アミオダロン長期投与中の心室頻拍の増悪に

NP
Pr
og.Med.
2
0(s
.
1):5
66∼57
0,
200
0
uppl
一般セッション
25
アミオダロン長期投与中の心室頻拍の増悪に
甲状腺機能亢進の関与が えられた 1例
鷲塚
隆
池主 雅臣
畑田 勝治
笠井 英裕
田川
実
古嶋 博司
小川
理
種田 宏治
阿部
晃
大平 晃司
中川
理
相澤 義房
はじめに
Ⅲ群抗不整脈薬の 1つであるアミオダロンは,本邦
では致死性心室性不整脈症例に対して広く用いられて
いる.しかし,アミオダロン自体ヨードを 3
7
%と高
濃度に含有しており,心外性副作用の 1つとして甲状
腺機能異常が挙げられる
.甲状腺機能亢進症の場
合,不整脈の増悪を生ずる可能性があるが,そのほと
んどは上室性で,心室性不整脈での報告は稀である.
今回われわれは,心室性不整脈の増悪にアミオダロ
図 1 入院時心電図
ン誘発性の甲状腺機能亢進症が関与した症例を経験し
たので,その機序に関して若干の 察を加えて報告す
る.
認められていたが,1
99
8年 1
0月に入り I
CD作動が
頻回となり,当科に緊急入院となった.
症例提示
症
入院時心電図では,心拍数毎
例:7
7歳,男性.
9
8の洞調律で,完
全右脚ブロックを示し,Ⅱ,Ⅲ, V 誘導に Q波を
既往歴:糖尿病,脳梗塞.
認め,修正 QT 時間は 52
0ms
e
cと
現病歴:7
4歳時,特発性左室瘤を基礎心疾患とす
前回退院時と心電図所見はほぼ不変であった.しか
る心拍数毎
20
0の心室頻拍(
VT)を発症し,当科入
院となった.心臓電気生理学的検査では 4種類の VT
が誘発され,カテーテル焼
長していたが,
図1
し,洞周期の明らかな短縮が認められた(
)
.
表 1に入院時検査所見を示す.身体所見では明らか
術およびⅢ群薬を含めた
な心不全兆候はなく,肺野にはラ音を認めなかった.
各種抗不整脈薬に難治性であり,植込み型除細動器
腎機能や肝機能には特に異常を認めず,甲状腺機能で
(
の適応と
I
CD)
T および f
T の上昇,TSH の著明な低下を認めた.
えられた.75歳時に I
CD(メドトロ
ニック社製,Mi
植込みを施行した.
c
r
oJ
e
welⅡ)
また,コレステロール値も低下しており,臨床的に
また,臨床的には発作頻度を減少させたアミオダロ
は甲状腺機能亢進症が えられた.甲状腺の各種自己
ン(1
0
0mg)
を併用し,外来経過観察となった.その
抗体は陰性で,タリウム甲状 腺 シ ン チ グ ラ ム で は
後は半年に 1回程度 VT 発作が出現し,I
CD作動が
dius
emi
l
dgoi
t
e
rを認め,ガリウムシンチグラムで
も限局性の異常集積は認めなかった.甲状腺エコーで
T.Was
hi
z
uka,M.Chi
nus
hi
,K.Hat
ada,H.Kas
ai
,M.
Tagawa,H.Fur
us
hi
ma,S.Ogawa,H.Taneda,A.Abe,K.
Ohhi
r
a,O.Nakagawa,Y.Ai
zawa:新潟大学医学部第一内科
もアデノーマを認めるのみで,以上の結果より甲状腺
機能亢進症の原因がアミオダロンによるものと えら
―1
3
65
(6
6
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
表 1 入院時検査所見
WBC
RBC
Hb
8,
00
0
44
1×1
0
14
.3g/dL
Ht
Pl
t
42
.6%
22
.8
×10
6.
9g/gL
Tp
9g/dL
Al
b 3.
2mg/
BUN 2
dL
3mg/
Cr
e 1.
dL
Na
K
Ca
Mg
13
7mEq/
L
4.
0mEq/
L
8.
6mg/
dL
1.
8mg/
dL
T
T
f
T
0
.
9ng/
mL
1
3
.
5μg/
dL
2
.
1pg/
mL
TSH レセプター抗体
サイロイド t
e
s
t
マイクロゾーム t
e
s
t
2
.
8ng/
f
T
dL
抗サイログロブリン
.
1μI
TSH <0
U/
mL
1
4
1
6pg/
r
T
,
mL
3I
GOT 2
U/
L
8I
GPT 1
U/
L
2
5I
LDH 4
U/
L
2
2I
ALP 2
U/
L
CK
TC
TG
6
4I
U/
L
1
4
6mg/
dL
7
7mg/
dL
(
−)
<1
0
0倍
<1
0
0倍
0
.
4μ/
mL
TL甲状腺シンチグラム
di
f
f
us
emi
l
dgoi
t
e
r
限局性の集積(
−)
甲状腺エコー
右薬および左葉にそれぞれ 4
∼5mm
の ade
nomaを認める
図 2 入院までの経過
れた.
後は VT 発作の出現は認められていない.
図 2に今回入院時までの経過を示す.当初,安静時
なお,退院前のソタロール内服下での心臓電気生理
心拍数および甲状腺機能とも大きな異常は認めなかっ
学的検査では,右室よりの 2連発の早期刺激で臨床的
たが,アミオダロン開始 2年後より,安静時心拍数の
に認められたものと同形の VT が誘発された.
上昇とともに f
T の上昇,TSH の低下を認め,VT
案
頻度の増加が認められた.
図 3に入院後の経過を示す.今回の経過よりは,ア
今回の甲状腺機能の亢進が VT の増悪に関与した
ミオダロンによる甲状腺機能亢進により VT が増悪
と
したものと
め心電図各種パラメーターの変化を比
えられ,入院後,安静およびβ遮断薬の
えられたが,その VT 増悪の機序を検討するた
検討した.
併用により VT 発作頻度の減少が認められ,約 3カ
前回退院時と今回入院時を比 すると,洞周期の明
月間経過をみたが,入院という安静状況のもとでも
らかな短縮は認めるものの,QT di
s
per
s
i
onがやや増
VT 発作が再発するため,アミオダロンを中止してソ
大している以外はほぼ不変であった.また,ソタロー
タロール(
)
に変
dl
s
ot
al
ol
表2
ル内服後には VT は著減していた(
)
.
した.アミオダロン中止
後,約 1カ月半で甲状腺機能はほぼ正常に戻り,その
次に,I
CD作動時のメモリー記録の所見から平
―1
3
75
(6
7
)―
.
20
.12
00
0
図 3 入院後経過
表 2 心電図所見の変化(
1
)
前回退院時
今回入院時
6
0mg
dl
s
ot
al
ol1
(
0
0mg) (
0
0mg)
変 後
AMD1
AMD1
QT
QTc
QTd
QTc
d
QRS
)
RR(
ms
ec
24hr
VPC数/
5
0
0
5
1
0
6
0
6
2
4
1
0
5
2
0
6
0
7
5
5
2
0
5
1
2
5
5
5
0
1
3
0
9
6
0
1
5
0
6
2
0
1
0
3
0
,
1
6
1
2
5
0
1
4
1
5
0
VT 周期を検討した.図 4は左から,退院してから甲
状腺機能が正常であったと
えられる期間の平
VT
周期,心拍数が増加してきて甲状腺機能亢進が疑われ
た時期の平
VT 周期,入院後に β遮断薬を併用し
たときの VT 周期を示す.甲状腺機能が亢進してき
たと思われる時期に,有意に VT 周期の短縮が認め
られたが,β遮断薬を投与することにより VT 周期は
やや
長する傾向が認められた.
また,以前はランプ刺激で停止していたが,今回入
院のエピソードの前後では,ランプ刺激によって VT
図 4 心電図所見の変化(
2
)
周期が短縮し,ac
c
el
er
at
i
onの所見が認められた.し
かし,これに関しては VT 周期が以前よりも短縮し
ているため,その影響も否定できない.
結
以上の所見から,今回の甲状腺機能亢進に伴う不整
脈増悪の機序として,伝導速度の亢進あるいは局所の
不応期の短縮が
えられた.
語
アミオダロン長期投与中の心室頻拍の増悪に甲状腺
機能亢進の関与が えられ,アミオダロンからソタロ
ールへの変 が有効であった 1例を報告した.甲状腺
機能亢進に伴う不整脈増悪の機序として,伝導速度の
―1
3
85
(6
8
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
亢進,局所の不応期の短縮が関与していた可能性があ
る.
献
1)Newman,C.M.
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i
c
e,A.
,Davi
e
s
,D.W.e
tal
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(6
9
)―
.
20
.12
00
0
質疑応答
座長/新
演者/鷲塚
博次(日本医科大学第一内科助教授)
隆(新潟大学医学部第一内科)
新(
座長) どうもありがとうございました.ただい
検討では予測できない場合もあり,それを 3
20mgま
まのご発表にご質問,コメントはありませんでしょう
で増量するかどうかというはっきりとした根拠はあり
か.確認ですが,ソタロールに変 されても誘発は可
ません.年齢,QT 時間の
能であり,自然発症のものはみられなかったというこ
の 長の程度を 慮して,現在のところは判定してい
とですね.
ます.
鷲塚(
演者) はい,そうです.
び具合,あるいは洞周期
新 この症例について私たちが一般的に知っている
佐藤(
東京女子医科大) アミオダロンで確かに甲状
ことは,甲状腺機能と上室性の不整脈,特に心房細動
腺ホルモンの T が上昇して TSH が抑制される状態
は甲状腺機能亢進には誘発されやすいことです.とこ
が 続 く の で す が,わ れ わ れ の 経 験 で は,せ い ぜ い
ろが,本例では甲状腺機能亢進とともに VT が誘発
2
∼3カ 月 が 多 い の で す.な ぜ か と 言 う と,di
s
-
されやすくなっています.
t
r
ac
t
i
veな機序によって起こっておりますので,この
これは,ベースには安静時の心拍数が増えているこ
症例の場合,アミオダロンをそのまま投与し続けてい
とも関係あるのかもしれませんが,ダイレクトに電気
ても同様な臨床経過をとったのではないかと思われま
生理学的に心室筋に対する甲状腺ホルモンの影響は,
す.
ご検討なさっておられますでしょうか.あるいは,文
鷲塚 先生の論文を何回か読ませていただいて,私
献的にありましたら教えてください.
たちも 3カ月,β遮断薬の併用で様子をみていたので
鷲塚 先生のおっしゃる通りで,私たちもいろいろ
すが,ずっと入院していたこともあり,また患者さん
文献を探したのですが,心房筋では明らかに APDを
が早期に退院を望まれたこともあり,いったん薬剤の
短縮するという報告はありますが,心室筋では一定の
変 も 慮してみようと え,今回はソタロールに変
見解は得られていませんでした.私たちも今回,VT
したところ臨床的に発作がなくなったということで
が増悪した機序に関してはいろいろ検討しましたが,
す.確かに先生の論文などを読ませていただくと,自
然経過で寛解する症例も多くありますので,そういっ
たことも えられると思います.
はっきりしたことはわかりません.
洞周期が短縮していたことは,その時点で APDは
短縮していますので,そのときの不応期は局所の不応
堀江(
京都大) アミオダロンを っていると,副作
期が短縮していたことが 1つ えられます.また,そ
用のために中止せざるを得なくなってしまう症例で,
のときの VT 周期が明らかに短縮していましたので,
ソタロールの導入を 1つ えるのですが,先生が選ば
甲状腺ホルホン自体 c
AMPの感受性を上げたり,β
れた用量の 1
60mg/日はどういう根拠で,その決定は
レセプターを増加させる作用もありますので,イソプ
どのようにされたのですか.
ロテレノールなど β刺激薬と同様なことが,この現
鷲塚
通常量が大体 1
6
0mgで 32
0mgまで
える
量なのですが,今回の症例は高齢であったため 16
0
mgとしました.また,QT
象で認められたのではないかと想像はしています.
新 どなたかコメントいただけますでしょうか.残
長の具合などもみてい
念ながらいないようですので,また勉強させていただ
るのですが,それだけではソタロールの効果は当科の
きたいと思います.どうもありがとうございました.
―1
4
05
(7
0
)―