教職大学院と学校の研究授業を通した相互の学び合い

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
Version
教職大学院と学校の研究授業を通した相互の学び合い
長崎, 栄三
教職大学院・教育委員会・公立小中学校の互恵関係によ
る校内研修向上プログラム『協働校内研修静岡大学-富士
市モデル』調査報告書B. p. 10-11
2012-03
http://hdl.handle.net/10297/7296
publisher
Rights
This document is downloaded at: 2016-02-02T09:40:10Z
教職大学院と学校の研究授業を通した相互の学び合い
長崎栄三(教職大学院)
1.自らの問題意識に基づいた教職大学院生の授業づくり
教職大学院生は、実習において 、 自らの問題意識に基づいて授業をつくり分析している 。 学
卒院生(大学学部を出てすぐに大学院に入学 した院生)は、自らの教師としての力量を高める
ために、現職院生(現職の教員で大学院に入学してきた院生)は、現職教員として抱えた問題
点に対処し、そして自らの力量を 一層高めようとする。大学院での学びや自己の学びと、実践
の課題を照らし合わせながら、実習に取り組んでいる 。 私が所属する教育方法開発領域の院生
は、実習でいろいろな実験授業を試みている 。例えば、そのような実験授業として、この 3年
間で私が実際に授業を見たり、授業記録を読んだりしたものの 一部を挙げると次の通りである 。
オー フ。
ンエンドの問題による授業。解答が複数にある問題場面を用いた授業であり、日本の
算 数 ・数学教育で開発された有名な学習指導法である 。 従来からある「算数 ・数学の答えは 1
つ」という結果だけを求める考え方を打ち破るようなものであり、実際に子どもたちは多様な
答えを出す。 このようなオープンエンドの問題による授業を、国語や体育でも行っていた 。
工作的発聞による授業。理科で物をつくるような発聞をすることで行う授業である 。理科で
は、普通は 、原理や法則を「なぜだろう 」 として追究するが、物をつくる過程を通して原理や
法則を自然と考えさせるものである 。 子どもたちは熱心に天秤を作る中で知らずに法則を考え
ている 。 同じような発想で算数 ・数学の最近の教科書には「問題づくり J が入ってきている 。
ジグソ ー学習法による授業。 1時間の授業で「すべての j 子どもが 言葉を発する場面を設定
する 学習法である 。 言葉を発することが理解につながるとし、エキスパートグツレープ、ジグソ
ー グループ。
の 2つのグループ。
形態を用いた協調学習の 一種である 。実際にすべての子どもが発
言しているのを見ると感激してしまう 。 国語、社会、算数、道徳などで試みられている 。
特別な教育ニ ー ズがある子どもへの対処を考慮した授業。 通常学級での特別な支援が必要な
子どもへの対処の仕方を考えたものである 。 通常学級において特別支援教育と教科教育との接
点を考えて、子どもが集団での 学習 に馴染むことと集団での学習に取り組むことの両者を行っ
たものであり 、国語や算数などで試みられている 。
実生活に基づいた問題設定による授業。子どもが取り組む問題が、子どもの実生活に即した
ものとなるようにするものである 。 ともすると、教科の指導内容に流されて子どもの実生活と
は関係ない教材を扱いがちであるが、子どもが 、学習を自分のものとして欲しいとの願し 1から、
多く授業でこのようなことが試みられた。
これらの授業には、院生の課題意識として 2つの共通点がある 。一つは 、子どもが主体的に
学習に取り組めるようにしたいということであり、もう 一つは、 一部の子どもだけではなく「す
べての J 子どもを学習に参加させたいということである 。 いずれも現代の大きな課題である 。
-10-
院生は、実習において、これらの試みを文献通りに単に行うのではなく、それぞれの状況に
応じた 工夫をして、その上で、子どもたちが主体的に 学習に取り組んでいたのか、「みんな j が
参加していたのか、また、理解を深めたのかなどの検証を行っている 。 そして、それを可視化
しようとしている 。 そして、 2年次に実習校を中心としてアクションリサーチなどによって行
なわれた課題研究の結果は、抄録として蓄積されている 。 実践から生まれた課題を解決するた
めに理論を 学び、その理論を 実践を通して新たなものを創り出している 。 そして、授業そのも
のの新しい試みとともに、授業の新しい見方も身に付けることになる 。
2 連携校と教職大学院の合同の研究授業
連携校と教職大学院との合同の研究授業には、連携校の先生方が授業を計画して実施する場
合と、教職大学院の院生が授業を計画して 実施する場合がある 。
連携校の先生方が授業を計画して実施する場合には、連携校の先生方が作成した 学習指導案
等を前もっていただいて大学院の授業で検討を行う 。検討は多くの場合学卒院生と現職院生が
グループ。
になって付築を用いて行い、その結果をもとに全員 で授業を観察する視点を設ける 。
この検討作業自体が学校での授業方法ともなっている 。 そして、連携校において、実際の授業
を観察 ・記録した後で、またグループ。
で、観察結果を可視化することを試みる 。 そして、これら
の結果を持って連携校との合同の反省会に向かう 。 そして、大 学院に戻り、授業でグループ 、
で
O
検討してその後全員で話し合い、分析レポートを作成し、連携校にお送りしている 。
教職大学院の院生が授業を計画して 実施する場合には、まず現職院生が中心となり院生 同士
で相談しながら授業を計画する 。 その際、 重要なこととして、授業 に何か新しいアイディアを
盛り込むことである 。 そして学習指導案の作成と並行して、授業を観察する視点を設ける 。 そ
の後、現職院生による実験授業、その観察・分析そして連携校との合同の反省会を経て、分析
レポートを作成する 。 そして、授業計画の段階から授業実践を経て反省 会そしてレポート作成
までを対象として、教職大学院における 実習を主題とした研究報告を作成し、可能ならば、関
連学会 でそれを発表するようにしている 。 いずれの場合においても、授業 の計画や分析の過程
で、大学院の教員 が適時指導助 言 に入っている 。 なお、 富士市中央小学校における現職院生に
よる実験授業では、平成 22年度は算数科でのジグソー学習、平成 23年度は理科での 工作的発
聞が試みられている 。
このような連携校と教職大学院の合同の研究授業は、双方にとって意義 があると思われる 。
例えば、連携校にとっては、自己の実践を客体化でき、大学院にとっては、実際場面を通した
教育研究、すなわち、理論と実践の往還が可能となっている 。 そして、何よりも、連携校と大
学院の相互の 学び合いが、可能になっていると思われる 。
私は、「研究者としての教師」という理想像を持っている 。教師は、 学習者とともにより高い
価値を目指して学び、そして、自らを日々新たにしていけたらと願っている 。連携校と教職大
学院の合同の研究授業は、そのような場にふさわしいと思う 。
-11-