小分子 RNA による遺伝子発現制御と生体防御の研究 Regulation of gene expression and defense against pathogens by small RNAs in plants (農学研究院・生物制御科学専攻)安藤安津美 北村優実 田原緑 瀬田淳 福原敏行* *連絡先 1.はじめに 1998 年に RNA 干渉と呼ばれる RNA によ って遺伝子の発現を効率よく抑制する技 術(2006 年にノーベル賞受賞)が発見さ れた後、次々と RNA が関与する生命現象 が発見されています。 現在では、miRNA や siRNA と呼ばれる 20-25 塩基程度の小分子 RNA が、ウイル スなどの寄生体に対する生体防御、遺伝 子発現調節を通した発生制御、DNA のメ チル化を通したエピジェネティックな遺 伝子発現制御など、重要な機構に関与す ることが報告されています。また、小分 子 RNA は、遺伝子発現制御技術や、ガン やエイズなどのウイルス感染症などの病 気の治療法として医療への応用も期待さ れています。 本研究室では、モデル植物シロイヌナ ズナを用いて、1)小分子 RNA の生成機 構、2)小分子 RNA による遺伝子発現制 御機構、3)RNA 干渉によるウイルス感 染防御機構を研究し、環境ストレスやウ イルス感染に対して耐性のある植物を 作出することを目指して研究を進めて います。 2.小分子 RNA の生成機構 モデル植物シロイヌナズナには、2本 鎖の RNA を切断して 21-24 塩基の小分子 RNA を生成するダイサーと呼ばれる酵素 が 4 種類(DCL1~DCL4)存在することが 知られています。しかし、これら 4 種類 の酵素の酵素活性や反応機構などは不明 でした。本研究室では、シロイヌナズナ の芽生えの抽出液を用いて、簡便に効率 よくダイサー(DCL3 と DCL4)の活性を検 出することに成功しました。現在、DNA E-mail: [email protected] のメチル化にはたらく 24 塩基の小分子 RNA を生成する DCL3 と、RNA 干渉に関与 する 21 塩基の小分子 RNA を生成する DCL4 について、小分子 RNA の生成機構を 探るため生化学的解析を進めています。 3.小分子 RNA による遺伝子発現制御機 構 DNA がメチル化されることによって遺 伝子の発現が変化することが知られてい ます。このような DNA の塩基配列に変化 がなくとも遺伝子発現に変化が起きるこ とをエピジェネティックな遺伝子発現制 御と呼びます。植物では、24 塩基の小分 子 RNA によって DNA のメチル化が誘導さ れることが知られていますが、その機構 は不明な点が多く残されています。本研 究室では、シロイヌナズナのプロトプラ スト(裸の細胞)に直接2本鎖 RNA を導 入する実験系を用いて、RNA により DNA のメチル化が誘導され遺伝子発現が変化 する反応を解析しています。 4.RNA 干渉によるウイルス感染防御機 構 RNA 干渉は、ウイルス感染に対する宿 主植物の防御機構であるといわれていま す。一方、多くのウイルスは、宿主植物 の RNA 干渉機構に対抗するためのサプレ ッサータンパク質をコードしていること が知られています。本研究室では、北海 道大学との共同研究で、ウイルスがコー ドするサプレッサータンパク質がダイサ ー(DCL3 と DCL4)の活性を阻害するかど うかを検討する研究を進めています。
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