………‥5 参考文献………………………………………………・7 第2章 光記録……………………………………………8 2−1緒言……………………………………………‥8 2−2 光記録の機能と分類…………………………………9 2−3 レンズによる集光…………………………………・11 2−4 高密度記録………………………………………・13 参考文献………………………………………………25 第3章 有機光学材料……………………………………‥27 3−1緒言……………………………………………・27 3−2 非線形光学現象……………………………………27 3−3 有機光学材料の基本的性質…………………………‥32 3−4 アゾベンゼン分子を含有したウレタンウレア共重合体薄膜…・35 3−5 結論……………………………………………・45 参考文献………………………………………………46 第4章 Trans−Cis光異性化………………………………‥48 4−1緒言……………………………………………・48 4−2 Trans−Cis光異性化………………………………‥48 4−3 偏光透過率測定……………………………………53 4−4 結論……………………………………………・61 参考文献………………………………………………62 第5章 表面形状の光形成…………………………………・63 5−1緒言……………………………………………・63 5−2 表面形状変化のメカニズム…………………………‥63 5−3 二光束干渉露光実験………………………………‥65 5−4 ウレタンウレア高分子薄膜の様々な光記録への応用………・72 5−4 結論……………………………………………・77 参考文献………………………………………………78 第6章 ホログラム記録……………………………………80 6−1緒言……………………………………………・80 6−2 表面ホログラム……………………………………80 6−3 内部ホログラム……………………………………81 6−4 二重ホログラム……………………………………86 6−5 結論……………………………………………・93 参考文献………………………………………………95 第7章 結論……………………………………………・96 本研究に関する論文及び学術発表……………………………‥100 謝辞……………………………………………………・102 第1章 序論 1−1.研究の背景 1960年にレーザー光が発明されて以来,その可干渉性,高光強度,高指向性 などの特性を生かした研究が多く行われてきた1)。そしてレーザーの高い光強度 により,以前は知られていなかったような現象が観測されるようになった。こ れらの現象は,材料と光との関わりであり,材料の電子状態,電子の励起状態 に関係する。材料の電子機能は,電子の移動・伝導など,電子の振る舞いに起 因する。光の関連した応答機能の代表例を整理すると表1−1のようになる。 表1−1光の関連した応答機能の分類 加える物理量 変化する物性 ( 入力) (出力) 光学的性質 光 光電変換、スイッチ ング 化学的性質 親和性、溶解性、粘性、水素イオン濃度 電気 熱 化学物質 波長変換、発光、増幅、位相 電気的性質 形状 電子線、Ⅹ線 吸収スペク トル、透過率、反射率、屈折率 体積、形態 吸収スペク トル、透過率、反射率、屈折率 光学的性質 吸収スペク トル 吸収スペク トル 吸収スペク トル 1 これらの光学的物性の変化はさまざまな分野で応用されている。特にコンピ ューター分野の発展による高度情報化に伴った情報の伝達・処理・演算の高速 化,取り扱う情報の大容量化などが要求されるようになっている今日では,光 の持つ並列性,高周波性,広帯域性,高速性,高密度という特性は非常に有効 なものである。そのため光を利用した様々な情報処理技術が研究されている。 その中でも大容量の情報記録媒体に関する研究は今後も欠かせないものとなっ ており,光の性質を利用した光記録が大変注目されている。 一般に光ディスクの記録密度は,レーザーの波長と対物レンズの開口数(NA) で決まってくる。CD−ROMでは波長780nmの近赤外光,DVDでは波長650nm あるいは635mmの赤色光を利用しており,より短波長の光の方が記録密度は大 きくなる。また対物レンズのNAは大きいほど記録密度は大きくなるが,現在 0・6で単レンズ系においてほぼ限界に達している。その結果,記録密度は現在約 3Gbits尤n2にまで向上している。また,次世代光ディスクでは光源が青紫色へと より短波長化が進んでおり2),開口数は0.6から0.85へと大きくなり高密度化 が実現されつつある。開口数を1以上にするsolidimmersionlens(SIL)3)な どが開発され,さらなる高密度化が期待されている。しかし光源の波長に関し ては,記録材料の共鳴周波数との兼ね合い,400mm以下の短波長は光学部品に よる吸収があり光ディスクには使用できない,など多くの問題が残っている。 そのため光源とレンズの改善により達成できる記録密度は数百Gbits血2が限界 となる。これ以上の記録密度を達成するためには,この限界を打ち破る技術が 必要となる。 そこで,近年フォトンモード記録4)が大変注目されている。フォトンモード記 録は,光を熱に変えて記録するヒートモード記録とは異なり,光反応により直 接記録層の物性を変化させて書き込み・読み出しを行うものである。そのため, 光の波長,偏光,位相,極短パルスなどの優れた特性を活用することができる ため,飛躍的な高密度化とさらなる高速化が期待できる。代表的なフォトンモ ード記録としては,フォトクロミズムとフォトケミカルホールバーニング (PHB)がある。 2 フォトクロミズムとは,光の作用により単一の化学種が分子量を変えることな く,化学結合の組換えにより,吸収スペクトルの異なる二つの異性体を可逆的 に生成する現象をいう0フォトクロミック反応を光記録に用いることは,古く 1956年にHirshbergにより最初に提案されている印0フォトクロミック反応は 可逆的な反応であるため,記録の消去,書き換えが可能となる。代表的なフォ トクロミック化合物としては,1978年にHemerにより熱安定性の高いフォトク ロミック化合物であることが報告されたフルギド誘導体6),記録の書きこみ・消 去の繰り返しが1万回以上できると報告されたジアリールエテン誘導体刀など がある0また,フォトンモード記録の魅力的な特徴は,同じ微小領域に2bit以 上の情報を記録する多重化である0フォトクロミック化合物の一つであるスビ ロピラン誘導体を利用した多重化の例も報告されている8)。 1977年に提案されたフォトケミカルホールバーニング(PHB)記録9)はさら に高度多重が可能である0有機色素(ゲスト)を高分子や無機ガラス等のホス トに分散させると,ゲストの周りがそれぞれ異なった状態になる。そのためゲ ストとホストとの相互作用も種々のエネルギー状態をとることになる。そこで 非常に幅の狭いレーザを照射してそれに対応する状態の分子のみを励起して別 の状態にすると,元の吸収スペクトルに鋭い吸収率の減少(ホール)が生じる。 照射するレーザーの波長を変えると同じ場所に多数のホールを形成できる。こ の現象を用いることにより1000以上の多重化が実現されている。 しかし,これらの記録方式における欠点は,2つ以上の波長の光源が必要とな ることである0特にPHB記録においては高性能な周波数変調機能を持った光源 が必要となる0また材料の安定性や耐久性なども重要な課題となっている。 もう一つの高密度化の方法として,画像など2次元の情報をホログラムとして 記録する方法である0このホログラフィツク記録は光の並列処理性を利用する ことにより,106bitを超える大量の情報を一度に記録・再生できるという利点 がある0そのため,大容量のデジタル情報を極めて高速に記録・再生できる次 世代光メディアとして,大きな期待が持たれている0また近年、レーザ光源, 空間変調器や撮像素子などの技術が飛躍的に進歩し,ホログラム記録技術が実 3 現性を帯びてきており研究・開発が活発になっている。またホログラムの大き な特徴である多重記録特性に関しても多くの研究が行われ,高密度化が期待さ れている。これらのホログラム記録材料の開発については,フォトリフラクテ イブ効果10)を利用したものとフォトクロミック化合物の光異性化反応を利用し たものが主流となっている。特にフォトクロミック系においては,アゾベンゼ ンのトランス・シスの光異性化を利用したものが盛んに研究されており,側鎖 にアゾベンゼン分子を持つポリマーによるホログラム記録がいくつか報告され ている11)′12)。しかし,これらのホログラムにおいては応答速度と記録保持時間 の問題がある。一般に,応答速度が速く書き込み時間が短くて済むものは記録 されたホログラムが消える時間も短く,逆に長期記録保持が可能なものは書き 込み時間が長いということが多い。これを改善するために材料の感光度を向上 させたり,二光子吸収などを利用してゲート機能を持たせることによる非破壊 読出しを可能にするなどの工夫も試みられている。 一方,近年アゾベンゼン分子を含んだポリマーにおいて表面レリーフグレーテ ィングの光形成がいくつか報告され13)注目を浴びている。これらの表面レリー フグレーティングはホログラムとしての利用も可能であり,熱的あるいは物性 的にも安定しているため長期記録に適している。 本研究で用いたウレタンウレア共重合体14)も分子構造中にアゾベンゼン色素 を含んでおり,光照射による表面形状の変化とトランス・シス光異性化を利用 した色素の配向という同様な物性を持っている。そしてこれらの現象は共にホ ログラム記録として利用でき,膜の表面と内部と異なる場所に記録できるため 記録密度の向上に適していると思われる。 また,Tbit/(in)2を超える記録密度を実現するためには,光の回折限界を超え た近接場を利用した記録技術などが必要となってくるが,近接場の解析や物質 の安定性など多くの問題を残しているため実用化にはまだ時間がかかると思わ れる。 4 1−2.研究の目的と概要 有機材料は,応答速度が速く,加工が容易であり,コストが安いという点か ら記録材料としては大変都合が良い。しかし,従来のように形状を変化させる ような記録方式では,記録密度に限界がある。そこで光の特性を最大限に生か した記録方式が今後の記録密度向上のためには必要となる。そのような光記録 にとって,アゾベンゼン色素を分子構造中に持つウレタンウレア共重合体薄膜 は大変有利な特性を備えている。まず膜の表面には安定した表面ホログラムを 記録することができ,膜の内部には応答速度が速く書き換えが可能な偏光ホロ グラムを記録することができる。この特徴の異なった2つのホログラムを同一 箇所に記録することが可能であるため,記録密度向上のための多重化だけでな く,非常におもしろい記録が可能となると思われる。そこで本研究では,この 材料の記録材料としての特性の評価と応用性を検討することを目的とする。 以下に本論文の構成と各章の概要を述べる。 第1章 序論として本研究の研究背景と目的を述べる。 第2章 光記録の基礎と今後の展望について記述する。 第3章 有機非線形材料の基礎と特徴に及びアゾベンゼン色素を含有したウ レタンウレア共重合体薄膜の光学的特性の評価について記述する。 第4章 ウレタンウレア共重合体薄膜の側鎖にはアゾベンゼン色素が添加さ れている。そのアゾベンゼン色素のTrans−Cis光異性化特性を活か し,光の偏光を記録するような記録材料として利用可能かを検討す る。更に,光異性化が可逆反応であることから,消去可能な記録材 5 料としての利用も検討する。 第5章 ウレタンウレア共重合体薄膜は光の照射により,膜表面の形状が変 化する。この形状変化を光記録として利用する方法を検討する。ま た,この形状変化の照射エネルギー密度依存性を調べ,ホログラム メモリとしての利用を試みる。 第6章 第4章で述べた光異性化を利用した偏光特性と第5章で述べた形状 変化を利用した表面レリーフホログラムと組み合わせ,同一箇所に 異なる情報を持ったホログラムを記録することを試みた。 第7章 結論として本研究の主要な成果を総括として述べる。 6 第1章参考文献 T・H・Mainman,Nature,187,493(1960) S・M・MansfieldandG・S・Kino,Appl・Phys・Lett・,57,2615(1990) 日経エレクトロニクス,2000・6・19,No・772,57(2000) 4. 長村 利彦:OplusE,No.201,93(1996) YHirshberg,J・Am・Chem.Soc.,78,2304(1956) 6. H・G・Heller,Chem.Ind.,18,193(1978) 7. F・Takezono,T・Harada,YShimizu,M・Ohara,andM・Irie,Jpn.J. Appl・Phys・,Vbl・32,Partl,3987(1993) 8. 橋田 卓‥次世代「光反応材料」シンポジウム予稿集,435(1993) 9. G・Castro,D・Haarer,R・M・Macfarlane,and H・P・Tbmmsdorf, U・S・Patent,No.4101976(1978) 10. F・Mok,Opt.Lett.,18,915(1993) 11. J・Eickmans,T・Bieringer,S・Kostromine,H.Berneth and R・Thoma,Jpn・J・Appl.Phys.,38,1835(1999) 12. L・Andruzzi,A・Altommare,F・Ciardelli,R.Solaro,S.Hvilsted andP・S・Ramanujam,Macormolecules,32,448(1999) 13. M・Tsuchimori,0・Watanabe,S・Ogata,A・Okada,Jpn・J.Appl. Phy5.,35,444(1996) 7 第2章 光記録 2−1.緒言 現在ではコンピュータの高速,高性能化が進み,大量のデータを瞬時に処理 することが可能となった0これに伴い大容量の情報記録媒体が必要となり,半 導体メモリーや磁気記憶媒体が多用されるようになった。 ところで情報記録媒体と称される情報格納容器は多種多様に存在し,身近な ものでは本が代表的な情報格納容器であり,コンパクトディスク(CD)やレ ーザディスク(LD),フロッピーディスク(FD)なども同様である。 この中でもコンピュータで制御するような情報記録媒体は (1)情報の再生あるいは記録が高速であること(アクセス速度) (2)大容量であること (3)高い信頼性を有すること (4)長期保存が可能であること (5)安価であること (6)安定供給が可能なこと などの要件を具備する必要がある0そこで(1),(2)の要件に対して非常に有利 な光により記録する光ディスクが大変注目されている。光記録は記録材料とし て有機材料を用いることにより,コストを下げることが可能であり,更に(3)や (4)の要件を満たすように新材料の開発,最適システムの設計などが進められて いる。 ここでは光記録の大まかな分類と幾つかの代表的な記録方法のメカニズムに ついて述べる0そして,さらに記録密度を向上するため,今後の発展が期待さ れる技術について述べる。 8 2−2.光記録の機能と分類 光ディスクは大きく分けると再生専用型と記録可能型の二つに分けられる。再 生専用型はあらかじめディスクに形状の変化(ピット)を物理的に作っておき, それを光により読み出すというもので,CDやLDがこれにあたる。また,これ らは大量複製が容易であるため安価な材料が用いられる。一方,記録可能型は 光メモリーディスクとも呼ばれ,更に追記型と消去可能型の二つに分類される。 追記型は情報の消去はできないが記録領域に未記録部分が存在する場合はそこ に追加して書込むことができる0これに対して消去可能型は広く普及している 磁気記録媒体と同様に,書込まれた情報を消去しそこに再び書込むことが可能 である0またオーバライトと言って消去無しに重ね書きによって書き換えを行 うものもある。 記録材料の観点からの分類では,有機系材料と無機系材料に大別できる。無機 系材料では恥系合金などが多く使われ,有機系では有機色素と高分子が主に使 用される。 光メモリーディスクを記録原理の相違から分類すると,光を熱に変換して熱反 応あるいは加熱状態で記録層の物性を変化させるヒートモードと,光反応によ り直接記録層の物性を変化させて書込み・読出しを行うフォトンモードに分け られる0ヒートモードの記録は,光の集光性のみを利用しているため光ディス クの記録密度は,主としてレーザの波長と対物レンズの開口数で決まる。つま り,原理的には短波長のレーザと大きな開口数を用いれば記録密度が上がる。 この両方の改善により大容量記録を実現したのがDVDである。一方,フォトン モード記録では光の波長,偏光性,位相などの特性がそのまま利用できるため, 飛躍的な高密度化とさらなる高速化が期待できる0このフォトンモードには, 光応答性のよい有機化合物が有力であり,特に可視光や外部電場などにより超 高速かつ容易にエネルギー状態を変化できる几電子系をもつ化合物が注目され ている。また有機化合物は化学構造あるいは置換基により記録特性の制御が可 9 能であると同時に,他の材料にはない新しい機能を付加することもできる。更 に細かい分類を図2−1に示す。 形状変化 ・穴開け型 ・基板変形型 ・発泡型 ・バブル型 ・モスアイ型 ヒートモード 物理的変化 ・相変化型 ・反射変化型 形状変化 ヒートモード 物理的変化 フォトンモード −物理的変化 ・相変化型 ・光磁気型 ・吸収変化型 ・吸収変化型 ・PHB型 図2−1光ディスクの記録原理による分類 また図2−2に示すように,記録層の変化については,記録層の形状を変化さ せてしまうものと,形状は変化せずに記録層の性質,例えば吸収や屈折率,反 射率,磁化の方向などを変化させるものがある。前者はヒートモードに多く, 穴あけ型やバブル型などがある。後者は相変化型や吸収変化型などであり,光 異性化を利用したもの,アモルファス⇔結晶変化を利用したもの,分極反転, 磁極反転を利用したものなどがある。これらの多くは書き換え可能なものが多 い。 10 記録膜 (a)穴開け型 ナ二三 兜洞 (C)相変化型 図2−2 記録層の変化による分類 2−3.レンズによる集光 光記録の記録密度は,一般的にレーザ光源の波長とレンズの性能によって決 まってくる。図2−3に示すように,半径a,焦点距離fのレンズに平行ビーム を入射し集光する場合を考える。この時,焦点面での収束光の電界はベッセル 関数を含み,集光スポットの半径方向の強度分布はその絶対値の2乗で与えら れるため波状となる。その最も内側の部分をエアリディスクと呼び,その半径 11 は1次のベッセル関数の第一零点により, r;0.61Af (2−1) a で与えられる。ここで半径と焦点距離の比a/fは,ニューメリカルアバーチヤ (NA)と呼ばれ, NA=言望SinO (2−2) で近似される。この式はレンズ開口により実現し得る最小の集光径が存在する ことを意味している。また式2−1により,エアリディスク半径は光の波長に比 例していることがわかる。そのため,短波長の光の方が集光径を小さくするこ とができる。つまり単純に考えると,光源の波長を半分にするだけで記録密度 は4倍になるということになる。それから,光源の出力は記録速度などにも影 響するため,光源の開発は今後も必要不可欠なものとなっている。またレンズ に関しては,ソリッドイマージョンレンズ(SIL)1)など特別な形状により微小 焦点が実現されている。 スクリーン 図2−3 レンズによる集光 12 2−4.高密度光記録 前節で述べたように,レンズ系で光を絞れる限界(Ⅰ解像限界)は波長と対物 レンズの開口数(NA)で決まる。そこで,ある波長のレーザによるヒートモー ド記録でさらに高密度化するために,さまざまな工夫が考案されている。例え ば,ランド・グループ記録2)など記録方式の改良やSILl)などによるNAの増加 といったものが挙げられる。この他にも,解像限界を超えた超解像を実現する ために記録層の上にマスクとなる層3)を配置したり,近接場4)を用いたりするこ とにより高密度化を実現する方法が検討されている。 これに対してフォトンモードの記録では,上記に挙げたような方法による高 密度化だけでなく,光の波長,偏光,位相といった特性を利用できるため更な る高密度化が期待される0例えば,同じ場所に2ビット以上記録する多重化や 多層膜を利用した3次元記録5)・8),ホログラムメモリなど飛躍的な記録密度向上 の可能性を持ったものが検討されている0これらのフォトンモード記録を支え る記録材料の物性としてフォトクロミック反応,フォトケミカルホールバーニ ング(PHB),フォトリフラクテイブ効果などがある。そこで,これらの物性の メカニズムとそれを応用した記録方式に関して以下に述べる。 2−4−1.フォトケミカルホールバーニン グ(PHB 光化学的に活性な色素を高分子や無機ガラスなどの固体媒質中に分散させて 極低温に冷却すると,種々の温度ゆらぎが抑えられるため,色素分子個々の吸 収スペクトルの線幅は非常に狭くなる0しかし,実際の固体媒質中では,それ ぞれの分子周囲の環境が微妙に異なるため,各々の共鳴周波数に分布を生じ, 全体としては図2−4に示すように不均一に広がった幅の広い吸収帯となる。そ こにレーザー光のような線幅の狭い光を照射し,ある周波数(波長)に共鳴す る分子のみを選択的に励起して光反応を起こせば,図2−5に示すように吸収ス 13 ベクトル中にくぼみ(ホール)を形成することができる。この現象をPHBと呼 ぶ。 吸光度 周波数 図2−4 固体中に分散された色素の吸収スペクトル 吸光度 周波数 図2−5 PHBの原理 このPHBを光メモリに応用すると,特定周波数におけるホールの有無により 信号を記録することができる。この時の多重度は全体のスペクトル幅と均一幅 との比で決まってくる。用いられる光反応は,色素分子中の水素原子の結合状 態9),長寿命の準安定励起状態生成,光解離10)や光イオン化11)などである。 14 2−3−2.フォトクロミック反応 図2−6に示すように光の作用により単一の化学種が分子量を変えることなく, 化学結合の組換えにより吸収スペクトルの異なる二つの異性体A,Bを可逆的 に生ずる現象をフォトクロミズムという。B→Aの反応は熱(A)によっても起こ りうる。このフォトクロミック反応は古くから光記録への応用が提案されてお り,それぞれの状態は屈折率や吸収の変化として読出される。 このフォトクロミック反応が記録に有利な点は,可逆的な反応であるため消 去可能型の記録ができるという点である。つまりは,光の作用により生じた物 質の変化を熱あるいは光の作用により再び元の状態に戻すことによって,一度 書き込んだ情報を消去することが可能である。また,この反応は有機材料特有 のものであるため,コストが比較的かからないことや記録膜の形成が容易であ るといった利点も持っている。 力γ1 力γ2,A 図2−6 フォトクロミック反応 このようなフォトクロミック反応は分子構造の僅かな変化により起こる。こ れについては後に示す。光反応によって僅かに構造が変化した分子Bは,図2 −7に示すようにエネルギー的に準安定な状態であり,原系と低いエネルギー障 壁で隔てられている。そのためAE以上のエネルギーを得られればより安定な状 態Aに戻ることができる。このAEの大きさはB→Aの変化の容易さに関係して 15 おり,AEが小さい場合B→Aの変換は熱によっても起こるが,AEが大きい場 合は光の照射によってのみ起こる。また,AとBの安定性の差(AH)が小さく, AEも小さい場合にはA−>Bの変化が熱的に起こるサーモクロミズムを示すよう な物質もある。 エネルギー 図2−7 フォトクロミズムの機構 代表的なフォトクロミック反応としては、Cis−Tranns光異性化や分子内陽子 移動、光開環・閉環反応、一光子光イオン化などがある。 Cis−Tranns光異性化を起こすことで知られているスチルベンやアゾベンゼン は、>C=C<や−N=N−のような二重結合を分子構造中に持っている。これ らの分子は図2−8に示すように光励起によりCis体とTrans体の間で効率のよ い光異性化を起こす。光異性化は数十ピコ秒から数百ピコ秒の時間スケールで 起こり、その速度は溶媒の粘度の増大と共に遅くなる。 16 H H − 旨 く 一一 如月β−スチルベン dふスチルベン N=留 /二 旨 十ご十 く 白眉月β−アゾベンゼン C由一アゾベンゼン 図2−8 Cis−Tranns光異性化をおこす代表的な分子 このCis−Tranns異性体は吸収波長や屈折率など光学的性質が異なり,異なる 波長の光の吸収により可逆的に変化する。 フォトクロミック材料を光記録媒体として用いる場合,次のような問題点が解 決されなければならない。 (1)両異性体の保存安定性 (2)繰り返し耐久性 (3)半導体レーザー感受性 (4)非破壊読出し機能 (5)高感度性 (6)速い応答速度 (7)高分子媒体との相溶性 17 特に(1),(2),(瑚ま記録の保存性,信頼性に大きく影響する。たとえばA⇔Bの 変化を繰り返すうちに,材料がA,B以外の物質に変化したのでは記録性能が 落ちてしまう。一般にAEがある程度大きくAHの小さい材料のほうが熱的安定 性や耐久性が高い。そのような材料として図2−9のようなジアリールエテン誘 導体などが開発されている12)。 図2−9 ジアリールエテンのフォトクロミズム 18 2−3−3. フォトリフラクテイブ効果 フォトリフラクデイブ効果とは,光強度の空間分布により,1次の電気光学効 果(Pockels e鮎ct)を介して局所的に媒質の屈折率が変化する現象である。 この効果は,1966年にAshkinらによりLiNbO3およびLiTaO3結晶中で発見さ れ13),それ以来多くの電気光学結晶などにおいてフォトリフラクテイブ効果は 観測されている。 フォトリフラクテイブ効果を記述するモデルとして、バンド輸送モデルが有 名である。このモデルは,1979年にKukhtarevらにより提唱されたものであ る14)。このモデルは主に無機結晶におけるものであるが,有機媒質におけるフ ォトリフラクテイブ効果にも類似の現象が見られる。 これらのフォトリフラクテイブ材料は,比較的低い光強度レベルでの位相共 役波発生や実時間ホログラフィーが可能となる。そのため,このフォトリフラ クテイブ効果はレーザ計測,位相共役鏡15),ホログラフィツクメモリ16)などへ の応用が期待されている。 特にホログラフィツクメモリは角度による多重化川も可能であるため,従来 の記録方式に比べて飛躍的な高密度化が期待されている。 (D フォトリフラクテイブ効果の原理 フォトリフラクテイブ効果とは,光強度の空間分布によって局所的に屈折率 が変化する現象である。LiNb03やBaTi03などの電気光学結晶において観測さ れた現象であるが,現在では有機材料などでも同様な現象が観測されている。 この現象は基本的には図2−に示すような過程を経て,媒質中に屈折率の変化が 起こる。このときの物質内部の変化を説明するのに図2−11のようなバンド輸 送モデル14)を用いる。 19 光強度 Ⅹ 電荷密度 Ⅹ 空間電界 屈折率変化 図2−10フォトリフラクテイブ屈折率格子形成 (1)2つのコヒーレントな光の干渉により,媒質中に周期的な光強度分布Ⅰ(Ⅹ)が 生じる。 (2)光のエネルギーを吸収してドナー不純物がイオン化され,電子が伝導帯へ励 20 起される。この荷電キャリアが拡散電界(キャリア密度の空間分布から生じる 電界)およびドリフト電界(外部印加電界)により移動する。そして,電子は光 による励起が起こらないような場所で再び捕獲されるため,光強度に応じた 空間電荷分布p(Ⅹ)が形成される。 (3)この空間電荷分布により,Poisson方程式に従った内部空間電界ESe(Ⅹ)が生 じる。 (4)1次の電気光学効果(Pockels効果)を介した屈折率の変化Anは内部空間電界 に比例する。 説明では励起されるキャリアを電子としたが,正孔であっても同様な効果が生 じる。また図2−11で説明するバンド輸送モデルは,主に無機結晶におけるモ デルであるが,本質的には有機媒質におけるフォトリフラクテイブ効果でも類 似の現象が起きている。 圭 鋤 批 ・ 草 書 ム γ − − − 字 牢 抑 図2−11バンド輸送モデル 21 伝導帯 ドナー アクセブタ 価電子帯 バンド輸送モデルでは,フォトリフラクテイブ媒質はある特定の不純物あるい は不均質性をもつものと仮定する。図2−11に示すようにすべてのドナー不純 物はバンドギャップの中間付近に同じエネルギーレベルで存在する単一のもの とする。このドナー不純物は光を吸収することでイオン化され,電子が伝導帯 に生成されてドナー不純物は正の電荷をもつ。このようなイオン化したドナー 不純物は電子を捕獲することができる。つまり明るい領域では,荷電キャリア が光子の吸収により生成された後,拡散により移動するため,正に帯電したイ オン化されたドナー不純物だけが残される。一方暗い領域では光による励起が ないため,荷電キャリアが捕獲され中性のドナー不純物と負に帯電したアクセ ブタ不純物が残る。これが光強度に応じた電荷分布が生じる理由である。つま り,フォトリフラクテイブ効果では媒質が電気光学結晶であるだけでなく,荷 電キャリアの生成と輸送が重要な要素であるといえる。このキャリアの輸送は 拡散電流がドリフト電流に釣り合うまで続く。ここで生じた空間電界がPockels 効果を介して屈折率の変化を誘起する。ここでⅩ軸方向に電界(ドリフト電界) を印加することにより、電荷の分布をずらすことが可能となる。これにより空 間電界と光強度パターンの空間的なずれを修正することが可能となり、光波混 合などの変換効率などを変化させることができる。これもフォトリフラクテイ ブ効果の大きな特徴と言える。 ② 4光波混合と実時間ホログラム 4つのコヒーレントな光がフォトリフラクテイブ媒質内で相互作用すること により,媒質内に6つの格子を形成する。図2−12においてビーム対仏1,裁), (在,A。)により形成される屈折率は透過軋ビーム対仏1,A3),(裁,丸)により 形成される屈折率は反射型となる。この他にビーム対(Al,A。),(A2,丸)により 形成される屈折率があり,一般には6つの格子が形成される。媒質の光学特性 やビーム間のコヒーレンス,格子の方位などにより,この中のいくつかの屈折 22 率格子が支配的になる。このような4つの光が相互作用する現象を4光波混合 といい,ホログラムメモリーの原理である。 (ビーム対(Al,A2),(在,A4)により形成) 図2−12(a)通過型屈折率格子による4光波混合 (ビーム対(Al,A。),(A2,丸)により形成) 図2−12(b)反射型屈折率格子による4光波混合 特に4つすべての周波数が等しい叫=叫=叫=叫の場合を縮退4光波混合と呼 ぶ。4光波混合の原理を利用することにより,図2−13のような位相共役光を 発生させることができる。位相共役鏡は入射電磁波の時間反転波を発生させる。 この時間反転した波を位相共役波と呼ぶ。図2−12(a)のように,平面波が入射 され散乱媒質により散乱された波が位相共役鏡で反射されると,図2−12(b)に 示すように,反射された位相共役波は散乱媒質を通過した後で入射されたビー ムの経路をたどり平面波が復元される。このように位相共役光により,物体の 散乱光を再現するホログラフィーが可能となる。ここでは簡単のため2光波の みがコヒーレントな4光波混合によるホログラフィーを取り扱う。 23 散乱媒質 ∴一・二・二〒 ・・・廿こ∴「 図2−13 位相共役光 これらの記録メカニズムを利用した高密度記録をまとめると表2−1のように なる0それぞれの記録方式には特徴があり、有利な点や欠点があるため用途に 合わせた使い分けが必要である0またPHBはホログラフィツク記録と組み合わ せることによりより高密度な記録が可能となる。 表2−1高密度記録の記録方式による分類 PH B 記 録 フォトクロミズム記録 PH B フォトクロミック反応 材料 有機 有機 有機 ・ 無機 記 録速度 ○ ◎ △( ◎) 多重 化 波長 多重 波長 多重 ・ 偏光多重 角度 多重 記録 密度 ◎ △ ○ 書 換え ( 不可 ) 可 可 問題 点 光源 ・ 温度 光源 ・ 安定性 ・ 耐久性 周辺技術 記録原 理 24 ホログラフィツク記録 フォトリ色素配 プラクテイ 向 ブ効果 第2章参考文献 S.M.Mans丘eldandG.S.Kino,Appl.Phys.Lett.,57,2615(1990) 2. 松井文雄:「新・光機能性高分子の応用」,150(1988) M.Ono,K.%suda,A.Fukumoto and M.Kaneko,SPIE Proc., Vbl.2514,20(1995) 4. C.GirardandD.Courjon,Phys.Rev.,B42,9340(1990) 5. D.A.Parthenopoulos and R.M.Rentzepis,Science, 245, 843(1989) 6. J.H.StricklerandW.W.Webb,Opt.Lett.,16(22),1780(1991) A.S.Dvornikov,J.Malkin and R.M.Rentzepis,J.Phys.Chem., 98(27),6746(1994) M.M.Wang, S.C.Esener, F.B.McCormik, Ⅰ.Gokgor, A.S.DvornikovandR.M.Rentzepis,Opt.Lett.,22,558(1997) W.Breinletal.,Phys.Rev.,B34,7271(1986) 10. Hochstrasser,etal.,J.Am.Chem.Soc.,97,4760(1975) 11. R.M.Macfarlane,etal.,Phys.Rev.Lett.,42,788(1979) 12. M.IrieandM.Mohri,J.Org.Chem.,53,803(1988) 13. A.Ashkin,G.D.Boyd,J.M.Dziedzic,R.G.Smith,A.A.Ballman, J.J.LevinsteinandK.Nassau,Appl.Phys.Lett.,9,72(1966) 25 14. N.ⅤⅩukhtarev,VB.Markov,S.G.Odulov,M.S.Soskin and VL.Vinetskii,Ferroelectrics,22,949(1979) 15. B.YZel−dovich,ⅤⅠ.Popovichev,ⅤVRagul.skiiandF.S.Faizullovi Sov.Phys.JETPLett.,15,109(1972) 16. P.J.vanHeerden,Appl.Opt.,2,393(1963) 17. F.Mok,Opt.Lett.,18,915(1993) 26 第3章 有機光学材料 3−1.緒言 材料の光機能は,光すなわちフォトンと材料との関わりであり,材料の電子 状態,電子の励起状態に関係する。また,材料の電子機能は,電子の移動・伝 導など,電子の振る舞いに起因する。すなわち,光・電子機能はすべて何らか の形で電子の振る舞いに起因している。 機能は材料への何らかの刺激に対する何らかの応答であるといえる。このよう に考えると,材料に加えられる刺激としての物理量を入力とし,変化する物性 を出力として整理すると種々の入出力関係が得られる。 有機材料に光を照射すると,すなわち光を入力刺激として加えると,有機材 料はその光学的・電気的・化学的物性変化,あるいは形状変化を生じる。逆に, 電気・電子線・熱・化学物質などの刺激によって,物質の光学的物性が変化す る場合もある。このような現象の代表的なものが非線形光学現象である。 ここでは有機光学材料の特徴とその光学的性質について述べた後で,その光 学的性質の測定方法を含め,実際に有機光学材料の一つであるアゾベンゼン分 子を含有したウレタンウレア共重合体の特徴と光学的性質について記述する。 3−2.非線形光学現象 非線形光学とは強い光と物質との相互作用に基づく様々な現象を対象とする もので、レーザの登場以来発展した分野である。非線形効果とは本来、外力に 対する物質の応答が比例関係から外れることを意味するが、それが基となって 具体的に現れる現象は極めて多様であり、光波長変換素子、光変調素子1)、光ス イッチング素子、波長フィルタ、光メモリなど光情報処理素子の基礎となるも のである。またある物質の示す非線形光学現象を通じてその物質の基本的物性 27 を探求する研究も広く発展しており、制御や測定などを含む広い意味の光エレ クトロニクスへの応用に寄与している。 3−2−1.非線形電気分極2) 物質に外部から電界が作用すると,物質の内部で電荷の移動が起こり双極子が 生じる。この現象を分極という。一般に分極Pの大きさは電界Eの強さに比例 するため,次式のように表される。 (3−1) P=:亡。XE ここでC。は真空の誘電率,Xは電気感受率である。 物質に光が照射されたときも,光電界Eに対する物質の応答として分極Pが 生じる。レーザ光のような強い光電界をもつ光が照射された場合,PとEの関 係は非線形となる。このとき式(3−1)は非線形項を含めた式(3−2)で表される。 P=C。k(1)E+X(2)EE+X(3)EEE+・・・) (3−2) X(1)は線形電気感受率,X(2),X(3)は2次,3次の非線形電気感受率である。一般 にX(n)(n≧2)をn次の非線形電気感受率,X(n)(n≧2)を含む項をn次の非線形分極 げ(n))と呼ぶ。式(3−2)の第2項,第3項の電界EE,EEEは同じ記号Eの積 で表記されているが,それぞれ異なる周波数をもつ光波の電界,あるいは外部 印加電界であってもよい。また,反転操作を行ったとき物体全体の空間位置が はじめの状態と変わらないような構造(中心対称構造)をもつ媒質では偶数次の 分極が生じない。 実際に照射される光の電界は周波数成分を含んでいるため,非線形現象は周 波数結合過程として表すことができる。結合の次数や入射光の周波数によって 28 様々な周波数成分をもつ分極が生じる0そのため生じる現象も様々である。代 表的なものとしては第2高調波発生(SHG)3),第3高調波発生(THG),縮退 四光波混合などがある。 3−2−2.複屈折 分極が方向により異なるような媒質では,光学的性質が方向に依存する。特に 媒質中の屈折率は光の伝搬方向よって大きく変わる場合がある。そのため光の 伝搬方向による屈折率の大きさを屈折率楕円体で表す。これは Ⅹ2 Z2 (3−3) 才+告十才=1 のような楕円体の式で表現される。 表3−1屈折率による媒質,結晶の分類 媒 質 の種 類 屈折率 結晶の種類 等方性 媒 質 n x=n y=n z 立方晶系結晶 三方晶系結晶 一 軸性 n o=n x=n y,n e=n z 正方晶系結晶 六方晶系結晶 異 方性 媒質 斜方晶系結晶 二軸性 n x ≠n y ≠n z 単斜晶系結晶 三斜晶系結晶 29 媒質は屈折率の種類により表3−1のように3つに分けられる。立方晶系結晶 はⅩ,y,Zすべての方向の屈折率が等しい媒質である。このように3つの主屈 折率が等しい(nx=ny=nJ場合は光学的に等方性媒質としてふるまう。主屈折率 のうち2つの値が等しい(nx=ny)場合,屈折率楕円体は図3−1のような回転楕 円体となる。この回転軸(Z軸)を光軸といい,このような屈折率をもつ結晶を一 軸結晶と呼ぶ。更に3つすべての主屈折率が異なる場合を二軸結晶と呼ぶ。 S:光波の伝搬方向 n。:常光線の屈折率 n。(印:異常光線の屈折率 図3−1一軸結晶の屈折率楕円体 図3−1に示したような一軸結晶において,S方向に伝搬する光の振動の方向 はSに垂直な面(斜線部)内に存在する。このとき光軸とSを含む面に対して振動 の方向が垂直な成分と平行な成分に分けると,前者のような波は光の伝搬方向 によらず屈折率が一定(n。)であるため常光線と呼ばれ,後者のような波は伝搬方 向によって屈折率が変化する(ne(0))ため異常光線と呼ばれる。また同じ一軸結晶 でもnxとnzの大きさにより,正結晶匝Ⅹ<nzのとき)と負結晶匝Ⅹ>nzのとき)に分 けられ,ne(0)はこの2つの屈折率の間,つまりはnxとnzの間の値となる。こ 30 れを分かりやすく図3−2のような法線屈折率面で表す。図3−2において,ne(0) のX,Z座標成分は (3−4) Ⅹ=ne(β)cosβ (3−5) Z2 である0これらを楕円の轄十重=1に代入すると cos2β sin2β nこ㈲≡ (3−6) n≡ n≡ となり,これは異常光線の屈折率の0依存性を表す。常光線の屈折率は0に依存 せずn。で一定である。 仲) (a) 図3−2 一軸結晶における法線屈折率面 (a)正結晶(n。<ne),仲)負結晶(n。>ne) 31 また物質に電界を印加することにより,分子が配向され分極率や屈折率,吸 収など光学的性質に変化が生じる。この現象を電気光学効果という。分極率の 変化を利用したものには,電界配向膜4)による第2高調波発生3)や電気信号を光 信号に変換する光変調器などがある。そして,屈折率や吸収の変化を利用した ものにはフォトリフラクテイブ効果などがあり,光記録に利用できる現象であ る。 3−3.有機光学材料の基本的性質 3−3−1.有機材料の利点と欠点 表3−2に示すように有機材料は無機材料に対して優れた点をいくつか持って いる。無機材料の非線形性の起源は格子振動であるため10 ̄12secより速くはな らない0それに対して有機材料の非線形性は非局在几電子が寄与しているため, 応答速度は有機材料のほうが速く,10 ̄13sec以下の応答速度が期待される。一 般に有機材料は応答速度が速くそのうえ複屈折が大きいという特徴をもってい る。他にも有機材料は無機材料に比べて破壊しきい値が高い,加工が容易など といった利点をもっている。更に,有機材料は分子構造の修飾が可能であるた め,幾つもの機能を持つ高性能な材料を合成することができる。 一方,有機材料には大きな結晶の育成が困難であるという欠点がある。よっ て厚い膜を作製することが難しく,3次元記録や体積ホログラムには不利な点も 持っている。しかし,これらの問題点は薄膜を多層に重ねることにより克服す ることができる。最も大きな問題は物理的・化学的安定性が無いことである。 そのため,非破壊読出しや繰り返しの書き換えによる耐久性などが問題となっ ている。そこで,このような問題点を克服するような材料の開発がキーポイン トになっている。 32 表3−2 有機材料の特徴 利点 欠点 ● 非線形光学定数が大 きい ● 応答速度 が速 い ● 大 きな結晶の育成が困難 ● 高 い破壊 しきい値 を持つ ● 物理的 ・化学的安定性に欠ける ● 加工が容易であ る ● 分子構造の修飾 が可能 近年,ホログラム記録材料として注目されている色素添加高分子は,透明非 晶質ホスト中に有機非線形分子(色素)を添加して薄膜を作成したものであり, 図3−3に示すようにゲスト・ホスト型5),側鎖型4),主鎖型6),架橋型などに分 類される。ゲスト・ホスト型は成膜法が非常に簡単であり,他のタイプに比べ て低価格である特長を持つ。しかし,色素を高濃度で添加すると凝集が起こる ことや色素が表面から昇華する傾向のあること,配向緩和が大きいこと,とい った一般的な欠点も持っている。一方,側鎖型や主鎖型,架橋型では,色素が 高分子の分子構造中に化学的に結合しているため,高濃度添加が可能でゲス ト・ホスト型に比べて配向緩和は小さい。その反面,材料の合成が困難であっ たりコストが高いといった欠点も持っている。また色素の配向緩和を抑制する ために,ガラス転移温度Tgの高い高分子を用いる刀といった工夫も行われてい る。 有機材料のもう一つの特徴としては,一般に可視域から近赤外領域に吸収が 存在するということである。これは,色素の多くはベンゼン環をはじめとする几 電子共役系をその分子構造中に持つという事に起因している。そのため,これ 33 らの材料の吸収領域を考慮に入れた光源波長の選択や使用するレーザの波長を 考慮に入れた材料の探索が必要となってくる。また,材料の吸収波長帯と几電子 共役鎖の長さには密接な関係があり,共役鎖が長くなるほど吸収波長は長くな る傾向にある。そこで,損失を避けるため使用波長での吸収を小さくしたり, 効率をあげるために使用波長での吸収を大きくしたりといった,使用波長に合 わせた分子設計なども行われている。このように分子構造を変えることにより, 物質の光学的性質を自由に変えることができるのも有機材料の大きな特長であ る。 巾)結合型(側鎖型) (a)ドープ型(ゲスト・ホスト型) (C)結合型(主鎖型) (の 架橋型 図3−3 色素添加高分子の構造 34 3−4.アゾベンゼン分子を含有したウレタンウレア共重合体薄膜 DRl(Disperse Redl)を代表とするアゾ系色素は大きな非線形性を持つ 材料として良く知られている。このような材料は分子レベルでは大きな非線形 性を示すが,結晶では分子の配向がランダムになるため大きな非線形性を示さ なくなる材料が多い。そこで色素を高分子中に添加し薄膜を作成するという方 法が行われるようになった。この色素添加型高分子薄膜には,ゲスト・ホスト 型5)などのドープ型と側鎖型4),主鎖型6),架橋型などの結合型に分類される。 図3−4に示すウレタンウレア共重合体8)は結合型に分類される。 H十N 廿。 ÷ ′で かt N02 図3−4 ウレタンウレア共重合体の構造式 3−4−1.薄膜の作成 ウレタンウレア高分子薄膜の生成方法は,まずウレタンウレア共重合体を溶媒 ピリジンに対して6.5wt%の割合で混合し完全に溶解させる。ウレタンウレア共 重合体は水分を多く含んでいると質の悪い膜となるという理由から,完全に溶 35 解した後,水分を蒸発させるために一度加熱する。それから室温になるまで自 然冷却し,スピンコート法(1000叩mlOs)でガラス基板上に薄膜を作成した。乾 燥条件により膜の特性が変わるため,800Cで20時間の条件で真空乾燥を行っ た。スピンコートの回転数と膜厚の関係は図3−5に示す。 l ︵∈呈ssujU苫El竜 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 SPinspeed(rpm) 図3−5 スピンコート回転数と膜厚の関係 3−4−2.屈折率および吸光度の測定 作成した薄膜の吸光度を分光光度計で測定した。その結果を図3−6に示す。 吸収ピーク波長は480mm付近であり,赤外での吸収はほとんど無いという特徴 が見られる。そのため本研究では,光源の波長としてAr+レーザの488mmと 514.5nmおよびLD−pumPedNd:YAGSHGレーザの532nmを使用した。 36 2 ︵・n・エUU亡ぶhOSき1 0 400 600 800 1000 Wavelength(nm) 図3−6 ウレタンウレア高分子薄膜の吸収スペクトル 次に図3−7に示すm−lhe法9),10)の光学系を用いて屈折率の測定を行った。 図3−7 m−血e測定光学系 37 この方法はプリズムカップリングによりレーザ光を薄膜導波路に入射し,出 射光スポットが最も明るくなる入射角を測定し,その入射角度から薄膜の屈折 率を算出する方法である0ここで台形プリズムの角度を450,屈折率をnp,空 気中の屈折率をntとした場合,入射角Oiは ∂ =Sin ̄1 1 生sin (3−7) nt で与えられる。この式から各モードの等価屈折率(N。=β鶴)は (3−8) Nm=三一=n,ntSin 若=npntSinIsin−1(EsinOi)・450) となる。そしてこの各モードの等価屈折率と次数を,膜厚Wとフイルムの屈折 率ngとの関係式 (N)() (N) (m=0,1,2,…) (3−9) に代入することにより膜厚およびフイルムの屈折率を計算することができる。 また図3−8に示すように,入射光の偏光が入射面に対して垂直なTEモードと 平行なTMモードで各々の屈折率を測定した。 TEモード TMモード \ シ ㌻\ 、 図3−8 TEモードとTMモード 38 ● 68 l ∠U 6. 1 4 .6 l ∠U 2 1 HUヨUA叫lUd七山出 ● 1.6 800 900 1000 1100 1200 1300 Wavelength0m) 図3−9 ウレタンウレア共重合体薄膜の屈折率波長分散曲線 実際に測定に用いたレーザ光源波長はOPOの830nmとYLFの1047nmであ り,これにより測定された屈折率をSellmeirの分散式 1 打=Co昔 (3−10) に代入することにより,図3−9に示すような屈折率波長分散曲線が得られる。 そして,この曲線からNd‥YAGレーザの波長1064nmにおける屈折率が得られ, この値は後にd定数の算出のために使用される。 ただし,この屈折率の波長分散曲線は吸収の少ない非共鳴領域における理論 曲線であるため,吸収の多い共鳴領域では利用することができない。そのためd 定数の算出に必要な,波長1064nmのNd:YAGレーザの第2高調波の波長 532mmにおける屈折率を得ることができない。そこで,次に分光エリプソメー ター11)を用いて屈折率の測定を行った。その結果を図3−10に示す。 39 HOp占OA叫lUdd小出 400 600 800 1000 Wavelength(nm) 図3−10 ウレタンウレア高分子薄膜の屈折率分散曲線 3−4−3・電界配向膜(高温ポーリング⊥ ガラス状態 ゴム状態 ゴム状態 ランダム配向 回転自由 配向 ガラス状態 配向 図3−11高温ポーリングの手順 図3−11は高分子中に色素分子の配向を生じさせる手順である。最初、ガラ ス状態の高分子中では、色素分子はランダムな配向をしている。この高分子を 40 ガラス転移温度(Tg)程度まで温度を上げると、ゴム状態となった高分子中で 分子は配向を変えるべく動きやすい状態となる0この状態で電界を印加すると 熱平衡状態のもとで分子配向される0その後、電界を印加したままTg以下に温 度を下げてやれば、ガラス状態の中で色素の配向が固定される。この方法によ り中心対称性を持った結晶でも,確実に非中心対称構造にすることができるた め,二次非線形光学特性を発現させることが可能となる。 実際に電界を印加する場合は,図3−12に示すようなコロナポーリング装置 12)を用いる0このポーリングは,コロナ放電により生じた空気のイオンが試料の 表面に堆積し,その電荷による電界で分子が配向される仕組みである。 ウレタンウレア共重合体のTgは14lOCと報告されているため,試料をオーブ ン中で1500Cまで加熱し,10kVの直流電界を10分間印加しコロナポーリング を行った0その後,電界を印加したまま試料の温度を室温まで下げてから電界 を除去する。 図3−12 針一平板電極のコロナポーリング装置 41 3−4−4・メ二カーフリンジ法(S_鱒Gの測定上 harmonicwave analyzer Sample glasssubstrate S:S・pOlarization POlarizer P:P・pOlarization fundamentalwave 図3−13 メーカーフリンジ光学系 ポーリング処理を施した高分子薄膜の第2高調波強度を測定することによ り,そのd定数を算出することができる。この第2高調波強度を測定に用い られるのがメーカーフリンジ法13)一14)である。 42 実際のSHGの測定は,図3−14に示すSHG測定装置を用いた。基本波光源 として,波長1064nm,パルス発振繰り返し周波数lkHz,パルス半値幅90ns のNd:YAGレーザを使用した。この基本波をPolarizer及びu2Plateで入射偏 光方向を設定し,IRPassFilterにより高調波成分をカットした後,球面レンズ (f=200mm)で絞り回転ステージ上の試料に入射した。試料通過後は基本波を減 衰させるために硫酸銅水溶液セル(透過率:0.138%(1064nm),57.45%(532nm)) を通し,Analyzerにより第2高調波の偏光を設定し,更に波長532nmのBand PassFilter(半値幅3・3nm,最大透過率77%)を通過させてからPhotomultiplier で第2高調波成分のみを検出した。有効d定数は基本波の波長を1064mm,屈 折率nqu=1・534,nq2o=1・547,そして水晶のd定数dq=dll=0・50pmⅣとして 計算することにより得られる。 IRPassFilter BandPassFilter Polarizer Sample l .−‡ Nd:YA去Laser† Lens 入/2Plate 図3−14 SHG測定装置 storagescope 測定の手順は以下のようになる。 ①偏光角叫(叫=450)の基本波を入射し,第2高調波のS偏光成分を測定する ②S偏光の基本波を入射し,第2高調波のp偏光成分を測定する ③p偏光の基本波を入射し,第2高調波のp偏光成分を測定する ④試料を水晶に変更し,S偏光の基本波を入射し,第2高調波のS偏光成分を 測定する 43 ④で測定した水晶のSH強度を基準に,①によりd15,②によりd31が求まり, その結果と③によりd33を求めることができる。 図3−15に実際に測定されたフリンジパターンを示す0これは基本波をp偏 光で入射し,高調波をp偏光で検出した場合のSH強度を最大強度を1として 規格化したものである。 l 0 0 ′ 0 4 2 ︵・n・朝倉如月凱ぎ釦遥 0 −80−60−40−20 0 20 40 60 80 IncidentAngle(degree) 図3−15 メーカーフリンジ法によるSH強度の測定 これらの測定により算出された,ウレタンウレア共重合体薄膜のd定数を表3 −1に示す。d定数の値はd33=170pmⅣと比較的大きく安定であった。 44 表3−1ウレタンウレア共重合体薄膜のd定数 d33(pmⅣ) d15(pmⅣ) d31(pmrV) 170 75 65 3−5.結論 ウレタンウレア共重合体はスピンコート法により比較的良質な薄膜を得るこ とができ,その膜厚は約1岬l程度になることが分かった。ただし,湿度や温度 など外部環境の変化に敏感であるため,製膜条件には注意が必要である。吸収 スペクトルは480mm付近にピークを持っており,アゾベンゼン色素自体の吸収 ピークとほぼ一致する。また,赤色一赤外領域ではほとんど吸収を持たないた め赤色半導体レーザに対する感受性が小さいが,青色一青紫領域の半導体レー ザが開発されつつある今日ではそれほど問題にはならないと考えられる。屈折 率はベンゼン環の持つ几電子による分極率の増加のため高屈折率になっている。 また,ポーリング処理を施した薄膜のd定数の測定結果よりd33=170pmⅣ と比較的大きな値となった。これは色素自体のβ値が大きいことと高分子中に添 加されている色素の量が多いことなどが起因していると考えられ,色素分子の 配向により大きな吸収や屈折率の変化が生じることが予想される。 45 第3章参考文献 T.Hasegawa,etal.,Phys.Rev.,B45,6317(1992) K.D.Singer,etal.,J.Opt.Soc.Am.B6,1339(1989) A.Yariv,JohnWiley,NewYbrk,(1967,1975) LM.Hayden,G.F.Sauter,F.R.Ore,P.L.Pasillas,J.M.Hoover, G・A.LindsayandR.A.Henry,J.Appl.Phys.,68,456(1990) 5. KD・Singer,J・E.Sohn and S.J.Lalama,Appl.Phys.Lett.,49, 248(1986) 6. I・Teraoka,D.Jungbauer,B.Reck,D.YYbon,R.Twieg and C.G.Willson,J.Appl.Phys.,69,2568(1991) M.Chen,LYu,L.R.Dalton,YShi,W.H.Steir,Macromolecules, 24,5421(1991) 8. M.Tsuchimori,0.Watanabe,S.Ogata,A.Okada,Jpn.J.Appl. Phys.,35,444(1996) R.UlrichandR.Torge,Appl.Opt.12,2901(1973) 10. G.ZhangandK.Sasaki,Appl.Opt.27(7),1358(1988) 11. R.J.Archer,J.Opt.Soc.Am.,52,970(1962) 12. D.R.Martinez,R.Koch,F.K.Ratsavong and G.0.Carlisle,J. Appl.Phys.,75(8),4273(1994) 13. K.D.Singer,M.G.KuzykandJ.E.Sohn,J.Opt.Soc.Am.B4(6), 46 968(1987) 14. P.D.Maker,R.W.Terhune,M.Nisenoffand C.M.Savage,Phys. Rev.Lett.,8(1),21(1962) 47 第4章 Trans・Cis光異性化 4−1.緒言 アゾベンゼン系色素の大きな特徴のひとつとして,Trans−Cis光異性化1)・7)が よく知られている。この現象は,ある波長の光の照射により,アゾベンゼン色 素がTrans型異性体からCis型異性体へ変化し,また異なる波長の光の照射あ るいは熱的な作用により,Cis型異性体からTrans型異性体への変化を生じさせ るものである。この変化は可逆的な反応である為,書き換え可能な光記録への 応用が期待される。この場合,Trans−Cis光異性化により生じた,吸収や屈折率 あるいは旋光度の変化を読み出すという方法等が考えられる。また,光異性化 は溶媒の粘性などにも影響されるが数十ピコ秒から数百ピコ秒8)の時間スケー ルで起こるため,比較的高速な書き込みが可能となると考えられる。 本研究では,このTrans−Cis光異性化の繰り返しによるアゾベンゼン色素の 配向を利用した偏光依存型光記録を試みた9)・10)。これはある特定の方向の直線偏 光を入射したときに,アゾベンゼン色素がTrans−Cis光異性化を繰り返しなが ら特定の方向に分子配向する性質を利用したもので,吸収や透過率の異方性を 信号として読み出す方法である。そして更に,円偏光や加熱による分子配向の 緩和も可能であるため,消去可能型の記録が実現できる。 4−2.Trans−Cis光異性化 アゾベンゼン誘導体は図4−1(a)に示すような一重項状態と三重項状態の複 数のエネルギー準位を持つ。光異性化は一重項状態(Sl)でも三重項状態(Tl)でも 起こるが,通常はSlからの反応の効率が大きい。そこで図4−1(b)に示すよう に二準位のモデルに簡略化することができる。 48 Csl Cis異性体 C(り Tsl 恥ans異性体 T(0 簡略化 (b) (a) 図4−1アゾ系色素のエネルギー準位 ここで¢T,ゆCはそれぞれTrans異性体からCis異性体,Cis異性体からTrans 異性体への遷移の量子収率である。量子収率は吸収された光子の数当たりの生 成物の数で定義される。OT,OcはTrans異性体,Cis異性体の吸収断面積であ る。また,KはCis異性体からTrans異性体への熱反応係数である。ここで強 度Ⅰ,角周波数山の光が照射された場合を考える。この光の入射によりTlans異 性体は¢TOT,Cis異性体はOco。の確率でそれぞれ遷移される。また,Cis異性 体からTrans異性体へは熱反応係数Kで熱遷移する。TranS異性体とCis異性 体の数は時間的に変化するため単位体積当たりの数をT(t),C(t)と置くと,アゾ 色素の単位体積当たりの総数T。は変化しないため (4−1) T,=T(t)+C(t) となる。C(t)についてのレート方程式は 49 dC(t)Ⅰ dt カ川 (4−2) OTQT一志αC¢C−KC(t) と表される。この式に式(4−1)を代入すると (4−3) 碧=針T¢冊症K‡ となる。t=0のときにTrans異性体のみが存在する場合,つまりC(0)=0の場 合,式(4−3)から (4−4) 叫)=芸(1−e−At) が導かれる。ここで A=去bT¢T・Oc¢C)・K,B=⊥oTQTTb カIU (4−5) である。t→∞のときは,式(4−4),(4−5),(4−1)より αT¢T℃ C(∞)=芸− (4−6) 再T+げ。転+埜K I T(∞)=To一芸= (4−7) 再丁十両。+埜K I 50 が導かれる。この強度Ⅰの励起光によってできる光異性化を観測するために,光 化学反応を起こさないような弱いプローブ光を入射する。このプローブ光の膜 へ入射する前の強度をIi。,膜厚しの膜を通過したときの強度をⅠ。。tとすると, ある時間tにおける透過光強度は次のような式で表すことができる。 Ⅰ。。t=IineXPトkT叫)十U。叫)B] (4−8) この式に式(4−4),式(4−1)を代入すると,次のような非線形透過の時間依存の 式を得ることができる。 ヒ=eXp[中+bc−OT)新一e−At))L] (4−9) この式における(C。−叫)の符号は吸収の変化に大きく影響し,C。>CTでは透過 率は時間毎に減少し,ロ。<oTでは透過率は時間毎に増加する。そしてロ。=CTと なるような波長では透過率は変化しない。このような点を等吸収点という。 t=0における線形の透過率は (4−10) 巨=eXp(−哺L) であるためCis異性体の吸収断面積には依存しない。また,t→∞のときは (軋00 =eXp αT¢TTも αTT〕+巨。−αT) (4−11) 再T+げ。如+蟹K I となる。励起光の強度が強く,¢W/Ⅰ匿がoT¢T+G。中。に比べて十分小さいと きは,熱遷移の影響を無視することができるので式(4−11)は 51 が導かれる。この強度Ⅰの励起光によってできる光異性化を観測するために,光 化学反応を起こさないような弱いプローブ光を入射する。このプローブ光の膜 へ入射する前の強度をIin,膜厚Lの膜を通過したときの強度をⅠ。。tとすると, ある時間tにおける透過光強度は次のような式で表すことができる。 I。。t=IineXpl一缶で叫)+U。叫)B] (4−8) この式に式(4−4),式(4−1)を代入すると,次のような非線形透過の時間依存の 式を得ることができる。 ヒ=eXP[10Tn十bc−OT);0−e ̄At))L] (4−9) この式における(ロ。一叫)の符号は吸収の変化に大きく影響し,C。>叫では透過 率は時間毎に減少し,O。<oTでは透過率は時間毎に増加する。そしてG。=oTと なるような波長では透過率は変化しない。このような点を等吸収点という。 t=0における線形の透過率は (4−10) 巨=eXp(一珊L) であるためCis異性体の吸収断面積には依存しない。また,t→∞のときは (軋00 =eXp αT¢T℃ α帯+巨。−αT) (4−11) 再T+げ。転+空K I となる。励起光の強度が強く,恒/Ⅰ匿が叫¢T+ロ。中。に比べて十分小さいと きは,熱遷移の影響を無視することができるので式(4−11)は 51 (軋∞ αT¢TT) =eXp (4−12) 中+kc一打T) OT¢T+Oc¢C と変形することができる。この式よりt→∞では透過率は励起光強度に依存せず, T。,叫,中T,cc,中Cなどのパラメータによることが分かる。これらのパラメ ータは色素の種類,添加濃度,周囲の環境,入射光波長などにより決定される。 本章の実験では強度を一定とし励起時間を変化させることにより,過渡状態か ら飽和状態までの間で状態をコントロールしている。 IncidentBeam Pl ∴ =二≡._=.. ≡■■=■二 、■∴∵.、、’.∴■..1.‘ R2 Rl を1 図4−2 アゾ色素の光異性化 今度は強い直線偏光の光をフイルムに照射する場合を考える。光の偏光方向 とそれに垂直な方向とで吸収係数や屈折率に差が生じる6)′7)。この光の照射によ り吸収や屈折率の異方性が生じる現象が複屈折である。図4−2に示すように, ある特定の方向の直線偏光を照射すると,その方向に強い吸収を示すPardlel Trans異性体は,光異性化を起こしCis異性体へ変化する。それからCis異性体 52 は光の吸収もしくは熱遷移により再び取ans異性体へ変化するが,このとき Vbrtical,Parallel両方のTrans異性体へ変化する可能性がある。ここでParal1el Trans異性体へ変化した分子は,光を吸収するため光異性化を起こし再びCis 異性体へ変化する。一方VbrticalTrans異性体へ変化した分子は,分子軸の方 向が偏光方向に対して垂直なので光を吸収し難い。そのためParal1elTrans異 性体に比べて光異性化を起こす確率が少ない。その結果Trans−Cis光異性化の 繰り返しによりParallelTranS異性体の分子数は減少し,VbrticalTrans異性体 の分子数は増加するため,吸収や屈折率の異方性が生じる。 4−3.偏光透過率測定 前述した吸収や屈折率の異方性を利用すると,入射された光の偏光状態を記録 することができる。また同じ場所に幾つかの異なる方向の直線偏光を照射する ことにより,偏光多重記録も可能となると考えられる。そこで,直線偏光の照 射によりウレタンウレア高分子薄膜中に誘起される吸収の異方性を調べるため に偏光透過率測定を行った。使用した光源の波長は,吸収ピーク波長に近い 514.5nm(Ar+レーザ)と吸収ピークから少し外れた532nm(Nd:YAGSHGレ ーザ)である。 (a)532mm 図4−3に偏光透過率の測定光学系示す。まずLD−PumpedNd:YAGSHGレー ザをビームスプリッタにより2方向に分け,一方をポンプ光,もう一方をプロー ブ光とする。プローブ光の偏光方向は,ポンプ光の偏光方向に対して0だけ傾け る。また,ポンプ光強度は500mW/cm2,プローブ光強度を2mW/cm2としプロー ブ光の影響が小さくなるようにした。 53 ポンプ光偏光方向 Babinet−Soleilcompensator 図4−3 ポンプープローブ偏光透過率測定光学系(532mm) 0.15 UUudll叫∈∽G已ト 100 200 Time(sec.) 図4−4 偏光透過率測定結果 (ポンプ光波長532mmポンプ光照射時間150秒) 54 300 この偏光透過率測定の結果を図4−4に示す。ポンプ光とプローブ光を同時に 照射を始めると数秒後に透過率はほぼ一定になり,2つの偏光方向のなす角0の 大きさにより透過率が異なった。0=00付近では透過率が大きく,0=900に近 付くほど透過率は小さかった。しかし,その後ポンプ光のみ照射を止めると透 過率の変化が再び観測され,0=00付近では透過率が減少し,0=900付近では 透過率は増加した。これにより偏光方向による透過率の差が小さくなった。こ の現象はアゾベンゼン側鎖のTrans−Cis光異性化により説明することができる。 まずポンプ光の照射により,その偏光方向に平行な方向に大きな吸収を示す分 子がTrans−Cis光異性化の繰り返すことで,偏光方向に垂直な方向に分子軸を 持つ分子数が増えていく。その後ポンプ光の照射を止めると,特定の方向に偏 った分子は熱遷移やプローブ光のエネルギーを吸収するため,再びTrans−Cis 光異性化を起こしプローブ光とは異なる方向に分子軸を持つように分子が配向 する。これが透過率の増加や減少の原因であり,その変化量は0=900付近の方 が大きい。しかし,波長532mmでの励起では偏光による透過率の差はそれほど 大きくなく,プローブ光の影響が大きいため誘起された異方性はすくに緩和さ れてしまった。 仲)514.5mm 波長532nmでの励起では大きな二色性は観測できず,短時間で緩和してしま った。そこで,ポンプ光の光源を波長532mmよりもウレタンウレア高分子薄膜 の吸収が大きい波長514.5mmのAr+レーザーを用いて,図4−5の光学系によ り同様な実験を行った。透過率の測定はLD−PumpedNd:YAGSHGレーザを光 強度2mW/cm2でプローブ光として用いることにより,プローブ光の影響を抑え た。 55 ポンプ光偏光方向 Powermeter Nd:YAGSHGLaser 図4−5 ポンプープローブ偏光透過率測定光学系(514.5mm) 8 0 0. 4 0 0. むUGdぢ叫∈∽G已ト 2 0 0. 0 30 60 90 120 150 180 Angle:0(degree) 図4−6 透過率の偏光方向依存性 ポンプ光(514.5nm)の強度を100mW/cm2とし,プローブ光(532nm)の強度 56 2mW/cm2と設定し,ポンプ光を照射してから10分後の透過率の偏光方向依存 性を,偏光子によりプローブ光の偏光方向を変えながら測定した。その結果, 図4−6に示すように532mmで励起した時と同様な透過率の異方性が観測され た0人射した透過光の強度をⅠ,最大透過率をTm。X,削、透過率をTminとすると 出射光のコントラストは コントラスト= 軋、aX一㌔i。耳 軋、aX十㌔i。知 (4−13) で与えられる。この式により0=00の時の透過光と0=900のときの透過光との コントラストは0・623と計算される。一万532mmの励起による透過率異方性で のコントラストは,照射開始150秒後の飽和状態で0.103であった。これによ り波長514・5mmによる励起のほうがより大きな異方性を誘起したといえる。 0.08 ∠U O O. UUudlljヒ∽G已↑ 0.04 0.02 10 Time(min.) 図4−7 偏光透過率の時間変化 57 20 次に透過率の時間変化を測定した結果を図4−7に示す。この実験ではあらか じめプローブ光を照射しておいてからポンプ光照射後の透過率の変化を観測し た。これにより線形透過率からの変化量も観測することができた。ポンプ光照 射10分後にポンプ光照射を止めると透過率の異方性の緩和が見られたが,10 分経過しても0=00 と0=900 において透過率の差は存在していた。そこで波長 514.5nm,強度230mW/cm2の円偏光を照射すると異方性は急激に緩和された。 これは円偏光がアゾベンゼン基をランダムな方向に配向させたためだと考えら れる。そこで円偏光による異方性の消去をもう少し詳しく調べた。 直線偏光による書込み時間を30秒,1分,2分,5分,10分と変化させ,透 過率の異方性を誘起してから円偏光をすべて1分だけ照射して異方性を消去し た。その結果を図4−8(a)から図4−8(e)に示す。 08 0. ∠U O O. 04 0. 2 0 0. UUGd−1叫∈叫G已ト 500 1000 Time(sec.) 図4−8(a)円偏光による透過率異方性消去(書き込み30秒消去1分) 58 8 0 0. ∠U O O. 4 0 0. UUu雲l叫∈∽U巴ト 500 1000 Time(sec.) 図4−8(b)円偏光による透過率異方性消去(書き込み1分消去1分) 8 0 0. ′0 0 0. UUud−︶︷∈∽Gdhト 500 1000 Time(sec.) 図4−8(C)円偏光による透過率異方性消去(書き込み2分消去1分) 59 4 0 0. UUGdllづヒ2已ト 500 1000 Time(sec.) 図4−8(の 円偏光による透過率異方性消去(書き込み5分消去1分) 8 0 0. UUGdl1−∈∽GdJト 500 1000 Time(sec.) 図4−8(e)円偏光による透過率異方性消去(書き込み10分消去1分) 60 この測定で,書込み時と消去時でほぼ同量のエネルギーを照射した場合に, 図4−8(C)に示すように消去直後の2つの透過率がほぼ同じになった。しかし, すべての測定において,消去後の透過率は書込み前の状態での透過率に比べて 大きくなっている。これは光の照射による分子結合の切断や光異性化の繰り返 しの中で分子がCis異性体のまま異性化されずに残留したなどの理由が考えら れる。そのため今後,記録特性を向上するためには,Trans−Cis光異性化が効率 よく行われるように両方の異性体に対して同程度の吸収を持つような波長(等吸 収点)1)で励起することが望まれる。これにより異性化されずに残留するような分 子が減少するため異方性はより大きくなり,応答速度も上がると考えられる。 4−4.結論 ウレタンウレア共重合体のTrans−Cis光異性化を利用して,偏光記録特性を 調べた。比較的低パワーの光によっても吸収の異方性がみられ,さらに円偏光 の照射によりその異方性を消去することも可能であることがわかった。ただし, 配向の緩和が著しいため,記録材料として利用する場合は断熱処理や遮光処理 など工夫が必要である。またRAMとして利用する場合にも,応答速度が問題と なる。分子のみを考えた場合はTrans−Cis光異性化自体の応答速度はナノ秒オ ーダーであるが,Trans−Cis光異性化の繰り返しによる全体の吸収の変化は書き 込み光の強度や材料自体のTgなどに大きく依存すると考えられる。ただし,こ れらの条件は材料の安定性や色素の破壊といった問題とも関わってくる為,十 分な考慮が必要となる。たとえ応答速度が遅くても,それを補うような記録方 式を開発することもひとつの解決手段だと考えられる。 61 第4章参考文献 C・Egami,YSuzuki,0・Sugihara,N.Okamoto,H.Fujimura, K・NakagawaandH・Fujiwara,Appl.Phys.,B64,(1997) P・Wu,WChen,Ⅹ・Gong,G・ZhangandG・Tang,Opt.Lett.,21, 429(1996) H・FujiwaraandT・Takeda,Kogaku23,479(1994) 4. A・Natansohn,S・Xie and P・Rochon,Macromolecule,25, 5531(1992) C・JonesandS.Day,Nature351,15(1991) 6. C・Egami,YSuzuki,YAoshima,0.SugiharaandN.Okamoto,J. Opt・Soc・Am.B15(7),1985(1997) C・Egami,YSuzuki,YAoshima,0・Sugihara and N.Okamoto, Mol・Cryst.Liq.Cryst.,316,75(1998) 8. G・Rothenberger,etal・,J.Chem.Phys.,79,5360(1983) 9. YAoshima,C・Egami,YKawata,0.Sugihara,M.Tsuchimori, 0・Watanabe,H・FujimuraandN.Okamoto,Opt.Commun.,165, 177(1999) 10. C・Egami,YKawata,YAoshima,S.Alasfar,0.Sugihara, H・FujimuraandN・Okamoto,Jpn.J.Appl.Phys.39,534(1999) 62 第5章 表面形状の光形成 5−1.緒言 近年,アゾ色素を含んだポリマーにおいて,光の照射による表面形状の変化 が報告されている1)■3)。この現象はアゾベンゼン色素を含有するポリマーに起こ る特殊な現象である。この表面形状の変化のメカニズムについては,いくつか のモデルが提案されている。Rochonらのグループは,トランス・シス光異性化 による体積の変化が膜内部の圧力となり膜の表面が盛り上がるというモデルを 提唱し1)・4),Tripathyらのグループはグラデイエントフォースモデルを基礎とし たモデルを提唱し様々な研究を行っている2)胤6)。Le丘nらの研究ではアゾベンゼ ン色素がトランス・シス光異性化の繰り返しにより強度の強い部分から弱い部 分まで移動すると考えられている7)・8)。Pedersen らのグループは色素分子同志 の相互作用が分子移動を引き起こすと考えている3)・町1)。ただし,いずれのモデ ルもまだすべての現象を完全に説明できていない。 本研究で用いたウレタンウレア共重合体もアゾ系ポリマーであり,同様に光 照射による表面形状の変化が観測された。これは熱的あるいは物理的に耐久性 をもっているため,この形状変化は光記録として利用できると考えられる。そ こで光強度との関係を調べるため,二光束干渉露光により表面レリーフホログ ラムを形成し,AFMによりその形状変化の測定を行った12) ̄16)。 5−2.表面形状変化のメカニズム 表面形状変化はアゾベンゼン色素を含有するポリマーに起こる特殊な現象で あるため,まずTrans−Cis光異性化によるものであると考えられる。その中で も最も単純なモデルが図5−1に示すようなTrans体とCis体における体積変化 である。この場合Cis体の方がTlans体と比べて若干体積が大きいため,光の 63 照射強度が強い部分では体積が増加し,弱い部分ではそのままであるため強度 に依存した形状変化が見られると考えられる。 V Ⅴ+AV 図5−1Trans−Cis光異性化による体積変化 次に考えられるのは分子間力の大きさの方向による違いから生じる分子移動 である。ある特定の方向に配向した分子間においてサイドとサイド同志では大 きな分子間力が働き,エンドとエンド同志では分子間力は小さい。これにより 分子はある特定の方向に移動を開始することにより形状変化が生じるというモ デルである。ただしこのモデルの場合は強度よりも偏光に依存した部分が大き ▲l耳▲■■▼ ‡ l l ▲ 曲 ■ ▼ β いため,あまり有効とはいえない。 図5−2 分子間力の方向による大きさの相違 次に挙げるモデルは図5−3に示すような内部圧力の変化による形状変化であ る。これは照射強度が大きい部分では熱膨張あるいは体積変化等により,強度 の弱い部分に比べ内部圧力が高くなる。そのため強度の弱い部分は両側から圧 力を受けることにより表面が盛り上がるということで説明されている0 64 照射光強度分 萱妻妾享≡ 表面形状変 ■ヽヽ一′、ヽ−/’ヽヽノ〉 図5−3 分子間力の方向による大きさの相違 最後のモデルは図5−4に示すように光異性化の繰り返しにより,強度の強い 部分から弱い部分へ分子が移動する。これにより強い部分は凹み弱い部分は膨 らむことになり形状変化を起こす。 照射光強度分 表面形状変  ̄ヽ\ノ′ヽゝノ′ヽ−ノへノ′’ 図5−4 分子移動による表面変化 5−2.二光束干渉露光実験 ウレタンウレア高分子薄膜は,吸収ピーク付近の波長(488mm)の光を照射 することにより表面形状の変化を起こす。この変化の特性を調べるために,二 光束干渉露光実験を行った。表面形状の測定には高解像度の測定装置が必要と 65 なるが,測定試料が有機材料であるため,STM(Scanning Tlmneling Microscope)のように測定試料に導電性を必要とするような装置は使用できな い。そこで本研究では,表面形状を測定するためにAFM(Atomic Force Microscope)を使用した。 5−2−1.二光束干渉光学系 波長488mmのAr+レーザー用いて図5−1に示すような光学系を設置し,二 光束干渉露光を行った。空間的なノイズを除去するために直径1mmのピンホー ルを通した光を,ビームスプリッターにより二つに分けてから光路長が等しく なるようにサンプル上で再び交差させた。このとき,二つのビームの入射角01, 02は等しくし,その強度と偏光方向は同じになるように調節した。 図5−1二光束干渉光学系 66 図5−1のように2つの光波が媒質へ入射する場合を考える。それぞれの光波 の光電界による電界を E=EleXPB(ah−kl・r)]+E2eXPB(ah−k2・r刀 (5−1) とする。ここで,2つのビームの周波数は同一であるとし,ElとE2は振幅,kl とk2は波数ベクトルである。この2光波の偏光が直線偏光で互いに直交してい なければ,光強度の干渉パターン (5−2) Ⅰ(r)=Ⅰ。+RegleXPLiK・r]) が形成される。ここで Ⅰ。=剛2・IE2I2 (5−3) Il=2E2・Eご (5−4) で,格子ベクトルKは次のように定義される。 (5−5) K=k2−kl 格子波数ベクトルの大きさは干渉パターンの周期人と次のような関係にある。 K=聖 (5−6) 人 2つのビームが同じ方向に偏光し,その振幅が同じ大きさのとき価1=E2)には最 大の干渉縞の可視度が得られる。このEl=E2のときの干渉縞強度は 67 (5−7) Ⅰ=Ⅰ。(1+COSK・r) で与えられる。強度の最小値(Ⅰ=0)はK・r=(2n+1)爪のとき,最大値q=2Ⅰ。)はK・ r=2nJtのときに現れる。 また,この干渉パターンの周期は式(5−6)から 2汀 Å .、=空= K (5−8) IkllsinOl+lk21sinO2=sinOl・SinO2 で与えられる。図5−1の光学系を用いた場合,01=02=0。であるため周期人は 式5−8より (5−9) 2cosβ。 となる。 5−2−2.二光束干渉露光 実際の光学系においては,波長488mmのAr+レーザを用い,ビームの入射角 入射角01,02を17.80 とした。そのため理論的な強度分布の周期は0.叫mとな る。また,入射光の偏光は共にS偏光で,パワー密度は共に1.15W/cm2とした め,干渉による最大パワー密度は理論的には4.6W/cm2と考えられる。このパワ ー密度で露光時間を変化させてサンプル上に書きこみを行った。AFMにより測 定した表面形状の画像を図5−2に示す。(a)は露光時間60分,仲)は露光時間20 分であり,露光時間により表面形状の深さが異なっていた。 68 69 勒回mAVO∠く′壬−1∠∠−rll担華 石一g図 (咄 (り 測定の結果,露光時間の異なる2つの表面レリーフグレーティングは,周期 はほぼ同じ0.8叫mであったのに対して,深さが異なっていた。つまりこれは表 面形状の変化は照射光のパワー密度というよりも,照射されたエネルギー密度 に依存していると考えられる。そこでエネルギー密度の理論的な曲線と測定値 の比較を行った。その結果を図5−3に示す。 4 2 ︵N己。\鼠;富岳凸誌す占 ∠U ︵∈u︶jldO凸pUldl∋pO∑ 0 一0.4 −0.2 0 0.2 0.4 Position(tlm) 図5−3(a)照射エネルギー密度と形状変化の関係(照射時間20分) ︵N己。\鼠;官喜白訟す占 0 0 /LU 4 ︵∈且‘ldu凸pUldt∋pO∑ _0.4 −0.2 0 0.2 0.4 Position(匹m) 図5−3(b)照射エネルギー密度と形状変化の関係(照射時間60分) 70 この時のエネルギー密度の理論曲線は周期を0.88匹mと仮定し,エネルギー 密度が最大値の時に変化が最大になり,エネルギー密度が最小値(=0)のとき に変化が最小値(=0)になるとして測定値と比較した。その結果,どちらの場 合も測定した深さの値と理論曲線の値はかなり近いことがわかった。つまり変 化した形状は,照射エネルギー密度と同じようにきれいな正弦波形であると言 える。そこで今度は横軸をエネルギー密度,縦軸を深さの測定値としてプロッ トしたところ,図5−4に示すようにほぼ直線となった。このことからも照射エ ネルギー密度と形状変化の大きさは密接な関係にあるといえる。 ︵∈U︶占︸dU凸p小一dt竜 5 10 15 20 EnergyDensity(kJ/cm2) 図5−4 照射エネルギー密度と形状変化の関係 5−2−3.角度多重ホログラム記録 ウレタンウレア高分子薄膜の持つ照射エネルギー密度依存性のもう一つの異 なる利用法としては,ホログラムの記録である。これは実際に二光束干渉露光 71 実験で実際に記録されている。そこで今度はホログラムの多重記録を試みた。 まず,一度ホログラムを書き込んだ後に偏光角を300ずらして再度ホログラム を上書きする。その結果,図5−9に示すような形状が観測された。この形状を 見る限りでは,前に書き込まれたホログラムの表面凹凸形状をほとんど崩さず にグレーティングが多重形成されていることが確認できる。これにより,ホロ グラムの角度多重記録が実現できる。 多感 転戒 図5−9 角度多重照射による複グレーティング形成 5−3.ウレタンウレア高分子薄膜の様々な光記録への応用 ウレタンウレア高分子薄膜の光照射によるフイルム表面の形状変化の特性は, 様々な光記録へ応用できると考えられる。特に照射エネルギー依存性などは非 常におもしろい記録が可能になると思われる。 72 5−3−1.ビット記録 光照射による表面変化を利用して,再生のみ可能な追記型のビット記録が実現 できる。これは波長488mmのレーザーを照射し,図5−5に示すようなビット を書込み,レーザー光の反射の強弱により読み出しを行う0ウレタンウレアの 表面形状は,熱的に安定しているため記録保持能力が高いという特徴を持って いる。 琶○︻ロm︼ 図5−5 波長488mmのAr+レーザーによるビット記録 5−3−2.プローブを用いない近横場光学顕微鏡 前節で述べたようにウレタンウレアは強度分布(エネルギー密度)に応じた表 面の変化を示すため,物体の形状を記録し,その大きさ形状などを知ることが 73 できる。従来の光学顕微鏡では光の回折の限界により,光源波長以下の大きさ の物体観測は困難である。しかし,ウレタンウレア高分子薄膜の記録特性を利 用することにより,nmオーダーの測定を可能とする顕微鏡が可能となる。そこ で,同様な,nmオーダーの測定法の一つとして,近接場光学顕微鏡という高い 分解能をもつ顕微鏡との比較とその原理について以下に示す。 ファイバー 入射光 仲) (a) 図5−6 近接場光学顕微鏡bear−fieldopticalmicroscope)の構成 近接場光学顕微鏡は光の回折限界を超える高い分解能をもつ顕微鏡であり,エ バネッセント場と呼ばれる光を使う。これは物質表面にごく近い領域(近接場領 域:表面から光波長以下の距離)に存在する光のうちの非伝搬成分である。 その構図を図5−6(a),仲)に示す。(わではプローブがエバネッセント場を散乱 し,その光を光検出器に集めるのでCollectionmode(Cモード)と呼ぶ。一方, 仲)では試料をエバネッセント場で照射するのでⅠ皿uminationmode(Ⅰモード)と 呼ぶ。 プローブとしてはガラスファイバー中心のコア部を先鋭化し,その根元に金属 膜を蒸着したものを用いる。即ちプローブは円錐形である。この場合,金属膜 74 の位置でのコアの直径とコア先端曲率直径とによって決まる範囲内の寸法を持 つエバネッセント場が散乱(Cモード)または発生(Ⅰモード)する。 このエバネッセント場は以下のような2つの性質を持つため,これを利用して 物質の形状を調べることができる。 (1) 物質寸法依存のパワー局在:微小物質表面にしみ出すエバネッセント場 の分布は物質寸法領域に局在化する。この性質により光の回折限界を超える 分解能を有する近接場光学顕微鏡が実現する。すなわち分解能はプローブの 寸法によって決まる。 (2) プローブ,試料の寸法に関する共鳴:試料物質表面のエバネッセント場 は非伝搬光なので,それを微少なプローブで散乱し,伝搬光に変換してその パワーを測定する。その際,散乱光を検出する効率は試料,プローブ両者の 寸法が互いに等しいとき最高になる。この性質によれば,微小球試料表面の エバネッセント場を散乱させ,その光強度を最高感度で測定するには,試料 と同じ寸法のプローブを使うことが最良であることがわかる。 しかし,この2つの性質を利用した近接場顕微鏡は,高い分解能・感度を得る ためには微少なプローブ(測定試料と同程度の寸法)を製作することと,プロー ブ・試料間距離を試料の寸法程度まで近づける必要があるのだが,実際にはこ のプローブの作製はとても困難である。また,微小開口を通して試料を観察す るためS/Nがあまり高くなく,その上試料とプローブが多重散乱を生じるため プローブ自身が光の場を大きく乱してしまうなどの問題があり,観察像の解析 が困難である。 そこで,ウレタンウレア高分子薄膜の強度依存型光記録特性を利用すれば,プ ローブを用いない近接場光学顕微鏡が実現可能となるため,これらの問題点は 回避される。その記録および測定原理を図5−7,実際に試料を置いて照射を行 ったときの測定結果を図5−8に示す。 75 レーザー照射 l レーザー照射後試料除去 ∩( つ n n − ■  ̄ 1■−■ ヽJ ) ヽ、. − _ さ.■二 、′ ヽ−−′ 一 ゝ t こ 、′ ヽ− −′ 上■■乙 ⇒ 一′′ 図5−7 プローブを用いない近接場光学顕微鏡の測定原理図 図5−8 光アブレーション現象による物体の形状測定 まず,測定したい試料をウレタンウレア高分子薄膜上に置き,レーザー光を照 射し試料と薄膜間の相互作用による表面の変化を生じさせる。この表面変化を 76 AFM等で測定することにより,その結果を解析することにより物質の実際の形 状が得られる。フラットな平面と試料の間の相互作用はプローブ・試料の相互 作用に比べて複雑ではないため,解析を比較的容易に行うことができる。また, 走査に時間を要する近接場光学顕微鏡と異なり,簡便に短時間で記録するため 高速現象の観察も可能となる。 以上に示したように,ウレタンウレア高分子薄膜の強度依存型光記録特性は近 接場光学顕微鏡とは異なる性質を持つ,nmオーダーの分解能(縦方向)を持つ顕 微鏡実現の可能性を秘めている。しかし,この光照射による表面形状変化の原 理は解明されていない。更に,照射エネルギー領域により異なる現象が起きる ため,低エネルギー照射による線形領域で使用しなければならないという問題 点もある。そこで,この原理の解明と記録条件の確立が実用化に向けての重要 な課題となっている。 5−4.結論 二光束干渉露光により,ウレタンウレア共重合体薄膜上に表面レリーフグレ ーティングを形成した。その形状は,照射されたエネルギー密度と密接な関係 があり,きれいな正弦波形であった。この形状変化のメカニズムに関しては, いまだにはっきりとしたことは解っていない。しかし,異なる波長の光の照射 ではこのような変化が見られないことから,光圧やグラデイエントフォースに よるという可能性は小さいと思われる。むしろ吸収ピーク波長に近い波長で起 こる現象であるため,Trans−Cis光異性化による分子移動や光エネルギー吸収に よる熱拡散やアブレーションの可能性の方が高いのではないかと思われる。い ずれにせよ照射エネルギー密度を反映した形状変化が見られるため,プローブ を用いない近接場光学顕微鏡や角度多重ホログラム記録といった様々な応用の 可能性を持っていることは確かである。 77 第5章参考文献 P.Rochon,A.Natansohn,C.LCallenderandL・Robitaille,Appl・ Phys.Lett.,71,1(1997) S.Bian,L.Li,J.Kumar,D.YKim,J・WilliamsandS・K・Tripathy, Appl.Phys.Lett.73,1817(1998) Naydenova, L・Nikolova, T・Todorov, N・C・R・Holme, P.S.Ramanujam,and S.J.Hvilsted,Opt.Soc・Am・B15, 1257(1998) 4. C.J.Barret,P.Rochon andA.Natansohn,J.Chem.Phys・,109, 1505(1998) J.Kumar,J.Li,Ⅹ.L.Jiang,D・YKim,T・S・Lee,S・K・Tripathy,Appl・ Phys.Lett.,72,2096(1998) 6. Ⅹ.LJiang,LLi,J・Kumarr,D・YKim,S・K・Tripathy,Appl・Phys・ Lett.,72,2502(1998) P.Lefin,C.FioriniandJ.M.Nunzi,Opt.Mater.,9,323(1998) 8. P.Lefin,C.FioriniandJ.M.Nunzi,PureAppl.Opt.,7,71(1998) 9. M.Ivanov, LNikolova, T・Todorov, N・Tomova and VDragostinova,Opt.QuantumElectron・,26,1013(1994) 10. N.C.R.Holme,LNikokova,P・S・RamanuJam and S・Hvilsted, Appl.Phys.Lett.,70,1518(1997) 11. LNikolova,T.Todorov,M.Ivanov,F・Andruzzi,S・Hvilsted and P.S.Ramanujam,Opt.Mater.8,255(1997) 78 12. C.Egami,YKawata,YAoshima,H.Takeyama,F.Iwata, 0.Sugihara,H.Fujimura,N.Okamoto,M.Tsuchimori and O.Watanabe,Opt.Commun.,157,150(1998) 13. YKawata,YAoshima,C.Egami,M.Ishikawa,0.Sugihara, N.Okamoto,M.Tsuchimori and O.Watanabe,Jpn.J.Appl. Phys.,38,1829(1998) 14. YAoshima,C.Egami,YKawata,0.Sugihara,M.Tsuchimori, 0.Watanabe,H.FujimuraandN.Okamoto,Opt.Commun.,165, 177(1999) 15. YAoshima,C.Egami,YKawata O.Sugihara,M.Tsuchimori, 0.Watanabe,H.Fujimura and N.Okamoto,Polym.Adv. Techno1.,11,575(1999) 16. C.Egami,YKawata,YAoshima,S.Alasfar,0.Sugihara, H.FujimuraandN.Okamoto,Jpn.J.Appl.Phys.39,534(1999) 79 第6章 ホログラム記録 6−1.緒言 ウレタンウレア共重合体薄膜は,4章で述べたTranS−Cis光異性化はフイルム 内部の分子配向の変化1)′2)であり,5章で述べた光照射による形状変化3)■6)はフイ ルムの表面に生じるものである。そこで本研究ではこの異なる2つの現象を利 用して,フイルムの内部と表面にそれぞれ異なる情報を記録する2Wayホログ ラム記録を試みた。この記録の特徴は,書き込み時に異なる偏光方向の光を使 用するため,読み出された光も異なる偏光方向となる。そのため検出用の偏光 子の方向により別々に情報を読み出すことが可能となる。また,偏光子の方向 を調節することにより,合成された信号が得られるため画像処理などにも利用 することが可能である。そしてホログラム記録であるため記録密度も単純なビ ットの記録に比べて遥かに大きい。 ここでは,膜の内部と表面を利用した高密度ホログラム記録の原理7)と実際の 記録実験について述べる。 6−2.表面ホログラム 前章で述べたように,アゾベンゼン分子を構造中に含んだウレタンウレア共 重合体薄膜に二光束の干渉パターンを照射することにより,その表面にグレー ティングを形成することができる。このグレーティングの周期と二光束の入射 角0の関係は, (6−1) 2sinβ。 で与えられているため,波長488mmの光源を用いてグレーティングを形成した 80 場合,図6−1のような曲線が得られる0これにより周期は数百nmから数匹m まで変化させることが可能である。実際に前章で形成したグレーティングの周 期は0.88Llmであったことから,1000lme/mm以上の解像度を持ったホログラ ムが記録できるということになる。 1針 山U 官きくpOで心d官l已ロ 20 40 60 80 IrKidentAngle O(deg・) 図6−1入射角度0とグレーティング周期人の関係 6−3.内部ホログラム 図6−2に示すように光波の波長に比べて十分厚い媒質中にコヒーレントな2 書込み光による屈折率格子が形成されたとする。書込みポンプ光の対向方向か ら読み出しポンプ光を入射すると,この光は媒質中に形成されている屈折率格 子により回折される。このとき回折された光は書込み信号光に対する位相共役 光であり,書込み信号光と同じ波面をもち逆向きに伝搬する。信号光に物体の 情報があれば,回折光からこの物体の情報を取り出すことができる。 81 図6−2 4光波混合を利用したホログラムの原理 一般的なホログラフィーでは干渉を書込んだ後で現像を必要とするが,フォト リフラクテイブ効果によるホログラフィーでは現像を必要とせずにホログラム を読み出すことができる。更に,信号光の時間的変化に伴って屈折率格子も変 化するため,信号光の変化を反映したホログラムが読み出せる。このようなホ ログラムを実時間ホログラムという。 ホログラムの光学的特性はさまざまなパラメータにより変化する。図6−3に 示すようにXZ面を入射面として,Z軸に対してOiの角度でビーム幅W,波長入(= h/n。)の平面波を入射する。このとき,屈折率格子は回折格子として振る舞う。 この光波と相互作用する幅(開口)をD,その中に含まれる周期の数をNとする と D=N」し=− (6−2) COS¢ cosβi のように定義されている。ここで車ま格子ベクトルRのⅩ軸に対する傾きである。 この中やD,そして格子の厚みTなどが回折効率などに影響を与える。 82 x K 図6−3 屈折率格子による光波の回折 (1) Tの大きさは出射光の回折効率¶や角度選択性(¶の入射角依存性)に影 響する。 (2) 開口Dの大きさは回折光の空間広がり角28の大きさに影響する。 (3) 車ま回折光の出射方向に影響し,ゆ=00付近では通過型,¢=900付近では 反射型回折格子として機能する。 膜厚による角度選択性の違いをもう少し詳しく考察する。写真フイルムなどの 薄い膜では平面ホログラムが形成され,フォトリフラクテイブ結晶を使うと体 積ホログラムを記録することができる。この2つの領域を区別するためにQと いうパラメータを利用する。このQは次のような式で定義されている。 Q=2竺 (6−3) noA2 83 ここでn。は真空の屈折率,吊ま空気中での光波の波長である。Tは格子の厚み であるので,Q>1の場合を体積ホログラム,Q<1の場合を平面ホログラムと いう。 仲) (a) 図6−4(a)平面ホログラムと仲)体積ホログラムの回折条件 図6−4(わのように薄い回折格子に入射角Oiで平面波が入射した場合,つまり Qパラメータが1より十分小さい条件のもとで起こる光の回折をラマン・ナス 回折といい様々な方向に散乱光が出てくる。その中でも最大の回折光が得られ るのは周期Aごとの位置から散乱した波が同位相になるときである。これは2つ の光線の光路差が波長の整数倍のときだけであるため (m=0,1,2,…) ^(sinOi+SinOm)=±m入 (6−4) という条件が成り立つ。この式を変形すると 筈桓叫・Sin症±m筈 (m=0,1,2,…) 84 (6−5) となる。2Jr仇は波数の大きさであるため,さらに変形して (m=0,1,2,…) IkilsinOi・lkmlsinOm=±mlKJ (6−6) が得られる。ここでmは回折の次数であり,kmはm次回折光の波数ベクトル である。回折の次数の大きさは入射光のコヒーレンスに影響される。 図6−4(b)は厚い回折格子に平面波が入射した場合である。回折格子が厚くな っても基本的には薄い回折格子の重ね合わせなので式(6−6)のような条件が成 立する。このⅩ方向の整合条件に加えて体積ホログラムではZ方向にも条件が でてくる。図6−4仲)のようにZ。だけ離れた位置で回折する2つの光線が互いに 強め合う条件は Z。COSOl−Z。COSOm=n入 (nは整数) (6−7) である。この関係がZ。に関係無く成立するのはn=0のときであるため (6−8) COSβi=COSβm でなくてはならない。つまりOi=Omのときのみ回折光が互いに強め合う。更に, ここで波数ベクトルの大きさが同じ(暮kil=lkml)であることから (6−9) km=ki±mK となり,Braggの回折条件が導かれる。以上の考察から体積ホログラムは回折 の効率は大きいが回折が起こる角度が限定されてしまうことが分かる。一方平 面ホログラムでは回折効率は小さいが様々な角度に回折光が見られるため,情 報の読み出しが容易である。 85 6−4.二重ホログラムの記録原理 image2 ing SamPle bea叫・匂 棚、 imagesland2 ⋮ 柵 仰 仰 仰 叫 ⋮ 抑 柵 叫 ⋮ imagel 勅勅.11 beamん ♂ re b writing heating ∃ くタ \ Circularlypolarizedbeam 1 叫再 ∫√甲j ∫J甲2 5g甲4 図6−5 二重ホログラムの記録原理 ウレタンウレア共重合体薄膜の性質を利用することにより,異なる画像情報 を同一箇所に記録する二重ホログラムが可能になる。その記録原理を図6−5に 示す。 まず,第一段階として互いに平行な偏光方向を持った2つの光の干渉させ, それをフイルムに照射する。図では共にS一偏光の光を入射している。この時生 じる干渉縞は強度が空間的に変調されているため,フイルムの表面にその強度 分布に応じた形状変化が生じる。また,それと同時にフイルムの内部でも Trans−Cis光異性化による分子配向が生じる。この光異性化においても,過渡状 態では強度により配向する分子数に差が生じるため,フイルム内部にも強度分 布に応じた格子が形成される。つまり,書き込み光の一方に画像情報1を乗せ れば,フイルムの表面と内部に同時にその情報を反映したホログラムが記録で きる。 次に,第二段階として内部のホログラムの消去を行う。内部に生じたホログ ラムは分子の配向によるものであるため,これを消去するには分子の配向をラ ンダムな状態に戻す必要がある。その一つの方法は加熱処理である。高分子の 86 Tgより高い温度で加熱処理をすれば,分子が動きやすくなるため分子配向は緩 和される。もう一つの方法は円偏光の照射である。円偏光自体は空間的な強度 分布を持たないので,表面の形状を崩すことは無く,内部の分子配向だけを崩 すことができる。 第二段階で内部の分子配向を崩した後に第三段階として再び内部のホログラ ムの書き込みを行う。ただし,強度分布を持った干渉縞の照射では第一段階で 記録した表面のホログラムを崩してしまう。そこで直交する2つの光,つまりS− 偏光とp−偏光の干渉を照射する。この場合は2つの光の干渉による空間的な強 度分布は生じず,偏光方向だけが空間的に変調される。この時p一偏光に画像情 報2を乗せれば,フイルムの表面とは異なる情報がフイルムの内部に記録され る。 そして最後の第4段階では,フイルム裏面から読み出し光を照射しホログラ ムを再生する。この再生された回折光のS−偏光方向成分はフイルム表面のホロ グラムによるもので,画像1の情報を持っている。一方p一偏光方向成分はフイ ルム内部のホログラムによるものであるため,画像2の情報を持っている。そ のため検出用の偏光子の方向により,異なる画像情報を別々に取り出すことも 合成された情報を取り出すことも可能となる。また,この読出しの課程は4光 波混合を利用しているため,読出しポンプ光(対向ポンプ光)は書き込みポン プ光と同一共鳴波長である必要がある。そして4光波混合は三次の非線形効果 であり,X(3)の非対称性を利用している。三次の非線形分極を P=J瑞EjEkEl (6−1) と表す○ここでEjは書き込みポンプ光,Ekは読出しポンプ光(対向ポンプ光), EJは書き込み信号光となる。例えば第1段階のように2つのS偏光で記録しS一 偏光で読出しを行う場合,回折光のS−偏光はxllll成分によるものである。また 直交する2つの偏光で書き込みを行いS一偏光で読み出す場合は,いくつか複数 の成分が寄与してくるが,光学系をコリニアに近づけることによりZ成分を無 87 視することができるため,回折光のp一偏光はX2112成分のみよる。これにより第4 段階におけるS一偏光成分は表面のグレーティングによる回折,p一偏光成分は内 部のX2112成分によるものであるため別々の読出しが可能となる。 6−4−1.回折光測定 ホログラムによる回折光を測定するために,図6−6のような光学系を設置し た0光源には波長488mmの血+レーザを用い,これをハーフミラーにより3つ の光線に分ける。そのうちの1つは読み出し用で,残り2つは書き込み用の光 である0そして2つの書き込み光の内の一方は,1/4波長板と偏光子を通して, 偏光の方向を自由に変えられるようにする。読み出し光の回折はハーフミラー により反射したものを偏光子に通してからパワーメータにより測定する。 人/4Plate 図6−6 回折光測定光学系 まずサンプル上に表面ホログラムを記録するために,共にS偏光であるIlと Ⅰ2のパワー密度を共に450mW/cm2に調節してから30分間書き込みを行った。 88 この時の書き込み光の入射角度は約2度であったため,周期八は約旬mと考え られる。また膜厚が約1匹mのサンプルを使用したため,Qパラメータの値は約 0.06と1よりも十分小さいため平面ホログラムとなる。その後Ilをp−偏光にし てから,S一偏光でパワー密度100mW/cm2のⅠ3を照射し測定を行った。その結果 を図6−7に示す。測定用の偏光方向はS一偏光とp−偏光それぞれの場合で測定を 行った。まずp−偏光の観測は図6−7(b)に示すように,読み出し光の照射と同時 に回折光が見られた。この時の回折光は4光波混合による位相共役光成分を含 んでいるため,振動などの影響を受けて不安定になっている。ここで書き込み 光の照射を止めると4光波混合による成分は無くなり純粋な内部の屈折率格子 のみによる回折が見られる。しかし,この成分の回折光パワーは大変小さく, 時間の経過と共に小さくなって行った。これは書き込み光の干渉により内部に 生じた分子の配向が読み出し光自体によって緩和されてしまったためであると 考えられる。そのため,内部のホログラムを記録として用いるときには,それ を消去してしまわないように読み出し光のパワーを抑えるなど読み出しを工夫 しなければならないと思われる。 Writingbeam OFF readingbeam OFF 20 5 ︵き亡︶しぎOh一息コpU13︼篭凸 readingbeam ON 50 100 ¶me(SeC・) 図6−7(わ 回折光測定結果 (p一偏光成分) 89 次にS一偏光の観測を図6−7(b)に示す。S一偏光成分の観測でも同様に,読み出 し光照射と同時に回折光が見られた。この時の回折光に不安定な成分が見られ たが,これはp一偏光成分が偏光子により完全にカットできなかったためと考え られる。そのことは,書き込み光の照射を止めた時に不安定な成分がなくなり 安定した回折光のみが見られることからも明らかである。この安定した回折光 は,読み出し光の照射を止めると同時に消えることから,純粋に表面のホログ ラムによるものだと言える。 Wrltlngbeam OFF readingbeam OFF readingbeam ON 5 ︵き且−ぎOdlもコpul議ト等凸 50 100 Time(SeC・) 図6−7(b)回折光測定結果 (S一偏光成分) 次に記録した情報のうち内部のみを加熱により消去する実験を試みた。図6 −6と同様の光学系を用い二光束干渉露光によりサンプルの内部と表面に記録 を行った。この時の回折光の強度を測定した後,サンプルをオーブン中で加熱 処理(1500C)を行い,再び回折光を測定した。その回折光測定結果と加熱処理時 間の関係を図6−8に示す。最初の1時間で約15%回折光パワーが減少したが, 90 後は数百時間の加熱処理でも回折光パワーが変化しなかった。この加熱による 回折光パワーの変化は内部の影響が大きいと思われる。実際,加熱処理による d33の経時劣化があることから高温状態における内部色素分子の配向緩和の影響 は大きいと思われる。また加熱処理後の表面形状を測定したところ,形状にあ まり大きな変化が見られなかったことからもそれが言える。つまり温度に対し て安定した成分は表面のみであるため,加熱処理による内部成分の消去は可能 ということになる。 2 l ︵き且︼ぎ○巴もコpUl篤︼篭口 1.5 0 50 100 150 200 250 300 Heat−Treatment Time(hours) 図6−8 加熱処理による回折光パワーの変化 さらに,今度は円偏光照射による内部成分を消去する実験を試みた0これも 前の実験と同様に表面と内部に二光束干渉露光による記録を行った0そして今 度は読出し光に円偏光を用いることにより,消去を行いながら測定した0その 結果を図6−9に示す。第4章で述べられているように円偏光による分子配光の 緩和は実証済みであるため,円偏光照射による回折光パワーの変化には内部分 子配向の緩和が大きく影響していることは間違い無いと思われる〇一万,安定 した成分は表面の成分であると思われ,表面形状は円偏光の照射にあまり影響 されないと考えられる。 91 ︵きu︶−ぎOd羞恥コpU︸0雲J岩 0 100 200 Time(sec.) 図6−9 円偏光照射による回折光パワーの変化 6−4−2.画像記録実験 次に図6−10に示すような光学系を設置して,画像の記録を行った。基本的 な光学系は回折光測定の時と同じで,書き込み光の一方をコリメータによりビ ーム径を大きくしてから画像を入力した。そして,画像入力後はレンズにより 再びビーム径を小さくしてからサンプル上でもう一方の光と干渉させた。この 時の書き込み光のパワー密度は350mW/cm2であり,偏光方向は両方ともS一偏光 で,30分書き込みを行った。その後,サンプル内部に記録されたホログラムを 消去するために加熱処理を行い,それから書き込み光の偏光をp−偏光に変え, 画像情報も変更してから再びホログラム記録を行った。この記録されたホログ ラムを読み出し光により再生する。再生された画像を図6−11に示すように, 検出用の偏光子の方向により読み出される画像が異なっており,S−偏光方向は表 面ホログラムによる画像が読み出され,p−偏光方向では内部ホログラムによる画 像が読み出される。 92 M irror P olarizer C ollim ator Im age H alf M irror M i汀Or 5i W rltlng 40 beam ち ens w ritl beam LJ Sam Ple reading 管や H al威 1汀。 r H alf鰯 i汀。 r 甘 Mirror Ar+bser P88nm) beam も 図6−10 画像記録光学系 alyzer Screen (a)S一偏光成分 伽)p一偏光成分 図6−11ホログラム再生像 6−5.結論 ウレタンウレア共重合体の性質を利用して,フイルムの表面と内部に異なる 情報を持ったホログラムを形成することに成功した。更にこの情報を偏光子の 方向により別々に読み出すことが可能であることが明らかとなった。ただし, 問題点は表面ホログラムの書き込みに時間がかかるということである。これは レーザの強度を上げることにより多少は改善されると思われるが,根本的には 検出側の感度に大きく左右される。つまり,周囲の漏れ光をできる限りカット し,高性能な偏光子を検出用に用い,高感度な検出器を用いれば微弱な回折信 93 号を読み取ることができるため,書き込み時間はそれ程かからないと思われる。 もう一つの問遁点は,内部のホログラムの回折が小さいという点である0こ れも表面の場合と同じように高感度な検出器を用いて微弱な信号を取り出せる ようにすれば解決するのであるが,最も重要な問題は読み出し光自体の偏光に ょり内部の分子配向を緩和させてしまうということである0つまり,何度も読 み出しを行う内に,フイルム内部に記録された情報を消去してしまうというこ とである。そのため内部の情報を消去しないように読み出しには工夫が必要で ぁると思われる。一つには読み出し光の光源の波長を変えてTrans−Cis光異性 化を抑えるという方法があるが,2種類の光源を使用するのはコストや機構の 面から考えても都合が悪い。やはり熱の影響や自然光による配向緩和を抑える ために保護膜を設けたり,Trans−Cis光異性化をできるだけ抑えた上で最低限情 報が読み出せる光強度を探索するなどが最良の手段だと考えられる0 また,内部の緩和自体をリアルタイムホログラムとして利用するということ も可能である。初期状態を表面のホログラムとして記録しておき,その後の変 化をリアルタイムホログラムとして内部に記録しながら同時に読み出しを行い, 2つの再生されたホログラムの干渉により微小な変化を読み取ったり画像認識 などに利用できると思われる。 また,ホログラムはそもそも2次元情報を微小域に記録するため高密度化に 適しているが,さらに魅力的な特性は多重化が容易であるという点である0本 研究で用いたウレタンウレア共重合体も表面と内部のホログラムを同一箇所に 記録することが可能であることを利用して更なる高密度化を謀っている0そし てそれぞれのホログラムが角度多重可能であるため,これを利用することでさ らに高密度化が期待できる。また内部と表面を同時にあるいは個々に読み出せ ることを利用して,読出し出力の4レベル化を謀ることにより情報量を増やす ことも可能ではないかと思われる。 94 第6章参考文献 YAoshima,C.Egami,YKawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori, 0.Watanabe,H.FujimuraandN.Okamoto,Opt・Commun・,165, 177(1999) C.Egami,YKawata,YAoshima,S・Alasfar,0・Sugihara, H.FujimuraandN・Okamoto,Jpn・J・Appl・Phys・39,534(1999) 3. C.Egami,YKawata,YAoshima,H・Takeyama,F・Iwata・ 0.Sugihara,H・Fujimura,N・Okamoto,M・Tsuchimori and O.Watanabe,Opt.Commun.,157,150(1998) 4. YKawata,YAoshima,C.Egami,M・Ishikawa,0・Sugihara, N.Okamoto,M.Tsuchimori and O・Watanabe,Jpn・J・Appl・ Phys.,38,1829(1998) 5. YAoshima,C.Egami,YKawata O・Sugihara,M・Tsuchimori, 0.Watanabe,H.Fujimura and N.Okamoto,Polym・Adv・ Techno1.,11,575(1999) 6. C.Egami,YKawata,YAoshima,S・Alasfar,0・Sugihara, H.FujimuraandN・Okamoto,Jpn・J・Appl・Phys・39,534(1999) YAoshima,C.Egami,YKawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori, 0.Watanabe,YChe,H.FujimuraandN・Okamoto,Jpn・J・Appl・ Phys.40,1619(2000) 95 第7章 結論 本研究では、高密度な光記録の実現をめざして、ウレタンウレア共重合体の 持つ光学的特性を利用した光記録に関する実験を行った0以下に、主要な成果、 今後の課題について述べる。 主要な成果 (1) ウレタンウレア共重合体薄膜に,波長514・5mmの血+レーザと波長 532nmのLD−PumpedNd:YAGSHGレーザの直線偏光を入射することに ょり,透過率の異方性を誘起することに成功した0この透過率の異方性は Trans_Cis光異性化の繰り返しによるアゾベンゼン色素の配向に起因する と考えられ,比較的低パワーの光でも異方性が誘起され,さらに円偏光の 照射によりその異方性を消去することも可能であることがわかった0この 現象を利用して消去可能型光記録の実現が可能であると考えられる0 (2) 波長488mmの血・レーザの二光束干渉露光により周期0・88匹の表面レ リーフグレーティングを作製した。AFMによる表面形状の計測により,こ の表面レリーフグレーティングはきれいな正弦波形をしていることが分か った。また理論的な干渉光の強度分布との比較により,表面の形状変化と 照射エネルギー密度には密接な関係があることが明らかとなった0さらに 表面レリーフグレーティングを300ずらして書きこむことに成功した0こ れにより角度多重記録による高密度化も可能であると考えられる0 (3) ウレタンウレア共重合体の2つの光学特性を利用して、同一箇所に異な る情報を持つホログラムを別々に記録する2wayホログラムメモリを提案 し,実証実験を行った。強度が空間的に変調された干渉縞を照射によるフ 96 ィルム表面ホログラムの記録と,偏光方向だけが空間的に変調された干渉 縞を照射によるフイルム内部の偏光ホログラムの記録を行った0また,そ れぞれのホログラムによる回折光の偏光方向が異なることを利用して,偏 光子により別々に信号を読み出すことに成功した0これにより同一箇所に 異なる情報を記録し個々に読み出すことができることが確認された0さら に,二次元の画像を信号として入力することにより,それぞれの再生画像 を偏光子により別々に取り出すことに成功した0 今後の課題 (1)Trans−Cis光異性化を利用した偏光記録において,Cis体からTrans体へ の光異性化は熱によっても生じるため配向の緩和が著しい,そのため記録材 料として利用する場合は断熱処理や遮光処理など工夫が必要である0また RAMとして利用する場合にも,応答速度が間蓮となる0分子のみを考えた 場合はTrans−Cis光異性化自体の応答速度はナノ秒オーダーであるが, Trans−Cis光異性化の繰り返しによる全体の吸収の変化は書き込み光の強度 や材料自体のTgなどに大きく依存すると考えられる0ただし,これらの条 件は材料の安定性や色素の破壊といった間魅とも関わってくる為,十分な考 慮が必要となる。また,たとえ応答速度が遅くても,それを補うような記録 方式を開発することもひとつの解決手段だと考えられる0 (2)光照射による表面レリーフグレーティングにおける最大の間邁点は書き こみ時間である。表面形状変化が照射エネルギー密度と関係があるため,レ ーザの強度を大きくすれば記録時間は短くなるが,それでも大きな回折効率 を得るためにはある程度の記録時間は必要となる0そのため短時間の記録を 実現するためにはより光感度の高い材料を用いたり,Tgを変化させるなど の工夫が必要になると考えられるが,形状変化のメカニズムが明らかになっ ていない現在では有効な解決手段が検討できない0そのため形状変化のメカ 97 ニズムを解明することが今後の大きな課題の一つと考えられる0 (3)2wayホログラムにおいても,偏光ホログラムの緩和と表面ホログラムの 記録時間という同様な問題点を抱えている0また両ホログラムの読み出しに 関しての問題点は,内部のホログラムの回折が小さいという点である0これ は高感度な検出器を用いて微弱な信号を取り出せるようにすれば解決する のであるが,最も重要な問題は読み出し光自体の偏光により内部の分子配向 を緩和させてしまうということである0つまり,何度も読み出しを行う内に, フイルム内部に記録された情報を消去してしまうということである0そのた め内部の情報を消去しないように読み出しには工夫が必要であると思われ る。一つには読み出し光の光源の波長を変えて取ans−Cis光異性化を抑える という方法があるが,2種類の光源を使用するのはコストや機構の面から考 えても都合が悪い。やはり熱の影響や自然光による配向緩和を抑えるために 保護膜を設けたり,Trans−Cis光異性化をできるだけ抑えた上で最低限情報 が読み出せる光強度を探索するなどが最良の手段だと考えられる0 (4)更なる高密度化のために,角度多重などの多重化を目指す0表面ホログラム の場合は,現在300で二重の多重化は実現できており,角度を小さくする ことにより数十∼数百程度の多重化は容易であると考えられる0また内部ホ ログラムの場合は,二回目の記録が一回目の記録を消去してしまうため,強 度や記録時間を調節して多重化を行うか,数本のビームにより同時に記録を 行うなどの工夫により二重あるいは三重程度の多重化は可能であると考え られる。もう一つの多重化の方法としては,偏光子の方向を時間的に変化さ せ内部ホログラムの出力と表面ホログラムの出力を交互に取り出す0この出 力の変化を0→0,0→1,1→0,1→1の四つに区別することにより4レベル 化をはかる。しかし,この方式では偏光子の回転に時間を要する事や制御が 困難などの問題があるため実用化は難しいと思われる0また,表面と内部の ホログラムは同時に読出しが可能であるため,二つの信号の合成により出力 98 を4段階にすることにより1ビットあたりの情報量を増やすことも考えられ る。つまり図7−1に示すように,表面ホログラムによる出力を2,内部ホ ログラムによる出力を1とすると,0∼3までの4段階の出力が得られるこ とになる。ただしこの方式は,内部と表面の出力の差は偏光子により容易に 作り出せるが,検出側に微妙な出力の違いを読み取る性能が要求される。 3レベル 2レベル 1レベル 0レベル .11 表面なし 表面なし 表面あり 表面あり 内部なし 内部あり 内部なし 内部あり 図7−1出力合成による4レベル化 以上のように本論文は,ホログラムという手法による様々な多重化の可能性を 模索あるいはその実用性を検討したものであり,光の特性を利用した高密度記 録を目指したものである。本研究が今後の情報化社会に大きく貢献できるもの と信ずる。 99 本研究に関する論文及び学術発表 (A)論文 1.C.Egami,Y・Kawata,Y・Aoshima,tI・Takeyama,F・Iwata,0・Sugihara, H.Fujimura,N.Okamoto,M.TsuchimoriandO・Watanabe,一一Visible−laser ablationonananometerscaleusingurethane−ureaCOpOlymersH,Opt・ Commun.,Ⅵ)1.157,pp.150・154(1998) 2.YKawata,YAoshima,C.Egami,M.Ishikawa,0.Sugihara,N・Okamoto, M.TsuchimoriandO.Watanabe,HLightinducedsurfhcemodificationof urethane−ureaCOpOlymcrnlmaswrite−OnCeOpticalmcmoryH,Jpn・J・Appl・ Phys.,Ⅵ)1.38,pp.1829−1831(1998) 3.YAoshima,C.Egami,YKawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori,0・Watanabe, H.FujimuraandN.Okamoto,HTwo−WayOpticalmemoryforazobenzene− containingurethane・ureaCOPOlymerfilmsH,Opt・Commun・,Ⅶ1・165, pp.177−182(1999) 4.YAoshima,C.Egami,YKawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori,0・Watanabe, H.FujimuraandN.Okamoto,一一TheopticalpropertiesofAzobenzene− containingUrethane−ureaCOpOlymernlmsfordatastorage”・Polym・Adv・ r托chnol.,Ⅵ)1.11pp.575・578(1999) 5.C.Egami,YKawata,YAoshima,S.Alashr,0・Sugihara,H・Fujimuraand N.Okamoto,・TTwo−StageOpticaldatastorageinazopolymersH,Jpn・J・Appl・ Phys.Ⅵ)1.39pp.534−537(1999) 6.青島 康郎,江上 力,杉原 興浩,「ウレタンウレア共重合体を用いた2way光 メモリ」,電子科学研究科研究報告 第21号 87−92頁,1999年 7.YAoshima,C.Egami,YKawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori,0・Watanabe, YChe,H.FujimuraandN.Okamoto,HTwo・Wayholographicimagestoragein photosensitivepolymersH,Jpn.J.Appl.Phys・Ⅶl・40pp・1619−1623(2000) 100 (B)学術発表 1.第59回応用物理学会学術講演会、1998年9月 青島康郎,江上力,川田善正,竹山創,杉原興浩,岡本 尚道,藤村久, 上森正昭,渡辺修,「ウレタンウレア共重合体を用いた2way光メモリ」 2.第46回応用物理学術関係連合講演会、1999年3月 書島康郎,江上力,竹山創,川田 善正,杉原興浩,岡本 尚道,藤村久, 土森 正昭,渡辺修,「ウレタンウレア共重合体薄膜の光記録特性」 3.The5thInternationalSymposiumonPolymersforAdvancedrrbchnologies (PHI199),Sept.1999 Y.Aoshima,C.Egami,Y・Kawata,0・Sugihara,M・Tsuchimori・0・Watanabe, H.FujimuraandN・Okamoto,・・Theopticalpropertiesofazobenzene−COntaining Urethane−ureaCOpOlymernlmsfordatastorageH 4.1nternationalSymposiumonOpticalMemory2000(lSOM2000),Sept・2000 C.Egami,YSuzuki,YAoshima,0・SugiharaandN・Okamoto,一一甑0−Way holographicdatastorageinazopolymersH 5.繊維学会第16回オプティクスとエレクトロニクス有機材料に関するシンポジウム June.2002(発表予定) 0.Sugihara,Y・Aoshima,Y・Che,Y・Kawata,C・EgamiandN・Okamoto, HStableSurhceReliefGratingswithSecond−OrderNonlinearitybyLaser InterferometricMethodUsingAzoPolymer” 101 謝辞 本研究を遂行するに際し、6年間の長きにわたり一貫してご指導ならびご鞭 蛙を賜りました、静岡大学工学部電気電子工学科 岡本尚道教授、杉原興浩助 教授、江上力肋教授に心より感謝の意を表します0 また本論文を作成するにあたり、ご指導ならびにご助言を賜りました、静岡大 学電子工学研究所 長村利彦教授、工学部システム工学科 大坪順次教授、工 学部機械工学科 川田善正助教授に厚く御礼申し上げます0 本研究を進めるにあたり、試料を提供していただいた豊田中央研究所 渡辺修 氏、土森正昭氏、AFMの測定に御協力いただきました地域共同研究センターの 友田和一技官、実験装置及び試料の注文と多大なるお世話を掛けた藤村久技官 に心より感謝します。 また、中山英樹氏、中西慎氏、車彦龍氏、鈴木慶樹氏、富木政宏氏をはじめと する電気電子工学科 岡本研究室、杉原研究室、江上研究室に在籍された多く の方々の御協力に感謝の意を表します0最後に、博士課程まで進学させて戴き ました両親、ならび力添えをして戴きました方々に感謝の意を表します0 102
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