2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細

2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細
■ベネッセ・駿台共催/データネット実行委員会
倫理、政治・
経済
1.総評
【2016年度センター試験の特徴】
倫理分野では、精緻な知識と深い読解力が求められた。独自設問はなく、難易は昨年並
『倫理、政治・経済』独自問題は出題されなかった。倫理分野の読解量は昨年並で、深く正確な知識が問われ、
政治・経済分野は基本的な内容理解と思考力・判断力が問われたことなどから、全体的な難易は昨年並。
2.全体概況
【大問数・解答数】
大問数6で変更なし。解答数は「倫理」19個、「政治・経済」18個の計37個。
「政治・経済」で昨年から2個減少した。「倫理、政治・経済」の独自の設問
はなかった。
【出題形式】
3行の文章選択問題が5問増加して10問になった。組合せ問題は、3問増加して
12問になり、特に「政治・経済」で2問から8問に増加した。「政治・経済」で
空欄補充問題が増加して3問になった。
【出題分野】
「倫理」および「政治・経済」の各分野から網羅的に出題された。「倫理」で
は源流思想の設問は今年も他分野の大問にちりばめられた。「政治・経済」で
は国際経済分野が5問から2問に減少した。
【問題量】
昨年並。
【難易】
昨年並。
3.大問構成
大問
出題分野・大問名
配点
難易
備考(使用素材・テーマなど)
第1問
「個人の境遇と望ましい社会」
14点
標準
青年期・現代の諸課題・現代思想
第2問
「喜びについて」
18点
標準
日本思想・源流思想
第3問
「人間にとっての時間」
18点
標準
西洋思想・源流思想
第4問
「国家と国際機関、中央政府と
地方政府」
22点
標準
政治・経済・国際経済
第5問
「民族問題と人権」
14点
標準
国際政治・政治・経済
第6問
「市場の役割と政府の役割」
14点
標準
経済・政治
4.大問別分析
第1問「個人の境遇と望ましい社会」(青年期・現代の諸課題・現代思想)
●プロ野球選手の契約更改のニュースを見ている友人の会話文から、青年期分野、現代の諸課題分野、現代思
想分野の各思想が扱われた。
●問1は、遺伝子の応用技術をめぐる問題について、時事的かつ基本的な知識・理解が問われた。
●問3は、リード文の下線部「税金は他人のためにも使われる」という見方を批判する税金に関する文章の読解
が問われた。資料文を正確に読み取っていけば判断は容易である。
●問4は、「社会に出て成功するのに最も重要な要因」と「昇給や昇進を決めるのに最も望ましい方法」につい
ての調査結果を読み取る問題であった。グラフを正しく読み取り、正しく解釈する論理的思考力が求められ
た。選択肢の文章が5行と長く、受験生は判断に時間がかかったであろう。
●問5のコミュニタリアニズムは新課程で新たに取り上げられたものである。サンデルの主張を理解していれば
容易であるが、そうでなければ、b「負荷なき自我」を文章のなかで判断することは難しい。c「共通善」も
空欄前の「共同体の」から判断せざるを得なかった受験生が多かったであろう。
第2問「喜びについて」(日本思想・源流思想)
●人は喜びをどこに見いだすのかをテーマとして、日本思想分野について古代から現代まで幅広く問われ、一
部源流思想からの出題もみられた。
●問1は、日本の神について和辻哲郎の考えが問われた。正答の内容を理解していても和辻と結びつけることは
難しく、消去法で判断した受験生が多かったであろう。
●問3は、法然も親鸞に同調する理由として、法然が理解した親鸞の信心理解の内容が問われた。「悪行」「観
想念仏」「自力」を理解していれば判断できる。
●問4は、室鳩巣『駿台雑話』から仏教を批判した文章を読解する問題であった。古文のため文章が難しく、読
解に時間がかかったであろう。室鳩巣についての知識は不要であり、資料を丁寧に読み込めば判断できる。
●問5は孔子の礼について基本的な語句が問われた。「仁」「忠」「君子」は教科書で学習する内容から容易に
判断できる。
●問6は、武者小路実篤について問われた。正答の「新しき村」は受験生にあまりなじみがなかったかもしれな
い。「堕ちきる」から坂口安吾、「批評」から小林秀雄が想起できれば、消去法で正答を導くことができた
であろう。
●問7は、本文の趣旨を読み取る問題であった。趣旨問題における誤文選択の形式の出題は、見慣れないが、判
断は容易であった。
第3問「人間にとっての時間」(西洋思想・源流思想)
●思想家たちの時間への問いをテーマとして、西洋思想分野を中心に、一部源流思想についても問われた。
●問2は、ルネサンス期の文学・芸術についての理解が問われた。ボッカチオの著作が『デカメロン』であるこ
との知識があれば判断できる。
●問3は、カントの認識論について、悟性と感性の意味や、人間は物自体に認識を広げることができないことの
理解が問われた。「対象が認識に従う」ことから正答は判断できる。
●問4は、経験論の思想家3人について、人名とその思想の組合せが問われた。イのロックは積極的に選べる
が、アのバークリーは消去法で判断できるであろう。
●問5は、ハイデガーの思想について、3つの文の正しい組合せ選択の形式で問われた。イはサルトルである。
ハイデガーの「現存在」「被投性」とサルトルの「即自存在」というキーワードが含まれているものの、1文
が3行と長く、それぞれの思想の深い理解が求められた。
●問6は、人間の本来的なあり方をめぐる先哲の考え方について、アリストテレス、ムハンマド、世親、荘子に
ついて問われた。正答の荘子は積極的に判断できる。
第4問「国家と国際機関、中央政府と地方政府」(政治・経済・国際経済)
●政治・経済・国際経済分野の融合問題で、ギリシア危機なども含めて幅広く出題された。
●問2は、1990年代に発足した地域経済統合の加盟国数、人口、GDPの表から、AFTA、MERCOSUR、NAFTAの判断が
求められた。加盟国数とGDPの規模からまずNAFTAが導き出され、次にAFTAが判断できる。
●問3は、中央銀行が実施する政策や業務について正確な知識と理解が問われた。自国通貨の為替レートを切り
下げるために、外国為替市場で自国通貨の売り介入を行うことの判断に苦戦した受験生は多かったであろ
う。
●問4は、日本とギリシアの政府債務残高と経常収支のGDP比を比較した統計資料の分析を通じて、日本の財政
状況を考察する力が求められた。解答に際して、両国の国際収支構造に注目させる点など工夫された出題で
あった。表について分析した文章の空欄補充の形式は目新しいものであるが、文章に即して表を読み取って
いけば、難しくない。
●問5は、自由権、社会権、参政権について、日本国憲法での権利や自由との組合せが問われた。基本的人権に
ついての理解が求められ、平易であった。
●問6は、日本国憲法が定めている民主的な意思決定の方法についての理解が問われた。3分の2以上か、過半数
かの判断は、憲法の条文を丁寧に読んでおけば難しくない。
●問8は、1980年代と2000年代の日本の行政改革について、その改革の内容や時期の判断が求められた。国家戦
略特区が設けられた時期の判断に迷った受験生が多かったであろう。
第5問「民族問題と人権」(国際政治・政治・経済)
●現代の社会情勢も踏まえた民族紛争の背景や課題をテーマに、国際政治を中心として政治・経済分野から出
題された。
●問1は、リード文の空欄補充の組合せで、少数派の民族が抱える不満を解消する方法の元となる考え方を表す
語句が問われた。多文化主義と民族自決について理解していれば容易に判断できる。
●問2は、コソボ紛争、パレスチナ問題、チェチェン紛争とその説明の組合せが問われた。それぞれの説明か
ら、該当する民族、紛争の発生した場所などを想起できるかがポイントであった。各紛争や問題に関わる深
い理解が求められた。
●問3は、難民条約について問われた。国内避難民が保護の対象となるのか判断に迷った受験生は多かったであ
ろう。また、難民条約の締結時期の理解も求められた。正答は「ノン・ルフールマンの原則」の語句が用い
られていない文であったため、判断に迷ったかもしれない。
●問4は、日本でみられる現実の労働問題が多面的に問われた。不法就労の状態にある外国人労働者や非正規労
働者にも労働基準法が適用されることなど、労働基準法についての正確な理解があれば正答を導ける。
●問5は、マスメディアによるメディア・スクラムとアクセス権について問われた。メディア・スクラムは受験
生にはあまりなじみのない語句であるが、メディア・リテラシーを理解してれば消去法で正答を導くことが
できた。
第6問「市場の役割と政府の役割」(経済・政治)
●市場メカニズムと政府の役割について、経済分野を中心に、基本的な問題から思考力を問うものまで幅広く
出題された。
●問1は、需給曲線について、原材料の価格が低下した場合によって生じる変化が問われた。供給曲線が右下に
シフトすることは、市場での需要と供給を考える際の基本であり、容易に判断できる。
●問2は、社会保障の発展に影響を与えた法律や報告として、エリザベス救貧法、社会保障法、ベバリッジ報告
とその内容の組合せが問われた。ナショナル・ミニマムの保障とベバリッジ報告を結びつけることに迷った
受験生がいたかもしれない。
●問3は、公共財の非競合性について問われた。非競合性とはどのようなことか、読解する力が求められた。
●問5は、2001年度から2012年度の地方財政の歳出の推移を示したグラフから近年の日本の社会状況についての
理解が問われた。設問文には、各費目が何に充てられるか具体的に説明されているため、丁寧に読み取って
手がかりとしたい。増加傾向にあって2009年度を境に大幅に増加しているAが生活保護などを含む扶助費、微
減が続くBが人件費、減少し続けているが2010年に微増し再び減少、2012年度に微増しているCが普通建設事
業費である。ただ数値の変化を読み取るだけでなく、リーマン・ショックや行政改革の動きなど、その背景
となった社会状況を想起する力が求められた。
5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度
2015
2014
2013
2012
2011
平均点
59.57
67.29
60.68
67.14
―
6.センター試験攻略のポイント
●『倫理、政治・経済』としての特別な対策は必要ないが、「倫理」「政治・経済」の両科目について、とも
に十分な学習を積み重ねておかなければ高得点は望めない。両科目をバランスよく学習していくことが望ま
しい。
●倫理分野では新課程で新たに取り上げられた現代の思想家が扱われることもある。教科書本文にある基本事
項を整理することが重要なのは当然であるが、欄外の記述や資料集・用語集などを用いて積極的に周辺知識
についてもおさえておきたい。一方、前提となる知識がなくても与えられた設問文や資料文を読み解いて考
察することで判断できる問題も出題されている。このような問題はこれまでも「倫理」で幾度も出題されて
きたものである。類題演習を通じてしっかりと読解力と考察力を身につけておきたい。
●政治・経済分野においては、正確な知識が必要となる問題も散見される。これまで統計資料や図版を用いた
問題においては、その多くが資料読解力を試されるもので、落ち着いて判断すれば正答にたどり着けるもの
が多かった。今年は、新課程でも重視されている、「基本的な知識」と「資料から読み取れる内容」を関連
付けて判断する問題もみられた。まずは教科書にある原理原則について確実な理解を心がけ、過去問演習等
を通じて応用力を培いたい。また、時事的な話題を知っていれば有利になる問題が散見された。時事問題の
重要性は高いと考えたい。