講義資料

情報知的所有権セミナー 第5回
商標制度
弁護士・弁理士 千 且 和 也
きさらぎ国際特許業務法人・千且法律事務所
千代田区二番町5-6
あいおいニッセイ同和損保二番町ビル8階
Tel: 03-3261-7333
E-meil: [email protected]
iPad商標権主張の唯冠科技、米
国でもアップルを提訴
中国での「iPad」の商標権保有を主張している唯冠科技(プロ
ビュー・テクノロジー)が、台湾の関連企業とともに、米国でも米
アップルを提訴していることが明らかになった。唯冠科技と台湾関
連企業は2月17日付けで、アップルに対し「iPad」名称の使用停
止と損害賠償を求める訴訟をカリフォルニア州連邦地裁に提訴し
ていた。
アップルは2006年、「iPad」の商標を、唯冠科技の台湾企業
である唯冠国際控股(プロビュー・インターナショナル・ホールディ
ングス)から3万5000ポンドで購入している。唯冠科技側は、この
取引に際して、アップルが「IPAD(IP Application
Development Ltd)」という特別目的会社を設立し、そこ通じて
商標権を取得したことが、アップルの名前を隠して商標権を買収し
やすくする詐欺行為にあたると主張しているという。
1.総論(1)
商品表示の保護
商標法
保護対象
商標
文字や図形などであって、自己の商品などに使用するもの
自己の商品の名称やブランドなどがその例
不正競争防止法
周知・著名商標
1.総論(2)
商標法によって保護を受けるためには、予め特許庁に登録を
受ける必要があり、他人の既登録商標や周知・著名商標と同一
又は類似しない限り、商標登録を受けることができる。商標権の
存続期間は、特許庁に登録された日から10年であるが、特許
権などと異なり、存続期間の更新を行うことができ、権利を半永
久的に保持することができる。商標権の効力は、その商標と同
一又は類似の商標まで及ぶ。
一方、商品等の表示について不正競争防止法による保護を
受けるためには、特許庁への予め登録しておく必要はないが、
その商品等の表示が周知又は著名である必要があり、不正競
争防止法に基づいて裁判所に訴えを提起する場合、その周知・
著名を自ら立証しなければならない。この周知・著名の立証は、
必ずしも容易でないので、例え、貴社の商品の商品名が周知・
著名であったとしても、予め商標権を取得しておいた方が良い。
2.商標法による保護(1)
(問)身の回りにどのような商標が存
在するか?
2.商標法による保護(2)
身の回りに存在する商標
企業が提供するほとんどの商品・役務
(サービス)には、商標が使用されてい
る
1.個別商品・サービスの商標
2.商品を販売する会社の商標
3.商品を製造する会社の商標
4.サービスを提供する会社の商標
2.商標法による保護(3)
(問)商標か?
1.ウォークマン
2.味の素
3.ナイロン
2.商標法による保護(4)
登録商標
マーク
特定
商品・サービス
貨物車による輸送,
貨物自動車による
輸送,貨物のこん
包,貨物の輸送の
媒介,寄託を受け
た物品の倉庫にお
ける保管など
2.商標法による保護(4)

鉄道による輸送

家庭用テレビゲーム
おもちゃ
2.商標法による保護(5)

電気通信機械器具

化学調味料
2.商標法による保護(6)

飲食物の提供

鉄道による輸送
金融関係のサービス
その他


2.商標法による保護(7)
商標の役割と保護される理由を知っておこう
商品や役務(サービス)の識別マーク
「商標」とは文字、図形、記号等であって、商品または役務の識別に用いられ
る識別標識である。言い換えれば、ある一群の商品または役務と、他群の商品
または役務とを識別するために使用される文字、図形、記号等が商標である。
商品の識別のために使用される商標を「商品商標」、役務の識別のために使用
される商標を「役務商標」という場合がある。ここでいう「商品」とは商取引の目
的となる動産、「役務」とは他人のためにする労務または便益を意味する。
なお、文字、図形、記号等であっても、商品または役務の識別に使用されない
ものは、商標ではない。またわが国の商標法では、平面的な商標だけでなく、
立体商標も認めている。
2.商標法による保護(8)
国際分類(1)
第1類
第2類
第3類
第4類
第5類
第6類
第7類
第8類
第9類
第10類
第11類
第12類
第13類
第14類
第15類
第16類
第17類
第18類
第19類
第20類
第21類
第22類
工業用、科学用又は農業用の化学品
塗料、着色料及び腐食の防止用の調製品
洗浄剤及び化粧品
工業用油、工業用油脂、燃料及び光剤
薬剤
卑金属及びその製品
加工機械、原動機その他の機械
手動工具
科学用、航海用、測量用、写真用、音響用、映像用、計量用、信号用、検査用、救
命用、教育用、計算用又は情報処理用の機械器具、光学式の機械器具及び電気の
伝導用、電気回路の開閉用、変圧用、蓄電用、電圧調整用又は電気制御用の機械
器具
医療用機械器具及び医療用品
照明用、加熱用、蒸気発生用、調理用、冷却用、乾燥用、換気用、給水用又は衛星
用の装置
乗物その他移動用の装置
火器及び火工品
貴金属、貴金属製品、宝飾品及び時計
楽器
紙、紙製品及び事務用品
電気絶縁用、断熱用又は防音用の材料及び材料用のプラスチック
革及びその模造品、旅行用品並びに馬具
金属製でない建築材料
家具及びプラスチック製品であって他の類に属しないもの
家庭用又は台所用の手動式の器具、化粧用具、ガラス製品及び磁器製品
ロープ製品、帆布製品、詰物用の材料及び織物用の原料繊維
2.商標法による保護(9)
国際分類(2)
第23類
第24類
第25類
第26類
第27類
第28類
第29類
第30類
第31類
第32類
第33類
第34類
第35類
第36類
第37類
第38類
第39類
第40類
第41類
第42類
第43類
第44類
第45類
織物用の糸
織物及び家庭用の織物製カバー
被覆及び履物
裁縫用品
床敷物及び織物製でない壁掛け
がん具、遊戯用具及び運動用具
動物性の食品及び加工した野菜その他の食用園芸作物
加工した植物性の食品及び調味料
加工していない陸産物、生きている動植物及び飼料
アルコールを含有しない飲料及びビール
ビールを除くアルコール飲料
たばこ、喫煙用具及びマッチ
広告、事業の管理又は運営及び事務処理
金融、保険及び不動産の取引
建設、設置工事及び修理
電気通信
輸送、こん包及び保管並びに旅行の手配
物品の加工その他の処理
教育、訓練、娯楽、スポーツ及び文化活動
科学技術又は産業に関する調査研究及び設計、電子計算機又はソフトウェアの設計
及び開発並びに法律事務
飲食物の提供及び宿泊施設の提供
医療、動物の治療、人又は動物に関する衛生及び美容並びに農業、園芸又は林業
に係る役務
冠婚葬祭に係る役務その他の個人の需要に応じて提供する役務及び警備
2.商標法による保護(10)
商標の役割と保護される理由を知っておこう
商標はなぜ保護されるの?
ここにA社が提供する缶コーヒーと、B社が提供する缶コーヒーがあるとする。
そして、A社B社とも自社が提供する缶コーヒーを他社の缶コーヒーと差別化し
て、消費者に印象付けたいと考えている。もしもこのとき、商標が付されておら
ず、A社の缶コーヒーとB社の缶コーヒーの缶の外観が同じであるとすると、消
費者はA社の缶コーヒーとB社の缶コーヒーとを、その外観からは識別すること
ができない。つまり、A社の缶コーヒーとB社の缶コーヒーは、外観では差別化
できないことになる。
その結果、A社の缶コーヒーを買ったつもりが、B社の缶コーヒーを買ってし
まったり、逆に、B社の缶コーヒーを買ったつもりがA社の缶コーヒーを買ってし
まったりすることが起こる。これでは、A社およびB社は、自社製品を消費者に
印象付けることはできない。
2.商標法による保護(11)
商標の役割と保護される理由を知っておこう
商標はなぜ保護されるの?
そこでたとえば、A社の缶コーヒーに「OO」という商標、B社の缶コーヒーに
「××」という異なる商標をつけたとする。そうすると、消費者はA社が提供する
缶コーヒーとB社が提供する缶コーヒーをその商標を目印にして識別することが
できる。その結果、A社とB社は、自社の缶コーヒー自体の印象、自社の印象を
その商標に結合させることができる。そして、その商品や提供主の印象がよい
ものであれば、それが業務上の信用となって商標と結びつくので、A社、B社に
とって有利である。
一方、消費者も商標を目印にしてA社とB社の缶コーヒーを区別して購入する
ことが可能となる。また、商標は、複雑な商品の特性等を単純化して表彰するこ
とが可能であるから、商品または役務の宣伝広告も容易に行なうことができる。
このような理由から商標を、商標法を設けて保護することとしている。
2.商標法による保護(12)
商標登録制度がなかったら
1.自己の商標が真似されてしまい、同一
の商標が氾濫する
2.商品・役務の選択が困難になる
3.商品・役務の出所が分からなくなる
4.商品・役務の質の維持向上が図れな
い
2.商標法による保護(13)
商標権とはどのような権利なのか?
商標を独占できる権利
商標権は、商標について登録を受けた場合に発生する。この商
標権は、登録された商標を、(願書で指定した)商品や役務につい
て独占できる権利である。たとえば、缶コーヒーについて商標「O
O」が登録された場合、その商標権者は缶コーヒーについて商標
を「OO」を使用する権利を独占できることになる。したがって、他
人は缶コーヒーについて商標「OO」は使用できないことになり、使
用した場合には商標権侵害となる。
2.商標法による保護(15)
商標権とはどのような権利なのか?
似通っているものの使用も禁止される
他人が登録商標を指定商品(役務)について使用した場合、出所の混同が生じて商標
権者の業務上の信用が損なわれることはもちろんであるが、他人が登録商標を指定商
品(役務)に似通った商品(役務)に使用する場合、あるいは他人が登録商標に似通った
商標を指定商品(役務)やそれに似通った商品(役務)に使用する場合にも、出所の混同
が生じて商標権者の信用が損なわれる危険性がある。
たとえば、商品MDプレイヤーについて商標「OO」が登録されている場合に、他人が商
品MDプレイヤーについて商標「OO」を使用する場合、またはMDプレイヤーに似ている
商品CDプレイヤーについて商標「OO」や、それと似ている商標「●●」を使用する場合
である。
このような場合、一般的には需要者に出所の混同が生じるとして、他人は使用すること
ができない。商標が似通っているかどうかは、商標の外観、呼称および観念(イメージ)、
主な需要者層や取引の実情などから総合的に判断する。
2.商標法による保護(16)
商標権とはどのような権利なのか?
似通っているものの使用も禁止される
商品・役務
商標
同一
類似
非類似
同一
侵害
侵害
非侵害
類似
侵害
侵害
非侵害
非類似
非侵害
非侵害
非侵害
2.商標法による保護(17)
商標の類似(1)
称呼 「ディオール」と「ディロール」
「ハリス」と「パリス」
観念 「太陽」と「SUN」
「東京っ子」と「江戸っ子」
外観 「テイオン」と「ライオン」
「ピアノを弾いている図形」と
「オルガンを弾いている図形」
2.商標法による保護(18)
商標の類似?
1.「びゅう」と「銀座ビュー」
2.「トレン太くん」と
「スーパートレン太くん」
3.「cherryblossomboy」と
「チェリーブラッサム」
2.商標法による保護(19)
商標の類似(2)
識別性のないものとの組合せ
1.「スーパーライオン」と「ライオン」
2.「銀座小判」と「小判」
3.「レディグリーン」と「レディ」
2.商標法による保護(20)
商標の類似(3)
結合商標
1.「富士白鳥」と「富士」
2.「鶴亀 万寿」と「鶴亀」
3.「わんぱくモーニング」と
「ワンパク」
2.商標法による保護(21)
商標の類似(4)
2.商標法による保護(22)
商標の類似(5)
2.商標法による保護(23)
商標の類似(6)
2.商標法による保護(24)
商標の類似(7)

東京地裁は、ブームを起した「だんご3兄弟」に関連して、子供服に
付された標章について争われていた商標権侵害訴訟において、 原告の
請求を棄却した。原告の(有)ダンゴは、欧文字の横書きした「da
ngo」の文字部分と、3つの円を横並びにして、その中央部分を線
で貫いた図形部分とからなる登録商標(第4164185号)を所有
しているが、NHK教育TVの番組で広く知られた被告のエヌエイチ
ケイ(NHK)ソフトウエアの標章は、その外観、称呼および観念の
いずれにおいても類似しないと判断した。
商標「VOSS/フォス」は「BOSS
」と非類似
伊藤園およびフォスオブノルウェーの商標「VOSS/フォス」が、「BOSS」と
混同されるとした、商標登録取消し決定の取消しを求めた訴訟で、知財高裁は
2月21日、この商標の呼称は「フォス」と認められ、混同の恐れはないとして、
特許庁決定の取消しを命ずる判決を下した。
伊藤園およびフォス社は、「VOSS」と「フォス」を2行に併記した商標を
2008年3月に、第32類清涼飲料、果実飲料などで登録していたが、サントリー
が、「BOSS」とパイプをくわえた男の顔のイラストを組み合わせた商標(第30
類コーヒーなど、第32類コーヒー味の清涼飲料など)の商標と類似しているとし
て、異議申立てを行った結果、特許庁が2011年2月に取消し決定を行い、フォ
ス社が商標登録取消決定取消訴訟を提起していた。
知財高裁の中野哲弘裁判長は、2つの商標はイラストの有無を含め外観が
大きく異なり、また、「VOSS」はカタカナ併記もあり基本的に「フォス」の呼称を
生じるとして、両商標は類似しないと判断。特許庁の決定は誤りであるとして、
特許庁決定の取消しを命ずる判決を下した。
天使のチョコリング」商標登録無
効
名古屋のパン製造販売会社CLUB ANTIQUEが、販
売中の人気商品「天使のチョコリング」の商標登録を、
「森永製菓の商品と誤認混同の恐れがある」として無効
とした特許庁審決の取消しを求めた訴訟で、知財高裁は
3月17日、審決を妥当として請求を棄却する判決を下し
た。
「天使のチョコリング」は、2008年11月に商標登録
出願され、2009年9月に一度は登録を認められた。し
かし、「天使」の商標を有する森永製菓が無効審判を請
求し、特許庁が2010年9月、無効審決を下したため、C
LUB社側が、知財高裁に審決取消訴訟を起こしていた。
天使のチョコリング」商標登録無
効
CLUB社側は、「森永製菓には『エンゼルパイ』はあ
るが、『天使』の名称の主力商品はない」、「天使は一般
名称に近く、強い出所識別標識ではない」、「『天使の
チョコリング』は常に一体の名称として使用」などとして、
誤認混同の恐れはないと主張していた。
しかし、知財高裁の滝沢孝臣裁判長は、「森永製菓
は長年にわたりロゴマークに天使(エンゼル)を、商品の
パッケージにエンゼルマークと呼ぶ天使の図柄を使用し
ている」、「一般人もエンゼルと天使は同じ意味と認識」
などとして、「同様の指定商品では出所を誤認混同させ
る恐れがある」と判断。特許庁審決を妥当として請求を
棄却した。
2.商標法による保護(25)
商標権を取得するにはどうするか?
出願すればなんでも商標権を取得できる?
自他商品識別力
登録要件
他の商標との関係
公益性
先願主義
願書
2.商標法による保護(26)
自
他
商
品
識
別
力
(1)
普通名称
「時計」について「時計」
「靴の修理」について「靴修理」
慣用標章
「清酒」について「正宗」
「宿泊施設の提供」について「観光ホテル」
品質表示
商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、
数量、形状(包装 の形状を含む。)、価格若しく
は生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役
務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、
用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しく
は時期
2.商標法による保護(27)
自他商品識別力(2)
ありふれた図形、符号など
「一本の直線」などの図形
「球」などの立体的形状
ローマ字二文字
例外
周知商標と同一商標は、商標登録が可能
1.「鉄道による輸送」について
「草津」、「谷川」、「あいづ」、「津軽」
2.「ハム」について「ニッポンハム」
2.商標法による保護(28)
自他商品識別力(3)
(問)商標登録できるか?
1.「主催旅行の実施」について「チョ
コレート」
2.「鉄道による輸送」について「美味
しい」
2.商標法による保護(29)
他の商標との関係
1.他人の登録商標と同一又は類似
の商標
2.他人の周知・著名商標と同一又
は類似の商標
3.他人の業務と出所の混同が生じ
る商標
2.商標法による保護(30)
他の商標との関係
指定商品又は役務
同 一
類 似
非類似
登
録
商
標
同 一
類 似
非類似
×
×
○
×
×
○
○
○
○
2.商標法による保護(31)
公益性
公益的な標章
我が国の国旗
国際連合の標章
都道府県、市町村、都営地下鉄、都バス、市電、市バ
ス、水道事業、大学、宗教団体、オリンピック、
ボーイスカウト等を表示する著名な標章→団体自身
は商標登録可
品質の誤認を生じさせるもの
「ビール」について「○○ウィスキー」
「鉄道による輸送」について「△△空輸」
2.商標法による保護(32)
「立体商標」とは何だろう
立体商標も保護される
商標とは、一般的には平面的なものと思われている。つまり、商標とは文字、
図形、記号等の平面的なものから構成されているものと思われている。しかし、
商標法では立体的な商標も保護さる。
たとえば、ケンタッキーのカーネルサンダース人形、不二家のペコちゃん人形
を知らない人はいないと思う。ところが、立体的なものは商標としての機能を発
揮するものであるにもかかわらず、従来は商標とは平面的なものとされていた
ため、保護されてはいなかった。
しかし、これらのものも保護してほしいとの要請があったこと、立体商標を保護
することが国際的趨勢となってきたことを踏まえて、わが国でも立体商標の登
録が認められている。
2.商標法による保護(33)
「立体商標」とは何だろう
立体商標として登録できない場合
ただし、需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出さない
と認識するに過ぎない形状のみからなる立体商標は、原則として、
識別力がないものとして、登録しないこととしている。
たとえば、指定商品が「カメラ」である場合に、ボディとレンズの
形状の組み合わせからなり全体をして「カメラ」の形状を表示して
いると認められるに止まる立体商標は、原則として、登録しないこ
ととしている。
2.商標法による保護(34)
知的財産高等裁判所第一部(中野 哲弘裁判長)
は、本日(2010年11月16日)、ヤクルトプラスチッ
ク容器の立体商標出願に関する特許庁拒絶審決取
消訴訟において、ヤクルト本社(社長 堀 澄也)の
主張を認め、特許庁の審決を取り消す旨の判決を
下しました。 これまでヤクルトプラスチック容器は、
ロゴなしの容器について、立体商標の登録が認めら
れませんでしたが、今回の判決では、「長年の使用
により、容器の形状だけでも十分な識別力を獲得し
ており、登録されるべきである」との当社の主張が
認められたものです。
当社では、この度の判決を受け、今後ともヤクルト
プラスチック容器の立体商標を当社のトレードマー
クとして、適正に使用していきます。
「喜多方ラーメン」組合の商品といえ
ず、最高裁も地域団体商標認めず
地域団体商標として「喜多方ラーメン」の登録を認めないのは不
当だとして、福島県喜多方市のラーメン店などが加入する協同組
合「蔵のまち喜多方老麺(らーめん)会」が特許庁審決の取り消し
を求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(那須弘平裁判長)
は1月31日付けで、組合側の上告を退ける決定を下し、特許庁
審決を妥当として登録を認めなかった知財高裁判決が確定した。
この訴訟は、地域ブランドの保護を目的として2006年に導入さ
れた地域団体商標制度に関して、登録を認めなかった審決の是
非が争われた初のケースで、最高裁の判断が示されたのも初め
て。
「喜多方ラーメン」組合の商品といえ
ず、最高裁も地域団体商標認めず
喜多方老麺会は、同制度が発足した2006年4月に「喜多方
ラーメン」を出願したが、特許庁から登録を認められず、2008年5
月に拒絶査定不服審判を請求したが、2009年11月の特許庁審
決でも登録が認められなかった。このため、同年12月に知財高裁
に審決取消し訴訟を提起したが、知財高裁でも請求を棄却され、
最高裁に上告していた。
2010年11月の知財高裁判決(塩月秀平裁判長)は、「老麺会
やその加盟店が、市内で喜多方ラーメンの広告宣伝を積極的に
おこなっていたととしても、市外では非加盟店も相当長期間にわ
たって『喜多方ラーメン』の名称でラーメン店を展開している」と指
摘し、「知名度向上が必ずしも同会の貢献のみによるものではな
い」との特許庁判断を肯定。消費者は「喜多方ラーメン=老麺会
加入店のラーメン」とは認識していないと判断して、同会の請求を
棄却していたが、最高裁の上告棄却で、この判決が確定した。
日本郵便「ゆうメール」、商標権侵
害でDM配達の使用差止め
「ゆうメール」を、各戸への広告物配布などのサービスで商標登録している札
幌メールサービスが、日本郵政の郵便事業会社(日本郵便)を商標権侵害で提
訴していた訴訟で、東京地裁は1月12日、商標権侵害を認めて、日本郵便に
対しDMなどの広告物配達時の「ゆうメール」の使用中止を命ずる判決を下した。
なお、日本郵便は、即日控訴した。
札幌メールサービスは、2004年6月に「ゆうメール」を指定区分35、各戸に
対する広告物の配布 、広 告、市場調査等で 商標登録し てお り (登録番号
478163号)、日本郵便による広告物の配達は、商標権侵害にあたるとして、
サービスの差止めを求めていた。なお、日本郵便も、2004年11月に「ゆうメー
ル」を商標登録しているが(登録番号4820232号)、指定区分39、車両による
輸送、郵便、メッセージ、小荷物の速配、メッセージの配達、物品の配達、新聞
の配達などとなっている。
日本郵便は、「配達物は広告とは限らず、商標権侵害にはあたらない」と主張
していたが、東京地裁の阿部正幸裁判長は、「広告の配達にも利用できると宣
伝している」、「広告を配達する場合は、両社のサービスの内容は類似しており、
利用者が混同すること恐れがある」として、広告物配達時の「ゆうメール」の名
称の使用差止めを命ずる判決を下した。
日本郵便「ゆうメール」、商標権侵
害でDM配達の使用差止め
日本郵便
札幌メールサービス
車両による輸送、郵便、メッ
セージ、小荷物の速配、メッ
セージの配達、物品の配達、
新聞の配達
各戸に対する広告物の配布、
広告、市場調査
ネット通販の商標権侵害品販売、
放置ならサイト運営者も責任
インターネット通販サイト「楽天市場」で、販売業者の出品商品が
商標権を侵害していた場合、サイト運営者の楽天側にも法的責任
を問えるかが争われた訴訟の控訴審で、知財高裁は2月14日、
「商標権侵害を知って合理的な期間内にサイトから削除しなけれ
ば、商標権者は運営者に差止め請求できる」との判断を示したう
えで、楽天が訴状受取りの8日後までに商品を削除していたとして、
商標権者の損害賠償請求などを棄却する判決を下した。
この訴訟は、棒付きキャンディーで知られる「チュッパ チャプス
(Chupa Chups)」と類似のロゴマークが入った帽子やバッグな
ど商品が、2009年8月から楽天市場で販売されたことから、
「チュッパ チャプス」の商標権を管理するイタリアの会社が、楽天
に対し商品の販売・展示の差止めや100万円の損害賠償を求め
て提訴していたもので、楽天は訴状を受取ってから8日後までに
販売業者に要請して各商品を削除していた。
ネット通販の商標権侵害品販売、
放置ならサイト運営者も責任
2010年8月の一審東京地裁では、「楽天は売買の当事者では
ない」として商標権者の請求を棄却する判決が下されたため、商
標権者が知財高裁に提訴していた。
知財高裁の中野哲弘裁判長は、類似商品が出品されても運営
者がただちに商標権侵害を知りうるとは言えないとしつつも、「商
標権侵害を知って合理的な期間内にサイトから削除しなければ、
商標権者は運営者に差止め請求できる」として、一審とは異なり
運営者の責任も問えるとの判断を示した。しかし、このケースでは、
楽天は訴状を受け取ってから8日後までに販売業者に要請して各
商品を削除しており、責任は問えないとして、商標権者の請求を
棄却する判決を下した。
3.商標の使用(1)
商標権
商標の使用
商標権者は、指定商品又は指定役務につい
て登録商標を使用する権利を専有する権利
商品又は商品の包装に商標を付する行為
商品又は商品の包装に商標を付したもの
を譲渡等する行為
3.商標の使用(2)
商品についての商標の使用
陳列棚に商標を表示する行為
商標の形に型取られた菓子類や、飲料に関し立体商標として登録されている
ボトルのように、商品や包装自体が商標の形状をしたものも、商品ないし商品
の包装の商標に当たる
役務についての商標の使用
商標を付した電車を用いて鉄道による輸送を提供する行為
商標を付した食器類、箸袋を用いて飲食サービスを提供する行為
商標を付した制服を着用させた駅員を配置する行為
ケンタッキー・フライド・チキンの店舗においてカーネルサンダースの立体人形
を店頭に飾る行為
クリーニングサービスのクリーニング後の衣服に商標を付ける行為
荷物の預かりサービスの預かった荷物に商標を付する行為
3.商標の使用(3)
広告等についての商標の使用
ホームページを用いた広告の際に提示されるドメイン名
商品を5000円以上購入した者に交付される抽選券に商標を付
する行為
レシートに商標を付する行為
時刻表に商標を付する行為
3.商標の使用(4)
指定商品・役務に類似しない商品等の出
所を識別する表示として機能している場合
例えば、葡萄の巨峰の包装用に「巨峰」と印刷したダンボール箱
を製造、販売する行為が、指定商品を包装用容器とする登録商標
「巨峰」を侵害する行為に該当するか
3.商標の使用(5)
およそ商品・役務の出所を識別
する機能を果たしていない場合
テレビ漫画「一休さん」のキャラクター商品であるカルタの箱の左
上に小さく「テレビまんが」又は「テレビまんが一休さん」と付記す
る行為は、指定商品を娯楽用具とする登録商標「テレビまんが」の
侵害に当たるか
F1レース用自動車のプラスチックモデル添付用シール紙に
「Marlboro」と印刷する行為は、指定商品をおもちゃとする登録
商標「Marlboro」の侵害に当たるか
3.商標の使用(6)
ポパイ・アンダーシャツ事件
ポパイといえば、アメリカで生れ、一世を風靡した有名なマンガに登場する主人公であ
る。従って、このポパイという架空の人物は、それなりに特徴ある体格、表情、ないし性
格の人物としてすでに著名であり、この著名な架空人物を商品化するためには、このポ
パイを生んだ著作権者の承諾を必要とするものと考えるのが常識であろう。
本件でも、このマンガに登場する架空人物(キヤラクター)であるポパイを商品化して、
アンダーシヤツの全面に大きく画くことによって、売上の増大に成功した業者がいたが、
商品化に当つては、著作権者に、複製のための許可を得ていた。
これに対し、この有名なポパイの絵と、英文学の「POPEYE」および片仮名の「ポパイ」
を組み合せた標章について、被服等を指定商品とする商標を得た人がいたのである。
そこで商標権者から、アンダーシヤツ業者を相手に商標権侵害を理由とする訴訟が提
起されたのが本件である。
判決は、商標権者の請求を却けるものであつたが、その理由とするところは、アンダー
シヤツの全面にポパイの絵を画いたものは、「本来の商標」としての使用に当らないとい
うのであつた。
3.商標の使用(7)
商標「UNDER THE SUN」事件
井上陽水の「UNDER THE SUN」というアルバムは、指定商
品レコードについての登録商標「UNDER THE SUN」の侵害に
当たるか?
アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するに過
ぎず、有体物であるCDの出所たる製造、販売元を表示するもの
でない。
3.商標の使用(9)
(問)商標権侵害になるか
商品「つゆ」について「タカラ本みりん入り」と記
載した場合、宝醤油(株)の登録商標「宝」など
の侵害になるか
4.商標の不正使用(1)
商標権者が故意に登録商標と類似する商標を
使用して商品の品質若しくは役務の質の誤認又
は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を
生じた場合、登録商標の取消が請求される場合
がある。
登録商標「NELSONYARN」を
「 NELSONYARN 」として使用した場合
登録商標「中央急救心」を「中央」の部分を縦書
きにして使用した場合
4.商標の不正使用(2)
アフタヌーンティー事件
本件登録商標
アフタヌーンティー
AFTERNOONTEA
商標権者は、被服を指定商品として
上記登録商標を昭和60年5月30日
頃取得。平成5年4月頃から左記商
標を使用。
請求人は昭和56年9月から左記商
標を使用
特許庁
登録商標と同一の商標の使用
4.商標の不正使用(3)
被服についての登録商標「ELLE
de ELLE」に対して「ELLE」の文字
を二段に表してその間に極めて小
さく「de」と記載した態様の使用許
諾を与えたところ、ファッション雑誌
「ELLE」と混同が生じるとして取り
消された
4.商標の不正使用(4)

登録商標「Polo Club/ポロクラブ」に対して右の
ように使用させる専用使用権を設定して使用さ
せたところ、ラルフローレンのポロと混同が生じる
として取り消された
5.商標の不使用
継続して3年以上日本国内におい
て商標権者、専用使用権者又は
通常使用権者のいずれもが指定
商品・指定役務について登録商標
を使用していない場合、何人もそ
の登録商標の取消を請求すること
ができる。
→不使用取消審判
6.登録商標の普通名称化
登録商標が著名になり、商標管理が十
分でない場合、競合者に使用されて登
録商標が普通名称化する場合がある
例)セロファン、エスカレーター、ナイロン
大阪の美々卯が所有する登録商標「う
どんすき」に対して「杵屋うどんすき」が
非類似であると最高裁が判断
→「うどんすき」が普通名称化
7.商標権の存続期間
商標権の存続期間は、商標登録の
日から10年
但し、10年毎更新が可能
8.不正競争防止法による保護(1)
周知商標
同一又は類似の商品等に使用する場合
著名商標
商品等に関係なく使用すること自体
8.不正競争防止法による保護(2)
泉岳寺事件
泉岳寺は赤穂義士ゆかりの寺として著名。その宗教法人が東京都を訴えた。
都営地下鉄事業は、地方公営企業法に基づき、地方公共団体である被控訴人が行う
事業であって、被控訴人以外の者が行うことはできない事業であるから、宗数法人が都
営地下鉄事業を行うことは法的にありえないことであり、この宗教法人の行う営業と被控
訴人の行っている都営地下鉄事業とは明白に区別できる別種の営業とみられるもので
あるから、一般人が、都営地下鉄の本件駅名使用行為により泉岳寺駅の営業ないし都
営地下鉄浅草線の地下鉄事業を宗教法人ないしその関連企業による営業と誤認し、あ
るいは、都営地下鉄と宗教法人とが営業上緊密な関係にある若しくは何らかの経済的、
組織的関連があると誤認することは通常考えられず、したがって、「泉岳寸」との名称が
名であることを考慮に入れても、広義の混同を含め営業の混同を生ずるおそれがないこ
とは明らかである。
8.不正競争防止法による保護(3)
スナックシャネル事件
シャネルは、高級婦人服等で世界的に著名な「シャネル」の表示を使用。
Yは、松戸市内の店舗において「スナックシャネル」の表示を使用。
控訴審
X及びYの営業の種類、内容、規模等に照らすと、Yが
本件営業表示を使用して営業を行うことにより、一般消
費者がYの営業とシャネルグループの営業について混
同を生じるおそれはないとして、Xの請求を棄却。
8.不正競争防止法による保護(3)
スナックシャネル事件
最高裁
不正競争防止法の「混同を生じさせる行為」とは、いわ
ゆる広義の混同を生じさせる行為を含むと解すべきで
あり、本件においても、XとYの営業の間に広義の混同
が生じていると判断した。その上で、本判決は、Yが現
実に使用する「スナックシャネル」の表示に関する部分
について原判決を破棄し、その使用差止請求について
はこれを認容する自判をし、その損害賠償請求につい
ては損害額について審理を尽くさせるため事件を原審
に差し戻した。
8.不正競争防止法による保護(4)
呉青山学院中学校事件
原告は、「青山学院大学」,「青山学院中等部」等の学校を設置
被告は、呉市青山町に「呉青山学院中学校」を設立
不正競争防止法にいう営業とは,単に営利を目的とする場合のみならず,広
く経済上その収支計算の上に立って行われる事業をも含むものであって,それ
が国や地方公共団体からの補助金の収入をも含んだ収支計算であっても,営
業に該当する旨の判断を妨げるものではない。
原告名称は,遅くとも平成11年3月までには,原告が行う教育事業及び原告
が運営する各学校を表す名称として,学校教育及びこれと関連する分野にお
いて著名なものになっていたものと認めることができる。
8.不正競争防止法による保護(5)
呉青山学院中学校事件
「青山学院」の部分からも識別表示としての称呼,観念が生じるものであるか
ら,原告漢字名称と被告漢字名称とは,「青山学院」の部分について外観が共
通し,「アオヤマガクイン」の称呼を生じる点でも同じである。そして,前記1(2)
で認定したとおり「青山学院」の表示が著名であることからすれば,被告漢字
名称からは「青山学院と何らかの関連を有する呉所在の中学校」という観念が
想起されるのであって,両者は観念において類似するというべきである。
所在地の地名と「学院」の組合せが,普通名称又は学校について慣用されて
いる表示に該当すると認めることはできない。
8.不正競争防止法による保護(6)
J-PHONE事件
本来ドメイン名は登録者の名称やその有する商標等,登録者と結びつく何らかの意味
のある文字列であることは予定されていないが,登録者の名称,社名,その有する商標
等をドメイン名として登録することが通常行われていることに照らせば,ドメイン名の登
録につき先願主義が採られていること,登録に際して既存の商標等に関する権利との
抵触の有無についての審査は行われていないことなどから,利用者としてはドメイン名
が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しつつも,ドメイン名が
特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには,当該固有名詞の主体がドメイン
名の登録者であると考えるのが通常と認められる。
そうすると,ドメイン名の登録者がその開設するウェブサイト上で商品の販売や役務の
提供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し,あるいは注文を
受け付けているような場合には,ドメイン名が当該ウェブサイトにおいて表示されている
商品や役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得ることになり,そのような場
合においては,ドメイン名が,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう「商品等表示」に
該当することになる。
おわり
ご静聴ありがとうございました。