プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当しない例の追加1 平成 28 年 1

プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当しない例の追加1
平成 28 年 1 月 27 日
1.背景
特許庁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明についての請
求項にその物の製造方法が記載されている場合;以下、
「PBPクレーム」とい
う。)に関する平成 27 年 6 月 5 日の最高裁判決2を受け、7 月 6 日、当面の審査
の取扱い3を公表し、PBPクレームに該当する類型及び該当しない類型、並び
に、
「不可能・非実際的事情」4に該当する類型及び該当しない類型を示しました
5。その内容は、9 月 16 日に公表された改訂「特許・実用新案審査ハンドブック」
(以下、
「審査ハンドブック」という。2203~2205 を参照。)に反映させており
ます。さらに 11 月 25 日には、
「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの『不
可能・非実際的事情』の主張・立証の参考例」を公表しております。
当該参考例公表にあたり、引き続きPBPクレームに該当しない例のさらな
る充実を含めた検討を行い、検討結果を踏まえて、平成 28 年 4 月上旬を目途に、
審査ハンドブックを改訂する予定としました。
今般、実際の特許出願において比較的よく見られる文言や、ユーザーから検
討要望のあった表現を参考にしつつ、審査ハンドブックの改訂時に追加すべき
PBPクレーム非該当例の検討を行いましたところ、それらPBPクレーム非
該当例を公表することとしました。
今後とも、PBPクレームの取扱いについて検討を続け、上記の審査ハンド
ブック改訂を行う予定です。
1
「特許・実用新案審査ハンドブック」2204「『物の発明についての請求項にその物の製造
方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断」における、
「3.『その物の
製造方法が記載されている場合』に該当しない類型・具体例」にあたる「類型(2)
:単に
状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」の具体例の追加。
2 平成 24 年 (受) 1204 号、同 2658 号。
3 「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」
4 出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、
又
はおよそ実際的でないという事情。
5 当該取扱いに記載のとおり、PBPクレームに該当すると判断された場合には、
「不可能・
非実際的事情」が存在すると判断されるときを除き、明確性要件違反の拒絶理由が通知さ
れます。これに対し、出願人は、PBPクレームに該当しない請求項にする補正のほか、
当該事情が存在することを意見書等において主張・立証する対応をとることができ、それ
により明確性要件違反の拒絶理由が解消し得ます。
1
2.審査ハンドブックにおける関係箇所
審査官は、審査対象の特許出願が、物の発明に係る請求項の少なくとも一部
に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かを、上記審査
ハンドブック 2204 に基づいて判断します(審査ハンドブック 2203)。
当該審査ハンドブック 2204 は、物の発明についての請求項に「その物の製造
方法が記載されている場合」に該当するか否かについての判断にあたっての「基
本的な考え方」として、次を示しております。
(1) 審査官は、物の発明についての請求項の少なくとも一部に「その物の製
造方法が記載されている場合」に該当するか否かを、明細書、特許請求
の範囲、図面の記載に加え、その発明の属する技術分野における技術常
識も考慮して判断する(以下の類型、具体例に形式的に該当しても、当
該技術分野における技術常識に基づいて異なる判断がされる場合がある
ことに留意が必要である)。
(2) 記載要件一般の立証責任は出願人側にあることに鑑みて、必要であれば
審査官は、物の発明に係る請求項の少なくとも一部に「その物の製造方
法が記載されている場合」に該当するとして、明確性要件違反の拒絶理
由を通知することで、出願人に、「不可能・非実際的事情」が存在するこ
との主張、立証の機会や、反論・補正の機会を与えることとする。また、
このようにすることで、後に無効理由を含む特許となったり、第三者の
利益が不当に害されたりすることがないようにすることが適切である。
そのうえで、当該審査ハンドブック 2204 は、PBPクレームに該当する類型
と具体例を示すとともに6、PBPクレームに該当しない類型(「その物の製造方
法が記載されている場合」に該当しない類型)として「類型(2):単に状態を
示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」を挙げ、その具
体例として 12 例を掲げております。
次項3.は、それら具体例に新たな例を追加するものです。
6
PBPクレームに該当する場合において、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識
を考慮しても、生産物の特徴(構造、性質等)を当業者が理解できない結果、的確に新規
性、進歩性等の特許要件の判断ができない場合には、一の請求項から発明が明確に把握さ
れるとはいえないことから、
「不可能・非実際的事情」の存否によらず、発明は不明確とな
ります(
「特許・実用新案 審査基準」第 II 部第 2 章第 3 節 明確性要件 4.3.1(2)
)。
2
3.追加するPBPクレーム非該当例
以下、上記類型(2)に追加する具体例を示します7。それらは、用語の意義
や技術常識にかんがみ、
「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定してい
るにすぎない場合」に該当すると考えられる例として提示するものです。
以下の具体例と異なる文言であっても、そのことをもって類型(2)にあたら
ないということを意味するわけではありません。例えば、以下の具体例の一と
類似しているものの表現の異なる文言があったときに、そうした表現上の相違
のみをもって類型(2)該当性が否定されるというわけではなく、上記「基本的
な考え方」を踏まえて判断が行われることになります8。
追加する具体例:
「A部材に溶接されたB部材」
「面取りされた部材」
「本体にかしめ固定された蓋」
「粗糸Aと粗糸Bとを用いてなる精紡混撚糸」
「ポリマーAで被覆された顔料」
「PEG化されたタンパク質」
「ヒト化抗体」
「配列番号Xで表されるアミノ酸において少なくとも1個のアミノ酸が欠
失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質」
● 特に、物の構造又は特性を特定する用語として、概念が定着しているもの(例
えば、辞書、教科書、規格文書等に定義等の記載が存在し、かかる記載に照
らすと、物の構造又は特性を特定する用語として概念が定着していると判断
されるもの)
「鋳物」「鋳造品」「鍛造品」
「溶接部」「ろう付け部」「はんだ付け部」「融着接続部」
「切削部」「切断部」「研削面」「圧入部」「圧入構造」
「焼結体」「圧粉体」
「延伸フィルム」「インフレーションフィルム」
7
上記「基本的な考え方」に記すように、審査官は、物の発明についての請求項の少なくと
も一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するか否かを判断します。し
たがって、以下の具体例は、請求項の少なくとも一部であって、請求項の全部を示すとい
うわけではありません。
8 請求項中の発明特定事項を以下の具体例と合致させるようにする補正を行うことにより、
場合によっては、かえって新規事項が追加されてしまうようなことも起こり得ますので、
補正の適切性等については事案に応じて検討することが必要です。
3
「印刷部品」「印刷コイル」「印刷コンデンサ」
「塗布膜」「蒸着膜」「(層、膜としての)コーティング層」
「拡散層」「エピタキシャル層」「エピタキシャル成長層」
「フロート板ガラス」
「溶融亜鉛めっき鋼板」
「加硫ゴム」
「エンボス加工品」
「溶接組立体」「一体成形品」
4