GATE/サーヴァント 彼の地にて、斯く戦えり ID:70196

GATE/サーヴァント 彼
の地にて、斯く戦えり
虚空屍
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
冬木市での文部科学省関連の出向を終え原隊復帰を果たした陸上自衛隊、三等陸尉の
伊丹耀司が銀座事件のあと、サーヴァントを連れ特地へと向かう。
*主人公は転生者ですか
=違います
=特地は日本国内だ
戦闘OK
*帝国が和平交渉を引き延ばしをしたらどうするの
!
*自衛隊が敵国内に攻め込んでも良いの
?
=その時は帝都が瓦礫と化すだけだ
!
?
!
?
!
*大人同士の殺し合いはOK
但し捕虜の扱いは人道的にね
教えて、偉い人
③無益な殺生を避けましょう
②お互いの愛をひたすら信じよう
①二ヶ国の和平条約を結べば無問題
どうすれば良いの
=チッ、チートかな⋮⋮⋮⋮
*サーヴァントは強いの
=ああ、子供には判らない大人の愛があるさ
*そこに愛は有るの
=OK
?
⑤時にはガツンと敵を痛め付けトラウマを植え付けろ
④昨日の敵は今日の友。慈悲の心を忘れずに
!!
?
自衛官と妻となった稀代の魔術師の大人の愛の物語
!
?
!
!
?
!
目 次 接触編
1 お久し振りです、閣下 ││
││││││││
!
│││││││││││││
6 よ っ、よ く ぞ 参 っ た な
ん
⋮⋮⋮⋮
││││││
│││││││││││││
!
5 鉄の逸物さ
す
4 二 尉 隊 列 後 方 に 炎 龍 で
⋮⋮⋮⋮済まん ││││││
3 メ デ イ ア は 俺 の か み さ ん だ
指揮を命ずる
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の
1
14
28
42
60
77
!!
!
!
?
接触編
が初めて目にする怪物達になす統べなく襲われて殺され、辺りのアスファルトは流れ出
銀座を行き交う人々はトロール、ゴブリン、オーク、ドラゴンなど当たり前ではある
る。
かつては人だった物が、今では只の肉の塊となり其処らかしこに投げ捨てられてい
上半身を喰い千切られる。そしてまた一人握り潰される⋮⋮⋮⋮。
構わず蹂躙し始めこの地の平和は破られた。ある者は棍棒で頭を割られ、またある者は
すると突然その門の中から人為らざる怪物達が跳び出し銀座を行き交う人々を辺り
通行人の中には映画のプロモーションかと思う者もいる。
道を塞ぐ様に現れた門に銀座を行き交う人々は何事かと思い立ち止まり様子を窺う。
そんな人々で溢れかえる銀座の真ん中に突如現れる門。
き交い賑わう銀座。
この太陽の照り返しも強くアスファルトも溶け出しそうな暑さの中、多くの人々が行
真夏の暑い土曜の昼前。
1 お久し振りです、閣下
1 お久し振りです、閣下
1
た血で赤黒く染まる。
さなが
逃げ惑う人々に襲い掛かる怪物の群は宛ら慈悲を持たない津波の様でもある。
怪物達が門を出終えた後には整然と隊伍が組まれた人とおぼしき軍勢が兵馬を進め、
怪物達が討ち漏らした生存者を探し、止めを刺しながら更に戦線を押し拡げ始める。正
に阿鼻叫喚の地獄である。
その軍勢は銀座中心部の掃討を終え、付近の死体を集め積み上げ骸の山に登りそこに
軍旗を立てて声高らかに宣言書を読み上げる司令官。
さかのぼ
﹂
!
東京に戻って直ぐに伊丹はある知り合いに連絡をして面会の日時の調整をして貰い、
陸上自衛隊に戻って来た。
令を受けその地で教鞭を取っていたが、二ヶ月後には原隊への復帰を命じられ市ヶ谷の
彼は休暇で訪れていた西日本にある冬木市で突如、あり得ない文部科学省への出向命
伊丹耀司、三十三歳。陸上自衛隊、三等陸尉。
話は遡る。
る
﹁我が帝国は皇帝モルト・ソル・アウグスタスの名に於いてこの地の征服と領有を宣言す
2
妻を連れて結婚の報告をしに行く事にする。
この伊丹の知り合いはかなり多忙の身であるが、他でもない伊丹が妻を連れての結婚
報告と云う事で様々な予定をキャンセルしてまでも伊丹との面会をスケジュールに捩
じ込んだのである。
閑静な住宅地の屋敷の門の前でタクシーを降りる伊丹とその妻。
入口脇に居る警護の警察官に本日の面会を告げて敷地内に入ると伊丹の知り合いに
付いている秘書がやって来て二人を屋敷内へと案内をし、とある部屋の障子の前で膝を
折り中の人物に声を掛ける。
伊丹が訪れた知り合いとは現与党の国会議員であり政府の閣僚でもある嘉納太郎で
﹁お久し振りです、閣下﹂
﹁久し振りだな、伊丹﹂
いが座って待っている。
松井が障子を開けると部屋の上座には着流しを着た伊丹よりもかなり年配の知り合
﹃おうっ松井、入ってもらえ﹄
﹁先生、お見えになりました﹂
1 お久し振りです、閣下
3
ある。
﹂
!
帯が付いた七桁の諭吉の束が伊丹にこんにちはをしてくる。
再び伊丹の元に渡された封筒の中身を渋々見る。
﹁おいおい、中身を見てから言ってくれよ。只の新聞紙かも知れないだろ﹂
﹁こっ、こんなに頂けませんよ
封筒の中身を察した伊丹は慌てながら嘉納太郎の前に封筒を押し戻す。
がある。
嘉納太郎は懐から封筒を取り出し伊丹の前に差し出す。それは封筒が立つ位の厚み
﹁ちょっと遅くなっちまったが俺からの祝いだ﹂
﹁そんな事は気にしないで下さい。閣下が多忙なのは判りますから﹂
﹁しかしお前さん達の式に顔を出せなくて済まなかったな﹂
さに嘉納太郎は驚く。
頭を下げるメデイアに人伝てで伊丹が外国人と結婚した事は聞いていたが、その美し
ひとつ
﹁伊丹の妻、メデイアと申します﹂
伊丹は隣で馴れない正座をしているメデイアを紹介する。
﹁有り難う御座います。こちらは俺の妻でメデイアと言います﹂
﹁先ずは結婚おめでとう、あと原隊復帰もな﹂
4
﹁ぐふっ
こんなに頂けませんよ
﹂
!
はぐらかす。
﹁散々な目ってなんです
﹂
﹂
﹁聖杯だよ聖杯。俺が知らねえとでも思ってんのか﹂
﹁何で閣下が聖杯戦争を知っているんですかっ
おおごと
!?
内
調
﹁もしかして公安とか内閣情報調査室とか動くんですか﹂
はいた。
云って深くは追求して来ない。確かに警察の捜査が緩いと聖杯戦争中も伊丹も感じて
あれだけ人が死に物を破壊されているのを警察が不審に思わずにはいないし、かと
?
?
力も関わらなきゃ無理ってぇもんだぜ﹂
それこそ国家権
伊丹は嘉納太郎が聖杯戦争の事を言っていると感じたがまさかとは思いつつそれを
﹁処で伊丹、お前さん冬木市に居るとき散々な目に遭ったみてえだな﹂
前以て嘉納太郎が出前を頼んでいた特上の寿司が届き、食べながら会話が進む。
メデイアと二人で深々と頭を下げる。
﹁⋮⋮⋮⋮では、有り難く頂きます﹂
﹁年上からの祝いは素直に受け取っておくもんだ﹂
!
﹁なあ伊丹よ。あんな大事を一つの宗教団体で秘匿出来ると思うか
1 お久し振りです、閣下
5
﹁まぁ、参加したお前さんにだから言うがそう云うこったな﹂
伊丹は聖杯戦争が60年に一度の厄介な行事として政府に知られている事に驚きを
露にする。
﹁もしかして政府は過去の聖杯戦争も知っていたんですか
﹂
﹁で、お前さんのかみさんはその時召喚した相棒なんだってな。話は聞いてるぜ﹂
えた。
伊丹は昔から政府がその存在を認め秘匿していた事に驚くが、嘉納太郎は話を切り替
と保管されて引き継ぎがされているってもんだ﹂
だがそうじゃねぇ。今までの聖杯戦争に関する資料や報告書は官邸の金庫にしっかり
﹁ああ、明治時代の頃から政府としての公式な記録は残されているぜ。都市伝説みたい
!?
一部省庁の上層部だけなんだがな﹂
﹁表向きこの世界は魔術とかは認めちゃいねえが政府は把握しているぜ。まぁ、官邸と
伊丹は嘉納太郎から政府の立場としての言葉に或意味納得する。
駆られたり、あの儀式を世間に公表しない様にする為だ﹂
﹁あれだけの斬った張ったの世界に浸かったんだ。精神が病んだ奴が破壊や殺人衝動に
﹁何で残ったマスターに││││﹂
﹁それに聖杯戦争が終わった後も生き残った参加者達には公安が張り付いてるぜ﹂
6
そんな事まで知っているとは嘉納太郎の言葉通り公安や内調が動いている事を伊丹
は確信する。
﹂
代の魔術師と伝えられてもいるんですよ﹂
﹁ええ、俺が召喚したのは魔術師のクラスのサーヴァントとです。ギリシャ神話でも稀
﹁さーぶぁんと
嘉納太郎はメデイアに話を振る。
?
お前はあれを止めちまったって言うのか
﹂
!?
の立場の嘉納太郎が驚き出した。
伊丹は何当たり前の事を聞いているのかと思いサラリと答えるが、政府関係者としと
﹁何だと
!!
﹁メデイアが肉体を持つ事ですよ。あとは聖杯の機能停止ですかね﹂
聖杯が願望機である事を知っている嘉納太郎は興味に駆られ伊丹に聞きただす。
?
触れた感じが致しました。ええ、その優しさですわ﹂
のろ
﹂
﹁始めは宿を取る為の方便で許嫁としていましたが、日を重ねるに連れ伊丹の優しさに
た立場じゃねえんだがな﹂
﹁で、メデイアさん。オタクのこいつのどこに惚れたんだい
まぁ、俺も人の事を云え
﹁サーヴァントです。使い魔って事で先程言われた相棒ですよ﹂
?
﹁惚けてくれんなぁ∼。結局伊丹、残ったお前さんは何を願ったんだ
1 お久し振りです、閣下
7
﹁えっ
いけませんでしたか
?
﹂
?
﹂
を叶えるだけです。実際、聖杯を人間を間引く為に使おうとした輩も居たんですよ
それに比べれば何て事無いじゃないですか
!
!
今言ったのはお前さんが馬鹿な事に聖杯を使わなかった事への
!
お前さんとかみさんの武勇譚を聞かせてくれねえか﹂
!
生の聖杯戦争の話を聞き嘉納太郎は興奮を露にする。
伊丹は休暇を当てて冬木の同人誌即売会に出向いた処から話をし出す。
礼だよ
﹁あれは結婚祝いだ
﹁もうお祝いは頂きましたが││││﹂
伊丹は分厚い封筒を擦りながら嘉納太郎に話す。
るぜ﹂
なあ伊丹よ、困った事があったら言ってくれ。世界を救ってくれた礼代わりだ、力にな
﹁世界の危機を救った隠れた英雄って訳か⋮⋮⋮⋮英雄様を無下には出来ねえよなぁ。
郎。
この世を地獄に変える事も出来る聖杯が伊丹の手に渡った事を天に感謝した嘉納太
!
﹁ちょっと待って下さい 聖杯は人の善し悪しを選びませんよ。勝ち残った者の願望
う出て来ないのか⋮⋮⋮⋮﹂
﹁参ったなぁ⋮⋮⋮⋮いやな、政府も今後あれに一枚噛もうとしていたんだが聖杯はも
8
﹁まあ、お前さんがかみさんと無事に居られたのが何よりだな。その話を内調で話して
くんねえか。お前さんの生の語りを記録として残さにゃならんからな。そんときゃあ、
追って知らせるよ﹂
最後に嘉納太郎は伊丹に言って良いのか悪いのか迷った挙げ句、話せなかった事があ
る。
︵ なあ伊丹よ、入院中のお袋さんに結婚の報告位してやんな⋮⋮⋮⋮ ︶
東京に戻ってからと云う物、メデイアはギルガメッシュを連れ都内を回り霊気の集ま
る所を調べ回り、皇居が一番霊気が集まる所と判り、ちょこちょこと皇居周辺に出掛け
本当に良い霊気が集まっているわ
流石は二千六百年以上
!
出している。
続く皇国だわ。﹂
いざとなったらここに陣地をつくるわ。ええ、結界を張るわ
!
だただ感心する。
ギルガメッシュの言葉など聴こえないメデイアは東京を護り皇居に集まる霊気にた
﹁メデイアさん、もう聖杯戦争有りませんから﹂
!
﹁ここの霊脈が集まる場所は最高じゃないの
1 お久し振りです、閣下
9
﹂
﹁天海大僧正は素晴らしい仕事をしたわね。嘗ては徳川幕府を護る為、そして帝都を護
り今の東京を魔力の力で護り続けて居るのよ
位置しているのは徳川家康公を神と奉る日光東照宮がある。
で結んでいくと、皇居を中心とした五芒星や北斗七星の形になる。更には皇居の真北に
メデイアは地図に今までのお詣りをしたお不動、神社仏閣をマークしてそれぞれを線
!
えしゃく
﹂
しかし珍しいよな、外人さんのパワースポット巡りって﹂
!?
﹁俺なんて目が合う度にあの美人さんから会釈されるぞ
!
﹁本当かよ
居に集まっているって言っていたぞ﹂
﹁ああ、俺は気になって話し掛けたら都内のパワースポットを巡っていて、その霊気が皇
﹁そうそう、良く皇居の周囲を散策して居るな。しかし目立つ二人組だよ﹂
﹁最近良く見掛ける外人のカップルが居るよな﹂
皇宮警備隊の中でも話題にあがっている。
訳がない。
そんな度々皇居の周辺を散策するメデイアとギルガメッシュが周囲の目を惹かない
た。
メデイアはお詣りをした所に魔術を仕掛け、いつでも魔術結界を張れる様にもしてい
﹁こんなに霊力で首都を護っているのは日本位だわ∼﹂
10
﹂
!
新橋駅に伊丹とメデイア、そしてギルガメッシュがゆりかもめに乗り換える為に小走
真夏の暑い土曜の昼前。
そんな平和な日常を過ごす伊丹達。
彼等の 拠 となる。
よりどころ
こうしてメデイアの皇居巡りとギルガメッシュのデイトレーディングと企業運営は
をしている企業かは今は未だ知らされてはいない。
Of Hero商事︾とされたが、勿論伊丹もメデイアもこの胡散臭い会社が何
株の売買で纏まった金を得たギルガメッシュは起業をし出す。その社名も︽King
キル︽黄金律︾が加わり底値の株がストップ高に成る程である。
伊丹と共に東京に来た彼は株のデイトレーディングを始めたのである。彼の持つス
い。
メデイアと行動しているギルガメッシュであるが、何もせずふらついて居る訳ではな
﹁くっ、羨ましいなお前は
1 お久し振りです、閣下
11
りで改札を抜ける。
何かが一瞬、伊丹の視界の端を通る。
伊丹は連絡通路の窓に付いた汚れか何かかと思いそちらに目をやると、信じられない
ワイバーンか
有り得んだろ
︶
物を視界の中心に捉える。新橋から離れた銀座上空から此方に向かって飛んでくる翼
なんだよありゃ
伊丹は目を凝らして観ると確かにドラゴンの上に人らしき物を確認した。
すると伊丹はかなりズレた事を言い出す。
﹂
寄 り に
!!
竜である。
︵ おいおいおいおい
!?
︵ 伊丹さん、あのドラゴンは雑種に使役されていますよ ︶
その念話にギルガメッシュも加わる。
︵ あらまっ、珍しい。ドラゴンですわね ︶
するとメデイアが念話で然り気無く答えて来る。
?
﹁不 味 い ぞ、本 当 に 不 味 い ぞ 夏 の 同 人 誌 即 売 会 が 中 止 に な っ ち ま う よ
よって何でこの日なんだ
!
る警察官に陸上自衛官の身分証を見せ二重橋の攻防に身を投じるのである。
即売会が中止になるのを阻止する為、メデイアとギルガメッシュを連れ新橋の交番に居
悪態をつきながらも尋常ならざる物を見て銀座周辺の状況を想像した伊丹は同人誌
!!
!
!
12
1 お久し振りです、閣下
13
後に二重橋の英雄として全世界に名前が知れ渡る事を今の彼は知る由もない。
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる
勢に蹂躙され想像が着かない程の犠牲者を更に増やす事になる。
半蔵門前に集まる避難民。しかし半蔵門が開けられない限り彼等はここで異界の軍
!
﹂
!
︵ 耀司様 このままでは民間人の犠牲者が増えますので増援が来るまでギルと一緒
この惨状に観るに見兼ねたメデイアとギルガメッシュが動き出す。
まで見て取れる。
二重橋に集まりつつある異界の軍隊には攻城の為の投石機や城門鎚を乗せた木甲車
し出す。
伊丹は半蔵門の皇宮警備隊の詰所に駆け込み、溢れ出す民間人の避難誘導の仕方を話
がぁーー
﹁だ ー か ー ら ー、民 間 人 を 半 蔵 門 か ら 皇 居 に 入 れ て 反 対 側 か ら 逃 が せ ば 良 い で し ょ う
14
次々と落としていく。地上にいる敵兵士群には直径数メートルのヘカティック・グライ
メデイアは蝶のごとく浮遊をして纏わせた円環からビームを竜騎兵へと浴びせ掛け
︵ この状況じゃ仕方が無いな、頼んだぞメデイア ︶
に暴れさせて頂きますわ ︶
!
アーを放ち異界の軍勢をことごとく消し炭に変えていく。
しかも戦う場所は霊気が集まる皇居で有る為、宝具級の攻撃を放っても魔力の事を考
えずに次々と放てる。
︵ やはり私が見込んだ霊地。魔力全開で撃ち放題なんて快感ですわ∼ ︶
ギルガメッシュはメデイアから送られる情報を元に何処に槍剣を射出をすれば良い
のか指示を受けて自らの背後の空間から数多の槍剣を浮かび上がらせ雨あれと攻撃を
仕掛ける。
粛々と避難が始まる。
指揮の系統から外れた警察官や有志の民間人が避難の誘導に当たり大きな混乱も無く
の籠城を認められ、開け放たれた半蔵門に避難して来た民間人が我先にと殺到するが、
半蔵門にいる皇宮警備隊の警部は皇居の住人の上の方から半蔵門の解放と皇居内で
るとして公表せざるを得なかった。
来ない処置をし、鮮明でない物のみ暈しを入れ公開させ、自衛隊や警察のドローンであ
トに上げられた動画を全てチェックし、鮮明に録られている物は削除対象として公開出
しかしこの大活躍が一般人の携帯動画で録られたりしたが、後日政府はインターネッ
こうして増援が来るまでの間、メデイアとギルガメッシュは奮戦をする。
﹁フンッ、異界の雑種が⋮⋮⋮⋮我に平伏せよ﹂
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
15
16
桜
田
門
作戦指揮所となった半蔵門脇の詰め所の伊丹の元に傍の警視庁から機動隊の増援や
市ヶ谷から来る陸上自衛隊の情報が入りだす。
異界の軍勢は狭い二重橋で身動きが取れない程に詰め寄せ退く事が出来ない程に集
中しだす。それでも城門鎚で門を突いたり、投石機で大きな石榑を投げ込んで来る。
警察官の拳銃や催涙弾等の装備では敵を撃退する迄には至らない。しかし彼等警察
桜
田
門
官は民間人に被害が出ない様に精一杯粘っている。
そこに警視庁から機動隊の増援が、更には市ヶ谷から攻撃ヘリのAH│64D ア
メ
デ
イ
ア
パッチ・ロングボウが駆けつけワイバーンに銃撃を浴びせまくり次々と敵の竜騎兵を落
としていく。
アパッチ・ロングボウが攻撃をするに当り未確認の浮遊物体があり、それはさながら
民間人を守り敵軍に矛先を向けている事が明白な為、メデイアに流れ弾が当たらない様
に攻撃をしていた。
装輪装甲車で現地に到着し出した市ヶ谷からの陸上自衛隊は迫り来る敵軍に雨あら
れと銃弾や擲弾を撃ち込む。次々と倒れていく敵軍は隊伍を乱し崩れ始める。今まで
防戦一方だった機動隊か催涙弾を撃ち込み、
﹃検挙 ﹄の一声で一斉に前に進みだし敵軍
の兵士を捕まえ始める。
圧倒的な火力の戦力差の前に隊伍を崩され敗残の兵となった異界の軍勢はゲートの
!
中へと退いて行ったのである。
銀座事件の後、北条重則総理は国会で日本と異世界は門で繋がれた陸続きの土地のた
め日本国内と定義をし、今回の異世界からの侵略者に対してその責任者を逮捕し賠償を
求める為に自衛隊を門の中に派遣をする特別地域自衛隊派遣特別法案を提出した。
一部左派系野党からの反対があったが法案は衆・参議院ともに可決され特地への自衛
隊派遣が決定された。
異世界からの侵略者により憲法九条は日本を侵略してくる相手には全く意味を持た
ない事も当然の事ながら露呈し、今まで憲法九条をお題目の様に唱えていた左派系野党
はその支持率を大きく失う事となる。
そして伊丹は二重橋で民間人を救った英雄として防衛大臣から賞詞を受け二尉へと
昇進をした。
そんな伊丹は特地派遣隊の第一陣として門を潜る事になる。
﹂
!
きたい
﹂
﹁聴けば何が居るかも解らない蛮地へ向かわれるなど⋮⋮⋮⋮どうか我も帯同させて頂
﹁耀司様、私達をお連れになっては下さらないのですか
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
17
!
﹁駄目だ駄目だ、二人とも 自衛官でもないし連れて行ける訳ないだろ。無理
言うなよ﹂
待つ事数時間、件の相手からのコールバックが掛かる。嘉納太郎である。
本人が出ない為、留守伝に用件を残し電話を切った。
る人物に電話をする。
行かせろ、無理だの押し問答の挙げ句、伊丹は少し考え出し、徐に携帯を取り出しあ
!
﹃で、お前さんの用件って何だ
﹄
伊丹は先ず自身の特地行きを切り出す。
⋮⋮⋮⋮﹄
?
﹃そう云やぁ観たぜ、公安が録っていた二重橋での映像。お前さんの奥さん大活躍だっ
とんでもない伊丹からの電話に暫し考え込む嘉納太郎。すると突然話を切り換える。
﹃はぁ∼
﹁⋮⋮⋮⋮うちのかみさんとサーヴァントのもう一人が連れて行けって⋮⋮⋮⋮﹂
暫し言い淀む伊丹であるが思い切って話の本題を切り出す。
﹃ああ、名簿にお前さんの名前があったよな﹄
?
?
﹁閣下は俺が特地派遣隊なのはご存知ですか
﹂
﹁いえ、有り難う御座います。それにこちらこそ突然に済みません﹂
﹃わりいなぁ伊丹、待たせちまって。二尉に昇進おめでとう﹄
18
たな。それともう一人も頑張っていたよな。そいつかい
﹁はい、ギルガメッシュといいます﹂
またまた電話口で悩む嘉納太郎。
﹃う∼ん⋮⋮⋮⋮﹄
﹄
?
約束はチャラだぜ﹄
﹃⋮⋮⋮⋮解った。二人の件は防衛大臣の俺が直々に体裁を整えてやる。これで以前の
﹂
!
装甲車が門の中を通り特地へと向かう。
本位慎三総理による出陣式の後、派遣隊は74式戦車を先頭に派遣隊員を乗せた装輪
も紛れている。
銀座の門の前に整然と並ぶ特地派遣隊隊員。その中にはメデイアとギルガメッシュ
られ伊丹と共に特地へと赴く事になった。
こうしてメデイアとギルガメッシュは防衛大臣直轄の特別任務をもつ肩書きが与え
﹁その点はご心配なく。俺より頑丈ですから﹂
﹃但しだ、身の安全までは保証できんぞ﹄
﹁有り難う御座います、閣下
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
19
門を潜り抜けた派遣隊が見たものは夜ではあるが辺り一面に草が茂る丘陵であり、門
は丘の頂きに存在している。銀座とは全く異なる風景。予め調査をして地形を把握し
てはいたが改めて見てみると異世界に来た事を実感する伊丹。
丘の麓には帝国軍が焚いた松明が無数に見え隊伍を組んで向かって来るのが見て取
︵ 今はあの荷電粒子砲みたいな奴は勘弁だな ︶
したのに ︶
︵ あら残念。またヘカティック・グライアーを打ち込んで差し上げようと思っていま
伊丹からの注文にメデイアは悔しがる。
︶
︵ メ デ イ ア も ギ ル も 手 を 出 す な よ。或 意 味 敵 の 強 さ を 計 る 為 で の 戦 闘 で も る か ら な
﹁この丘は霊脈集まりし地って所かしら。合格点だわ﹂
ない所から浮遊を始め辺り一面を見回す。
愚痴る伊丹もメデイアとギルガメッシュを連れて下車するとメデイアは人目の着か
﹁敵さん待っていたんだ、ご苦労なこった﹂
ランプから下車し部隊を展開させる。
すると先頭の74式戦車から敵襲の報せがあり、装輪装甲車から隊員達が即座に後部
︵ とうとう来ちまったんだなぁ ︶
20
れる。
展開を終えた74式戦車と普通科の隊員達は今か今かと攻撃命令を待っている。7
4式戦車の主砲有効射程に帝国軍が差し掛かった時にその主砲が火を吹く。
それでもかい潜って来る帝国兵士もいる為、普通科の隊員達の小銃が火を吹き迫り来
る帝国兵士をなぎ倒して行く。まさに一方的な蹂躙である。
こうしてアルヌスの丘は血に染まって行く。
この一戦を観ていたギルガメッシュは現代戦の用兵や戦術に興味を持ち出す。
帝国兵士の六割を失う事となった今回の出征で帝国の元老院では皇帝に対し責任の
追求と今後の兵力の回復の議題を持ち出す。武断政治を行ってきた帝国にとり、この壊
滅的な戦力の減衰は周辺諸国に対する帝国の立場を危うくさせる。
しかも自衛隊の逆侵攻により帝国内の門周辺の聖地アルヌスの丘を占領され未だ奪
還の目処が立っていない。
それに対しモルト皇帝は
カーゼル侯爵はモルト皇帝に詰め寄る。
﹁失態でございましたな、陛下﹂
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
21
﹁百戦して百勝ともいかぬまい﹂
と言い、将官の責任のみならず己が責任の所在を曖昧にした。
しかしアルヌスの丘を奪還しようとし撃退され生還した元老院将官の中には今まで
見たこともない武器を魔導によるものと捉え、その破壊力に警戒を抱く。
帝国の威信を掛け門周辺のアルヌスの丘を取り戻さねばならないが兵員が揃えられ
ない今、モルト皇帝はある決定を下す。
帝国や属州、そして緒王国があるファルマート大陸から侵攻勢力の一掃の為、周辺国
や属国に援軍要請をして﹃連合緒王国軍﹄の召集を決めた。
﹂
門から侵攻して二日で撤退を開始し七日後にはアルヌス周辺から駆逐された状況に
も関わらず兵馬を進めるモルト皇帝にカーゼル侯爵は言上する。
﹁陛下、アルヌスの麓は人馬の躯︿むくろ﹀で埋まりましょうぞ
この宿営場所は彼等が今まで戦って来た経験から弾き出された敵との距離を置いて
ルヌスの丘が一望出来る所に集まり宿営地を作る。
れた帝国の属国や周辺国二十一ヶ国からなる十万を動員した軍隊である。それが今、ア
召集を掛けられた連合緒王国軍はファルマート大陸を守ると云う大義名分で集めら
?
22
のものである。それは弓弩や魔導攻撃の射程距離、騎馬隊の脚の速さなどである。
本陣には顔見知った各国の王達が集まり雑談に華が咲く。
﹁おお、デュラン殿﹂
﹁これはリィグゥ殿﹂
エルベ藩王国のデュラン王とリィグゥ公国のリィグゥ公王は隣国の仲であり、その
リィグゥ公王が気軽に話し掛ける。
︵ おかしい。皇帝は何を考えている⋮⋮⋮⋮ ︶
めたのかを考え始めた。
だけの簡易な防御陣地。その様な敵に対しデュラン王は何故皇帝が連合緒王国軍を集
アルヌスの丘に陣取る敵兵は多く見ても一万足らず。しかも丘の斜面に豪を掘った
し他の王達は三十万を号する兵力を揃え皆が楽観的である。
この帝国の司令官不在に善からぬ怪しさを感じるエルベ藩王国のデュラン王。しか
が離れられないと各王に伝え去っていく。
現れない。暫くすると帝国の伝令が到着し、帝国軍は丘の敵と対峙している為、司令官
本陣には各王国の王が一堂に介しているが連合緒王国軍を招集した帝国の司令官が
﹁この度の戦い、連合緒王国軍は三十万を号しており鎧袖一触ですな﹂
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
23
日の出と共に隊伍を組む連合緒王国軍。そこで目にしたのは敵の簡易な陣しか見え
ない丘。丘に居る筈の帝国軍の姿が全く見えない。
そして丘の麓で隊伍を組んで前進をしようとしているのは連合緒王国軍の前衛を名
乗り出た三王国、アルグナ王国軍、ムドゥワン王国軍、リィグゥ公国軍である。
﹂
帝国側の言っている状況と違う事にリィグゥ公王は怒鳴る。
﹁帝国軍は何処に居るのだ
ろとも吹き飛ばし将兵の身体は四散していく。
!?
目の前の光景に驚愕するデュラン王。
アルヌスの丘が噴火しとるのか
!
この日の戦いは特科隊の一度の一斉射の砲撃を受けた連合緒王国軍の前衛が全滅し
ていく。
竜騎兵をもってしても丘の頂きには近付けない。次々と対空機関砲で撃ち落とされ
﹁なっ、なんとっ
﹂
亀甲陣を組むが全く意味を持たない。亀甲陣を組もうが組むまいが榴弾砲が大地も
ンに入って居るのである。
彼等の感覚では未だ敵の射程外なのであるが、自衛隊側からすると既に敵はキルゾー
端、爆音と共に兵達が吹き飛ばされて行く。
アルヌスの丘の麓に各王国の軍勢が隊伍を組んで丘の頂きに向かい前進を始めた途
!?
24
終了した。
二日目の攻撃でも帝国軍不在のまま連合緒王国軍の攻撃が始まるが、自衛隊には肉薄
出来ず悪戯に兵を失うばかりであった。
もはや連合緒王国軍とは云え無くなる程に数少なくなった兵力に残った王達が撤兵
すべきとの発言をするが、冥府へと散って行った諸国の王達と兵達の無念を晴らすまで
は退く事はしないとデュラン王は言い放つ。
後詰めとして最後まで残っていたデュラン王麾下のエルベ藩王国は未だ健在である。
﹂
!
進退極まったデュランの付近にとうとう砲弾が炸裂し、彼は吹き飛び宙を舞い意識を
しているしかなかった。
彼は自らの軍勢がただただ銃弾に倒れ、砲弾により吹き飛ばされるのを目の当たりに
の兵が絡み先には進めない。
を下し、自身も馬での突撃をするが、防衛ラインに張られている鉄条網にデュランや他
すると突然辺りが昼間の様に明るくなり危機を察したデュラン王は全軍に突撃命令
の照明弾を放つ。
暗視装置で連合緒王国軍の動きを把握している自衛隊は敵を十分に引き付け幾つも
残ったデュラン王と他の王達は兵を纏め隊伍を組み物音を立てず静かに軍を進める。
﹁夜襲じゃ、これなら敵に気付かれずに肉薄できるぞ
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
25
失ってしまう。
翌朝日が昇り、昨晩戦場となった屍が累々とする丘陵を敵国の負傷兵探しがてら彷徨
く伊丹とメデイア、そしてギルガメッシュ。
上官の檜垣三佐から呼び出しを受けた伊丹は自衛隊が特地内の更なる調査をする事
﹁そんなもんなのかねぇ⋮⋮⋮⋮嫌だ嫌だ﹂
く。
伊丹はそんな上官の下では戦いたく無いし、部下にもそれを押し付けたくは無いと呟
よりは敵に一矢報いたいと考えた敵将が恐らく居たのでしょう﹂
す。損耗率とかの数字ではなく情で動きますよ。昨晩も散って逝った仲間の為に退く
﹁そうです。自衛隊側は現代戦ですがこの蛮地の将兵には古いですがこの戦い方なので
﹁私やギルにはこの現状、何故ここまで戦うか解る様な気がします﹂
伊丹の話に異を唱えるメデイアとギルガメッシュ。
﹁よくもまあこんなに⋮⋮⋮⋮銀座の時と合わせて十二万人の戦死者だろ⋮⋮⋮⋮﹂
26
を聞かされる。
﹁はぁ、調査ですか。良いですね﹂
﹂
﹂
他人事の様に答える伊丹は何故自分がここに呼ばれたかなど考えてはいない。
﹁君が行くんだ
!
﹁俺一人でですか
?
﹂
!
!
﹁伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる
﹂
現地民と友好関係を持てる様にせよとも伊丹に釘を刺し話を繋ぐ。
伊丹はやっと呼ばれた訳を理解する。檜垣三佐は今後の活動に協力して貰える様に
だっ
﹁違うっ 深部情報偵察隊を六個編成して、その内の一つを君が指揮をするん
2 伊丹耀司二等陸尉、第三偵察隊の指揮を命ずる!
27
!
伊丹二尉に敬礼
﹂
3 メデイアは俺のかみさんだ⋮⋮⋮⋮済まん ﹁気を付け
!
偵
皆様、宜しくお願い致します﹂
﹁メデイアと申します。生まれはコルキス、今のジョージア︵ グルジア ︶西部ですわ。
に目を剥く。
伊丹の三歩後ろから前に出て来たローブを羽織るメデイア。隊員の皆がその美しさ
許可を得て我々と行動を共にする。ほんじゃ、メデイアから﹂
﹁え∼皆に紹介したい人が居る。この二人は自衛官ではなく防衛大臣からの特務で特別
更に伊丹は話を繋ぐ。
まって、隊員の中には彼に命を託して大丈夫なのだろかと思う者まで居る。
何を話して良いか解らず尻切れ蜻蛉の様な自己紹介に彼の優柔不断そうな態度も相
﹁あ∼、第三偵察隊の指揮を任せられた伊丹耀司です。え∼⋮⋮⋮⋮﹂
顔も数名いた。
伊 丹 は 集 め ら れ た 第三偵察隊 の 面 々 の 前 で 自 己 紹 介 を 始 め る。 そ こ に は 知 っ た
三
桑原曹長の声が響き整列した隊員達が伊丹に向け敬礼をし、伊丹も皆に答礼をする。
!
28
﹂
倉田三曹が思わず呟く。
﹁エッ、エルフ耳
ギルガメッシュを寸での処で後頭部を叩く伊丹。
有ろう、雑││││﹂
﹁皆の者、我はメソポタミアの王ギルガメッシュである。余の顔を見据えるとは不敬で
来た迷彩服を着ているギルガメッシュ。
一礼をして伊丹の後ろに下がるメデイア。それと入れ替わりにズンズンと前に出て
!?
隊員達は員数外の怪しい二人の事を伊丹に聞き始める。
﹁二尉、戦闘に捲き込まれた時の彼等の保護はどうするんですか
﹂
﹁基本しなくて良いかな。彼等はここの誰よりも強いから﹂
﹁へっ
?
﹂
﹁二人は自分の身を自分で守る術を持っているし俺の指示にも従ってくれる。なぁギル
と手ぶらの男性の二人を守らなくても良いとは如何な事なのかと思う。
伊丹はさも当たり前の様に答えるが、隊員からすると日本人では無いか弱そうな女性
!?
﹂
﹁皆すまん、こいつの日本語たまに変なんだよ。許してやってくれ﹂
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 29
伊丹はギルガメッシュの目の前で手をグーパーグーパーと握ったり開いたりして見
?
﹂
せる。それを見たギルガメッシュは過去のトラウマを思い出したかの様にみるみる青
伊丹さんのお言葉は絶対です
ざめ震えだし伊丹の言葉に頷く。
﹁はっ、はい
!
思い浮かべる。
?
﹁貴様、我を知っておると言うか 我はKing Of Hero商事を
すると態度が急変するギルガメッシュ。
る恐る聞き出す。
経済新聞や経済雑誌で今急上昇の企業として取り上げられたのを見た津戸大輔は恐
﹁ギルガメッシュさん。もしかして会社経営とかなさってませんか
﹂
財テクが趣味の戸津大輔はギルガメッシュと云う名前を聞き心当たりのある人物を
﹁まっ、皆。そう云う事だから宜しくしてね﹂
!
30
える﹂
﹁自分は戸津大輔陸士長であります
﹁原初の理を知るガリガリくんの当たり棒だ。しかも五本
﹂
ギルガメッシュはポケットから五本の木の棒を出し戸津大輔に渡す。
﹁貴様には特にこれを遣わそう﹂
﹂
片手間で経営しておる。ふむ、気に入った。貴様、名を何と云う。我に名乗る栄誉を与
!
!
!
﹁きっ、貴重品だ⋮⋮⋮⋮﹂
第三偵察隊には七三式トラック、高機動車、軽装甲機動車が割り当てられ、三偵の面々
﹂
は各自割り当てられた車両へ乗り込む。そんな中メデイアは一人残り皆を見送る。
?
下らない事言って無いで出発するぞ
﹂
!
防塞の設計段階からのアドバイザーとなったのである。
メデイアは門を中心としたアルヌスの丘に防御に優れた六芒星型の防塞を造る様に
ヌスの丘の麓までを護衛なしで歩き回り、霊脈の流や集まりを調べ上げ呪文を施す。
らの依頼を受け強固な防塞を造る為に、撃ち落とされた翼竜の死骸が未だ横たわるアル
狭間陸将はメデイアの事を嘉納太郎防衛大臣から聞かされており、彼女は狭間陸将か
﹁さあて、この丘の調査を致しますか﹂
車両三台の出発をブンブンと手を振り見送ったメデイア。
﹁おい倉田
!
﹁え∼、残念⋮⋮⋮⋮あんな美人さんと仕事出来ないなんて││││﹂
﹁彼女には彼女にしか出来ない仕事をして貰うんだ。だから暫くは同行しないよ﹂
伊丹の乗る高機動車の運転をする倉田三曹の質問に伊丹が答える。
﹁あれっ、隊長。メデイアさんは一緒じゃないんですか
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 31
ヘルメットを被り図面を広げるメデイアのアドバイスの下、連合緒王国軍を敗走させ
てからの三週間は施設科が昼夜を問わず物理的、魔導的にも優れた門を中心とした鉄筋
コンクリート製の防塞を突貫工事で造り出した。
およ
帝国皇帝モルトは内務相マルクス伯爵から連合緒王国軍の詳しい被害状況の報告を
受ける。
﹁これで暫くはアルヌスに屯する敵を足止めをしておけるだろう﹂
たむろ
流し込むよう焦土作戦をマルクス伯に指示を出す。
そして皇帝はアルヌスの丘から帝国に繋がる街道沿いの村を焼き払い、井戸には毒を
いとも限らない。
けて来たが為、帝国の存在を為らしめる兵力の大きな損失はいつ反旗を翻す国が現れな
圧倒的武力を以て近隣国に侵攻し併合、若しくは帝国に有利な不平等な条約を押し付
軍の兵も減らせてしまえば此方も安泰﹂
﹁ふむ、まあ予定通りだな。帝国の兵力が減った今、いつ牙を剥くとも解らぬ連合緒王国
を越えます﹂
﹁陛下、連合緒王国軍の人員の損害は戦死者凡そ六万、負傷者や脱走兵を含めますと十万
32
﹂
﹂
そんな皇帝とマルクス伯のやり取りを遮るかの様な凛とした声が響く。
﹁陛下
その声の主は赤髪の皇女ピニャである。
﹁陛下は我が国の危機的状況を如何お考えか
歯に衣着せぬ鋭い口調にマルクス伯は圧倒されてしまう。
!
!
ます。﹂
噛みする。
ねいしん
物は言い様だな、佞臣め﹂
実戦経験が無いとは云えピニャは自らが指揮をする騎士団を兵隊ごっこと言われ歯
くれはせぬか﹂
﹁帝国は丘に屯する敵をよく知らぬ。そなたの騎士団が兵隊ごっこで無ければ見て来て
皇女に話す。
ピニャ皇女の話は帝国の兵力の回復にまで及び、些か辟易としたモルト皇帝はピニャ
﹁結局は奪われたままだ
!
﹁確かに連合緒王国軍に損害は出ましたがアルヌスの丘に賊徒どもを釘付けにしており
額にうすら汗をかきピニャ皇女の鋭い問いに答えるマルクス伯。
!?
!
軍の件も陛下に報せたのか
﹂
﹁マルクス伯 聖なるアルヌスの丘には未だ賊徒どもがいる。先の連合緒王国
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 33
﹁承知致しました、陛下﹂
今日もいつもの様に第三偵察隊は特地内の情報の収集にの為に近隣の村々に赴く。
防塞の基礎建築が終わりメデイアも第三偵察隊と行動を共にする様になった。
先頭を走る七三式トラックには仁科一曹、富田二曹、古田陸士長が乗り、伊丹の乗る
高機動車には運転手が倉田三曹、助手席に伊丹、後部席には桑原曹長、黒川二曹、栗林
二曹、メデイア、ギルガメッシュが乗り込んでいる。
最後尾の軽装甲機動車には勝本三曹曹、笹川陸士長、戸津陸士長、東陸士長が乗り込
んでいる。
特地の青空の下、近隣の村を訪れるが出会うのは普通の人達ばかり。伊丹と同じ様な
趣味を持つ倉田は異世界の住人達に些かガッカリし、ファンタジーに出て来る様な姿を
した住人を期待していたと伊丹に話す。
﹂
?
﹁隊長はそんなの期待しないんですか
﹂
伊丹は倉田の好きなファンタジー娘を想像する。
﹁ファンタジー娘
﹁ファンタジーな娘は居ないんっすかねぇ﹂
34
?
﹁そうだなぁ∼、期待しなくも無いが俺はなぁエルフ耳が││││﹂
伊丹と倉田は同じ様な趣味を持つ者同士話が合う。
思わずメデイアが口を挟む。
﹂
﹁宜しかったですわね耀司様。耀司様の趣味に応えられる方が居らして﹂
倉田はメデイアの一言で彼女の容姿を思い出す。
﹁そうなんすっか、隊長はエルフ耳が⋮⋮⋮⋮あっ
!?
﹂
?
暫くの沈黙の後、高機動車内に隊員達の驚きの声が響く。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁メデイアは俺のかみさんだ⋮⋮⋮⋮済まん﹂
流石に伊丹が重い口を開いた。
勿論メデイアから答える訳にも行かず、伊丹共々黙り込んでしまう。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁もしかして隊長とご関係があるんですか
いつも然り気無く伊丹の傍に居るメデイアを思い出す倉田は話を繋ぐ。
﹁もしかしてメデイアさんって⋮⋮⋮⋮﹂
﹁どうした倉田││││﹂
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 35
﹁ええーーーーっ
﹂
どうかされましたか
!?
の声が入る。
﹃隊長
﹄
この余りにも響いた叫びにも似た声が前後の車両にも伝わり、無線を通して富田から
!
﹂
?
伊丹は桑原から渡された双眼鏡を覗き込み指示された方を見る。
﹁一本首のキングドラゴンですか
その視界には炎を吐く大型のドラゴンが空を舞っている。
鏡を覗き込む。
そんな最中、翌朝に伊丹達が目指す森の奥に煙が上がっているのを見付け桑原が双眼
日も傾き桑原曹長の意見具申で野営をすることに決め森の手前で野営地を探す。
村へと前進する。
コダ村を出た第三偵察隊は得た情報と地図を突き合わせ次の目的地であるエルフの
地に進む予定である。
いつもの様にコダ村に着き住民交流や近隣の情報を得るが、今日は脚を伸ばし更に奥
﹁いや、何でもない。後で話すから⋮⋮⋮⋮﹂
!
36
﹁おやっさん古いな∼。あれはエンシャントドラゴンって云うの﹂
あれが居なくなるまで森に隠れるぞ
﹂
齢五十の桑原曹長には知らない言葉ではあるが伊丹共々只ならぬ事態で有る事を想
像にする。
﹁野営は中止だ、中止
!
双眼鏡で眺める。
栗林ちゃん、一緒に見に行かない
﹂
?
貴方、もう一度指の骨を折られたい様ね﹂
!
青ざめるギルガメッシュとメデイアの不穏当な発言に彼女とギルガメッシュの間に
﹁ギル
その音に隊員達は一斉にメデイアに振り返る。
つかった様な大きな音を出す。
その音は普通の拳からは決して出ない様な、宛ら大型ダンプがコンクリートの塊にぶ
ギルガメッシュの頭にメデイアの鉄拳が全力で振り下ろされる。
﹁なんなら我と一緒に行きま││││﹂
そこにギルガメッシュが口を挟んで来る。
﹁あれの習性にご関心があるのでしたら隊長お一人でどうぞ﹂
伊丹の誘いを冷たくあしらう栗林二曹。
?
伊丹の指示の下、車両を森に乗り入れ隠し遠くから煙の上がるドラゴンが居る場所を
!
﹁しかし何にも無い所を襲うかねぇ
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 37
何が有ったのか恐ろしい想像しか出来ない隊員達。
メデイアは伊丹にも注意を促す。
恐怖に固まる娘を父は満面の笑顔を以て井戸に放り投げ娘の無事を祈る。
そんな娘の危機を見た父は炎龍の左目に目に矢を当て気を逸らす。
る。その光景に戦慄を覚え身体が硬直し迫る炎龍から逃げる事も出来ないで居る。
部屋を飛び出した彼女が見た光景は集落が焼かれ幼馴染みが喰い千切られる物であ
逃げる場所が無いと弓を手にする娘。
炎龍の出現に寝ている娘を起こした父は避難をする様に彼女に諭すが、炎龍相手では
は矢を放つが固い鱗には歯が立たない。そして焼かれ喰われていく。
森の住人であるエルフ達は逃げ惑うが炎龍が吐く炎に焼かれ喰われていく。ある者
エルフの住まうコアンの森を巨大な炎龍が襲う。
﹁はい⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お止め下さい﹂
﹁もう少し近くで見た方が良いか││││﹂
﹁耀司様。あの巨大な龍の強さも生態も解りませぬ故、危険な真似はお止め下さい﹂
38
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 39
そんな父の背後に炎龍の大きな顔が迫っている。彼女にはその後の出来事を知る由
も無い。ただひたすら井戸の底で立ち尽くすだけである。
ドラゴンも飛び去り上空の監視を厳にしながら煙の上がっていた所に向け車両を進
める第三偵察隊。
目的の場所に近付くにつれ焦げ臭さが車内にも漂う。
存在した筈の集落の入り口で降車し隊員を散開させ焼け落ちた集落の被害状況を確
認する。
辺りは消し炭になった家屋の跡らしき柱とそこに住んで居たで在ろう住人達。半長
靴の厚みがある靴底を伝って地面の温かさを感じる。
被害状況を伊丹に報告しに隊員達が集まり、およそ三十軒の家屋の跡が確認され死亡
者は推定百人とみられた。
伊丹は集落の中心に有る井戸の縁に腰を掛け、水を汲むために紐が付いている汲み桶
を井戸に投げ入れる。
すると乾いた音が井戸の底から響き伊丹を含めた隊員達が中を覗くと一人の人間ら
しき者が倒れているのを見付ける。
唯一の生存者の可能性が有るため伊丹は井戸の底に降り一人の少女を救い上げる。
やっぱりケモノっ娘が居るん
全身は水に浸かっていた所為か体温が低くはあるものの呼吸はしている。
伊丹と倉田は彼女の耳に視線を注ぐ。
﹂
﹂
!
﹁倉田はエルフ耳萌えか
でしょうね。期待しちゃいますよ
﹁いえっ 自分はケモノ娘の猫耳です
﹁こらっ
見せもんじゃないんだから
これだから男って
!
﹂
!
そんな伊丹に黒川二曹は冷たく伊丹の趣味を交えた答えをする。
﹁だってほらっ、俺って人道的じゃん﹂
伊丹は当然の事として保護する旨を黒川二曹に話す。
す。
伊丹の傍に来て敬礼をする黒川二曹は、救助したエルフの少女の処遇について話し出
﹁ドラゴンは人を襲うっと﹂
伊丹は調査日報に書き記す。
を被せ高機動車へと運び濡れた衣服を脱がせブランケットを巻く。
栗林二曹と黒川二曹の二人の女性隊員とメデイアは救助したエルフの娘にポンチョ
!
そんなやり取りをしている男性隊員を栗林二曹が一喝して追い払う。
!
!
?
40
・
・
・
・
炎龍が現れただと
・
・
﹂
﹁隊長は特異な趣味をお持ちですから、エルフ耳に惹かれたのかと思いました﹂
﹁なっ、なんと
!?
避難となる。
村長はみるみる青ざめ村中に炎龍出現を報せ村民はパニック状態となり、村を捨てての
く巨大な龍を見た事をイラストを交えながら片言の特地語で知らせる。それを知った
第三偵察隊はアルヌスの丘の駐屯地に戻りがてらコダ村に寄り、伊丹が村長に炎を吐
!
こうしてコダ村の住人達の村を捨てての逃避行が始まった。
れてしまい、結局は伊丹達の保護下に置かれた。
うとしたが、人とエルフとでは生活習慣も違いエルフの生態も解らない事から拒否をさ
伊丹は唯一の生存者であるエルフの娘を保護した事を告げ、コダ村の村長に引き渡そ
られん﹂
﹁人やエルフの味を覚えた炎龍は再び辺りを襲い出す。儂らはもうここには住んでは居
3 メデイアは俺のかみさんだ…………済まん 41
4 二尉
隊列後方に炎龍です
!
に留まったレレイ。中には女性と思われる斑服を着た者も居る事に気が付く。
そんな渋滞の中を斑服を着た異国の言葉を話す者が何やら指示を出しているのが目
は車軸が折れた馬車が塞ぎ渋滞を起こしていた。
仕方無くレレイは馬車に浮遊の魔法を懸けて僅かに浮かせ動き出す。しかし村の道
過積載により馬車はピクリとも動かない。
レレイ・ラ・レレーナは荷馬車に大量の書物や魔導に関わる道具を積み込む。しかし
コダ村に住む魔導師カトーとその弟子である少女、
人達の避難を遅らす。
には家財を積み過ぎて車軸が折れてしまう馬車もある。そんな馬車が村の道を塞ぎ村
炎龍出現の報せを聞いたコダ村の住人達は各々が荷馬車に財道具を積み始める。中
!
馬車から投げ出された親子は道端で倒れ込んでいるが、既に伊丹達が怪我人の状態を
そこには脚が折れ暴れる馬と横倒しとなり道を塞ぎ荷が散乱した馬車がある。
レレイは渋滞の先頭の状況を確めるべく馬車を降り荷馬車が列なる先頭へ向かう。
﹁お師匠、ちょっと見て来る﹂
42
確認しメデイアがひっそりと治癒の魔術を懸け回復させている。
倒れて意識の無い少女にメデイアが治癒の魔術を懸けているとレレイが傍に寄って
来る。レレイはメデイアが魔術を行使しているのが判り、メデイアもレレイから魔力を
感じた。
﹁もしかして貴女は魔術師なのから﹂
これは失礼したわ。可愛い賢者さん﹂
﹁私はレレイ。魔導師カトーに師事する賢者﹂
﹁あらっ
﹁ギル
グッジョブ
!
﹂
頭を下げるギルガメッシュに伊丹は握り拳に親指を立てる。
﹁伊丹さん、勝手に行動して済みません﹂
シュの持つ力を思い知った。
この状況を目の当たりにした伊丹以外の三偵の皆は口をアングリと開けギルガメッ
?
投げレレイは命の危機を救われた。
︶
それを見たギルガメッシュは暴れ馬に飛び乗り首をへし折り馬をどこか遠くに放り
場が無かった。
怪我の治癒をしていると突然馬が立ち暴れだす。身の危険を察したレレイだが逃げ
!
︵ この人達は私を助けた⋮⋮⋮⋮
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
43
!
﹂
そんなギルガメッシュの人為らざる怪力振りを見せ付けられた隊員達は伊丹に詰め
寄り詰問する。
﹁たぁ∼いちょ∼、あのギルガメッシュって人、何者∼
﹁ああ、ギルの事ね。後で話すから﹂
られている訳では無い。列から落伍する者、せめて子供だけはと他人に託す家族。皆が
中には道脇に横転したり車軸が折れた荷馬車もある。全ての者が公平には生を与え
長の掛け声の下、一斉に荷馬車を押し出したりもしている。
前日の雨で道が泥濘、車輪が泥濘に嵌まれば三偵の隊員達やギルガメッシュが桑原曹
ぬかるみ
もその最後部が見えない。
照り付ける太陽の下、街道をノロノロと進む荷馬車や人の列は先頭に居る伊丹達から
どうにか村の道は通れる様になり村人達の荷馬車が村を抜けて主要街道に進み出す。
達何だろう⋮⋮⋮⋮ ︶
︵ メデイアさんは二尉の奥さんとか言うしギルガメッシュさんは暈されるしどんな人
行動を共にしている事をいぶかしがる。
隊員達は伊丹の指示通りに動いているがメデイアとギルガメッシュが第三偵察隊と
示を下す。
伊丹は適当に誤魔化しつつ今は目の前で起きている村人達の誘導を第一に行う様指
?
44
自分達だけで精一杯なのである。
伊丹の乗る高機動車にも妊婦と怪我人、それと身寄りを無くした子供達が乗ってい
た。七三式トラックにも定員オーバーの子供や老人を乗せている。
避難民達と歩みを共にしているメデイアが伊丹に念話で話し掛ける。
︵ 耀司様、私の魔術でこの状況を││││ ︶
︵ メデイア駄目だ。冷たい様だけど俺達は彼等の生活や習慣に介入してはいけないん
だ。俺達に出来る事はほんの少し手を貸すこと位なんだよ ︶
﹁二尉、骸骨の集団が避難民を助けているとの噂が流れていますので、確認してきます﹂
竜牙兵の行動が徐々に隊列の前方に噂として流れてくる。それを耳にした栗林二曹。
ちで見られる様になる。
に嵌まった荷馬車が出ると骸骨が無言で荷車を押し出すと云った奇妙な光景があちこ
助けを任せる。最初こそは怖がっていた避難民も手助けをし出す骸骨に慣れ出し、泥濘
メデイアは隊列の最後尾に竜牙兵を地中から沸き上がらせ脱落しそうな避難民の手
後尾に竜牙兵を派遣してくれ。流石にうちらもそこまで目が届かないから ︶
︵ 竜牙兵に肉体労働か⋮⋮⋮⋮良い提案だね、有り難うメデイア。避難民の隊列の最
︶
︵ で し た ら 私 の 竜 牙 兵 を 泥 濘 に 嵌 ま っ た 荷 車 の 引 き 上 げ 等 の 使 役 に 使 わ せ て 下 さ い
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
45
﹂
﹁いや、その必要はないよ。彼等は無害だから安心していいからさ﹂
二尉はご存知でしたので
?
メデイアが絡んでいるから気にしないで﹂
﹁えっ
?
﹂
?
そんな師匠の恥ずかしい言動にレレイは風の魔法を以て彼の顔面に圧縮した空気を
い。さあ││││﹂
﹁これはお美しい方じゃな。この荷馬車は狭い故、儂の膝の上で宜しければお座りなさ
レレイが返答しようとした途端、同乗している魔導師カトーが口を挟む。
﹁あっ、貴女は││││﹂
﹁あらっ、村で会った可愛い賢者さん﹂
いる荷馬車を探し出し彼女に近付き声を掛ける。
黙々と歩き続ける事に飽きたメデイアは村で見掛けたレレイの乗る僅かに浮遊して
こだけの話なんだから他の隊の隊員達に知れたら大変じゃない
﹁帰ったら話すよ⋮⋮⋮⋮それとメデイアの事を奥様とか呼ぶのは止めてくれ。一応こ
﹁二尉の奥様は何をなさっ││││﹂
隊の士気の事もあり伊丹はメデイアを奥さんだのかみさんだのと言う事を避ける。
﹁ん
?
46
ぶつける。
﹁これ、止めんかレレイ。魔法をその様な事で軽々しく使って為らん﹂
二人のやり取りを見てクスり笑い出すメデイア。
﹁貴方がそちらの可愛い魔法使いさんの師匠さんって事なのね。貴方の膝の上に座らせ
て頂くのは遠慮しとくわ﹂
﹂
メデイアのローブ姿に同業者の匂いを感じたカトー。
﹁あんたも魔法使いか
魔導師カトーの言葉を首を横に振り訂正するメデイア。
?
メデイアは暇潰しに荷馬車に乗っているレレイやカトーらと話ながら歩き出す。
ね ︶
すわね。しかしこの世界の魔法とはどの様な物なのか情報を集めないといけませんわ
︵ 耀司様の世界では魔術の区分に入る物でも、此方の世界では魔法になってしまいま
メデイアは日本と特地の文明の進化レベルの違いを思う。
﹁お師匠、この人は村で怪我をした人に斑服の人達と治癒の魔法を懸けていた﹂
レレイは村で見た事を師匠のカトーに話す。
﹁私は魔法使いではなく魔術師よ﹂
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
47
伊丹に隊員から直ぐ傍で荷馬車の車軸が折れたと報せが入る。
伊丹は村長を連れ壊れた荷馬車の持ち主に会い村長説得の下、必要最低限の物を持た
せ壊れた荷馬車に火を着ける。
高機動車に戻った伊丹は黒川二曹に疑問を呈される。
﹂
!?
﹁伊丹さん、こんな村の連中放って置いてさっさと帰りましょうよ。生き残る者は死の
高機動車に随伴して歩いている彼なりの伊丹に自分の所在を把握させる手段である。
高機動車の助手席に居る伊丹の視界に常にチラチラと入るギルガメッシュ。これも
プでの亀の様な走行。運転をしている倉田は教習所以来だとボヤく。
第三偵察隊の車両は荷馬車の列の速度に合わせての運転である。ローのままのリー
﹁それにそうなったら避難民を巻き込む事にもなるし⋮⋮⋮⋮﹂
伊丹の答えに黒川は伊丹も同じ事を考え本部に伺っていたのだと判る。
て泥沼には入れない、ってさ﹂
﹁此処は敵地だよ。増援頼んで敵さん刺激して戦闘始まって挙げ句戦力を逐次投入なん
﹁なら本部に車両増援は要請出来ないんですか
﹁ああでもしないとずっと彼処に立って動こうとしないからさぁ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁二尉、何も火をかけなくても良いのでは⋮⋮⋮⋮﹂
48
淵にあっても生き残りますし、死ぬ者は何もせずに己の不幸のみを嘆き死んでいきま
す﹂
そんな事をしない
この様な逃避行に手を貸す意味が解らないギルガメッシュに伊丹が眉間に皺を寄せ、
ため息を吐き答える。
ら吊し上げ喰らうしさ﹂
たしかポタポタ王とか言っていたっけ⋮⋮⋮⋮︶
伊丹の横で運転をしている倉田には丸聞こえである。
﹂
恐らくこの地でもそうだと思いますが、私が治めていた
のが自衛隊な訳よ。それに万が一、放置をしたとか嫌疑が懸かっただけで政府が野党か
﹁ギルゥ∼、物騒な事を言うなよ∼。第一、人道的では無いでしょ
!
時代は強者が、そして生きる術を持った者が生き残ってこその世界でしたが
!
?
ハルバートを持つ少女に警戒感を露にしたギルガメッシュが言い放つ。
部下二人と万が一に備えてギルガメッシュを遣わす。
た伊丹は双眼鏡を覗き、ハルバートを携え座り込んで居る黒服のゴスロリ少女を確認し
車外のギルガメッシュと話をしていると前方に不自然なまでのカラスの群を目にし
﹁それはそうですが⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ギルの頃とは時代が違うんだよ。早く現代世界に馴染めよ﹂
︵ 隊長の知り合いって何者
!
﹁現代日本は温い、温すぎる
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
49
﹁其処に居ては通れぬであろう。とくと失せよ、雑種﹂
ならば直接身体に││││﹂
いきなりの高圧的な態度に同行した隊員達も冷や汗をかきながら件の少女に話し掛
けるが話が通じない。
﹁我の言葉が解せんのか雑種
﹂
﹂と直立不動になるギルガメッシュを脇に見ながら伊丹達の乗る高機動車に
﹁貴方達は何処からいらしてぇ、どちらへ向かうのかしらぁ
歩み寄る黒ゴス少女。
!
﹁コダ村からだよ、お姉ちゃん﹂
?
もうとする。
機
動
車
良いと知り、横たわるエルフの少女の脇にハルバートを置き無理やり高機動車に乗り込
黒ゴス少女は子供に﹃馬が居ない荷馬車﹄の事を聴くが原理は解らないが乗り心地は
高
﹁違うよ、村の近くに炎龍が出たから避難しているんだよ﹂
﹁嫌々連れて行かれているとかじゃ無いのぉ
﹂
特地語が解らず慌てる伊丹を余所に同乗している子供が答える。
?
﹁はいっ
無線から伊丹の声が入る。
﹃ギル∼、その先を言ったらアウトだからな∼﹄
?
50
レレイやカトーの話し込んでいたメデイアは列の先頭に人為らざる雰囲気を感じた。
するとメデイアがローブを拡げ蝶の様に舞い上がり伊丹の元へと飛び去ると、レレイ
﹁導師さんと賢者さん。ちょっとお暇を頂きますわね﹂
あれは凄すぎます
﹂
レレイよ、世の中は広い。我らの知らん
とカトーはひたすらぽかんと口を開け空を眺めている。
﹁お師匠
魔法も未々有ると考えよ﹂
﹁あのご婦人はどこで魔導を極めたんじゃ
!
﹂
伊丹の乗る高機動車の真上に着いたメデイアはゆっくりと降りる。
?
!
?
耀司様の膝の上に座るなど││││﹂
!
シュが慌ててメデイアと高機動車の間に身体を割り入れる。
メデイア周辺の魔力が高まりだし周囲に円環を纏うが、それに気が付いたギルガメッ
﹁小娘がぁーーーー
ず高機動車の助手席に乗り込み伊丹の膝の上に座り出す。
メデイアのその只ならぬ魔力を感じた黒ゴス少女は、驚きこそしたものの悪びれもせ
﹁そこのゴスロリさん。貴女は何をしようとしているのかしら
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
51
﹁キャスター
伊丹諸とも吹き飛ばすつもりか
﹂
!?
⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ええーーーーっ
﹂
さっきも空を飛んでいたし
?
特地の人じゃ無いですよね
﹂
﹁隊長、ちょっと待って下さいよ メデイアさんとは日本で知り合ったんですよね
車中に居る倉田と黒川が驚きの声を上げ、それが外に居る隊員達にも聞こえる。
!
﹁メデイアか
ん∼∼⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮魔術師﹂
﹁隊長∼、メデイアさんってどんな方なんですか
倉田は空を飛んで来たメデイアの事を隊員を代表して伊丹に訊き出す。
﹁よ、耀司様∼⋮⋮⋮⋮﹂
﹁はぁ∼ぁ、シートに半ケツかぁ。尻が痛くなるし落ち着かないねぇ﹂
そんなメデイアの気持ちを察した伊丹はゴスロリ少女にシートを半分譲る。
る小娘がどうにも気に入らない。
必死に止めるギルガメッシュに諭され魔力を収めるメデイアだが、伊丹の膝の上に座
!
?
!
﹁魔術師なんて日本に居たのかよ⋮⋮⋮⋮﹂
国籍もあるぞ﹂
﹁ああ、メデイアとは俺が文科省に出向していた先の冬木市で知り合った。彼女は日本
?
?
52
呟く倉田に、政府も情報を隠す聖杯戦争を大衆に公言出来ない伊丹。
﹁この事は極秘事項でもあるから他には話すなよ﹂
後部に居る黒川が話に入ってくる。
﹁二尉、メデイアさんってもしかしてギリシャ神話に出て来るあのメーデイアですか
﹁おっ、クロちゃん知ってるね∼。お父さんが海自なだけの事はあるね﹂
た。まさかギルガメッシュさんはあの叙事詩の方ですか
﹂
﹂
﹁船乗りに星の位置情報は基本らしいですから自ずとギリシャ神話の話を聞かされまし
?
︶で隊員皆にメデイアとギルガメッシュの正体が人為らざるも
そう云う事。帰ったら皆に詳しく話すよ﹂
倉田や黒川のお陰︵
﹁鋭いね
?
ある者は上半身を喰い千切られ、またある者は踏み潰される。そして口から吐かれた
そんな高く昇った太陽を背に巨大な龍が避難民の列に襲い掛かる。
昼過ぎになり太陽は午前中とは比べられ無い程高く昇り辺りはその熱射に晒される。
のを持っている者である事が知れ渡る。
?
!
隊列後方に炎龍です
!
﹂
炎により辺り一面が焼け、避難民も焼かれていく。
﹁二尉
!!
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
53
軽装甲機動車の銃座に居る笹川陸士長が伊丹に報せる。
伊丹は隊員達に戦闘準備をさせ避難民から炎龍を引き離す為、炎龍に向けて各車荒れ
地を走り出す。
一 方 伊 丹 か ら 炎 龍 を 避 難 民 か ら 引 き 離 す 様 に 念 話 で 指 示 さ れ た メ デ イ ア と ギ ル ガ
メッシュ。
﹂
メデイアは空高く舞い上がり、炎龍の気を引く様に自身の周囲に纏った円環からビー
ムを放つ。
﹁貴方の相手はこの私ですわ
﹂
!
これは凄いぞレレイよ
!
攻撃を展開している。
﹁おおっ
!
る。
ギルガメッシュも炎龍の背後に回り込み何も無い空間から数多の槍剣を出し射出す
よく見ておきなさい﹂
カトーがレレイが指差す方に目をやるとメデイアがヒラヒラと空を舞い、炎龍に魔術
﹁師匠、あそこにさっきの魔術師の人が
レレイは空を浮遊するメデイアを見付け空を指差し師匠のカトー導師に言う。
!
54
﹁ふっ、トカゲ擬きが。まさに雑種か﹂
メデイアのビームは炎龍の厚い鱗に弾かれ、ギルガメッシュの槍剣も突き刺さりはす
るが炎龍には蚊に刺された程度の感覚でしかない。
﹁よく踊るではないか、雑種﹂
あの様な雑種にはこの王の剣を使い
たくはないのだが、ここは乘離剣エアでも││││ ︶
︵ 我の剣の投射では手傷を負わせられぬとは
!
この世界へ及ぼす影響が解らない
︶
ギルガメッシュ乘離剣エアの使用を考えた途端、伊丹からギルガメッシュに念話が届
エアは使うな
!
!
く。
!
弾かれます
﹂
が、固い鱗に阻まれ貫通しない。
﹁駄目です
!
撃て
撃て
!
叫ぶ笹川に伊丹は言い返す。
!
リ
バー
弾かれる事が解りつつも各自が小銃を撃ち続けていると炎龍の口元が赤く光り出す。
!
!
﹁兎に角当て続けろ
﹂
伊 丹 は 軽 装 甲 機 動 車 か ら は 五十口径重機関銃 を 撃 ち 込 む 様 に 笹 川 陸 士 長 指 示 を 出 す
キャ
炎龍を引き離す様に荒れ地を全速で走りながら一斉に銃の引き金を引く。
メデイアとギルガメッシュが気を引いている間に伊丹達が到着し各車が避難民から
︵ 駄目だギル
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
55
﹁ブレス来るぞ
﹂
避したのを見届け胸を撫で下ろす。
﹂
伊丹達が炎龍のブレス攻撃に晒されるのを見たキャスターは肝を冷やすが、無事に回
全車の回避行動と炎龍が考える以上の機動力で火炎の直撃は免れる。
!
ono
﹂と言う。
!
﹁勝本
パンツァーファウストだ
!
﹂
伊丹は軽装甲機動車の勝元に個人携行の対戦車弾を使うように叫ぶ。
す。この攻撃に炎龍は顔を庇い動きが止まる。
彼女の意図する事が解った伊丹は全車に炎龍の目に射撃を集中させるよう指示を出
!
娘が現状を把握し伊丹な炎龍の目を狙う様に自分の目を指を差しながら何度も﹁ono
いて居るが右や左に身体を振り回されている。そんな中に意識を取り戻したエルフの
荒れ地を全速で走る為、高機動車の中に居る避難民の子供や怪我人も車内にしがみつ
悪い様である。
尾の先端を焼くに留まる。宝具級とは云えヘカティック・グライアーでは炎龍と相性が
う巨大な光線、ヘカティック・グライアーを放つが炎龍が姿勢を変えた為、狙いが逸れ
メデイアは怒りに震え、効果の無いビーム攻撃を止め、直径数メートルはあるであろ
﹁よくもよくも耀司様をーーーーっ
!
!
56
パ
ン
ツァー
ファ
ウ
ス
ト
Ⅲ
笹 川 と 入 れ 替 わ る 様 に 車 上 に 出 て き た 勝 本 は 110mm個人携帯対戦車弾 を 構 え る
とこの状況で後方の確認をし出す。
皆が早く撃ってくれと願う中、荒れ地での行進間射撃となり走行の揺れでスコープに
﹁よっと、後方の安全確認﹂
ターゲットを捉えられずタイミングが合わない。
照準内に炎龍を捉えた勝本は引き金に指を掛けるが、悪路の凹凸で軽装甲機動が揺さ
ぶられ必要以上の力で引き金を握り締めた為、弾頭の軌道が炎龍から逸れだす。
ありゃ当たらねえなぁ﹂
!
﹂
!
盛大に地面に叩き付けられたメデイアは飛び去る炎龍に悪態を着く。
﹁きゃぁ
最後の一撃とばかりに浮遊するメデイアを叩き落とし空へと飛び去って行く。
片腕を無くした炎龍は、大地を揺るがすかの様な咆哮を上げると翼を拡げ羽ばたき、
たのであろう。自分自身の身体の一部をもぎ取る存在。そして初めての痛み。
恐らくは食物連鎖の絶対的な頂点に位置する炎龍自身ですら信じられない事が起き
龍の左肩に当り肩ごと左腕を吹き飛ばした。
黒ゴス少女が投げたハルバートが当り脚をもつれさせ倒れ込む。逸れていた弾頭が炎
翼を広げ飛来する弾頭を避けようとする炎龍に、高機動車の幌を破り、上体を出した
﹁あいつガク引きしやがった
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
57
﹁痛たたたっ
何なのよ、あの大トカゲ野郎は
﹂
!
﹁メデイア
大丈夫か
﹂
!?
﹁ええ、大丈夫ですわ。隊員の方々は皆さん無事ですの
﹂
伊丹は奮戦した後に墜落したメデイアの元に駆け寄る。
!
までも手を振り見送る第三偵察隊の隊員達。
余りの薄情さに驚くが、それでも避難民がそれぞれの地へと別れ去って行く姿をいつ
じゃ﹂
﹁薄 情 に 聞 こ え る か も 知 れ ん が、避 難 民 皆 が 自 分 の 事 で 手 一 杯 で 誰 も 引 き 取 れ な い ん
い子供や怪我人についての処遇を村長に話すが神の思し召すままだとの答え。
三日三晩の逃避行の後、避難民がそれぞれの新天地に向かうに当り伊丹は身寄りの無
なった人達を埋葬し黒ゴス少女が神に祈りを捧げる。
何 や ら ど こ か の 宗 派 の 神 官 な の だ と 言 う 黒 ゴ ス 少 女。隊 員 達 は 村 人 と 共 に 犠 牲 と
下ろすが、村人の損害が著しいものである事に胸を痛める。
伊丹は隊員達やメデイア、そしてギルガメッシュが無事であった事にほっと胸を撫で
﹁ああ、君やギルが奴の注意を引いてくれたりしたから助かったよ﹂
?
!
58
こうして散り散りになった避難民達が何の見返りを求めない炎龍を撃退した緑の人
の伝説を拡めるのである。
残された怪我をした大人や身寄りの無い子供達合わせて二十三名は村長からも見捨
てられたと理解をし、伊丹の判断に身を委ねるしか道がなかった。
まかしておきな﹂
皆の視線が伊丹に集まる。そんな幾つかの視線と目を合わせてしまった伊丹。
!
る。
見捨てられた村人と隊員達はほっと安堵し微笑みを浮かべ基地へと帰投するのであ
﹁まっ、いいか⋮⋮⋮⋮大丈夫
4 二尉! 隊列後方に炎龍です!
59
5 鉄の逸物さ
かも解らない﹃緑の人﹄の活躍が差し込まれる。
メリザは酒場の客達に村からの逃避行の悲惨さを話し、そこに彼等が云う何処の軍隊
る。
とある町の飲み屋で女給の仕事を得たゴダ村避難民だったメリザもそんな一人であ
村でこの事を話し広める。
炎龍を撃退した第三偵察隊により救われた元コダ村の住人達は、落ち着いた先の町や
!
﹁ああ、そうさ、炎龍だよ
﹂
﹄と声を上げざわざわし出す。
﹂
照り付ける太陽が有るのに大きな影が空から地面を写し出したのは
酒場の客達はメリザの話を水を打ったような静けさで聞いている。
﹁そんな時だよ
何かと思って顔を上げ空を見るとあいつが虎視眈々と狙っていやがったんだ
!
客達もメリザの話に生唾を飲み込み続きを静かに聞いている。
!
酒場の聴衆達は﹃おおーーっ
!
!
!
解ったよ﹂
﹁あ た し ゃ 神 に 祈 っ た さ。せ め て 子 供 だ け で も っ て ね。で も 神 な ん か 居 や し な い 事 が
60
﹂
たまたまこの酒場にお忍びで来ているピニャ・コ・ラーダのお供の一人である騎士
ノーマはメリザの話に茶々を入れ出す。
どうせ翼竜か新生龍の間違いだろ
!?
﹂
!
﹁彼等の荷車は馬で引いてはいないが頗る速い 炎龍を村人から注意を逸らすように
すこぶ
話は炎龍に気が付いた緑の人の戦い振りへと話が続く。
き出された炎で大勢が焼かれ喰われたんだ
﹁あんたらがあれをどう考えようが構わないさ。しかしあれはどう見ても炎龍さ 吐
より再びメリザは話し出す。
否定的なノーマの物言いにメリザはムッとしたがハミルトンのチップを弾む機転に
﹁大体炎龍がそんなに簡単に撃退されるか
?
!
・
・
・
・
・
・
﹂
形はまさにそのままだよ。それを﹃コホウノアゼンカクニ﹄って呪文を
ハミルトンを始めとした客は﹃あれ﹄に集中しだす。
・
が仲間に﹃あれ﹄を出させたんだ﹂
・
荒れ地へ走りだし魔法の杖で攻撃をするも炎龍相手では力及ばず。するとそこの隊長
!
言い終わると轟音と共に炎龍の左腕が肩から吹き飛ばされたって訳だよ
﹁鉄の逸物さ
!
問い掛ける。
・
・
・
﹁その緑の人とやらが使っていた魔杖も鉄の逸物の様な形をしていたのか
・
﹂
このメリザの話に酒場は大いに盛り上がるが、そんな話を盛り上げる彼女にピニャが
!
?
5 鉄の逸物さ!
61
・
・
・
・
ピニャからの問い掛けに﹁ふんっ
らの叱責である。
・
﹂
﹂と鼻を鳴らし答えるメリザ。
・
逸物は逸物さ
﹁きっ、きっ、君は何て事をしてくれたんだっ
!!
柳田二尉は各偵察隊の現地民との一次接触は良好であり更なる情報収集の手段とし
ている。
その頃狭間陸将は幕僚でもある柳田二尉から各深部偵察隊の持ち帰った情報を聴い
く。
檜垣は自分の職務権限では解決できない問題の為、狭間陸将の元へ伊丹を連れて行
伊丹の気の抜けた返事に頭を抱えてしまう檜垣三佐。
﹁は、はぁ∼﹂
﹂
駐屯地にコダ村の避難民二十名以上を連れ帰った伊丹を待っていたのは檜垣三佐か
︵ これは調べてみる必要が有りそうだな⋮⋮⋮⋮︶
いて考え込む。
ピニャは緑の人、彼等の持つ魔杖、そして逸物の意味が今一解らないが鉄の逸物につ
!
!
﹁あんたみたいのをかまととって言うんだよ
!
62
て、第三偵察隊が警護している避難民を利用する旨を進言する。
そんなやり取りをしている部屋に檜垣三佐が伊丹を連れ訪れる。
檜垣は伊丹が身寄りの無いコダ村の避難民を連れ帰った事を報告する。
﹁狭間陸将、実は困った事態になりまして⋮⋮⋮⋮﹂
この伊丹の行動に狭間も柳田も唖然とする。
狭間陸将は連れてきた身寄りの無い人間を今更基地外に放り出す訳にも行かず、人道
的措置として保護する事にした。
しかし伊丹は保護した避難民の食と住の面倒を看るための段取り全てが任され、関係
各所に提出する苦手な書類作製を考え悩む伊丹を柳田二尉が誘い、物干場で煙草をふか
すと話し出す。
﹁よう伊丹。お前さん態とだろ﹂
柳田二尉は伊丹の二尉昇進よりも先に二尉に昇進している為、先任将校として伊丹よ
り一段高い地位にいる。
柳田は定時連絡を欠かす事をしなかった伊丹が炎龍撃退後から連絡をしてこなかっ
﹂
?
た事を問い詰める。
﹁それはたぶん磁気嵐や電磁層の影響かなぁ∼って﹂
﹁連絡でもしたら避難民を放り出せとか言われかねないとでも思ったのか
5 鉄の逸物さ!
63
適当な言葉を並べ言い訳をする伊丹に柳田が話す。
﹂
!
世界の半分を敵に回してまでも果たしてこの地を押さえる必要があるのか ﹁なあ伊丹。お前さんはこの世界をどう見るよ。豊富な地下資源があるんだぜ。日本が
柳田は深く煙草を吸い紫煙を吐く。
も段取りや手順てもんが有るんだよ
﹁まあいいや、遅かれ早かれ現地民とは交流を持たなきゃ為らなかったんだが、こっちに
64
資源状況とかも知りたいんだ﹂
それほどの地なんだよ、この世界は お前さんが連れて来た避難民から現地の
!?
﹂
!?
柳田は伊丹との話が終ると吸っていた煙草を捨て靴の裏で揉み消し去っていく。
の自由が大幅に認められる。まあしっかり結果出してこいや﹂
﹁なあ伊丹、それだけの価値のある世界だと思っておけ。それとお前さんには近々行動
子供にまで聞き取り調査の対称にされては叶わないと伊丹が柳田に喰って掛かる。
言ったが、幼い子供達から金銀財宝がどこに有るのかを訊くってのか
居 や 食 糧 に し か 頭 が 回 っ て い な い。柳 田 さ ん が そ の 避 難 民 に 聞 き 取 り 調 査 を す る と
﹁なあ柳田さん。俺は世界情勢には興味がない。俺は連れ帰った避難民の今日明日の住
!
避難民の住居は、拠点内を帝国軍が攻めて来て戦闘になった時の危険を考え、丘の麓
の戦闘には巻き込まれない様な土地に住まわせる事が決まる。
レーション
自衛隊の隊舎もまだまだプレハブで建設中の為、仮設の住宅が出来るまで一時的にテ
ントを避難民の住居とし、食料も暫くは戦闘食で賄う。
日を追うごとに施設科の建設重機が回され始め、チェーンソーで森を開きショベル
カーが土地を掘り返し均し生活基盤の建設が見え始める。
この自衛隊の重機の作業の効率の良さに関心を持ったレレイは毎日の様に現場に赴
く。
︵ 賢 者 と し て こ の 様 な 事 を 見 逃 し て は い け な い。は や く 彼 等 の 事 を 知 ら な く て は
⋮⋮⋮⋮ ︶
レレイは隊員達とのやり取りで、彼等の言葉、即ち日本語のマスターが一番であると
結論付け、がむしゃらに日本語の習得にのめり込んで行くのである。
テント暮らしをしている彼等の護衛はメデイアの竜牙兵である。
﹁そろそろ第三偵察隊の皆にメデイアとギルガメッシュの事を話すか⋮⋮⋮⋮﹂
り骨を折られたと聞き及んでいますわ﹂
﹁そんな些末な事は気に為さらずとも良いのです。耀司様もこのキャンプ設営にはかな
﹁こんな事まで頼んじまって済まない、メデイア﹂
5 鉄の逸物さ!
65
伊丹は避難民のキャンプで動き回る隊員達を集めてメデイアとギルガメッシュの正
体を明かす。
なん
炎龍撃退時、その活躍を目にしていた隊員達は今更かよと思いつつも伊丹とその従者
の話を聞く事となる。
﹂
﹂
宝物庫だ
﹂
﹂
メデイアは簡単な魔術を披露し、ギルガメッシュは空間から剣を取り出す。
﹁││││と云う訳だ、皆。これからも頼むよ﹂
伊丹は隊員達に手を合わせペコりと頭を下げる。
すると隊員達は伊丹そっち除けで従者二人に集まり出す。
我のは倉庫ではない
なら二尉の首をギロチンで││││﹂
ギルガメッシュとメデイアに集まり出し好き勝手を言い出す隊員達。
人体切断とか
﹁ギルガメッシュさんの倉庫は猫型ロボットのポケットと同じなんですね
﹁こら待てっ
断じて型落ち等ではないぞ
!
﹁メデイアさん、忘年会で本物の魔術ショーをやって下さい
﹁無礼者
﹁原初に拘っているけど、要は型落ちな訳でしょ
!
﹁みんなぁ∼、二人を紹介したんだから仕事に戻ってくれるかなぁ⋮⋮⋮⋮﹂
!!
!!
?
!
﹁いえ、流石にそれは⋮⋮⋮⋮﹂
!
!
!
66
隊員達は渋々それぞれの仕事に戻って行く。
保護した避難民の生活もテントからプレハブの仮設住宅に変わり生活者の名簿を作
きちんと申告せよ。雑種﹂
る為、レレイの通訳を交えての作業となる。
﹁さっさと並ばぬか
!
いっ、以後、気を付けます。伊丹さん ︶
この人達を雑種呼ばわりするなよ ︶
ルブル震えるギルガメッシュを見た伊丹は徐に自身の左肩をトントンと叩き出す。
伊丹はギルガメッシュの言葉を聞き右手を握り締め上げる。その行動に青くなりブ
!
﹁肩が凝るなぁ⋮⋮⋮⋮﹂
︵ ギル
︵ ひぃっ
!
指示に従う。
ギルガメッシュに変わりメデイアが特地語で避難民に声を掛けると皆が素直にその
!
伊丹はそんなにメデイアを周囲の隊員達から解らない様に頭を撫でながら褒める。
語や文体のパターンを見付け、日常会話位なら話せる様になっていた。
メデイアは魔術繋がりでレレイやカトー導師とかなり親しくなり、その会話の中で単
︵ あらあら、まあまあ、人徳の差ですわね ︶
5 鉄の逸物さ!
67
﹁やるなぁ∼メデイア。やはり稀代の魔術師だよな﹂
﹁あわわわわっ 他の隊員が聞いていたらどうするんだ 俺ら夫婦は特別な計らい
伊丹の頬を意味ありげに撫でるキャスターに彼は慌てて跳び退き辺りを見回す。
﹁嫌ですわ、耀司様。褒めて下さるならベッドの中で褒めて下さいまし﹂
68
!
﹂
?
来ず現在年齢不詳である。
テュカよりもずっとずっと年上で、通訳のレレイも細かい歳までは恐くて聞くことが出
黒ゴス神官少女のロゥリィ・マーキュリーは暗黒の神・エムロイに仕える身であり、
エルフの少女のテュカ・ルナ・マルソーは165歳。
15歳の少女ではあるが特地では成年である。
名簿作りで判明したことは、人種は概ね見た目通りの年齢でレレイ・ラ・レレーナは
ひとしゅ
﹁まあ、隊の責任者だから俺が率先して隊の風紀を乱すのは良くないだろ
﹁畏まりました。他の隊員の事もお気遣いになられて耀司様はお優しいのですね﹂
で一緒に居られるんだぞ。他の隊員の事も少しは考えてあげてくれると助かるな﹂
!
朝食以外の食事と仮設住宅を与えられたカトー導師以下のキャンプの住人達が、夜に
集まりこれからの生活について話し合っている。
分達で何とかしたいが⋮⋮⋮⋮どうしたものか⋮⋮⋮⋮﹂
﹁儂らは自衛隊の世話になりっぱなしじゃ。なんとか自活する術を見付け生活費位は自
テュカや年頃の女性は自衛隊員に身売りする事すら考えている。
キャンプに寄る。
そんなキャンプの住人達の行動に些か興味を持ち出したギルガメッシュが暇潰しに
められた鱗や爪の洗浄と云う作業が始まった。
さっそく男児と怪我の治った男達が翼竜の骸から鱗や爪を集めだし、女児や女達が集
んなお宝が目の前に山の様に有り取り放題ときた。
特地では竜の種類にこそ差が有りはするが、概ね高値で取引がされている。しかもそ
この回答に驚いたカトー導師以下のキャンプの住人達。
撃訓練の的にしかしていないから幾らでも集めて良いとの回答を得る。
ている帝国、連合諸王国軍の翼竜の骸の鱗の収集の話を持ち出すと、自衛隊としては射
翌朝、レレイとカトー導師はキャンプの住人代表として伊丹を通じて、野晒しにされ
けて貰えると有り難いのじゃがのう⋮⋮⋮⋮﹂
﹁翼竜の鱗は貴重品でもあるし、丘に骸を晒している翼竜の鱗の数枚でも自衛隊から分
5 鉄の逸物さ!
69
このキャンプの協同生活の礎を
﹂
﹁ほう、貴様らはこの鱗を以て商いをすると云うか。面白いぞ雑│否、下々の民よ。名付
ける事を許すぞ
!
﹁むふふふっ、やっと内地と繋がったか
これでweb小説が読めるわけだな﹂
隊舎に居る伊丹を喜ばせたのは、内地とインターネット通信が出来た事である。
送任務を伊丹の三偵に任せた。
キャンプの住人達の自活問題が解決する他、イタリカの街の様子を探れる事からその輸
アルヌス協同生活組合は自衛隊にイタリカまでの輸送を依頼すると、自衛隊としては
てもらいそこでの取引を考える。
と、イタリカで商いをしている、カトー導師の古くからの知り合いのリュドーを紹介し
レレイは現金決済をしてくれる大商人相手に販売したい事をカトー導師に相談する
と爪三本がある。因みにデナリ銀貨一枚は、五日は食べていかれる位の額である。
質の良い鱗一枚でデナリ銀貨三十枚から最高七十枚の値が付く。そんな鱗が二百枚
かなりの量の磨かれた鱗が集まりだし、今度はそれを換金する必要に迫られる。
こうしてここにアルヌス協同生活組合が誕生した。
!
そんな伊丹の背後には栗林と黒川、そしてメデイアが立ち、声を掛けている。
!
70
﹁二尉⋮⋮⋮⋮二尉
⋮⋮⋮⋮二尉
﹂
!
﹁おやおや 極右骸の話に評価で★0が付いてギックリ腰だって。腰は大事にしない
?
インターネット回線が繋がり喜ぶ余り、伊丹の耳には部下二人の声が届かない。
と││││﹂
!
﹂
﹂
そんな伊丹の脚を、半長靴の爪先で思いっきり蹴りあげる栗林。
﹁二尉
﹁うがっ
!!
り出す。
いつまでも踞る伊丹に、メデイアは指先一つで彼の首をほぼ180度にゆっくりと捻
﹁二尉、聞いて下さい﹂
﹁あらあら、まあまあ﹂
蹴られた脚を抱え踞る伊丹を上から見下ろす様に口を開くメデイアと黒川。
!
﹁二尉、保護をしたテュカ・ルナ・マルソーなんですが⋮⋮⋮⋮﹂
の様な状況に半ば青ざめながら伊丹に話をし出す。
改めてメデイアの恐ろしさを知った栗林と黒川は、目の前のホラー映画のワンシーン
﹁あぐぐぐ、か、勘弁して、メデイア。首がぁぁ﹂
﹁耀司様、いい加減こちらに顔を向けて下さいまし﹂
5 鉄の逸物さ!
71
﹁ん
彼女がどうかしたの
?
﹂
﹂
鱗の売買ついでに彼女達を乗せて偵察にも出るから、時間
?
アルヌスの丘の偵察及び敵の掃討を命じられているピニャは、寄った街で連合諸王国
があれば俺からも聴いてみるよ﹂
﹁あらっ、もうそんな時間
﹁隊長、そろそろ出発時間です﹂
するとその場に桑原曹長が顔を出す。
﹁う∼ん、俺からも彼女に聴いてみるよ。よく話し合ってみる必要がありそうだね﹂
憶測の域を出ない黒川の答えに伊丹が応える。
るのではないかと⋮⋮⋮⋮﹂
﹁もしかしてなんですが、亡くなった家族をある期間は居る者として生活していたりす
返答を貰ったと告げた後、彼女なりの考えを話す。
伊丹の答えに、黒川はカトー導師にも相談したらしく、エルフの生活は解らないとの
﹁脳内彼氏を飼っているとか
セットである事を伊丹に話す。
黒川はテュカが支給の食事と衣類を二人分要求し、衣類に関しては男女の物をワン
?
?
72
軍を指揮した王が街道外れの修道院で怪我の治療をしているとの話を聞きその修道院
に向かう。
そこは決して大きくはない、小さな地方の修道院であった。
ピニャはここの門を叩き修道院長に話をし、件の人物に会わせて貰う。
直ぐに帝国の医師を呼びます
﹂
修道院のベッドには片側の手足を無くした顔を見知ったデュラン藩王国のデュラン
王が寝かされている。
﹁デュ、デュラン陛下
!
対しての不満を口にする。
デュランはピニャに連合諸王国軍と自衛隊との戦いを話し、約束を違えた帝国皇帝に
らぬ﹂
﹁これは姫君、儂はこの様な姿ゆえもう長くは有りますまい。それに帝国の世話にはな
デュランは修道僧に支えられ上体を起こし話し出す。
!
軍に伝えていなかったとは⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
儂は悟ったのじゃ。敵はアルヌスの丘に屯する者共ではなく、背後の帝国であると
﹁帝国は自らに刃を向ける恐れのある連合諸王国軍を敵の力を以て壊滅させたのだぞ
!
﹁妾も帝国軍が敗れたことは聞き及んでいましたが、どの様な敵が居るのか連合諸王国
5 鉄の逸物さ!
73
!
﹁陛下、せめてどの様な敵か教えて下さいませぬか
﹂
彼は有益な情報をピニャに渡すつもりも義理も無い。
ピニャは帝国軍と連合諸王国軍を破った敵の情報を得ようとデュランに問い質すも、
!?
﹂
!
!
した。
グレイ、ノーマ、ハミルトン 妾達は先行してイタリカに行くぞ
そんなピニャの元にイタリカが軍勢に攻められそうであるとの報せが入る。
﹁異世界の軍か
付いて参れ
﹂
!! !?
!
イタリカ││そこは帝国内のフォルマル伯爵領の地方都市でテッサリア街道とアッ
カへと向け先行偵察の為、急行するのである。
彼女は配下の薔薇騎士団にイタリカに向かう様に使者を遣わし、一行は騎馬をイタリ
!
を自らの目で確認すべく数騎の手勢を連れ、イタリカ経由でアルヌスの丘に向かう事に
これ以上デュランから情報を聴き出せ無いと判断したピニャは、アルヌスの丘の惨状
であろう
よ。アルヌスの敵は帝国より強い神のごとき軍 自ら呼び込んだ敵に帝国は敗れる
﹁ふんっ、教えてやらぬ。知りたくば姫自ら丘へ行くがよい。但し姫よ、肝に銘じられ
74
ピア街道の交差に位置している為、交易に富み、しかも広い平野は帝国の穀倉地として
も重要な場所である。
イタリカに着いたピニャは目を見張った。
ここを攻め込もうとしているのは連合諸王国軍の敗残兵が野盗と化した武装盗賊集
団であり、異世界の軍ではなかったからである。
それでもピニャは伯爵家に赴き、身分を明かしイタリカの守備隊と合流し指揮を執
り、野盗の攻撃を何とか撃退していた。
しかしアルヌスの城塞都市は盗賊集団からの攻撃で無惨な姿となっていた。
ピニャは部下達の安否を確認した後、民兵達に各所破損箇所の修理と交代で休みを取
らせるように命じて自身はフォルマル伯爵邸へ入り込む。
ピニャはメイド長に食事の用意をさせ、出されたものを平らげると一眠りすると言
い、客間での睡眠をとるのだが、急用の折りには水を掛けてでも起こせて言い伝える。
ピニャは客間のベッドの中で一日を振り返る。戦力にならないの程の数少ない正規
兵、勇敢な民兵程早死にをしていく現実。まさにこれが皇女ピニャの初陣であった。
敵襲か
﹂
そんなうつらうつらしているピニャに一気に現実に戻す冷水が浴びせ掛けられる。
!?
!?
そこにはニンマリと笑みを浮かべながらバケツを持つメイド長がおり、慌てて飛び起
﹁何事か
5 鉄の逸物さ!
75
きるピニャに侍従のグレイが話し出す。
覗き窓を覗き込むのである。
言い淀むグレイを尻目に、身支度を整えたピニャは急ぎ屋敷の外に出て、城壁の扉の
﹁さあて、敵なのか味方なのか⋮⋮⋮⋮皇女殿下にご確認して頂きたく││││﹂
76
6 よっ、よくぞ参ったな
⋮⋮⋮⋮ん
?
ていた。
キャンプに着くと、気さくに声を掛け出す伊丹達を子供を始めとした避難民達が待っ
キャンプへと寄る。
と射撃陣形のチェックを済ませると、各員が三台の車両に分乗し仮設住宅のある避難民
伊丹達、第三偵察隊の面々は装備を整え集まり、桑原曹長の号令の下、縦、横、方陣
!!
﹁皆さ∼ん、積み忘れはありませんか
無い様でしたら出発しま∼す﹂
住人から手を振られての出発となり、三偵はアルヌスの丘から離れテッサリア街道へ
?
ける。
その後にレレイ、テュカ、そしてロゥリィが乗り込むと伊丹が見送りの人達に声を掛
﹁二尉は子供達に慕われていますわね、うふふ﹂
﹁おじちゃんは勘弁しれくれよな⋮⋮⋮⋮﹂
う見真似の敬礼をする。
子供達一人一人が重たそうに抱えてくる袋を高機動車に積み込み、伊丹や黒川に見よ
﹁おじちゃん、この袋を三つお願いします﹂
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
77
と合流する。
伊丹が乗る高機動車に居る桑原曹長は、コンパスを乗せた地図を広げ絶えず進行ルー
それに方角を示すこ
トを確認しているのだが、レレイは等高線が引いてある程の精度の高い地図と、行き先
を指し示すと思われるコンパスに興味を持つ。
の道具は⋮⋮⋮⋮︶
︵ ジエイタイは如何にしてこの様な精巧な地図を作ったのか
これに興味が有るのかい
これはコンパス。コ・ン・パ・ス。この赤い針が北
?
ちゃって
お やっ さ ん
陸曹候補生の頃、死ぬ程ハイポート走させられたのに⋮⋮⋮⋮﹂
﹁隊長∼、なんすっかねぇ。あの鬼軍曹の桑原曹長が孫みたいな女の子相手に顔を崩し
る。
車内ミラー越しに桑原とレレイのやり取りを見た運転手の倉田が伊丹にぼやき始め
﹁コンパス。キタ。コンパスはキタの方角を示す物﹂
穏やかに教える桑原に、レレイは直ぐにでも覚えようと復唱をする。
の方角を指すんだよ﹂
﹁ん
?
コンパスに興味深々のレレイに気が付いた桑原が説明をする。
ある。
自衛隊の持つアルヌス周辺の地図は、ヘリから撮られた航空写真で起こした地形図で
?
78
!
前方に煙です﹂
暫く街道を走っていると前方に煙が上がっているのを伊丹と倉田が確認する。
﹁隊長
悪い予感しかしないんだけど⋮⋮⋮⋮﹂
?
﹂
伊丹はレレイに双眼鏡を渡し、煙を確認させ問い掛ける。
る方向にイタリカがあると桑原は答えを返す。
伊丹は全車に停止を命じて地図を見ている桑原曹長に確認をとると、煙が上がってい
だろ
﹁やだなぁ∼、あの煙。この道の先だよねぇ 煙の上がっている方に向かうの二度目
!
?
?
す。
﹁周囲の警戒を厳にしろ
・
対空警戒は怠るな
﹂
!
﹁血の臭い﹂
するとロゥリィが伊丹と倉田の間に上体を割り込ませ、妖艶な笑みを浮かべ呟く。
!
レレイの言葉の訂正をした伊丹は、自分の乗る車内の皆と、無線で各車両に指示を出
﹁﹃かぎ﹄じゃなくて﹃火事﹄だね﹂
﹁今は畑を焼く、季節、違う。恐らくかぎ﹂
・
レレイは覚えた日本語で、たどたどしく答える。
﹁あの煙は何だと思う
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
79
﹂
先ずはイタリカの状況を知る事が先決で有ると判断した伊丹は、同乗しているメデイ
アに声を掛ける。
﹁メデイア。使い魔をイタリカに放って様子を見てくれないか
る。
?
お師匠様に知らせなくては
﹂
!
無いメデイアの魔術にひたすら驚いている。
︵ こんな魔法もあるのか
伊丹は無線で各車両に指示を出す。
!
﹁さぁてと、イタリカに向けて出発だ
!
︶
他の隊員達は単純に手品の様だと驚くばかりであるが、レレイは今まで出会った事の
聞いたりした物が私や耀司様の頭に入ってくるのよ﹂
﹁あ∼ら可愛い賢者さん。興味がお有りの様ね。これは私の使い魔でね、これが見たり
﹁メデイア。それは何でどんな働きをするのか
﹂
それを見ていたレレイを始めとした皆が驚きの声を上げ、レレイがメデイアに尋ね
するとメデイアは掌に一匹の蝶を出し、車外へと放つ。
﹁メデイアも霊体化出来る訳じゃ無いから、目立つから駄目だよ﹂
﹁お安い御用ですわ、耀司様。なんなら私が直接飛んで行って差し上げますわ﹂
?
80
メデイアの使い魔からの情報で、イタリカの城塞都市が、謎の武装集団に襲われ南門
﹂
側は軽微な損傷。しかもアルヌスの兵を束ねているのは、身分の高そうな女性だと云う
事も判明した。
街に入ると言い出す。
テュカは伊丹を始めとした自衛官達の身を心配するが、レレイはこのままイタリカの
﹁ねえ、レレイ。危険な所にこの人達を巻き込むのは止めたら
?
﹁何者だ
敵では無いのなら姿を現せ
﹂
!
﹂
!
﹁レレイったら
矢避けの魔法を掛けるから待ちなさい
﹂
!
テュカはレレイに矢避けの精霊魔法を掛けると一緒に車外に出る。
!
﹁私一人で行っても用件は済ませられる﹂
レレイはそんなテュカの心配を無用とばかりに拒み、車外へと出ようとする。
﹁レレイ、やっぱり止めましょうよ
物騒な交戦域にテュカが心配をする。
!
すると城塞の上から弩を向けて大声で誰何をしてくる者が居る。
イタリカの城壁にある入り口から少し距離を取り、各車両が停止をする。
﹁こちらやジエイタイが敵では無い事も解らせねばならない﹂
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
81
するとロゥリィまで一緒に車外に出始める。
﹁あっ
伊丹さん
お やっ さ ん
メデイアさんはここで待っていて下さい。我が伊丹さんの警護
!!
伊丹の身の安全を彼に託した。
?
ピニャは城門の覗き窓から、こちらに向かって来るリンドン派の杖を携えた魔導師、
門へと近付く。
レレイを先頭に、テュカ、ロゥリィ、ギルガメッシュ、伊丹がゆっくりと歩き出し、城
﹁ギル、耀司様を守って頂戴。しかし、いつ着替えたの
﹂
いつの間にか金ピカの鎧を着込んでいたギルガメッシュがメデイアに話すと、彼女は
をします﹂
!
そんな伊丹の行動に、ギルガメッシュが声を上げる。
﹁女、子供だけで行かせる訳にもいかないよなぁ。桑原曹長、後は頼みます﹂
付いて行く。
流石に女性三人だけで交戦域の街中に入らせる訳にも行かず、伊丹も慌てて彼女達に
くわぁ﹂
﹁あ∼らぁ、二人で何をこそこそしようとしているのかしらぁ。面白そうだから私も行
82
あ れ は ロ ッ、
精霊魔法使いのエルフ、黒ゴスの神官、きらびやかに輝く金鎧を確認する。
リ ン ド ン 派 の 魔 導 師 に エ ル フ だ と
!
!?
何 故 こ こ に 居 る そ
!
!?
︵ 何 な ん だ、あ の 一 団 は
確 か に 死 神 ロ ゥ リ ィ だ
敵なのか、味方なのか⋮⋮⋮⋮︶
ロ ゥ リ ィ 聖 下 か 間 違 い な い
!
!?
ピニャの配下のグレイも、彼女の肩越しに覗き窓の外の光景を目にする。
れに金ピカだと
? !?
それにあの目立つ鎧の者││││﹂
﹁何でしょうなぁ∼、あの一団は。魔導師、エルフ、幼いエムロイ教の神官見習いでしょ
うか
?
﹂
!
!
﹂
!
本当に神からの
!
グレイは不穏当なピニャの宗教発言に耳を塞ぎながら、彼女の今の話と自分が無関係
言葉かどうかも怪しいぞ
のお言葉だとか、結局は神の名を借りた神官自身の言葉ではないか
﹁ふんっ、神の行いなど気紛れだからな。それに、大体神官などが口にする天啓だの、神
大差は御座いませんな。しかし何故にまた、ここに居らしたのか⋮⋮⋮⋮﹂
﹁幼子の様な者があの死神ロゥリィだとは⋮⋮⋮⋮見た目はここのご当主のミュイ様と
は想像してはおらず、そのギャップに驚く。
グレイも死神ロゥリィの名前こそは聞いてはいたが、見るからに十代前半の年格好と
が、齢九百を越えているのだぞ
﹁あのエムロイ教のは神官見習いではなく、亜神の死神ロゥリィだ 見てくれは幼い
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
83
姫様、小官は何も聞いてはおりませんぞ
あーー
!
﹂
!
であることを主張し出す。
あーー
!
︶
かし妾にはもう兵達の士気を上げる術はない。全ては妾の決断に掛かっているのか
ええいっ、ままよ
﹁よっ、よくぞ参ったな
⋮⋮⋮⋮ん
﹂
?
﹂
?
﹁わっ、妾の所為か⋮⋮⋮⋮﹂
﹁伊丹さんへの仕打ち、万死に値すると思え。雑種﹂
間に立ち言い放つ。
レレイ、テュカ、そしてロゥリィが頷くが、ギルガメッシュがピニャと倒れた伊丹の
﹁わっ、妾か
予想外の出来事に、ピニャは倒れている男と一緒だった一団の者達に確認をする。
倒れている。
鈍い衝撃音と共に開け放たれた入り口には、気を失っている斑服を着た男が仰向けに
!!
遂に意を決したピニャは、勢い良く扉を開け放つ。
!!
!
︵ この一団は敵なのか、味方なのか、城内に招き入れて良いのか、悪いのか⋮⋮⋮⋮し
ている現状に考えを巡らす。
ピニャはこちらに向かって来る一団と、攻め込まれイタリカの兵の士気も下がって来
﹁あーー
!
84
﹁雑種以外に居るまい﹂
﹂
ギルガメッシュが空間から一振りの剣を取り出すと、グレイや周囲の兵達がギルガ
早くそこからお退き下さい
メッシュに剣を構える。
﹁姫様
!
︶
纏ったメデイアが、蝶の様に既に浮遊している。
メデイアからの念話を受けたギルガメッシュが空を見上げると、ローブを拡げ円環を
先ずは耀司様の容態を看て差し上げて ︶
︵ ギル、ここで事を荒立てては駄目よ。こんな連中は私が一撃で消し炭に出来るから、
!
!?
照れるから止めてくれるかしら ︶
!
ニャに怒鳴り出す。
テュカは伊丹の腰から水筒を取り出し、彼の顔に水をジャバジャバと掛けながらピ
︵ ちょ、ちょっとギル
思い出し、顔を朱らめるメデイア。
突然、聖杯戦争の頃の話をしだしたギルガメッシュの言葉に、必死で身を挺した事を
︵ そう云えば、冬木で我が伊丹さんを待ち伏せした時も、直ぐに現れましたよね ︶
の私も直ぐに動くってものよ ︶
︵ 耀司様とのパスの繋がりは伊達ではなくってよ。いきなり音信が途絶えたら、流石
︵ メデイアさん、いつの間に
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
85
﹁貴女バカじゃないの 扉の前に誰か立っているとか考えないの ゴブリン以下よ
﹂
!?
!
﹁伊丹さん
伊丹さん
﹂
ギルガメッシュは、ロゥリィに膝枕をされている伊丹の頬を軽くペシペシ叩く。
!!
!
﹂
?
メデイア
俺は大丈夫だから、物騒な真似は止めてくれよなーー
!
只今そちらへと降り立ちますわぁ∼
﹂
!
﹂
!
し出す。
﹁おーーい
﹁耀司さまぁ∼
!
︵ 心配掛けて済まなかったな。上空に使い魔を残して降りて来てくれないか ︶
!
伊丹は慌てて飛び起き、空のメデイアに向かい大きく手を振り大声で叫び、念話で話
ているのが目に入った。
伊丹が空を見上げると、そこには今にも上空から光線を出しそうなメデイアが浮遊し
﹁えっ
いたかもしれませんよ﹄
﹃二尉の意識の戻りがもう少し遅かったら、メデイアさんに因ってイタリカが消滅して
﹁桑原曹長、申し訳ない。少し気を失っていたみたいだ。それにギル、有り難う﹂
お やっ さ ん
プレストークスイッチを押して答える。
程無くして意識を取り戻した伊丹は、小隊無線から呼び続けている桑原曹長に胸元の
!
86
︵ 嗚呼、耀司様。ご無事で何よりでしたわ ︶
﹂
空に浮遊しているメデイアを見つけたピニャを始めとした街の住人達が腰を抜かさ
翼竜を使わずに人が空を飛んでいる
んばかりに驚く。
﹁ひっぃぃ
!
し が い ち
し詰め死街地になっていたところよ∼。おーーほほほほっ
﹂
降り立って直ぐに物騒な物言いをすりメデイアを伊丹は宥める。
と、伊丹は言いながらピニャに視線を移し話を繋ぐ。
!
!
﹁何で俺はこんな目にあったのか、その張本人から事情を聞きたい
﹂
すると周囲の者達の視線がピニャへと集まる。
﹁やはり妾なのか
﹂
?
ピニャも皇女と云う立場上、軽々しく頭を下げ謝る訳にもいかない。
﹁姫様以外におりましょうや
流石のグレイもため息混じりに答える。
!?
﹂
﹁お嬢さん、耀司様がご無事で何よりでしたわね。怪我でもなさっていたら、この街が差
口を開いた。
メデイアは伊丹の呼び掛けに応え、彼の傍にフワリと降り立つと、驚くピニャを睨み
!
﹁メデイア、俺は何ともないから大丈夫なんだけど﹂
6 よっ、よくぞ参ったな!!…………ん?
87
しかも目の前に居るのは、緑の斑服を着ている。もしかしたら、これが噂の緑の人か
・
あの緑の人々が援軍に馳せ参じたぞ
・
も知れないと考え、一際大きな声を上げて伊丹一行の到着を知らせる。
大 声 を 上 げ て 歓 待 せ よ さ す れ ば 妾 も 頭 を 下 げ ず に 済 む
﹁みっ、皆の者 妾の言葉をよく聞くがよい
﹂
!
!
こうしてピニャは、計らずも伊丹達、緑の人を味方に引き入れてしまうのであった。
⋮⋮⋮⋮︶
︵ 商 取 引 の 護 衛 と 偵 察 の 筈 だ っ た の に、何 で こ う な る ん だ ⋮⋮⋮⋮ 巻 き 込 ま れ た
それとは対照的に、置かれた現実に嫌な予感しかしない伊丹。
た。
ら負ける気がしないと感じ始めた兵や市民達。ここに来て、兵達の士気も一気に高まっ
炎龍を撃退した強者達、魔導師、精霊魔法の使い手、それに使徒が揃っているのだか
伊丹の抗議の声を掻き消さんばかりのどよめきと歓喜の声が辺りから沸き上がる。
﹁ちょっと待ってくだ││││﹂
したら、いつの間にかイタリカを救う援軍にされてしまったのである。
ピニャの一言に一番驚いたのが伊丹である。自分が打ちのめされた事情を聴こうと
⋮⋮⋮⋮だろう ︶
︵ さ あ、皆 の 者
!
!!
!
88