藤本昇特許事務所 白井 里央子◇弁理士 当社は、若者に人気の他社ブランドのアクセサリーを正規ルートで購入し、おしゃれな独自 の装飾加工を施して販売しています。先日、製造メーカーであるA社から、 「商標権を侵害 しているので、商品の販売を中止しろ」との通知が届きました。当社は正規品を購入してい るにもかかわらず文句を言われるというのは納得できませんが、商品の販売は中止すべきで しょうか? 1.問題の所在 (沖縄県 I.K) したがって、他社ブランドの商標が ア原 告製品は原告独自の品質管理に 一般に商標権者(製造メー 付された元の商品(真正品)について、 関する基準に基づき製造されている カー)が自らの意思で流通過程におい 製造メーカーであるA社(商標権者) イ被 告商品のダイヤモンドは原告製 て真正商品を取得し、これに改変を加 の許可なく改変し、これを再販売して えることなく販売する行為は、商標権 いる貴社の行為は、A社の商標権侵害 侵害を構成しないと考えられています。 に該当する可能性が高いと思われます なぜなら、真正品に改変を加えるこ ので、速やかに改変後の商品の販売を となく再譲渡する行為は、形式的には 商標法2条3項の「商標の使用」に該 当しますが、商標の本質的機能である 中止することが望ましいでしょう。 商品改変後の再販売行為について、 下記の判例が参考となります。 出所表示機能や品質保証機能を害する 品よりも小さい ウ被 告のダイヤモンドには一見して傷 が見られ、品質が良くない よって、被告製品の譲渡等の行為は、 原告製品を加工したことをもって違法 性を欠くことにはならない。また、真正 な原告製品として、ダイヤモンドを付し たものが販売されており、被告製品がこ ことがないため、実質的違法性を欠く 3. 「after diamond」事件 れと混同を生じるおそれのある形態であ ものと認定できるからです。 〔平成17 (ワ) 8928 東京地裁〕 ることに照らせば、上記表示があるとし しかし、本件ではA社から正規ルート 貴金属輸入販売会社である被告が、 ても、原告商標の出所表示機能及び品質 で仕入れた商品を許可なく改変し、再 有名ブランド 「Cartier (カルティエ) ( 」原 譲渡 (販売) しているので、このような改 告)の腕時計や指輪等を購入し、これ 変行為後の商品の再譲渡がA社の商標 にダイヤモンドを埋め込む等の加工を 権を侵害するか否かが問題となります。 施し、 「アフターダイヤ」と広告して商 他社ブランドの商品を改変して再販 品を販売していた行為について、以下 売する場合でも、元の商品に商標が付 の理由により、被告の行為は、原告商 されておらず、他社ブランドの商標を 標権を侵害するものと判断されました。 使用せずに再販売するのであれば、商 2.商品の改変行為 流通過程で商品に改変が加えられた 場合、改変後は、良しあしにかかわら ず、 品質が変更されるのは明らかです。 〔判旨〕 保証機能を害することに変わりはない。 4.その他のケース 標権の侵害行為に該当しません。 被告製品は、原告製品を加工したも また、加工過程で商標を抹消して再 商標権者の立場では、このような改変 のであるが、以下のとおり、原告製品 販売する行為が商標権侵害に該当する 行為により、自らの商品の品質が予期せ の品質にも影響を及ぼす改変を施した 可能性は低いですが、民法の不法行為 ず変更され、改変後の品質について責 ものであり、原告商標の出所表示機能 に該当するおそれがあります。上記基 任を負うことができないため、商標の品 及び品質保証機能を害するものといわ 準を元に、他社商標権を侵害するか否 質保証機能が害されると考えられます。 ざるを得ない。 かを判断し、対策を講じてください。 68 The lnvention 2016 No.2
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