トランスクリプトーム解析から予想されるカイコウオオソコエビの

トランスクリプトーム解析から予想されるカイコウオオソコエビの
感覚器
○小林英城(海洋研究開発機構)
,山濱由美・外山美奈・高久康春・針山孝彦(浜松大・医)、荒井渉・
高見英人(海洋研究開発機構)
【緒言】我々はこれまで、マリアナ海溝チャレンジャー海淵の世界最深部(深度約 10,000 m)に生
息する超深海性ヨコエビ(カイコウオオソコエビ)の生態について研究してきた。カイコウオオソコ
エビは、セルラーゼを始めとした植物性多糖を分解する新規酵素群を利用し、沈降してくる流木等を
分解・栄養源としていることを明らかにした(1)。しかしその生態は、まだ未解明な部分が多く残って
いる。我々は寄せ餌式捕獲器を使って、300匹を超える大量のカイコウオオソコエビを採取できる
(図1)。しかし、暗黒で広大な超深海環境におい
て、なぜ彼らが寄せ餌を感知できるのか不明であ
る。そこで我々は、カイコウオオソコエビの感覚
器関連蛋白質の発現プロファイルを検討する事で、
彼らの感覚器に関する知見が得られると考えた。
本研究ではカイコウオオソコエビ RNA の塩基配列
決定を行い、感覚器蛋白質発現を精査し、有効な
感覚器について検討した。
【実験方法】KR13-10 行動にて、伊豆小笠原海溝(32°12.5766N,142°08.0411E、深度 9,450 m)の
海底にサバの切り身を寄せ餌に用いたベイトトラップを用いて、生物採取を行った。その結果、捕獲
できた生物は、ヨコエビ類のみだった。採取した超深海性ヨコエビ類は、直ちに凍結保存、または RNeasy
等の核酸安定化剤に浸けた。また、マリアナ海溝チャレンジャー海淵(深度約 10,900 m)からもカイ
コウオオソコエビを採取し、感覚器を観察するため電子顕微鏡観察用に個体サンプルを船上にて固定
した。保存した約 300 個体より RNeasy Lipid tissue kit (QIAGEN)にて RNA をそれぞれ抽出し、分解
度を検討した。ほとんどの個体で RNA が分解されていたが、比較的分解が進んでいない7個体の RNA
よりライブラリーを作製し、Hiseq2000(Illumina 社)にて塩基配列決定を行った。アセンブル実行後、
各コンティグについて相同性解析を行い、感覚器関連遺伝子の検索を行った。また、形態観察には通
常の透過型電子顕微鏡法を用い、HPLC にて視物質発色団の光照射による異性化を解析した。
【結果と考察】形態的・遺伝的な特徴から、採取した小笠原海溝由来の超深海性ヨコエビは、マリ
アナ海溝チャレンジャー海戦由来のカイコウオオソコエビと同じ Hirondellea gigas であった。7 個体
の RNA より、6,982 本の mRNA 塩基配列を決定した。相同性解析を行った結果、Opsin 等の視覚に関す
る遺伝子が発現していることがわかった。また、視覚関連遺伝子以外の感覚器関連遺伝子は見出せな
かった。Opsin 遺伝子の系統解析を行った結果、洞窟に生息するヨコエビの長波長 Opsin 遺伝子と近縁
であった。一方、視覚以外の感覚器に関連する蛋白質の発現は検出できなかった。カイコウオオソコ
エビの感覚器の中で、眼が機能する可能性が示唆された。そこで、電子顕微鏡観察にて頭部前方の構
造を観察した所、レンズ系を欠落し光受容部であるラブドームが肥大した形態を示し高次神経が脳に
投射していた。また、視物質を抽出し光照射実験を行った所、526 nm 付近の波長で発色団の高い光異
性化が観察できた。これは水中透過性が最も高い波長(515 nm)と近接していた。カイコウオオソコ
エビの光感受性の高い可能性が示された。
【今後の研究】今回、発現遺伝子および電子顕微鏡観察より、カイコウオオソコエビの視覚が働い
ていると予想された。しかし、本当に視覚を有するのかという点においては「光に反応するか?」と
いう実地実験を行う必要がある。1998 年の「かいこう」によるチャレンジャー海戦探索の際、カイコ
ウオオソコエビに撮影用の強い光を当てても特に変わった反応は認められなかった。暗黒の海底に生
息するカイコウオオソコエビの場合、ホワイトアウトしている可能性がある。より波長を絞った弱い
光で反応を観察する事により、視覚の有無が判明すると考える。
【引用文献】
(1) H. Kobayashi, et al. (2012) PLoS ONE 7(8): e42727.