2016年度大学入試センター試験(本試験)分析詳細 ■ベネッセ・駿台共催/データネット実行委員会 生物 1.総評 【2016年度センター試験の特徴】 時間を要する問題が減少し、取り組みやすい構成となった。問題難易は昨年より易化 昨年同様、生物の全範囲から幅広く問われた。選択問題として、複数の分野を扱う問題が出題された。解答に時 間を要する問題が多かった昨年に比べ、選択肢が絞りやすい問題や平易な考察問題など、取り組みやすい問題が 増加し、問題難易は昨年より易化した。 2.全体概況 【大問数・解答数】 大問数7は、昨年から変更なし。第1問~第5問が必答で、第6問・第7問から1問 選択。昨年31~32個(選択する問題によって異なる)であった解答数は32個と なった。 【出題形式】 第1問~第5問はすべてA、Bの2中問形式で問われた。文章選択問題・組合せ問 題を中心に出題された。7択以上の問題は19個から13個に減少し、4択の問題が 1個から4個に増加した。 【出題分野】 昨年同様、特定の分野に偏ることなく、幅広く出題された。選択問題である第 6問・第7問では、昨年は生物基礎の内容も扱われていたが、2016年度はいずれ も生物の範囲から出題された。 【問題量】 昨年並。 【難易】 問題難易は昨年より易化。(現役生・既卒生の受験生比率が異なり、また、昨 年は得点調整が行われたため、問題自体の難易を比較) 3.大問構成 大問 出題分野・大問名 配点 難易 備考(使用素材・テーマなど) A 酵素の性質 B 動物細胞における物質輸送 第1問 「生命現象と物質」 18点 やや易 第2問 「生殖と発生」 18点 標準 A 動物(ウニ、センチュウ)の発生 B 被子植物の生殖・発生 第3問 「生物の環境応答」 18点 標準 A 受容器、神経系、適刺激 B 植物ホルモン 第4問 「生態と環境」 18点 標準 A 個体群密度、種間相互作用 B 捕食者と被食者の関係、ガの行動様式 第5問 「生物の進化と系統」 18点 標準 A 適応放散 B 生物の変遷、人類の出現と進化 第6問 「イネ科植物の栽培と利用」 10点 標準 光周性、光合成、PCR法 第7問 「社会性昆虫の行動と進化」 10点 標準 ハチの役割の分化、遺伝、進化 4.大問別分析 第1問「生命現象と物質」 ●第1問では、「生命現象と物質」の分野から、基本的な知識を問う問題と実験考察問題が出題された。 ●Aでは、酵素の性質について、知識を中心に問われた。 ●問1では、最適温度や最適pHなど、酵素に関する基本的な知識が問われた。 ●問2では、フィードバック調節やアロステリック酵素、競争的阻害と非競争的阻害について問われた。酵素の 反応に関わる用語の意味をおさえていれば平易であったと考えられる。 ●Bは、タンパク質の輸送に関する問題であった。タンパク質の合成や濃縮についての知識が問われたほか、エ キソサイトーシスについての実験考察問題が出題された。 ●問3では、タンパク質が合成される場所と濃縮される場所が問われた。タンパク質が細胞内で合成され、細胞 外に分泌される過程が理解できていれば平易である。 ●問4は、細胞膜を介した物質輸送(エキソサイトーシス)に関する知識と、実験結果から考察する力が問われ た。試薬Xおよび試薬Yのはたらきを問題文から読み取ったうえで、複数のデータを比較することが求められ た。示されるデータの数が多いため、問題文や実験結果を素早く的確に読み取ることができるかどうかで差 がついたと推測される。 第2問「生殖と発生」 ●第2問は、「生殖と発生」の分野から、動物と植物の両方を題材として出題された。 ●Aでは、ウニの発生に関する知識問題と、センチュウの4細胞期胚における発生運命の決定に関する考察問題 が出題された。 ●問1は、ウニの発生に関する知識を問う問題であった。問われている知識は基本的なものであり、誤答の選択 肢もわかりやすいため、平易である。 ●問2は、センチュウの4細胞期胚における発生運命に関して、問題文や図で与えられた情報をもとに考察する 実験考察問題であった。図が多く、実験結果の解釈にやや時間を要するが、選択肢がわかりやすいため正答 を絞り込みやすかったと考えられる。 ●Bでは、被子植物の生殖・発生に関して、知識問題と実験考察問題が出題された。 ●問3は、被子植物の生殖・発生に関する知識を問う問題であった。選択肢2において新課程で扱いの小さくな った核相が扱われており、戸惑った受験生もいたと推測される。また、選択肢4を正答と判断するためには、 胚乳の遺伝のしくみを正確に理解している必要があった。 ●問4は、花粉管の伸長と受精に関係する遺伝子のはたらきを、実験結果から考察する問題であった。実験結果 が図を用いて説明されており、理解しやすかったと考えられる。 第3問「生物の環境応答」 ●第3問は、「生物の環境応答」の分野から、動物と植物の両方を題材として出題された。 ●Aでは、ヒトの受容器や神経系に関する基本的な知識が問われた。 ●問1は、適刺激に関する知識問題であった。選択肢の数が少なく(4択)、問われている知識は基本的なもの であるため、平易である。 ●問2は、ヒトの神経系に関する知識を問う問題であった。中枢神経系について、それぞれの役割や構造を正確 に理解している必要があるため、差がつきやすいと考えられる。 ●問3では、ヒトの視覚、聴覚、平衡感覚について、それぞれの適刺激と受容器が問われた。知識としては標準 的であった。 ●Bでは、植物ホルモンに関する知識問題と実験考察問題が出題された。 ●問4は、オーキシンやサイトカイニン、アブシシン酸、ジベレリン、エチレンなどの植物ホルモンのはたらき について、基本的な知識が問われた。 ●問5および問6は、オーキシンとサイトカイニンの濃度比が植物細胞の形態に与える影響を、アグロバクテリ ウムの感染実験から考察する問題であった。 ●問5は、オーキシンとサイトカイニンのはたらきに関する知識を前提として、遺伝子Xおよび遺伝子Yがそれぞ れどちらの濃度上昇に関与しているかを考察する必要があり、やや難しい。 第4問「生態と環境」 ●第4問は、「生態と環境」の分野から、基本的な知識や理解を中心に出題された。 ●Aでは、個体群に関して、計算問題やグラフを読み取って考察する問題が出題された。 ●問1は、標識再捕法によって求めた個体数から個体群密度を計算する問題であった。面積で割る操作を忘れる 受験生もいたであろうが、誤答にあたる選択肢がないため気づくことができたと思われる。 ●問2は、2種のゾウリムシについて、両者を混合して培養した場合と単独で培養した場合のそれぞれの個体数 の変化を示したグラフをもとに、両者の関係を考察する問題であった。選択肢の数が少なく(4択)実験結果 も理解しやすいため、取り組みやすい問題であった。また、2000年度本試験第6問で同様のグラフが扱われて おり、過去問で演習を行っていた受験生は考えやすかったと推測される。 ●Bでは、食物連鎖に関する知識を問う問題と、ガの行動に関する実験考察問題が出題された。 ●問3は、食物連鎖、食物網、間接効果といった基本的な用語を問う知識問題であった。 ●問4は、生物の相互作用と適応に関する問題であった。「食われる方の生物」に生じた適応として正しいもの を選ぶことに注意が必要である。 ●問5は、ガの行動に関する実験考察問題であった。実験条件が単純であり、選択肢の比較も容易であるため、 取り組みやすかったと考えられる。 第5問「生物の進化と系統」 ●第5問は、「生物の進化と系統」に関する問題であった。やや細かい知識や理解が要求された昨年に比べ、基 本的な知識を問う問題が増加し、取り組みやすい問題構成となった。 ●Aでは、適応放散に関する知識問題と考察問題が出題された。 ●問1は、順応や共進化、適応放散といった進化に関連する用語について、基本的な知識が問われた。 ●問2は、鳥類のくちばしの形の変化を題材として、適応放散を遺伝子発現と結びつけて考察する問題であっ た。遺伝子Xおよび遺伝子Yについて、それぞれがくちばしの長さまたは太さのどちらに関与しているかをグ ラフから読み取る必要があった。実験条件が単純であり、結果もわかりやすいため、取り組みやすかったと 考えられる。 ●Bは、爬虫類の科の数の変化から生物の変遷を問う問題と、人類の出現およびその進化に関する正確な知識を 問う問題であった。 ●問3は、爬虫類と被子植物の科の数を示したグラフから、地質時代と生物の変遷の関係を問う問題であった。 爬虫類の科の数の減少時期が中生代の終わりであることが理解できているかがポイントである。 ●問4は、人類の出現および進化について、アウストラロピテクスとホモ・サピエンス(ヒト)の特徴を問う問 題で、やや細かな知識が必要とされた。 第6問「イネ科植物の栽培と利用」 ●第6問は、光周性、代謝、バイオテクノロジーなど、複数の分野を扱った問題であった。 ●問1では、花芽形成と光周性に関する基本的な知識が問われた。 ●問2では、光合成に関して、C3植物およびC4植物を題材としてやや細かい知識が問われた。 ●問3は、PCR法によるDNAの増幅量を求める問題であった。指数を用いて立式する必要があり、計算力を要する ため、難しい。 第7問「社会性昆虫の行動と進化」 ●第7問は、社会性昆虫を題材として複数の分野を扱った問題で、2設問とも考察問題が出題された。 ●問1は、社会性昆虫における相互作用と個体の役割の分化に関する標準的な考察問題であった。実験の説明を 読めば前提知識がなくても選択肢を絞り込むことができる、平易な問題であった。 ●問2は、一部の教科書で扱われている血縁度に関して、問題文で与えられた情報をもとに考察する問題であっ た。雌が二倍体、雄が半数体である点がやや難しいが、選択肢を絞り込みやすいため、難易は標準的である と考えられる。 5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値) 年度 2015 2014 2013 2012 2011 平均点 54.99 ― ― ― ― 6.センター試験攻略のポイント ●2016年度は各分野の知識が幅広く問われており、2017年度もこの傾向が続くことが予想される。生物の全範 囲からまんべんなく出題されるため、対策としては教科書を中心とした正しい知識をしっかりと身につける ことが有効である。やや細かい知識に加え、図から判断できる内容が知識として問われることもあるため、 本文中の用語だけでなく図やグラフまで丁寧に理解しておきたい。 ●実験考察問題では、従来個別試験で扱われていたような実験素材を扱った問題や、複数の実験結果をもとに 考察を行う問題が出題されているため、対策が必要である。身につけた知識をもとにした考察や、目新しい グラフやデータからの考察などは、過去の問題や模擬試験を活用した練習が効果的である。 ●生物の問題では問題文だけでなく、実験条件や結果の把握、選択肢の正誤の判断を素早く行うことも重要と なる。試験本番に時間配分をきちんと行い、どの大問においても自分の力を最大限発揮できるように、日ご ろから解答時間を決めて問題に取り組むなど、自分なりの時間調整ができるようにしておきたい。
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