経営トップに聞く「リーダーはどうあるべきかを教えてくれた」

いきなり一喝され、
気合いを入れ直した
守島
本日はお忙しい中、お時間をいた
だき、ありがとうございます。
碓井
いえいえ、とんでもないです。も
う八年前になりますが、一橋シニアエグ
ゼクティブプログラムではとても貴重な
経験をさせていただきました。守島先生
の講義も大変興味深く聞かせていただき
ましたし、こちらこそ再会できてうれし
セイコーエプソンの碓井稔社長は、
卒業生の一人だ。
プログラムのコーディネーターを務め る
守島基博教授が、何を学び、
何を得たのかを聞いた。
うすい・みのる ● 東京大学工学部卒業後、信州精器( 現
く思います。
もりしま・もとひろ ● 慶應義塾大学大学院社会学研究科
一橋シニアエグゼクティブプログラムの
社会学専攻修士課程修了。同大学大学院経営管理研究科教
セイコーエプソン )に入社。同社のコア技術であるマイク
守島
当時、碓井さんは生産技術開発本
部長だったと思いますが、どのような経
守島 基博
碓井 稔氏
緯で参加されたのですか。
リ ーダダ ーーは
どう あるべきかを
教えてくれた
一橋大学大学院商学研究科教授
セイコーエプソン㈱ 代表取締役社長
碓井 もともと弊社には体系立てて経営
幹部を育てていくという仕組みはありま
コーディネーター
2006 年度プログラムに参加
せんでした。おそらくは当時の経営陣が
その必要性を痛感したのでしょう。私の
ときから毎年四人ずつ受講することにな
りました。もっとも、なぜ私に白羽の矢
が立ったのかは見当もつきませんが。
守島
いずれ経営の一角を担うという自
覚はまだなかった?
碓井 私は三〇代半ばで一〇〇人規模の
ビ ッ グプロジ ェ クトを 任 さ れ た の で す
が、その経験を通して、会社全体を視野
に入れて物事を考えるという習慣が身に
つきました。事実、若いうちから﹁この
経営トップに聞く
ロピエゾ方式のインクジェットプリンターを開発。生産技
授などを経て現職。近著に『人材マネジメント入門』
『 人材
術開発本部長などを経て、08 年代表取締役社長に就任。
の複雑方程式 』などがある。
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わけではなかった。ですから﹁たまには
長を目指そうなどと具体的に考えていた
か﹂などとよく考えていました。ただ、社
会社をもっとよくするには何をすべき
せたことをよく覚えています︵笑︶。
て臨まないとマズいぞと自分に言い聞か
の研修ではない、そうとう気合いを入れ
されたんです。どうもこれはありきたり
だ。その覚悟はできているのか﹂と一喝
て少しずつ風土が醸成されていきます。
練り上げる。そうした日々の営みによっ
設計して人事制度を構築し、事業戦略を
なるとそう単純ではありません。組織を
生には本当に感謝しています。
事制度に関して共通理解があります。先
プログラムを受講した者が多いので、人
います。それに、今の経営幹部には同じ
勉強するのもいいか﹂くらいの軽い気持
四、五 人 のグル ープで 議 論 し 合 う
碓井
守島
ほかに印象に残っているプログラ
ムはありますか。
研修の意義を痛感した
経営トップに立ち、
碓井 先生の講義を聞いたからこそ、そ
ういう認識を持つことができたのだと思
ちで出向いたように思います。
守島 実際、受講してどうでしたか。
碓井
初日にミスミグル ープの三枝匡さ
んの講義があったのですが、これがかな
り強烈でした。壇上に立つや﹁あなた方
は近い将来、経営を担う立場にいるはず
島先生の人事制度に関するお
ければなりませんが、そのためには一人
ーは常に新しい技術や製品を生み出さな
を痛感させられました。われわれメ ーカ
碓井
ところが、その二年後に社長のポ
ストに就いて、いかに人事制度が重要か
度
いないでしょう。その生きざまをもう一
点においては本田宗一郎の右に出る人は
碓井
誰も成し遂げていない分野に果敢
に挑み、信念と情熱でやり遂げたという
守島 そう言っていただけるとうれしい
ですね。ところで、プログラムの柱の一
話 し も 印 象 に 残 っ て い ま す。
ひとりが最大限力を発揮できる企業風土
守島 当然、経営者にはマネジメントの
スキルが求められますが、それだけで大
と い うプログラムが 多 か っ た
た だ、 正 直 言 う と 、 あ の と き
を構築することが大事です。では、企業
き な こ と を 成 し 遂 げ る こ と は で き な い。
つに経営者研究がありますが、碓井さん
は あ ま りピンと こ な か っ た ん
風土というのはどのように形成されるの
マインドが重要だということですね。
と 思 い ま す が、 そ れ ら は 他 社
ですよ。
か。 い ろ い ろ な 要 因 が あ る の で し ょ う
は本田宗一郎を取り上げられました。
守島
碓井さんのように技術
畑を歩んでこられた方には
が、最も重要なのは人事制度などの﹁制
碓井
この研修は、そこがきちんと押さ
えられていると思います。リ ーダ ーはど
の方々の考えを聞けるという
少々退屈だったかもしれませ
度﹂ではないか。﹁制度﹂が﹁風土﹂を育む
うあるべきなのか常に考えさせられる
点 で 興 味 深 か っ た で す ね。 守
んね︵笑︶。
と考えるようになりました。
守島 おっしゃる通りです。小さい会社
だと経営者の個性によって風土が出来上
続きよろしくお願いします。
幹部社員を預けるつもりですので、引き
し、触発されることが多かった。今後も
がったりしますが、御社のような規模と
ってみたいと考えました。
碓 井 い え、 そ う で は な く、
その頃私は人事制度というも
のがあまり重要だと思ってい
ませんでした。
守島
なるほど。
SENIOR EXECUTIVE PROGRAM
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