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“かかりつけ医”
で思うこと
小
池
哲
雄
我が国の2014年の65歳以上の高齢化率は26.0%
持つことが大多数だったようだが、フランスは
という超高齢社会となり、2025年に30.3%、2050年
2005年よりかかりつけ医制を導入し、そのかかり
にはなんと38.8%になると予測され、独居老人世
つけ医は98%一般医であり、かかりつけ医に受診
帯や老々夫妻世帯が急速に増加する中、住まい・
しないで他医や病院受診の場合、患者負担金が増
医療・介護・生活支援・介護予防を一体的に提供
額となる。その一方でかかりつけ医の選択・変更
される地域包括ケアシステムの構築が今、急がれ
は自由であり、小児科、精神科、産婦人科、眼科、
ている。大都市では人口が横ばいで後期高齢者が
歯科についてははかかりつけ医を通さずに受診し
急増し、一方、町村部等では後期高齢者人口の増
ても負担金増額はない。又ドイツでは保険診療は
加は緩やかだが全体の人口は減少する等、地域に
家庭医診療と専門医診療に区分され、家庭医診療
よりその変化は様々なため、地域包括ケアシステ
は一般医、小児科医、家庭医診療を選択した内科
ムは保険者である市町村や都道府県が、地域の自
医等が従事している。最初に家庭医を受診するこ
主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り
とは義務ではないが、紹介状を持たずに専門医を
上げていくことになる。地域包括ケアシステムの
受診した場合は10ユーロを負担することになる。
中で医療は、関連する多職種と連携して、複数の
イギリスほど厳密では無いが、事実上両者とも
基本的な疾病に対応しつつ、
患者の病状に応じて、
ゲートキーパーが存在している。
専門医、病院等との適切な連携、また診療時間外
現在、日本では上述のようにかかりつけ医と
でも患者の病態によっては患者やその家族と連絡
いった感覚がヨーロッパと比べて乏しい中でも、
が取れる態勢、更に病院から逆紹介を受けた患者
地域包括ケアシステムのコアとなるべきかかりつ
の疾患のみならず全人的健康管理等を担わなけれ
け医的医療人・施設が是非とも必要となり、平成
ばならない。そのためには現在の受診した患者を
14年の診療報酬改定で外来の機能分化の更なる推
受身で診る医療ではなく、かかりつけ医的医療が
進の観点から、主治医機能を持った中小病院及び
求められるが、現在の日本ではどうだろうか?私
診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に
は概ね新潟市で育ったが、家族が風邪やら腹痛な
対し、患者の同意を得た上で、継続的かつ全人的
どで掛かる医師は決まって新潟の下町で開業して
な医療を行うことについて評価するという“地域
いた I 先生だった。50年以上経った今でもその医
包括診療料”と“地域包括診療加算”が設けられ
師の顔を思い出せる位で、私は頻繁に診て貰い、
た。
正にかかりつけ医的医療を期待したものだが、
在宅で死を迎えた祖母も、I 先生が看取った。I
求める地域包括ケアでの役割の大きさを考えると
先生は私の家族にとって所謂かかりつけ医だった。
それらの点数は十分と言い難いし、やけに要件が
そんな I 先生がかかりつけ医だとの漠然とした思い
厳しいと思うが、如何であろうか?このままでは
が薄らいだのは、高度成長期を謳歌する昭和40年
手をあげる医師は少なく、地域包括ケアシステム
代後半だった気がする。多くの日本人にとっても、
は十分に機能しないだろう。是非ともこれから地
この頃から“具合が悪い時はかかりつけ医”といっ
域医療に使命感と情熱を持って従事しようと考え
た気持ちは失せ、
“何かあったら即病院それも大病
ている“かかりつけ医”志望者の参加ハードルは
院”志向が急速に広がったように思う。
もっと下げるべきであろう。
ヨーロッパなどでは、以前よりかかりつけ医を
(県医副会長)
新潟県医師会報 H28.1 № 790