なぜ行政が人権教育をすすめるのか? - ERIC 国際理解教育センター

参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■ なぜ行政が人権教育をすすめるのか?
国連の人権教育推進 10 年行動計画(1995-2004 年)を受けて、日本でも「あらゆる場
を通じた人権教育の推進」と「地方公共団体、民間団体等がそれぞれの分野において、
この行動計画の趣旨に沿った様々な取組を展開すること」が求められました。1
さらに、以下の人々については重点対象とされました。
人権にかかわりの深い特定の職業に従
事する者(人権教育の重点対象)
・検察職員
・矯正施設・更正保護関係職員等
・入国管理関係職員
・教員・社会教育関係職員
・公務員
・医療関係者
・福祉関係職員
・労働行政関係
・海上保安官
・消防
・警察
・自衛官
・マスメディア関係
国連人権教育 10 年行動計画より
Q なぜ、特にこれらの人々に「人権教育」が必要なのだろうか?
1http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/024/report/04062501/006/00
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■人権概念は進化する2 これからも
人権概念の発展
第一期 世界人権宣言
市民的・経済的権利
政治的・文化的権利
第二期 差別撤廃条約
女性・人種・障害者
第三期 こどもの権利条約
【第一期のポイント】
世界人権宣言は、第二次世界大戦中のホロコーストという大量虐殺の事実に驚愕した
世界が「国家は個人の人権を侵害してはならない」と宣言したものでした。拷問の禁
止などが含まれているのはそのためです。さらに、国家とは何かについての考え方も
変えました。
「国家は個人の人権の進展のために信託されている」
【第二期のポイント】
1960 年代、黒人解放運動、女性解放運動などの市民運動に後押しされて締結された
差別撤廃条約たちは「すべての差別は社会的・文化的・歴史的に形成されたもので、
社会・文化・歴史を口実に差別を温存・容認することはできない」ことを明示し、差
別是正措置を社会がとることを求めたものです。
「積極的差別是正措置は社会の義務」
【第三期のポイント】
1989 年に締結されたこどもの権利条約は、人権のために国家がすべきことをはっき
り示しています。個人個人の人間を主とし、国家を従、人間の権利が国家の枠を越え
て、国際社会のいずこにあっても同様に保護されるものと言っています。また、こと
をこどもの四つの権利によって次のことを明らかにしています。
「生存・保護・発達・
参加」
「保護は主体性の発揮のためにある」
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詳しくは HRT, p.62「人権についての主張の 3 つの背景」参照
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■人権概念は進化する だから
「人権教育や人権研修は、”人権とは何か”という問いに
ついて、一人一人が考え、互いに共有し合う時間です。
人権という概念自体が今も変化し、成長する概念であ
る以上、”正しい”答えがあるわけではありません。アク
ティビティを通して何に気づくか-基本的にはオープ
ン・エンドなものです。」
HR p.6
人間が人間らしく生きることを求める心において、人権は普遍的に誰にでもあるので
す。わたしたちはお互いがその権利を発揮できるように、お互いに助け合って共生し
ていくことが、人権尊重社会であり、それを共に考えるのが人権教育です。
■人間の基本的な要求(BHN、basic human needs)から「よりよく生き
る」へ
ESD, p.40
積極的差別是正(Affirmative Action)を社会的障壁についても行っていくために、「合
理的配慮」が、障害者権利条約では求められています。
日本の人権教育は、同和教育によって大きく進んできました。反差別の教育、差別し
ない、させない、見逃さない教育、被差別者の学力補償などエンパワメントの教育が
その柱でした。
人権教育は反差別の精神は引き継ぎつつ、人権尊重社会はすべての人の生きるという
ことの質(QOL、quality of life)が、全体としてよりよいものになるように考えられて
きました。
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■よりよい人間の社会の質とは?
ESD, Education for Sustainable Development がめざすもの
○ESD6 つの概念・7 つの力 【持続可能な社会づくりの構成概念】
・多様性・相互性・有限性・公平性・連携性・責任性
【ESD で育みたい能力/態度】
・批判的に考える・未来予測し計画する・多面的総合的に考える・進んで参加する・
他者と協力する・つながりを尊重する・コミュニケーションする
○平等から公正さへ
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http://buzzap.jp/news/20141111-equity-vs-equality/
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■人権尊重社会の推進を阻むもの
Q 何が、人権尊重推進のバリアになっているでしょうか?
Q 重点課題の対象となっている人々が声をあげやすい環境になっていますか?
HRA, p.85
人権が侵害されやすく、人権についての知識や情報が得にくいのが重点課題の人々な
のです。そのために、これらの人々も人権教育の重点対象です。
Q あなたは、声をあげやすいですか?
権利の主張は、これまでの既存の枠組みや、社会・文化・伝統とあつれきを生みやす
いものです。対立する意見を言いにくい「日本社会の○△□」4の状況が声をあげに
くくしているのではないでしょうか。
なぜ対立しにくいか?
どんな手だてがありえるか?
○均質さを好む
△力の格差の感覚が大
□変化を好まない
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詳しくは HRA, p.48「日本型コンフリクトを明確にする」参照
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■ 人権尊重社会推進の課題は何?
HRT, p.83
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参加型で学ぶ人権教育(行政職員対象)資料集
■ 参考文献
アルファベットは出典として書かれているもの
1. 人権教育ファシリテーター・ハンドブック (基本編)HR
参加型アクティビティでよく使われるもの30について、すすめ方を解説したもの。
1. いっしょに考えて!人権 (発展編)HRT
人権教育の4つの側面、「人権としての人権教育」「人権についての人権教育」
の二つについて、指導者育成研修において、共有すべき内容を示した。参加型で
共に学び、理解を深め、行動を励まし合うことができるプログラム仕立てになっ
ている。
2. いっしょにすすめよう!人権 (実践編)HRA 人権教育の4つの側面の内、「人権を通しての人権教育」「人権のための人権教
育」の二つについて、指導者育成において共有すべき内容を示した。参加型によ
る自尊感情、コミュニケーション能力などのスキル・アップのための訓練プログ
ラムと、参加者の「気づきから行動へ」の力をつけるためのプログラムを紹介し
ている。
4. いっしょに ESD! 環境・人権・参加の新世紀教育 ESD
ESDって何? 地球時代に生きる 環境基本計画と市民参加 人権・ジェンダー・
教育 生涯学習社会をつなぐ 持続可能な社会のための創考未来 の6章で、持
続可能な未来のための教育の基本を考えるための視点を提供している。
5. 対立から学ぼう
関係性のスキルとして、対立の解決を身につける。
対立から学ぼう 10 の基本概念
1) 対立は悪くない 6)アクティブ・リスニング
2) 対立の扱い方 7) 視点メガネ
3) 対立は激化する/内在化する
4) 怒りの温度計 9)要望と本心
5) わたしメッセージ 7
8) ウィン・ウィン型解決
10)調停と仲裁