プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性に係る 審査ハンドブック関連

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性に係る
審査ハンドブック関連箇所の改訂の背景及び要点
平成 28 年 3 月 30 日
1.背景
特許庁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の発明についての請
求項にその物の製造方法が記載されている場合;以下、
「PBPクレーム」とい
う。)に関する平成 27 年 6 月 5 日の最高裁判決1を受け、同 7 月 6 日、「プロダ
クト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査の取扱いについて」を公
表しました。その内容は、同 9 月 16 日に公表した改訂「特許・実用新案審査ハ
ンドブック」(以下、「審査ハンドブック」という。2203~2205 を参照。)に反
映させております。
その後、同 11 月 25 日には、
「プロダクト・バイ・プロセス・クレームの『不
可能・非実際的事情』の主張・立証の参考例」を公表し、平成 28 年 1 月 27 日
には、PBPクレームに該当しない例の追加について公表しました。その際、
PBPクレームの取扱いについては、さらに検討を続け、4 月上旬を目途に、審
査ハンドブックを改訂する予定としました。
今般、上記の経緯を踏まえて検討いたしました結果、審査ハンドブック 2204
「『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該
当するか否かについての判断」、及び、2205「物の発明についての請求項にその
物の製造方法が記載されている場合の審査における『不可能・非実際的事情』
についての判断」の改訂を行いましたので、公表いたします。
2.改訂の要点
今回の審査ハンドブック改訂の要点は、次のとおりです。
(a)審査ハンドブック 2204 の「1.基本的な考え方」において、その項目(1)
の内容をさらに明確化すべく、次の記載を追加するとともに、類型(1
-1)の具体例の入れ替え(特に、具体例の2番目として掲げていたボ
ルト・ナットに係る事例(後述)の削除)を行ったこと。
1
平成 24 年 (受) 1204 号、同 2658 号。
-1-
特に、
「その物の製造方法が記載されている場合」の類型、具体例に形
式的に該当したとしても、明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載並
びに当該技術分野における出願時の技術常識を考慮し、
「当該製造方法が
当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか」
(注)が明らか
であるときには、審査官は、「その物の製造方法が記載されている場合」
に該当するとの理由で明確性要件違反とはしない。
(注) 最二小判平成 27 年 6 月 5 日(平成 24 年(受)1204 号、同 2658 号)「プラ
バスタチンナトリウム事件」判決
(b)審査ハンドブック 2204 における類型(2)2に、平成 28 年 1 月 27 日公
表のPBPクレーム非該当例を追加するとともに、同 2205 に、平成 27
年 11 月 25 日公表の「不可能・非実際的事情」の主張・立証の参考例を
組み込んだこと。
(c)審査ハンドブック 2204 における類型(2)の具体例として2事例3を、
また、2205 における「不可能・非実際的事情」が存在するものと認めら
れる場合の具体例として1事例4を、それぞれ追加したこと。
以下、上記(a)の趣旨を説明いたします。
類型(1-1)5に掲げていたボルト・ナットに係る事例6においては、事例
の記載が物としての「機器」のどのような構造を表しているのかは、技術常識
にも照らして明らかですが、製造に関して経時的な要素が記載されているため、
形式的には、
「その物の製造方法が記載されている場合」に該当することとなり
ます。その点を考慮し、平成 27 年 7 月 6 日公表の「当面の審査の取扱い」では、
最高裁判決における明確性要件に関する結論部分7を厳格にとらえる立場から、
2
「類型(2):単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」
「モノマーAとモノマーBを重合させてなるポリマー」
、及び、
「翻訳後修飾されたタンパ
ク質A」
4 「ハイブリドーマ細胞Aから生産されるモノクローナル抗体」
5 「類型(1-1)
:製造に関して、経時的な要素の記載がある場合」
6 「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトを前記凹部と前記凸部とが係合するように挿入し、
前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。
」の事例。
7 「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場
合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう『発明が明確であ
ること』という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性
により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在す
るときに限られると解するのが相当である。
」との部分。
3
-2-
当該事例は「その物の製造方法が記載されている場合」に該当することとする
とともに、物の発明についての請求項であることは維持しつつ、経時的な要素
の記載をなくし、製造方法が記載されている場合に該当しないようにする補正
例を併せて示し、参考に供していました。
しかしながら、当該事例においては、
「機器」の製造方法が当該「機器」のど
のような構造を表しているのかが明らかであることから、当該事例は、最高裁
判決中、上記結論部分に至る理由の説示8における「一般的には ・・・ 不明で
あり」との記載には、該当しません。この点にかんがみ、また関係諸方面の識
者やユーザーのご意見を勘案して検討した結果、かかる事例は「その物の製造
方法が記載されている場合」に該当しないものとして取り扱うこととし、それ
に伴い当該類型(1-1)の具体例を入れ替えました。
このような取扱いは、
「その物の製造方法が記載されている場合」の他の類型、
具体例に形式的に該当するときにも、同様に成り立つ事項です。
審査ハンドブック 2204「1.基本的な考え方」の項目(1)に追加した記載
は、上記の取扱いを明確にするためのものです。
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「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,その製造方法が記載されてい
ると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているの
か・・・が不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明
確に理解することができず・・・,適当ではない。
」
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