琵琶湖から「冬」を追う

琵 琶 湖 か ら﹁ 冬 ﹂を 追 う
白銀に染まる
静寂の世界に
包まれて
冬の撮影は特別だ。秋までに下見をしておいた場
所 も 、雪 に 覆 わ れ る と 表 情 が 一 変 し 、ル ー ト や ス
ポットの手がかりが掴めなくなってしまう。またそ
れほど心を打たれなかった場所でも、雪化粧によっ
て魅力的な景観に生まれ変わることもある。とにか
く積雪のあった朝は、現地まで行って自分の目で確
かめてみるしかない。
琵琶湖周辺の豪雪地帯は、川が見えなくなるほど
積もることがある。そういう時は﹁かんじき﹂を履き、
腰まで埋まりながら川岸を歩く。雪がなければなん
なく分け入って行けるところも、足元の状態が分か
らないので慎重に進むしかない。足を引きずり懸命
に歩いているにもかかわらず、振り返ってまだ数十
メ ー ト ル し か 動 け て い な い こ と に 気 が つ く と 、﹁ 大
自然の前で人間は無力だ﹂という想いが湧いてくる。
がっかりするのではない。雪があらゆる音を吸い込
んでしまった真っ白な世界に立ちすくんでいると、
不思議と謙虚な気持ちになってくるのだ。
やっと撮影スポットを見つけた頃には息が弾み、
汗をかいている。雪の上に荷物を置けるようすばや
く 陣 を 取 り 、三 脚 を セ ッ ト す る 。雲 間 か ら 日 が 差 し
込 ん で く る と 、山 里 を 飾 る 雪 と 水 面 が 輝 き 出 す 。ま
るで星空のような美しさだ。凍える手をこすりなが
ら 、じ っ と カ メ ラ を 構 え る 。雪 が 木 々 の 枝 か ら 川 に
落ちる音だけが、山間に響き渡っていた。
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Kawasaki News 181
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【 写 真 右 】京 都 府との 県 境に近 い 、福 井 県 おお い 町 名 田 庄で撮 影した南 川( み な み がわ)。昨 夜 来
の 降 雪で木々は雪に覆われている。山 の 稜 線から朝日が 顔を出すタイミングを待ってシャッター
を押した。
【 写真左上 】京都府南丹市美山町、盛郷付近の棚野川(たなのがわ)は深い雪の中にあった。腰まで
埋まりながら川岸へ下り、かすかな水音と雪音に耳を澄ませる。静寂が心地よく包み込んでくれた。
【 写 真 左 中 】比 良 山 地に沿って流 れている安 曇 川( あどがわ)を撮 影 。豪 雪 地 帯だけあって積 雪 が
多かった。古くから鯖街道として栄えた山 里は、雪 の 中でひっそりと春を待つのだ。
【 写 真左下 】丹後富士を望む由良川(ゆらがわ)。山 頂からは日本 三 景 の 天 橋 立 が 見えるそうだ。