前号作品短評B 〈慈子〉 ●四つ足のものの姿態にかがむ猫みちの続きのわれもかがんで 小野澤繁雄 猫は四つ足だから、四本の脚を折り曲げるのは当然のこと。野良猫だろうか。かがんでいる、あ るいは、かがもうとした瞬間を見て「われ」も同じようにしてみたらしい。関節の違いが気になっ たのかどうかはわからない。周りに人がいないのだろう。自分の奇妙な行動を楽しんでいる。ここ ろを自由にさせながら、一時、猫と作者の時間を味わっている。 青の間を鳴りいる音か交差点をひとり渡ればひとりのさびしさ 横断歩道を渡るときの機械音が、一人を意識させる音となって響く。実感がある。 きて入りたる六階の部屋の西窓広く明るい 河村郁子 つ ● 看 護 師 に 従 作者は病気がわかって入院したと聞く。病室の窓が広くて明るいことで、なにか希望を感じさせ る場面だ。病名を告げられたとき、手術するか否か、いよいよ入院となったとき等々、ひとは最終 的に一人で考え、耐えねばならない。どうのように振る舞うかは、その人次第。 夕刻の街の営み見つめゐる 車が走り信号に停まる 車と信号を描写することによっ 自分の不安は他人にはわからない。(病室のある高さから見える) て、生きているという偶然がリアルに浮かび上がった。 あをばと 鳩の声山賊をおどろかす 新野祐子 ● 緑 「オーアーオー」などと アオバトは、インターネットで画像を見てみると、オリーブ色の鳩だ。 遠くまでとおる独特の声で鳴き、尺八の音のように哀調をもつとのこと。 「山賊」は、山に入って いる 自 分 た ち を コ ミ カ ル に 表 現 し た 。 エコーよき「想像ラジオ」星月夜 『想像ラジオ』は三・一一を題材にした、いとうせいこうの小説。 「想像」という電波を使って、想 像力の中だけで聞こえるラジオ番組とのことだ。読んだ者にだけエコーは聞こえるのか、おのおの で読 ん で み る し か な い 。 ●ことし最後と聞きて見てをりマンションの肩を離れしスーパームーン 丸山弘子 二〇一四年九月九日の月は、昨年最後のスーパームーンだった。スーパームーンとは、月が地球 に接近して普段より明るく大きく見える満月または新月のこと。その日は天気がよく、各地で見ら れたのではなかったか。景が大きく「マンションの肩を離れし」の描写がうまい。前半の音数を整 えれ ば 、 も っ と よ く な る は ず だ 。 ほろほろと散る白花のさるすべり飼ひ猫しろが身に浴びてゐる 「ほろほろと散る」「さるすべり」「しろ」のラ行音がリズムを生み、心地よい歌である。 38 展景 No. 77 展景 No. 77 39
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