SURE: Shizuoka University REpository

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『大学授業研究の構想 過去から未来へ』 : 京都大学高等
教育教授システム開発センター編
三浦, 真琴
静岡大学教育研究. 1, p. 67-69
2005-07
http://doi.org/10.14945/00008245
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『大 学授 業研 究 の 構 想
過 去 か ら未来 へ 』
一 京都 大 学 高等教 育教 授 シス テ ム 開発 セ ンタ ー編一
三浦
真琴
発行 されてか ら4年 以 上が経過 しているが、今
のわずか 27%に すぎない。この「取 り組み」の広
こそ、 この書物 を真剣 に読 む、あるい は読み直す
が りと「効果的な活動」の希薄 さとのギ ャップは、
必要 を感 じている。 いや、■ 体、 この書物が どれ
さしたる実態を伴わない 「表向きの努力」の存在
だ け多 くの大学人 に読 まれて いるのだろ うか と心
を物語って いるとい うよりは、大学人の悩みや迷
配 にもなる。
い、焦 りを表 していると捉えたほうがよい。
14年 前 には授業評価 を実施 している大学 は全
このようなある種 の需がかかったような改革 ブ
FD活
ームの中で、授業改善 のための試みが 「教員相互
体 の 7.25%に 過 ぎなかった。 13年 前 には
動 を実施 して いる大学は 3割 にも満たなかった.
の授業参観」 の浸透 に併せるかのように静かに広
しか し、今や全大学 の 8割 以 上が 「学 生 による授
が りつつ ある。 もちろん、授業評価 の結果か ら改
業評価」 を実施 し、 同 じく全体 の 3分 の 2以 上の
善のヒン トを得ようとしている大学あるいは教員
大学 が FD活 動 に取 り組む時代である。 つ ま り、
は確実 に存在 していた し、他 の教員の授業 を参考
大学 の大半が組織 として授業 を意識 し、その改善
にしよ うとする動きも、もはやさほど珍 しいもの
を 目指す よ うになった。
ではな くな りつつある。また、大学 にお ける教育
「教員相互 の授業参観」 を実施す る大学が徐 々
実践報告・ 記録 も出版 されはじめてはいる。
に増 えているのも、 この延長線 上 にあると考 えて
「授業公開」という名の下 に他の教員
ところが、
よ いだろう。ちなみ に 「教員相互 の授業参観」 を
の授業を参観するだけで終わって しまうケースが
実施す る大学は、 10年 前 には僅 か に 21校 、全大
多 い。参観後 に意見が交換 されることがあるにせ
学 の 3.65%に 過 ぎなかったが、平成 14年 度 には
よ、参観 に先立って、その授業のどのような点 に
ほ ぼ 7倍 の 134校 へ と大 き く増加 し、FD活 動 を
留意すべ きかが示されるケースは稀有 と言 っても
実施 している大学 のお よそ 3割 を 占めるようにな
いいだろう。
っている。
大切な ことは、単 に他 の教員の授業を参観す る
とい う ことは、授 業評価 によって 自らの授業 の
だけでは、必ず しも自らの授業 を改善す るヒン ト
改善す べ き箇所 をある程度選定 し、その箇所 を上
が得 られるとは限 らない、と知る ことで ある。多
手 にク リア している他 の教員 の授業 を参観すれ ば
くの場合、学生 による評価 の高 い授業がモデルと
授業改善 のためのヒン トが得 られ る、 という流れ
して公開され、参観 の対象 となっているが、そ こ
ができつつ ある、 と考 えてよいとい う ことであろ
で有益な情報 として得 られると想定されているも
う。
のは、発声や板書、視線の配 り方 といった基本的
ところが授業評価 の結果 を授業改善 に役立てて
な ことが ら、導入の うまさ、挿話 の巧みさ、スム
い る、即 ち FD活 動 と直結 させている大学 は全体
ーズな展開、時間配分 の妙 といった手際のよさ、
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あるいは学生の関心 をひきつ ける話題 の豊富さ、
い う経緯 、歴 史 に対す る好奇心 である。
身近さなどの仕掛けあるいは創意工夫、場合 によ
前振 りが長 くなって しまったが、 ここに紹介す
つては、遅刻者や私語への対応 の様子等 々、授業
る書物 は、上に述 べ てきたように、 い まだ十分 で
者な ら大抵 の場合、自然 に目を向けるものである。
はな い授業観察 のための視点 をどのようにした ら
いや、そのような 「もので しかない」 と表現 した
育て る ことができるか 、 とい うテーマ に真正 面 か
ほうがよい。
ら取 り組んだ力作である。京都大学・ 神戸大学・
また、上に挙げた各要素 に対 して、素晴 らしい
大阪大学 に勤務す る大阪大学大学院出身者 がタ ッ
と感銘を受け、上出来だ との賛辞 を送 るにとどま
グをくんで取 り組んできた「授業研究」(神 戸 <大
って しまうことが多 い。つ まり、感銘 を受けた こ
学授業 >研 究会 )の 報告 である。
とによって、個 々の教員 に自分な りの創意工夫 を
この グルー プの研究 スタンスは 「は じめに」 で
してみようというドライブがかかる ことはあって
明示 されて い るが、以下 に引用 を交えなが ら、紹
も、具体的 にどのような工夫が、何故、効果的な
介者風 に説明 してお こう。
すなわち
『「一般的な授業法則 を実証的 に確 かめ
のかということを、深 く理解するには至 らな いこ
と、しばしば、なのである。
る」 ことは必要であるが、そ こで得 られ る知見 は
一般的な公開授業、授業参観に欠落 しているの
「あま りに単純化 され 」 て いて 「無力」であ る。
は、その時、参観 した授業 と同 じものはこの世 に
また多 くの実践報告 には 「自己満足」的な記述が
二つ と存在 しないということに対す る認識 と、授
見 られ るが、それは 「自己閉塞的な研究」 にほか
業を参観す る時 にどのようなことに留意 して観察
な らな い。 このよ うな認識 に立 って 「個 々の授業
すればよいのか という視点である。 これが欠けて
「一事例
に流れ る豊 かな文脈」を最大限 に重視 し、
いるために、参観者 の多 くは、漠然 と「あの教員
「一般理論 のさ ら
を対象 に研究 をお こないなが ら」
はいつ も、あのようなスタイルで授業をやって い
なる構 築 をめざそ う」 とす る』 スタンスな のであ
るのだろう」 という感想を持ち、あるいは話題 の
る。実 に地道で辛抱強 さを要す る作業 であるが、
豊富さを真似するべ く意欲的 に情報収集 をしてみ
これ までわが 国 の大学 に欠落 していた側面 を見事
ようと意気込んだ り、導入を上手に施せば、その
に言 い 当て、それ を克 服 しようとす る壮大 なプ ロ
後 の授業がスムーズに流れてい くと即断 して 「導
ジェ ク トである。
「ナマモ
入」案作成 に精を出 した りす る。つまり、
「大学授業研究 の
本書 は「大学授業研究 の過去」
ノ」である授業 を、 自分 に都合のよいよ うに、あ
「大学授業研究 の未来」の二 部構成 となって
現在」
るいは 自分 にとって理解可能であるように、断片
いる。
第 一 部 には、 これ まで 「教育 と研究 の対立」図
的 に捉えて しまうという危険が常について回るの
式 で捉 え られて いた ことを「教育 の論理 vs学 問 の
である。
ここに決定的 に欠けているのは、例えば、その
論理」とい うター ムを使 って、
見事 に描 きなお し、
教員が、何故、どのタイミングで、何 の話を導入
さらに「学校化 vs脱 学校化」というアイデ アも盛
な り話題転換 のために用 いたのかとい う蓋然性に
り込んだ刺激的な論文が収め られて いる。全 6編
対す る眼差 しと、それな りに定着 した と思われる
の論文 は いずれ劣 らぬ労作 であるが、紹介者 とし
スタイルが、どのよ うに編み出されてきたのかと
ては、第 2章 か ら第 4章 まで の三 本 だけで もお読
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みいただき、授業参観 の心得を身 につ けてほしい
と願 う。なお、第二部 (第 六章)は 「総括」 とな
って いるが、この後 に各章の執筆者か ら第六章ヘ
のコメン トがつ けられている。斬新なアイデアで
あると感嘆す ると同時 に、教員間の 自由な意見交
換 の一つの形 をみたように思 う。
文献紹介 と称 しなが ら、内容についてはあまり
触れなかった。それは下手な紹介で読む気 を削 い
で しまうことを懸念 したか らである。関西は一歩
も二歩も進んで いる。中部 も遅れまじと地道な試
みを重ねていく必要がある。
はじめに
第 1部
大学授業研究 の過去
第 1章
大学の授業 とは何か一改善の系譜―
第 2部
大学授業研究 の現在
第 2章
学生の理解 の枠組み をふまえた授業展開
一教授技術論 をの り越えるための視点
第 3章
授業者 はどのようにス トレッサー に対処
して い るのか― 大学授業 にお け る教
授者 のス トレス過程 と自己成長一
第 4章
「考える」力の育成 をめざした授業 の構
造
第 5章
大学教育への映像メディアの活用一そ の
実践 と研究一
第 3部
大学授業研究 の未来
第 6章
<総 括>大 学授業研究か ら大学教育学ヘ
各執筆者か ら第 6章 へのコメン ト
陳 信堂
2002年 3月 2400円
(税 別 )]
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