KAMIYAMA Reports

2015年4月
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2015年の地政学リスクと資産運用
チーフ・ストラテジスト
神山 直樹
●地政学の観点から2015年のリスクシナリオを想定する
●ユーラシア・グループは、欧州の政情、ロシア、中国の経済減速などに注目
●経済のグローバル化と価値観のローカル化を包括して投資を考える必要がある
地政学の観点から見る運用リスクとは
リーマン・ショックで「リスク・オフ」の状態にあった日本の投資家は、しつこいデフレ環境の下、海外への投資機
会を探ってきた。特にオセアニアの豪州やニュージーランド、あるいは新興国のブラジルやトルコなど高金利国
の債券への投資が人気となった。そこに日銀の異次元緩和が始まり、日本の低金利が長期化すると予想され
るようになったことに加え、米国景気の回復や世界的なデフレ懸念の低下で「リスク・オン」が市場のセンチメン
トとなってきたことで、円安圧力の継続を期待して、日本の投資家はさらに海外資産に注目している。
海外資産の保有にあたり、地政学リスクがしばしば話題になっている。地政学とは地理学と政治学を包括する
分析で、第一次世界大戦後に知られるようになった。投資家はしばしば投資先の経済分析にエネルギーを注
ぐが、現実には資産価格は、投資先の地理的条件や社会の安定度、さらにその国をめぐる国際政治、大国の
政治判断などにも左右される。例えば、日本の市場も北朝鮮のミサイル実験などでボラティリティが増すことが
ある。テロ活動が原油価格を上昇させるならば、原油輸入国にネガティブ、輸出国にポジティブとなることもあ
る。しかし、産油国が増産を決めた途端、原油価格は低下するかもしれないし、原油価格上昇が短期的にあ
る地域の物価を引き上げると見られるならば、その地域の債券価格は下落するかもしれない。このように地政
学的な出来事は、しばしば投資家に経済の観点だけでは計測不可能な不確実性をもたらす。
地政学は、各国の金融政策や経済環境のみならず、国内政治や社会の安定度、さらには地理的条件と外交
政策、近隣国との軍事バランスと紛争の起こりやすさや影響度、宗教的・人種的ネットワークの考慮などを含
んでいる。さらに、20世紀までの地理的空間の考慮に加えて、21世紀の我々は宇宙空間やサイバー空間で
の地政学リスクをも考慮に入れなければならなくなっている。
弊社が3月19日付「楽読Vol. 938 政治面での懸念が高まったブラジル」で述べたように、このところの対米ド
ルでのブラジル・レアルの下落は、新政権の経済政策が正しそうでも、汚職疑惑による政治混乱や反政府デ
モの大規模化が不確実性をもたらしたことによる。金利水準は高く、通貨上昇の支援材料はあるが、緊縮財
政が社会に与える影響などを注視する必要がありそうだ。
一方、トルコ・リラについては、大統領による利下げ圧力が、中央銀行の独立性を疑わせることになったことか
ら、リラの調整圧力になっていると市場では見る向きが多い。原油安による経常赤字の縮小など経済ファンダ
メンタルズには改善の兆しもあるが、国内政治が金融市場に影響を与える地政学リスクの例と考えることがで
きそうだ。
■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
料ではありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。■投資信託は、値動きの
ある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むこと
があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
覧ください。
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ユーラシア・グループは、欧州の政情、ロシア、中国の経済減速な
どに注目
著名な政治学者であるイアン・ブレマー氏が率いるユーラシア・グループは、毎年世界の10大リスクを提示し
ている。2015年1月5日に発表した「2015年のトップ・リスク」(http://www.eurasiagroup.net/pages/toprisks-2015)は、欧州の政情、ロシア、中国経済の成長率低下の影響、さらにサウジアラビア対イラン、トルコな
どを今年注目すべきリスクとして列挙している。主なリスクを以下にまとめてみる。
欧州の政情とロシア:ギリシャ国内のみならずスペイン、フランス、さらにドイツや英国でも政治的にポピュリズム
(大衆主義)が高まっている。その上、EU加盟国でもリーダー国同士の協力は難しくなっており、対外的にはロ
シア危機が軍事的衝突にエスカレートする恐れが残る。欧州は「今年のトップ・リスクの筆頭」だとユーラシア・
グループは言う。また、同グループは、ロシアがウクライナから引き下がるわけにはいかないため、西側との対
立は深まると分析している。軍事的示威に加えサイバー戦の可能性もあるという。
中国の経済成長鈍化:同グループは習政権の安定を予想するが、中国経済の減速が貿易相手国のブラジ
ルやオーストラリアの経済停滞、ひいてはそれらの国の政権の弱体化につながることを懸念する。インドネシア
やタイも中国の需要低迷の悪影響がありうる。
サウジアラビアとイランの緊張が高まる恐れ:同グループはこの2国の関係が、今年の波乱となる恐れがあると
している。イエメン、イラク、シリアなどが2国の代理戦争の様相となる中で、両国の国内政治は王位継承や石
油価格下落で不透明さが残る。イランの核開発をめぐる交渉も国際的な緊張を高める恐れがある。
トルコ:中東情勢が不安定であるうえ、大統領の外交判断はうまくいっていないようだ。国内では国民の多様性
が分裂をもたらしかねず、政治の不確実性が高まる恐れがある。
経済のグローバル化と価値観のローカル化を包括して投資を考える
必要がある
先進国で高齢化が進み、国内市場の成熟が進む中で、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような経済
のグローバル化の進展が期待されている。これは、モノやカネのみならず、ヒト、アイデアなどの移動、資本主義
的な方法(例えば株式会社制度)、英語の利用などを世界に広げることになる。一方で、各地域社会では、地
理的な共同体、血縁、人的ネットワーク、国営企業への集中などを通じて、ローカルな価値観を守ろうとする
傾向もまた強まりやすい。ブレマー氏のいわゆるG0(G7などの主要先進国が世界をリードした時代からリー
ダー不在の時代へ)状態を背景に、共通の価値感を分け合うことは難しくなっている。このような状況下では、
移民への不寛容や民族・宗教対立の形をとって、地域社会も国際社会も不安定になりやすい。
それゆえ、国際分散投資にあたり、投資家は地政学リスクを考慮する必要がある。主要先進国を含め、地政
学リスクと経済成長・金融市場動向は、一体化の度合いを強めている。地政学の考慮は、原油や商品価格の
予想にとどまらず、金利・為替市場のセンチメントや資金需給の変化の想定にも含まれなければならない。経
済分析のみならず、国内外の政治的対立や融和、これまでのいきさつと今後の推移・予測を幅広く取り入れ、
投資対象国を精査・選別してモニターしていくことが、国際的な資産運用において重要性を増している。
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■当資料は、日興アセットマネジメントが投資環境などについてお伝えすることなどを目的として作成した資料であり、特定ファンドの勧誘資
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があります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご
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