2015 年 2 月 No.83 薬剤部医薬品情報室発行 SGLT2 阻害薬(1) ~作用機序や特徴、適正使用について~ はじめに 厚生労働省による平成 24 年「国民健康・栄養調査」の結果によると、国内に糖尿病と強く疑われる人が約 950 万人おり、糖尿病の可能性を否定できない人約 1100 万人を含めると、2000 万人以上の患者さんがいると 考えられています。 日本で 2009 年に発売された DPP-4 阻害薬(くすりばこで 2013 年 8 月,9 月に特集)は、これまでになかっ た作用機序の経口血糖降下薬でしたが、2014 年 4 月に発売となった SGLT2 阻害薬もこれまでにない作用機 序の経口血糖降下薬になります。単剤では副作用の発生頻度が低く、他の薬剤との併用で効果の増強が見込め る薬剤ですが、その反面、SGLT2 阻害薬に特徴的な副作用が報告されています。 2015 年 2 月末現在、7 剤(成分 6 種)が発売されており、同年 5 月より順次投薬期間制限が解除され 15 日以 上の処方が可能となります。これを機に処方患者が増え、糖尿病専門医以外の医師の処方機会も増えることが 予想されます。今回は、SGLT2 阻害薬の基本的な部分を出来るだけ簡単にご紹介します。SGLT2 阻害薬を学 ぶきっかけにしていただければ幸いです。 SGLT2 阻害薬とは SGLT2 阻害薬とはなにかを知るには、まず SGLT2 について知る必要があります。 健常人では 1 日に約 180g のグルコースが腎臓 図 1 腎臓における SGLT1,2 の働き 糸球体でろ過され一度尿中に排泄されます。尿中 に排泄されたグルコースは、近位尿細管という部 位で SGLT を介してほぼ 100%再吸収(尿細管から 血液中に再度吸収)されるので、尿中にはグルコー スがほとんど排泄されません。SGLT とは、sodium glucose co-transporter の略で、 「ナトリウム・グ ルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一 種です。SGLT はいくつかのサブタイプの存在が 確認されており、その中でも SGLT2 が腎臓におけ るグルコースの再吸収に中心的な役割を果たしています。近位尿細管での再吸収率は、SGLT2 が 90%、SGLT1 が約 10%です(図 1)。 高血糖が続く糖尿病患者では健常人に比べて SGLT2 の発現が増加していることがわかっており、その結果 再吸収も亢進しています。さらに SGLT2 によるグルコース再吸収量には閾値(再吸収する限界量)があるた め、その閾値を超えると再吸収されず尿中へ排泄されます。このため、糖尿病患者では血糖値に加え、尿糖値 も高くなります。 SGLT2 阻害薬はその名の通り、SGLT2 の働きを阻む薬のことです。SGLT2 の働きを阻害することで、近 位尿細管でのグルコース再吸収が抑制され、グルコースが血中に戻らず尿中にそのまま排泄されるため、尿糖 値はさらに高くなりますが、血糖値が低下します。 SGLT2 阻害薬の特徴 効果に関しては、HbA1c 及び空腹時血糖値の改善効果に加え体重減少効果があります。スーグラ錠 50mg の第Ⅲ相単独療法試験(16 週間経口投与)を例に挙げますと、プラセボ群と比較して調整済み平均値として— 1.47kg,95%信頼区間[-2.098,-0.846](治療期最終時)であり、有意な低下(p<0.001)を示しました。また、長 期投与試験においては、52 週以上の体重減少効果の持続が確認されています(平均—3.52kg)。詳しくは PMDA ホームページの医療用医薬品の承認審査情報よりご確認ください。 安全性では、重症低血糖(特に他の糖尿病用薬との併用時)、ケトアシドーシス、脱水・脳梗塞等、皮膚症状、 尿路・性器感染症など SGLT2 阻害薬に特徴的で、かつ重篤な副作用の報告も含まれており、本年 1 月、発売 済みの SGLT2 阻害薬全ての添付文書の重篤な副作用に「脱水」に関する記載が追記されました(重要な基本的 注意などにも脱水対策等の追記あり)。 SGLT2 阻害薬の適正使用に関する Recommendation 2014 年 4 月に日本にて最初の SGLT2 阻害薬が発売されました。発売開始から 1 ヶ月間の副作用報告を受 け、重篤な副作用の懸念のうち、残念ながらいくつかが現実化したことを踏まえ、日本糖尿病学会ホームペー ジにて Recommendation が 2014 年 6 月に策定、公表され、その後同年 8 月に改訂されています。 以下、日本糖尿病学会ホームページ Recommendation より一部抜粋 Recommendation 1.インスリンや SU 薬等インスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの 用量を減じる(方法については下記参照)。インスリンとの併用は治験で安全性が検討されていないことか ら特に注意が必要である。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。 2.高齢者への投与は、慎重に適応を考えたうえで開始する。発売から3ヶ月間に 65 歳以上の患者に投与 する場合には、全例登録すること。 3.脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬との併用は推奨されない。 4.発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ) には必ず休薬する。 5.本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚 科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。 6.尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活 用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。 7.原則として、本剤は 2 剤程度までの併用が推奨される。 ・グリメピリド 2mg/日を超えて使用している患者は 2mg/日以下に減じる ・グリベンクラミド 1.25mg/日を超えて使用している患者は 1.25mg/日以下に減じる ・グリクラジド 40mg/日を超えて使用している患者は 40mg/日以下に減じる 重症低血糖、ケトアシドーシス、脱水・脳梗塞等、皮膚症状、尿路・性器感染症についてはさらに副作用の 事例と対策について記載されていますので、ぜひご参照ください。
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