【フォーカス】 世界経済動向 1.全体的動向 製造業の活動は引き続き低迷しており、こうした状況が今後も続くか否かが世界経済の動向を考える上 で重要な点となっている。前号でも指摘したように、この点を考えるに当たって、原油価格の動向と世界 的な需要動向が如何に推移するかが鍵となる。 足下での需要動向は、米国、日本、中国を含めて比較的堅調である。米国では、原油価格の上昇による マイナス要因はあるものの、それを上回る賃金上昇というプラス要因が存在しており、今後、原油価格が 安定すれば実質所得の伸びに伴う消費活動の堅調な状況は維持される可能性がある。また、IT関係の在 庫調整もぼぼ終了したとみられることから、今後IT関連の生産活動がどこまで回復するかが、需要の底 堅さを左右することになる。この点は、米国経済のみならず、世界的なIT製品の在庫調整で大きな影響 を受けた台湾、韓国経済の今後を見る上でも重要な点である。 世界経済全体の動向に対する最大のリスクは、ユーロ経済の減速である。ユーロ経済は、生産活動、消 費活動共に減速傾向を強めており、この減速がどこまで深まるかが重要な留意点となっている。フランス 等一部に若干の明るさが見えるものの、イタリア経済に象徴されるように低迷を深める地域が多く、ドイ ツ経済の回復力も今だ鮮明にはなっていない。こうした経済の低迷は、EU憲法に対する国民投票の相次 ぐ否決という結果にも結び付いている。 2.米国経済 米国経済の足下での最大の特色は、雇用所得の伸びにある。この伸びは、米国経済の力強い回復期であ った20世紀末の5年間を上回る状況となっており、このことが原油価格上昇に伴うエネルギー価格の値 上がりというマイナス要因を飲み込み、消費活動が堅調な動向を続ける要因となっている。こうした実質 所得の増加は、住宅建設の増加にも結び付いており、バブルとも言われる米国の不動産投資の下支えとな っている。しかし、雇用所得の伸びは、プラス面だけでなくマイナス面も強め始めている。それは、ユニ ット・レーバー・コストの上昇である。労働コストの上昇は、米国経済のインフレ懸念を下支える要因と して横たわり続けることになる。 こうした米国経済のインフレ懸念は、2004年6月以降続いているFFレートの0.25%刻みでの 引き上げにも結び付いている。金利上昇は、通常の経済においては景気減速要因となる。しかし、FFレ ートを考える場合、名目レートではなく、実質レートを視野に入れる必要がある。実質レートで見た場合、 米国の金利政策は決して引き締め政策と判断することはできない。ユニット・レーバー・コストの上昇に 比べ、金利上昇のスピードは緩やかであり、そのことが住宅投資等に関する借り入れコストの上昇をもた らさない原因となっている。 3.ユーロ経済 ユーロ経済は、明らかな減速傾向にある。とくに生産活動の低迷は明確となっている。また、消費活動 についても国によって違いはあるものの、総じて低迷状況にある。こうした景気減速が政策レベルで明確 に認識されたとき、ユーロ圏全体で金利低下の方向を鮮明にする可能性もある。 「PHP 政策研究レポート」(Vol.8 No.93)2005 年 6 月 14
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