2016年1⽉28⽇ ⾦融市場を取り巻く環境と今後の⾒通しについて 経済調査部 ⾨司 総⼀郎 2016年の⽇本の⾦融市場は円⾼・株安で始まりました。⽇本だけではありません。世界的にも株式や新 興国通貨が下落しています。このように市場が荒れ模様になっている理由は2つあります。1つは中国の 経済・株式などに対する懸念。もう1つは原油安です。 しかし、いずれの要因もここまでの波乱を起こすものとは思えません。市場の反応は⾏き過ぎと⾒ていま す。また中国株や原油について下げ⽌まりを⽰唆する指標が出てきていることもあり、今後市場の混乱は 収束に向かうと予想しています。以下そう考える理由について説明します。 中国経済は「安定化」 まず中国経済ですが、いわれているほど中国経済は悪化していません。経済指標は落ち着いた動きとなっ ています。例えば鉱⼯業⽣産(前年同⽉⽐)はここ数年低下を続けてきましたが、昨年3⽉を境に下げ⽌ まっています。また⼩売売上(同)は昨年4⽉を底に上昇に転じています。 中国の鉱工業生産と小売売上( 月次、前年同月比) (2012年2⽉〜2015年12⽉) 17.5% 中国 鉱工業生産 15.0% 小売売上高 12.5% 10.0% 7.5% 5.0% 2012年 2013年 2014年 2015年 出所:Bloombergのデータを基に大和住銀投信投資顧問作成 こうした経済指標を踏まえて⾜元の中国経済については「悪化」というよりも「安定化」しつつある状況 と判断しています。政府が「今年は昨年よりも景気に配慮して経済政策を運営する」⽅針を明らかにして いることから、今年は中国経済は昨年に⽐べて改善すると⾒ていますが、そうなれば市場の中国経済に対 する悲観論は修正されることになると予想しています。 1/4 ■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。 ■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後の見通 し・コメントは、作成日現在におけるレポート作成者の判断に基づくものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラ フ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありま せん。 中国株のバリュエーション調整は終了 次に中国株です。中国株安は経済の悪化のためとの⾒⽅が多いのですが、経済はそれほど悪くありません。 中国株が下落した本当の理由は、政府への信頼感の喪失です。 昨年の株価下落局⾯では政府は政策総動員でこれを阻⽌しようとし、実際に年末にかけて中国株は回復し ました。そのため市場参加者の間では「最後は政府が何とかしてくれる」という信頼感が根強く残りまし た。 上海総合指数( 日次) (2015年1⽉5⽇〜2016年1⽉26⽇) 5,500 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 15年1月 15年4月 15年7月 15年10月 16年1月 出所:Bloombergのデータを基に大和住銀投信投資顧問作成 しかし、今年の初めに中国株が再度急落した際に、政府は株安を阻⽌するような⾏動をほとんど起こして いませんでした。そのため投資家の政府への期待が急速に萎んで売り注⽂が増加しました。これが年初か らの中国株下落のメカニズムです。 政府が株価対策を⾒送っているのは、既に打つ⼿なしとなっているためです。あれだけの株価対策を実施 したにもかかわらず、⾜元の上海総合指数は既に昨年8⽉の安値を下回っており、当時株式市場を買い⽀ えした政府系⾦融機関などは評価損を抱えていることになります。こうした状況下で昨年同様の株価対策 を実⾏することは無理でしょう。 しかし、政府の介⼊がないことは悪いことではありません。昨年の株価対策が市場の政府に対する根拠の ない信頼感を⾼めてしまったことが今年の中国株安の遠因となったことを考えると、今回のように政府が 株安を容認する⽅が、株価底⼊れのタイミングは早くなり、底⼊れ後の上昇は⼤きくなると思われます。 中国政府が株安を容認して株価対策を⾒送っていることは望ましいことと考えています。 バリュエーションや需給⾯からは中国株の底⼊れが近いことを⽰すデータが出てきています。⾜元の上海 総合指数の予想PERは12.5倍、これは中国株が上昇を開始する前の昨年1⽉と同⽔準です。また信⽤買い 残⾼は1兆元割れとなりましたが、これも昨年1⽉と同⽔準。こうした指標は既に中国株が充分下落した ことを⽰すものです。 2/4 ■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。 ■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後の見通 し・コメントは、作成日現在におけるレポート作成者の判断に基づくものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラ フ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありま せん。 原油先物とドル円先物のネット買い残減少は底⼊れのサイン 原油価格にも底⼊れが近いことを⽰す指標があります。⽶原油先物取引のネット買い残⾼(買い建て枚数 から売り建て枚数を引いたもの)は昨年10⽉から今年1⽉にかけて⼤きく減少しました。これは買い残が 減少、または売り残が増加したことを意味します。 米原油先物取引のネッ ト買い残高とWTI先物価格( 週次) (2011年1⽉4⽇〜2016年1⽉19⽇) (千枚)750 (ドル) 120 ↑原油買い 80 500 ↓原油売り 250 40 ネット買い残高(左、千枚) WTI先物価格(右、1バレル当たりドル、期近物) 0 11年1月4日 0 12年1月3日 13年1月1日 13年12月31日 14年12月30日 15年12月29日 出所:Bloombergのデータを基に大和住銀投信投資顧問作成 ⾔い換えれば今後の売り圧⼒が軽減、買い余⼒が増加していることになるので、需給⾯からの原油価格底 ⼊れを⽰唆する指標と⾒なすことができます。ベネズエラが臨時総会を呼び掛けるなどOPEC(⽯油輸出国 機構)内からも⾜元の原油安の修正を望む声が出ていることも踏まえて、原油価格が下げ⽌まるタイミン グは近いと考えています。 米通貨先物ネッ ト 円買いポジ ショ ンとドル/円レー ト ( 週次) (2011年1⽉4⽇〜2016年1⽉19⽇) (千枚)150 (円) 70 ↑円買い ネット買い残高(千枚、左) ドル/円(1ドル当たりの円、逆目盛、右) 100 ↑円高 80 50 90 0 100 ‐50 110 ‐100 120 ↓円売り ‐150 11年1月4日 ↓円安 12年1月3日 13年1月1日 13年12月31日 14年12月30日 130 15年12月29日 出所:Bloombergのデータを基に大和住銀投信投資顧問作成 原油同様に先物取引のデータが転換点を⽰しているのがドル円です。今年に⼊って⽶通貨先物取引のネッ ト円買い残⾼(円の買い建て枚数から売り建て枚数を引いたもの)は2012年10⽉以来初めてとなるプラス に転換しました。これは⾜元円に強気な投資家が増えた分だけ、将来の円買い余⼒が低下、買いポジショ ンの解消による円売り余地が⼤きくなったことを⽰しているので、円⾼から円安への転換を⽰すシグナル として注⽬しています。⽬先のドル円は1ドル=120円前後まで円安に振れるとの⾒⽅です。 3/4 ■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。 ■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後の見通 し・コメントは、作成日現在におけるレポート作成者の判断に基づくものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラ フ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありま せん。 ⽇本株は売られ過ぎ、反転上昇へ 最後に⽇本株ですが、株価は下落したものの、景気や企業業績が悪化している訳ではありません。当社で は⽇本の実質経済成⻑率を2015年度1.1%増、2016年度1.7%増。企業業績についてはそれぞれ17.8% 増、7.0%増と⾒ています。多少の下⽅修正はありうると⾒ていますが、それを考慮しても、ここまでの 株価下落を正当化できるものではありません。株価下落を正当化するのであれば景気は後退局⾯、業績は 減益ぐらいが必要でしょう。よって⽇本株は売られ過ぎであり、中国への懸念後退や原油安⼀服に伴って、 近⽇中に上昇に転じると予想しています。 以上述べたように、年初から国内では円⾼・株安、世界的にも株安や新興国通貨安が続きましたが、中国 経済への悲観論の修正や中国株・原油価格の下げ⽌まりに伴って、こうした市場の混乱は収束に向かい、 世界的に株式や新興国通貨が上昇、国内も株⾼・円安が進むとの⾒⽅です。 4/4 ■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。 ■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後の見通 し・コメントは、作成日現在におけるレポート作成者の判断に基づくものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラ フ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありま せん。
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