日本基準のトピックス 2016年02月04日 第296号

日本基準トピックス
ASBJ 「収 益 認 識 に関 する包 括 的 な会 計 基 準 の
開発についての意見の募集」の公表
2016年2月4日
第296号
■主旨

2016年2月4日、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、収益認識に関する包括的な
会計基準の開発についての意見の募集」(以下、「本意見募集」)を公表しました。

ASBJは、日本基準の体系の整備、高品質化、および国際的な比較可能性の向上を意
図し、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」を踏まえた収益
認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討を開始しています。

こうした検討を進めるにあたっては、IFRS第15号を踏まえた内容の収益認識に関する
包括的な会計基準を導入した場合に適用上の課題が生じることも懸念されます。

そこで、ASBJは、こうした懸念に適切に対応するために、検討の初期の段階で、仮に
IFRS第15号と同様の内容を我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、
連結財務諸表および個別財務諸表に導入した場合に生じ得る適用上の課題や今後の
検討の進め方等について、幅広く意見を把握するために、本意見募集を公表しました。

コメント期限は、2016年5月31日となっています。
・ 原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/press_release/domestic/shueki2016/
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1.本意見募集の公表の経緯
我が国においては、企業会計原則の損益計算書原則に、「売上高は、実現主義の原則に
従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの、
収益認識に関する包括的な会計基準は開発されていません。
一方で、国際的には、国際会計基準審議会(IASB)および米国財務会計基準審議会
(FASB)が、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、2014年5月に、
IASBは、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。この結果、IFRSと米国
会計基準における収益認識の基準は文言レベルで概ね同一の内容となっています。
そこで、これらの状況を踏まえ、ASBJは、2015年3月に開催された委員会において、我が国
の会計基準を、高品質で国際的に整合性のあるものとし、投資家の意思決定により有用な
財務情報を提供するとともに、会計基準の体系の整備を図る観点から、IFRS第15号の内容
を出発点として、包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、すでに
検討を開始しています。
しかしながら、新たにIFRS第15号を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準を開発す
ることにより、財務諸表作成者である企業にとって適用上の課題が生じることも懸念され
ています。
1
そこで、こうした懸念に適切に対応するために、ASBJは、仮にIFRS第15号の基準本文
(適用指針を含む)の内容のすべてを、我が国における収益認識に関する包括的な会計
基準として連結財務諸表および個別財務諸表に導入した場合に生じ得る論点を予備的に
識別するとともに、適用上の課題について分析を行い、今回、適用上の課題や今後の検討の
進め方等について、幅広く意見を把握するために、本意見募集を公表することとしました。
2.収益認識に関する包括的な会計基準を開発すること
の意義
本意見募集では、IFRS第15号を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準の開発を
行う意義を、以下の3点から説明しています。
(1) 我が国の会計基準の体系の整備
我が国の会計基準には、企業会計原則において収益認識に関する基本となる考え方が
示されているものの、収益認識に関する包括的な会計基準は開発されていない。このた
め、収益認識に関する包括的な会計基準の開発は、会計基準の体系の整備につながり、
我が国の会計基準の高品質化に寄与する。
(2) 企業間の財務諸表の比較可能性の向上
収益認識に関する包括的な会計基準の開発により、我が国の企業間の財務諸表の比較
可能性が向上し、財務諸表利用者に便益をもたらす。また、IFRS第15号は、米国会計基準
(Topic606)と文言レベルで概ね同一の基準となっており、また、業種横断的に複雑な取引や
新しい取引を含む多様な取引に適用可能な会計基準とされている。このため、これに準拠
して財務情報が作成された場合、取引の種類や業種にかかわらず、企業の損益計算書に
おいてトップラインとして表示される収益の金額について、国際的な比較可能性を改善する。
(3) 企業により開示される情報の拡充
IFRS第15号では、収益認識に関する開示情報が大幅に拡充されている。このため、これ
を参考に、新たに開示の定めを設けることにより、財務情報の質が向上し、財務諸表利
用者の情報ニーズに、より応えるものとなる。
3.IFRS第15号に関して予備的に識別している適用上
の課題
本意見募集では、ASBJにおける調査や審議において、日本基準または日本基準におけ
る実務を踏まえて、仮にIFRS第15号の内容を我が国の収益認識に関する包括的な会計
基準に導入した場合に重要な影響を受ける可能性があるものとして、以下の17の論点が
予備的に識別されました(図表1参照)。
本意見募集では、各論点について、IFRS第15号における5つのステップ(*1)との関係を明
記した上で、以下の観点から分析が行われています。






論点の概要(具体的事例を含む)
日本基準または日本基準における実務
IFRS第15号での取扱い
財務報告数値の相違
予備的に識別した適用上の課題
影響を受けると考えられる取引例(具体的事例における影響を含む)
2
また、17の論点に加えて、開示(注記事項)についても分析されており、日本基準および
IFRS第15号の取扱い(開示例を含む)、および予備的に識別した適用上の課題について
記載されています。
(*1) 5つのステップ
IFRS第15号では、収益認識の基本原則として「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービ
スと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で描写するように、企業は収益を認識しなけれ
ばならない」とし、企業がこれにしたがった収益認識するために、適用する以下の「5つのステップ」を示している。
「5つのステップ」については以下のリンク先参照。
https://inform.pwc.com/inform2/s//informContent/1117045512172851#ic_1117045512172851
(図表1 17の論点と影響を受けると考えられる取引例(*2))
論点№
論点の内容
影響を受けると考えられる取引例
同一の顧客と同時またはほぼ同時に複数の契約を締結する
取引
1
(ステップ 1)
2
(ステップ 1)
3
(ステップ 2)
4
(ステップ 2)
契約の結合

ソフトウェアと当該ソフトウェアのカスタマイズについ
て契約を分けている場合

ソフトウェア受注制作で開発工程ごとに契約を分けて
いる場合
提供する財またはサービスの内容や価格の変更が生じる
取引
契約の変更
約束した財または
サービスが別個の
ものか否かの判断
追加的な財または
サービスに対する
顧客のオプション
(ポイント制度等)

建設、ソフトウェアの開発、設備等の長期の受注製作、
電気通信契約
商品等の提供とその後の一定期間にわたる付随的サービス
の提供が 1 つの契約に含まれる取引等の、収益の認識時点
が異なる複数の財またはサービスを一体で提供する取引

機械の販売と据付サービスや保守サービスの組合せ

ソフトウェア開発とその後のサポート・サービスの組み
合わせ
企業が顧客に財またはサービスを提供する際に、付随して
追加的な財またはサービスに対するオプションを提供する
取引

売上やサービス提供に伴いポイントを付与する取引
企業が保持する知的財産に関する権利について、顧客に
ライセンスを供与する取引
5
(ステップ 2)
(ステップ 5)
6
(ステップ 3)
知的財産ライセンス
の供与
変動対価
(売上等に応じて
変動するリベート、
仮価格等)

特許権の使用許諾、一定地域における独占販売権
を与えるライセンス取引

メディア・コンテンツやフランチャイズ権のライセンス、
ソフトウェアのライセンスおよび医薬品業界の導出取引
商品受渡後の価格調整が契約で定められている取引、業
界の慣行として価格調整が行われる取引、顧客からの受
取額に変動要素がないが、関連して企業から顧客に支払
われる金額に変動要素がある取引

仮価格による取引

販売数量や業績達成に応じたインセンティブを付す
リベート

販売店が消費者に対して行う値引きについてメーカー
がその値引きの一部を負担する取引
3
論点№
論点の内容
影響を受けると考えられる取引例
企業の提供する財またはサービスに関して、返金を伴う返品
や別の財またはサービスとの交換を認めている取引
7
(ステップ 3)
8
(ステップ 4)
返品権付き販売
独立販売価格に
基づく配分

出版社や音楽用ソフト等の制作販売会社等の返品
権付き販売

通信販売を行う場合に一定期間の返品を認める制度
を設けている場合の取引
論点 3 および論点 4 と同様
一定期間にわたって継続的にサービスを提供する契約や
一定期間で製品を製造する契約
9①②
(ステップ 5)
一定の期間にわたり
充足される履行義務

輸送サービス、管理や事務代行等のサービス提供
取引

ソフトウェア開発やビル建設等の長期の個別受注取引
物品の販売契約や輸出契約等の取引
10
(ステップ 5)
一時点で充足される
履行義務
11
(ステップ 5)
顧客の未行使の
権利
(商品券等)
12
(ステップ 5)
返金不能の
前払報酬

出荷してから顧客による検収までの期間が一定程度
ある取引
将来の財またはサービスに対する支払が前もって行われる
ような取引

商品券、旅行券、食事券、ギフト券の発行を伴う取引
財またはサービスを提供する前に顧客より受け取る対価を
返金する義務がない場合

サービス業における入会金

電気通信契約の加入手数料
企業間の取引を仲介するケース等
13
(ステップ 2)
14
(ステップ 3)
本人か代理人
かの検討
(総額表示または
純額表示)
第三者に代わって
回収される金額
(間接税等)

卸売業における取引

小売業におけるいわゆる消化仕入や返品条件付
買取仕入

メーカーの製造受託の取引や有償支給取引

電子商取引サイト運営に係る取引
企業の財またはサービスの提供に関連して、第三者に支払
を行う場合(特に国や地方公共団体へ税金を納付する義
務を負う場合)

たばこ税、揮発油税、酒税
企業が顧客に対して、返金や値引きを行う場合
15
(ステップ 3)
顧客に支払われる
対価の表示

顧客に対するキャッシュバックまたは値引き

不特定多数に配布されるクーポンの顧客の使用

顧客に対する売上リベートの支払
4
論点№
論点の内容
影響を受けると考えられる取引例
契約獲得の増分コスト…顧客との契約を獲得するために
発生したコストで、当該契約を獲得しなければ発生しなか
ったもの

16
(-)
契約コスト
契約履行コスト…顧客との契約を履行する際に発生する
コストで、契約または具体的に特定できる予想される契約
に直接関連し、その回収が見込まれているもの

17
(-)
貸借対照表項目の
表示
外部の販売代理店や販売担当従業員に対する報奨
金等の契約獲得を条件とする成功報酬
長期の建設契約やソフトウェア開発契約に直接関連
して発生する直接労務費、直接材料費、契約管理
監督コスト、外注先への支払
―
(参考:ASBJ 『収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集』)
(*2) 上記において、IFRS第15号を適用した場合の会計処理に係る記載については、IFRS第15号の解釈を示
したものではないことが明記されています。
なお、本意見募集では、基本的には、重要性を考慮した内容となっていないとした上で、
実務において個別の取引に係る会計処理を検討する場合には、各企業の置かれた状況
等に応じて、金額的および質的重要性を考慮することが考えられるとしています。
IFRSでは、重要性について、IAS第1号「財務諸表の表示」およびIAS第8号「会計方針、
会計上の見積りの変更及び誤謬」において包括的に記述されており、各会計基準にお
いて重要性に関する特段の定めは原則として設けられていません。
一方で、我が国の会計基準では、個々の基準において、必要に応じて、重要性に関する
定めが設けられてきたため、今後、重要性に関する個別的な定めを設けるべきか否かに
ついても、論点となり得るものと考えられています。
4.質問事項
本意見募集に対するコメント期限は2016年5月31日です。コメントの募集にあたり、コメント
提出者への質問として、以下の項目が挙げられています。
質問 1
回答者の立場(財務諸表利用者、財務諸表作成者、監査人、学識経験者、その他)
質問 2
我が国における収益認識に関する包括的な会計基準を開発するにあたって、IFRS
第 15 号の内容を出発点として検討を行うことに対する意見
質問 3
17の論点について
 「予備的に識別した適用上の課題」の内容の適切性に対する意見と、記載された
課題以外に検討が必要と考えられる適用上の課題の内容
 「影響を受けると考えられる取引例」の取引例の適切性に対する意見と、記載された
取引例以外に影響を受けると考えられる取引例
 その他
質問 4
本意見募集で示した論点以外に、適用上の課題を識別している論点の内容
質問 5
本意見募集で示した IFRS 第15 号で定められている注記事項について、特に有用と考え
られるものと、取り入れることに特に懸念があるものについて、その内容と理由
質問 6
その他、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に対する意見
5
5.今後の予定
ASBJは、本意見募集文書に寄せられた意見を踏まえ、収益認識に関する包括的会計基
準の案の策定に向けた検討を行うことを予定しています。
また、収益認識に関する包括的な基準の最終的な基準化の時期については、現時点で
は、IFRS第15号(Topic606)が強制適用となる、2018年1月1日以後開始する事業年度
(2017年12月15日より後に開始する事業年度)に適用が可能となることを当面の目標とし
て検討を進めるとしています。
なお、ASBJは、通常、会計基準の開発にあたっては、公開草案を公表する前に、「論点
整理」等の公表により、検討状況について一般に意見を求めます。しかしながら、今回の
収益認識に関する包括的な会計基準の開発においては、本意見募集に寄せられた適
用上の課題の内容等を踏まえた上で、公開草案前の「論点整理」等の実施について検
討することを予定しています。
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