2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細

2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細
■ベネッセ・駿台共催/データネット実行委員会
日本史B
1.総評
【2016年度センター試験の特徴】
歴史的知識をふまえた史資料の読解力を要する傾向が強まった。昨年よりやや易化
「歴史的知識の正確な理解」「多彩な史資料の読解」「地理的要素」をつなぎあわせて考えさせる傾向が昨年よ
り強まった。また、狭い時代幅の中での年代整序を問う問題が多かったものの、誤文が明確な問題も散見され、
難易は昨年よりやや易化した。
2.全体概況
【大問数・解答数】
大問数6、解答数36個は昨年から変更なし。ただし、大問の配点に変更があ
り、特に第1問では4点増加した。第5問、第6問は日本史Aとの共通問題。
【出題形式】
近年の傾向どおり、地図・写真・史料を使った出題が多かった。年代整序問題
は昨年から1問増加し、4問出題された。
【出題分野】
昨年増加した外交史がやや減少したものの、政治史を中心にバランスよく問わ
れた。
【問題量】
昨年並。
【難易】
昨年よりやや易化。
3.大問構成
大問
出題分野・大問名
配点
難易
備考(使用素材・テーマなど)
標準
リード文が2人の大学生による日記という形式
第1問
「史料としての日記」
16点
第2問
「原始・古代の漆と香の文化」
16点
第3問
「中世から近世初期までの政
治・社会・文化」
16点
第4問
「人物から見る近世の政治・社
会・文化」
16点
第5問
「明治期の地方制度」
12点
第6問
「日本とオリンピックとのかか
わり」
24点
A 原始・古代の日本と漆(史料「漆紙文
やや易 書」)
B 古代の日本と香(史料)
標準
A 鎌倉時代の社会・外交・文化(図版『一遍
上人絵伝』『蒙古襲来絵詞』)
B 戦国時代から近世初頭にかけての政治・外
交・社会(史料「朝倉孝景条々」「北条氏世
田谷新宿楽市掟書」)
A 徳川吉宗を中心に幕府と大名、特産品など
の分布(地図)
やや易 B 只野真葛(工藤平助の娘)を材料に用いた
田沼時代の政治・外交・文化(史料 只野真
葛『むかしばなし』)
標準
明治期の地方制度(明治前期の改革中心)
A 1920~1930年代の日本とオリンピック(図
版)
やや難 B 昭和戦前期の日本とオリンピック
C 戦後復興期の日本とオリンピック(史料・
地図)
4.大問別分析
第1問「史料としての日記」
●学習指導要領で重視されている「主題学習による歴史の考察・解釈」の要素が反映された問題で、例年同様
にテーマ史が出題された。日記をテーマにしつつ、日記のほかに出版物や印刷、米、女性など幅広い内容に
関して問われた。
●問2は、『日本書紀』に関する二文正誤問題。Xは『日本書紀』の成立時期や記載範囲について整理しておく
ことが求められ、正誤判断に悩んだ受験生も多かったと思われる。Yは『古事記伝』の著者が本居宣長である
ことを把握しておくことがポイントであった。
●問3は、印刷と出版に関する問題。五山版の刊行時期や寛政の改革の内容、GHQの言論統制について問われ
た。本問は、中世~戦後と時代幅も広く、大局的な視点から印刷や出版といったテーマについて整理してお
くことが求められた。
●問5は、米の生産や価格に関する内容が問われた。大唐米が普及した時期や稲作が日本列島全域に広まった時
期、米騒動に関する正確な内容など、米に関する幅広い理解が求められた。
●問6は、女性と社会のかかわりに関する二文正誤問題。Xは教科書に記載されている明治時代の就学率に関す
るグラフを想起できれば、正誤判断は比較的容易であった。Yは女性運動に関する頻出の内容で、教科書や授
業の内容を整理しておく必要があった。
第2問「原始・古代の漆と香の文化」
●Aでは原始・古代の日本と漆について、Bでは古代の日本と香について出題された。日本の伝統文化である
漆、香がテーマとされており、学習指導要領での「世界の中における日本」の視点がうかがえる。
●問2は、多賀城跡から出土した史料(漆紙文書)に関する二文正誤問題。Xは脚注を参考に「猿売」が女性で
あることを、まずは読み取り、そのうえで、調・庸が女性には課されなかったという基礎事項をふまえて正
誤判断をすることが求められた。Yは史料が「多賀城跡」から出土したことから、多賀城の位置について想起
することが要求された。史料読解と基礎知識、そして地理的要素が複合された問題であった。
●問4は、新羅使節のもたらした物品に関する史料(現代語訳)を用いた正文組合せ問題。リード文を参考に
「中継貿易」の意味を把握することや、交易の代価について史料の脚注をふまえて正誤判断をすることが求
められた。また、東大寺での大仏開眼供養について、設問文の「奈良時代」や史料の「天平勝宝4(752)
年」も参考にして時期を判断をすることが求められた。
●問6は、大宰府にかかわる出来事に関する年代整序問題。IIの「大野城」が築かれた時期の判断に迷ったかも
しれないが、「水城」が白村江の戦いの後に築かれたという基礎知識があれば、IIが最も古いことがわかっ
たであろう。
第3問「中世から近世初期までの政治・社会・文化」
●Aでは鎌倉時代の武士をテーマに社会・外交・文化について、Bでは戦国時代から近世初頭にかけての政治・
外交・社会について幅広く出題された。
●問2は、2つの図版を用いた二文正誤問題。甲は選択肢中の「防御施設」から堀や塀といった具体的な内容が
想起できたかがポイントであった。乙は頻出の図版であり、判断は比較的容易にできたと思われる。
●問4は、2つの史料を用いた正文組合せ問題。史料1は教科書にも掲載されているもの、史料2は初見史料であ
り、双方とも脚注を手がかりに丁寧に史料を読解することが求められた。また、史料2では「六斎市」や「楽
市」といった基礎知識もふまえれば自信を持って正答を選ぶことができたであろう。
●問5は、ヨーロッパ人の日本への来航に関する年代整序問題。IIの判断に迷った受験生が多かったと思われる
が、南蛮貿易の取引にスペインが含まれたことを想起できれば正答を選ぶことができたであろう。
第4問「人物から見る近世の政治・社会・文化」
●Aでは三家から将軍職を継いだ徳川吉宗を中心に幕府と大名、特産品などの分布について、Bでは只野真葛
(工藤平助の娘)を材料に用いて田沼時代の政治・外交・文化が出題された。
●問2は、近世の特産品と産地に関する地図問題。Xで問われた紅花は、藍とならび主要な商品作物だが、その
産地を地図上の位置まで含めて整理できていたかで差がついたであろう。Yで問われた西陣織の産地が京都で
あることは確実におさえておきたい。
●問5は、リード文に登場する只野真葛の随筆『むかしばなし』を用いた正文組合せ問題。脚注を参考に史料を
丁寧に読むことが求められた。合わせて、田沼意次が蝦夷地開発に前向きであったことや、異国船打払令の
時期に関する知識も必要であった。
●問6は、19世紀前半の対外関係の事件や事項に関する誤文選択問題。ゴローウニン事件やフェートン号事件の
時期、内容についての理解などが求められた。誤文で取り上げられているシドッチが18世紀に屋久島に潜入
したという内容は、やや細かい知識であり判断に迷った受験生も多かったと思われる。
第5問「明治期の地方制度」
●明治の地方制度をテーマとした大問であり、明治前期の改革を中心に出題された。
●問2は、戊辰戦争の時期に新政府がとった施策に関する内容が問われた。正答の政体書に関する内容は、やや
細かいため判断に迷った受験生も多かったと思われる。ただし、誤答選択肢は比較的容易に誤りと判断でき
るものがあり、落ち着いて問題に取り組む必要があった。
●問3は、お雇い外国人に関する二文正誤問題。Xのロエスレル、Yのフェノロサはいずれも頻出の人物であり、
授業の理解や演習を積み重ねていれば解答は難しくはない。
●問4は、立憲体制の成立過程に関する年代整序問題。枢密院が、憲法草案を審議するために置かれたという目
的を把握していれば、II→IIIという流れになると判断できた。
第6問「日本とオリンピックとのかかわり」
●昨年までの人物史にかわり、オリンピックと日本とのかかわりをテーマとした大問であった。Aでは1920~
1930年代の日本とオリンピック、Bでは昭和戦前期の日本とオリンピック、Cでは戦後復興期の日本とオリン
ピックを主題として、近現代の外交・政治・文化について問われた。
●問2は、関東大震災後の都市文化に関する図版を用いた二文正誤問題。Xでは図版から「川端康成」を読み取
ることと、プロレタリア文学運動に関する知識が問われた。Yでは図版から「築地小劇場」「小山内薫」とい
ったキーワードの読み取りと、新劇に関する知識が問われた。
●問3は、満州事変前後の出来事に関する年代整序問題。1930~1933年までの短い期間の整序が問われた。IIの
塘沽停戦協定が、満州事変の停戦協定であると理解しておくことが求められた。
●問8では、高度経済成長期の出来事と、その地図上の位置が問われた。Xは四日市ぜんそくに関する文で、日
本の四大公害に関して地図上の位置も含めて整理できていることが求められた。誤答の位置が、イタイイタ
イ病に関する富山であるため、受験生にとっては難しかったであろう。Yは美濃部亮吉が東京都知事であると
判断することが求められた。
5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度
2015
2014
2013
2012
2011
平均点
62.01
66.32
62.13
67.92
64.11
6.センター試験攻略のポイント
●センター試験では例年、各時代・各分野からまんべんなく出題されているので、苦手な時代・分野をつくら
ないことが大前提である。テーマ史も毎年出題されているので、「教育」「法制度」「信仰・宗教」といっ
た頻出のテーマにも注意したい。また、学習がおろそかになりやすい戦後史は、近年比較的新しい時代も含
めて出題が続いている。文化史を含めて1990年代までの動向をおさえておきたい。
●内容に関しては、文章の正誤判断を求める問題が中心である。歴史用語の正確な内容理解が問われることも
少なくない。また、特定の時代の動向・展開や、あるテーマにもとづく時代横断型の出題、時系列の理解を
問う出題、歴史的思考力を問う出題が傾向としてあげられる。これらの問題は単語の暗記のみでは対応でき
ないため、関連する項目の因果関係を把握したうえで歴史の流れを整理し、同時代の出来事についても政治
史を軸に各分野の内容をとらえておきたい。
●センター試験では、新課程の学習指導要領でも重視されている「歴史と資料」に対応した史料の読み取り問
題や図版の読み取り問題が出題されることが多いので、今後もしっかりと対策を行っておきたい。まずは教
科書の内容理解とあわせて、関連する史資料を確認し、初見の史資料が出題された場合でも落ち着いて取り
組めるようにしておきたい。また近現代史では、文献史料だけでなくグラフや表などの統計資料を確認して
おくことも重要である。