海 外 で 得 た 収 益 を 日 本 に 還 流;pdf

【全面広告】日本経済新聞(夕刊)2015 年 3 月 26 日(木曜日)掲載
開会挨拶
従来とは異なる円安下の経済
一橋大学大学院商学研究科
教授、RIETIフェロー
小川 英治 氏
期 待 さ れ て い た が、実際は輸出
の 伸 び は 鈍 い ま まで、経常収支
は む し ろ 悪 化 す る 局 面 も あ る。
こ の よ う な 従 来 の予想と異なる
講演 1
日本の輸出と経常収支の動向の概観
一橋大学経済研究所教授、
RIETIフェロー
祝迫 得夫 氏
的に見た場合、むしろ
世界景気の低迷による
外需停滞の影響の方が
講演 2
円安・貿易赤字と日本の輸出競争力
学習院大学経済学部教授
清水 順子 氏
られたが、2000年
代以降は為替相場と貿
関連性は見られない。
講演 3
なぜ 日 本の 輸 出は 伸びないのか? 持しながら、円安下で
佐藤 清隆 氏
横浜国立大学大学院
国際社会科学研究院教授
日本の輸出企業の価格設定行動から見て
効 果 的 な 政 策 は 何 か。 化するものの、時間の経過とと
ず、むしろ一定に保つ
ことで大幅な為替差益
アベノミクスで円安が実現し
たにもかかわらず、貿易赤字が
こうした中、経常収
支を改善する上でより
も輸出価格を引き下げ
講演 4
貿易収支・経常収支の動向について
レベルの技術開発やそのための
見られる。日本としても、高い
をめぐる競争にも新たな変化が
むなど、製造業のあり方、立地
は円とアジア通貨の関係を安定
直面した中小企業もある。今後
ため、円安によってコスト高に
ジア通貨はヘッジ手段が少ない
に置くような政策が必要だ。ア
は大問題であり、R&Dを日本
的に見ると政府債務が増え、一
祝迫 財政健全化は王道では
あるが本当にできるのか。歴史
長戦略だろう。
ドを持ってもらうことこそが成
だ。国にエコノミスト的マイン
現場では実験ができないから
はない。
に赤字だから不安というわけで
性はある。黒字だから安心、逆
はいない。極端に言えば、黒字
資家も愛国心から国債を買って
ば貸してはくれない。国内の投
きない。国内でも信用をなくせ
くも今は景気の成長局面にある
アベノミクスで景気は全体と
して堅調で、エコノミストの多
立地競争力の向上が重要だ。
支 え る 日 本 の 事 業 環 境 の 改 善、
ためにも、その活動を
めにも、
「世界で稼ぐ」
実。
「輸出で稼ぐ」た
ヒントがあるのも事
に、国の成長を考える
での「稼ぎ方」の変化
だが、グローバル経済
経常収支と国の成長
力は分けて考えるべき
化がみられる。
あるなど、構造的な変
増加で黒字拡大傾向に
と直接投資の受け取り
次所得収支も証券投資
の赤字は縮小し、第一
にあるがサービス収支
清水 幹治 氏
経済産業省通商政策局
企画調査室長
円安にもかかわらず輸出数量
が期待ほど伸びていない理由と
易収支の間に長期的な
を享受している。
当初、アベノミクスによる円
安では、貿易収支は一時的に悪
需の低迷、生産拠点の海外展開
字化は一直線には進行
ずっと大きいので、赤
の ほ か に、 多 く の 日 本 企 業 で、
人材育成を進め、生産拠点や研
定水準を超えるとかなりの確率
財政の持続可能性を回復するの
う。
であっても財政が破綻する可能
が一番望ましい。インフレの発
まず、円安は物価を引き上げ
るものの、成長力を高める効果
ている。こうした理由
小峰 隆夫 氏
法政大学大学院
政策創造研究科教授
という考えを示している。
だが、
間から借金をしている状態にあ
効果を相殺してしまうデメリッ
から、長期的な成長と
整合性があるのは、円
安よりもむしろ円高と
いえるのではないか。
経常収支に対する考
え方についても再考が
必 要 だ。 と い う の も、
経常収支の赤字そのも
のは、必ずしも悪とは
断 定 で き な い か ら だ。
「輸入こそが生活の豊
かさをもたらす」とい
う国民福祉向上の観点
からは、輸出だけでな
お問い合わせ先:一橋大学政策フォーラム http: www.hit-u.ac.jp/kenkyu/project/forum.html
日本の貿易依存度は大きく上
昇している。一方で、日本の輸
今後、原油・資源エ
ネルギー価格の下落で
依然として縮小しないのはなぜ
現象をどう理解すればよいの
貿易収支、経常収支が
しないだろう。
か。
もに改善していくという、いわ
経営活動の一環として海外移転
日本におけるマクロ政策論議
では、常に為替レートと輸出の
ゆる「Jカーブ効果」が期待さ
を進め、グローバルネットワー
経常収支の内訳をみると、貿
易赤字拡大で黒字幅は縮小傾向
究開発拠点としての優位性を確
させる為替政策が重要だ。
でデフォルト(債務不履行)が
円安効果については、もう少し
る。
トもある。さらに、すでに多く
いう議論があるが、貿易黒字だ
は少ない。原油安というプラス
えることで、消費税は増えなく
ただし、
民間も赤字になると、 生によって国債の実質価値が減
海 外 か ら 借 り な け れ ば な ら ず、 少することにより、貯蓄税が増
務の状況が関係する。対外債務
けではなく所得収支までとらえ
国民の福祉が損なわれない形で
た形で、経常収支全体で見た方
主催:一橋大学 共催:経済産業研究所(RIETI)
か。それは日本企業が効率的な
一方、円安による効
果だが、アベノミクス
クの中、適材適所で生産された
動向が国内景気に与える影響に
輸出・経常収支の動向と
日本経済の将来
しては、新興国を中心とする外
まず円安の下、原発停
価格の引き下げが売り上げ増に
により生産拠点の国内
製品や部品を輸入して販売・再
ついて大きな関心が寄せられて
止で増加した燃料輸入
つ な が ら な い と い っ た 理 由 で、
回帰が期待されるもの
おり、リーマン・ショック後の
改善する可能性はあ
価格を据え置く傾向にあること
の、これにはやはり円
輸出するようになっているから
背 景 に は 日 本 の産業構造の変 出の多くを、需要を先送りでき
化 が あ る こ と が 想 像 さ れ る が、 る耐久消費財や投資財が占めて
る。しかしこうした企
が挙げられる。ほかにも201
安状態が長期にわたっ
今 後 の 輸 出 や 経 常収支の動向を
れていた。だが、実際は貿易収
業行動からみて、輸出
4年通商白書では、電気機器な
て続くという見通しが
投資バランスの余剰は段々と減
し付けの原資となる民間の貯蓄
だ。
きた。従来は円高による不況が
支の赤字が解消しない状況が続
の伸び自体はあまり期
ど、中国、韓国に比べて輸出競
必要だろう。日本の経
の手段で、海外拠点の利益を日
指摘されてきたが、アベノミク
費の増大を是正するた
いている。
待できないということ
争力が相対的に低下している状
工業製品の輸出増は、同時に
海外拠点からの部品輸入も伴う
世界的な貿易の大収縮では他国
め、安価なエネルギー
になる。円安が継続す
況も指摘している。
ため、円安による貿易収支の改
性はあるが、それまでにはしば
含 め 、 日 本 と 世 界経済の関係に
源の開拓や新たなエネ
背景には、日本の輸出の構造
的変化がある。まず、価格競争
れば、日本企業の生産
常収支を考える上で、近年は為
る。一方、自動車関連など競争
らく時間がかかるだろう。
造 詣 の 深 い 5 人 の論者を迎えて
ルギー資源の開発が求
にさらされる汎用製品を生産し
拠点が国内に回帰してくる可能
替レートよりも世界景気の動向
本に還元する流れをつくること
力のある企業は国内の生産を維
講演 5
保することが必要だ。
小峰 企業の海外移転は為替
レートによって決めてはいな
財政健全化だが、大事なのは
どのようなプロセスで財政の持
アベノミクス下の為替と
国際収支を考える
清水順 企業がアジアへ移転
する理由は円相場の動きよりも
起こる。ただ、今の日本は政府
く輸入も両建てで増やしていく
い。海外拠点は人的資本の豊富
の日本企業は海外で生産し、海
姿勢が大切だ。
人件費の安さと豊富な労働力に
外で稼ぐビジネスモデルに転換
続 性 を 回 復 す る か だ。 歳 出 減、 詳細に評価する必要があるだろ
ても持続可能性を回復する可能
して輸出増大に直結しなくなっ
歳入増を実現し、我々の意思で
性もある。これは最悪のシナリ
債務が赤字でも経常収支は黒字
幹氏
順氏
オだが、財政健全化の一つとも
だ。つまり日本政府は国内の民
清水
清水
小峰 氏
いえる。大事なのは、なるべく
さや需要地と生産地が近いとい
高付加価値製品を提供
海外企業の誘致が重要
らないだろう。ただし日本の労
小川 氏
財政の健全化を図ることだ。
が膨らめば格付けが下がり、金
経常収支全体で捉える
利は上がる。そういう点で問題
った利点があり、円安による日
小川 赤字=借金が対国内な
そ う な る と 金 利 が 跳 ね 上 が る。 のか対海外なのかという議論は
業の誘致を重視すべきだ。
20
スが始まってからは、1㌦=
の動きも鈍い。この状況をどう理解すればよいのか。第一線の研究者が3月上旬、東京・一ツ橋の一橋講堂で、
円台から120円台へと大幅に
められる。日本国内の
ている企業の多くは、すでに生
少していくので、経常収支の黒
善が起こりにくい。過去には円
が必要だろう。
に比べ打撃が大きかった。
研究開発促進、税制上
産拠点を海外にシフトしてい
字幅の減少、赤字化は避けられ
の方が影響が大きくなっている
高になると貿易収支の改善がみ
検 討 し て い き た い。
の障害を取り除くなど
ないだろう。企業の生産拠点の
という認識が欠かせない。
パネルディスカッション
〈出席者 〉(写真右から)
〈司 会〉
祝迫 得夫 氏
〈パネリスト〉
小峰 隆夫 氏
清水 順子 氏
佐藤 清隆 氏
清水 幹治 氏
小川 英治 氏
しい。今後は輸出数量、国内生
かっている。
ある。米アップルが横浜に進出
産、投資が増えるかどうかにか
清水幹 日本企業の今後の展
開を支えるためには国内の立地
すると決めたが、高齢者向けの
で、円安が日本回帰にはつなが
医療・福祉分野に期待
環境の向上が不可欠だ。輸出企
医療開発拠点を構築するのが目
働力と技術の質の高さは魅力が
財政はより健全な形に
業のみならず海外展開企業にと
っても、
高付加価値製品の生産・ 的だ。円安を生かすなら海外企
開発における日本の役割は重
祝迫 企業が潤っても雇用が
増えない今の状況は改善してい
国内資金の大規模な流出の可能
広 告
必要がある。
しっかりと日本に還流してくる
がよい。貿易収支の赤字を気に
年間程度
が発生するので、財政はより健
本回帰は期待薄だ。それよりも
性も出てくる。
意味がない。国内外どちらの投
要。海外での利潤が日本の投資
は経常収支の黒字を確保してお
くのか。円安が続けば日本企業
高齢化社会に対応した医療・介
しているが、海外で得た収益が
護関連企業の創意工夫が発揮さ
なくなってきている。銀行は経
佐藤 今、経常収支がかろう
じて黒字なのは、所得収支の大
全な形にしておくべきだ。
調査によると、以前は日系企
業の多くが海外では組み立てな
済合理性に合わせて行動してい
資家も同じ行動をしている。現
どの作業を手がけていたが、現
れ る 社 会 を つ く る 必 要 が あ る。 くことは重要なのではないか?
るにすぎない。ただ、財政赤字
に日本の銀行は長期国債を買わ
として還流し、さらなる海外で
日本は今、財政再建が不可能に
~
の展開を支える好循環を生み出
近いレベルに近づいている。
は国内回帰するのか。
鳥取県米子市の介護ロボットベ
よう、今後も経済環境を整える
在は研究開発(R&D)分野も
ンチャーは、介護事業に熱心な
祝迫 何か政策提言はある
か。
す必要があるだろう。
海外へ移転している。海外で得
佐藤 円ベースでの日本の輸
出企業の手取りは増えたが、日
た利益を海外で使うため、日本
今後の国内回帰に期待してい
るが、ドイツではインターネッ
本国内の雇用はまだ増加に向か
ってはいない。国内生産が増え
きさによるものだ。企業が海外
への還元が減りつつある。輸出
のときに発行する国債の格付け
トを活用して生産性向上を図る
デンマークで実証実験を行うと
るのが理想だが、輸出数量が伸
いう。日本は規制があり、介護
に展開して輸出量が伸びないと
量に加えて所得収支まで減るの
には、日本の経常収支や対外債
インダストリー4・0に取り組
輸出入の両方を増やす
小峰 政府は国内から借金し
ているからといって、安心はで
びていないため、しばらくは難
日本の立地競争力向上へ
佐藤 氏
ある。現地市場も伸びているの
海外で得た収益を日本に還流
貿易や経常収支の動向やデータをもとに活発に議論した。
円安が進んでいる。
アベノミクスで急速に進んだ円安。だが、輸出は期待したほど伸びず、海外にある企業の製造拠点の国内回帰
80
この結果、大きな経済効果が
世界景気の動向反映
海外移転の問題もあるが、短期
経 常 収 支 の 今 後 の 動 向 だ が、
長期的に見た場合、外国への貸
日本を研究開発拠点に
日本の輸出構造が変化
10
一橋大学政策フォーラム
2014年度 第3回