2月全国消費者物価;pdf

経済分析レポート
2015 年 3 月 27 日
全7頁
Indicators Update
2 月全国消費者物価
値上げラッシュ下でも前年比ゼロまで低下
エコノミック・インテリジェンス・チーム
エコノミスト 長内 智
[要約]

2015 年 2 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比+2.0%と、市場
コンセンサスを小幅に下回った。消費税を除くベース(大和総研による試算値)でみる
と、食品を中心とする値上げが相次ぐ一方で、エネルギーと耐久消費財のマイナス寄与
が拡大したことで、前年比+0.0%と前月(同+0.2%)から上昇幅が縮小した。前年比
ゼロは 2013 年 5 月以来、21 ヶ月ぶりのことである。

2015 年 3 月の東京コア CPI(中旬速報値)は前年比+2.2%と、上昇幅は前月と同じで
あった。東京コア CPI の結果を踏まえると、3 月のコア CPI は前年比+2.0%(消費税
を除くベース、同+0.0%)となる見込みであるものの、後述するように、例年の季節
パターンを考慮すると前年比マイナスに転じる可能性もある。

先行きのコア CPI(消費税の影響を除くベース)は、昨年夏場以降の原油安に伴うエネ
ルギー価格の下押し圧力がしばらく残ることから、いったん前年比マイナスに転じる公
算が大きい。全国と東京のコア CPI の水準(原数値、消費税の影響を除くベース)に基
づくと、物価指数が例年の季節パターンに沿って推移する場合、全国は早ければ 3 月以
降、東京は 5 月前後に前年比マイナスへと転じる見込みである。
図表1:消費者物価指数の概況(前年比、%)
2014年
7月
全国コアCPI
(除く消費税の影響)
コンセンサス
DIR予想
2015年
8月
3.3
1.4
9月
3.1
1.1
3.0
1.0
10月
2.9
0.9
11月
2.7
0.7
12月
2.5
0.5
1月
2.2
0.2
2月
2.0
0.0
2.1
2.1
全国コアコアCPI
2.3
2.3
2.3
2.2
2.1
2.1
2.1
2.0
東京都区部コアCPI
2.7
2.7
2.6
2.6
2.4
2.3
2.2
2.2
コアコアCPI
2.1
2.1
2.0
2.1
1.8
1.8
1.7
1.7
(注1)コンセンサスはBloomberg。
(注2)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。
(注3)消費税の影響は大和総研による試算値。
(出所)総務省統計より大和総研作成
株式会社大和総研 丸の内オフィス
3月
2.2
1.7
〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
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2/7
全国コア CPI(除く消費税)は 21 ヶ月ぶりの前年比ゼロ
2015 年 2 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比+2.0%と、市場コンセ
ンサス(同+2.1%)を小幅に下回った。消費税を除くベース(大和総研による試算値、以下同
様)でみると、食品を中心とする値上げが相次ぐ一方で、エネルギーと耐久消費財のマイナス
寄与が拡大したことで、前年比+0.0%と前月(同+0.2%)から上昇幅が縮小した。前年比ゼ
ロは 2013 年 5 月以来、21 ヶ月ぶりのことである。季節調整値の推移をみると、コア CPI の水準
は弱い動きとなっているものの、コアコア CPI は概ね横ばいで推移していると評価できる。
図表2:全国コア CPI の内訳(消費税除く)
4
(前年比、%)
(前年比、%)
10
図表3:全国コア CPI の前年比と寄与度
4
(前年比、%、%pt)
8
3
6
2
3
4
1
2
0
0
-1
-2
2
1
-4
-2
-6
-3
0
-8
-10
-4
12
13
14
(年) 15
コアCPI
半耐久消費財
コア非耐久消費財
サービス
-1
12
13
14
消費税の影響
エネルギー
半耐久消費財
コアCPI
耐久消費財(右軸)
(年) 15
サービス
コアコア非耐久消費財
耐久消費財
(注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コア非耐久消費財は生鮮食品を除く非耐久消費財、コアコア非耐久
消費財は生鮮食品及びエネルギーを除く非耐久消費財。
(注2)消費税の影響は大和総研による試算値。
(出所)総務省統計より大和総研作成
図表4:全国 CPI の水準(季節調整値)
105
(2010年=100)
104
消費税の影響を除く
ベース(参考値)
103
102
コアCPI
101
100
99
98
97
コアコアCPI
96
1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1
2005
06
07
08
09
2010
11
12
13
14
15
(月/年)
(注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。
消費税は前年比に与える影響(日本銀行試算値)を基に調整。
(注2)シャドーは政府の「月例経済報告」において「デフレ」の文言があった時期。
(出所)総務省、内閣府資料、日銀資料より大和総研作成
3/7
2015 年 3 月の東京コア CPI(中旬速報値)は前年比+2.2%と、上昇幅は前月(同+2.2%)
と同じであった。財・サービス別にみても大きな変化はなく、品目別には「ガソリン」のマイ
ナス寄与がいったん縮小したことが注目点である。東京コア CPI の結果を踏まえると、3 月のコ
ア CPI は前年比+2.0%(消費税を除くベース、同+0.0%)となる見込みであるものの、後述
するように、例年の季節パターンを考慮すると前年比マイナスに転じる可能性もある。
2 月コア CPI(消費税の影響を除くベース)を財・サービス別にみると、耐久消費財(1 月:
前年比▲1.3%→2 月:同▲2.2%)は、4 ヶ月連続のマイナスとなった。この主因は、「ルーム
エアコン」、
「テレビ」、
「電気冷蔵庫」のマイナス幅が拡大したことである。
「電気冷蔵庫」以外
については、前月よりも価格が上昇したものの、昨年の同時期に消費税増税前の駆け込み需要
などによって価格が高めの伸びとなっていたため、その裏の影響が出ていると考えられる。
「電
気冷蔵庫」については、昨年の裏の影響に加え、値下げもマイナスに作用した。半耐久消費財
(1 月:前年比+1.1%→2 月:同+1.2%)は、前月からプラス幅が小幅に拡大したものの、品
目別には目立った動きは見られない。コア非耐久消費財(除く生鮮食品)
(1 月:前年比▲0.1%
→2 月:同▲0.6%)は、2 ヶ月連続のマイナスとなり、マイナス幅も拡大した。原油価格低迷
の影響で、
「ガソリン」と「灯油」による下押し圧力が続き、全体を押し下げた。ただし、前月
のレポートで指摘したように、店頭のガソリン価格が 2 月中旬になって底打ちの動きを見せた
ことから、「ガソリン」のマイナス寄与の拡大ペースは鈍化した。他方、「電気代」は、燃料費
調整制度に伴う値上げによってプラス寄与が小幅に拡大した。サービス(1 月:前年比+0.5%
→2 月:同+0.5%)は、前月と同じとなった。
全国コア CPI(除く消費税)は早ければ 3 月以降に前年比マイナスへと転じる可能性
先行きのコア CPI(消費税の影響を除くベース)は、昨年夏場以降の原油安に伴うエネルギー
価格の下押し圧力がしばらく残ることから、いったん前年比マイナスに転じる公算が大きい。
日本銀行の 2014 年 10 月末の追加金融緩和に伴う円安進行などを背景に、食料品などの値上げ
が想定以上に増えており、こうした動きが引き続き消費者物価の押し上げに寄与すると想定さ
れるものの、
「ガソリン」を中心とするエネルギー価格のマイナス寄与がそれを上回るためであ
る。原油の国際市況や為替レートなどの推移を踏まえると、3 月も燃料費調整制度による「電気
代」の値上げが行われる一方で、4 月は多くの電力会社が値下げに転じる予定である。関西電力
の電気料金の再値上げ(当初の値上げ幅は 10.23%、値上げ予定日は 2015 年 4 月 1 日)に関し
ては、値上げ幅が圧縮され、値上げ時期も 5 月以降にずれ込む情勢となっている。全国と東京
のコア CPI の水準(原数値、消費税の影響を除くベース)に基づくと、物価指数が例年の季節
パターンに沿って推移する場合、全国は早ければ 3 月以降、東京は 5 月前後に前年比マイナス
へと転じる見込みである。
このようなコア CPI の動向を踏まえると、当社のメインシナリオとして、日本銀行が目指す
インフレ目標の期限内(2015 年度を中心とする期間)での達成は極めて困難であると考えてい
る。日本銀行がインフレ目標の期限内の達成を順守しようとする場合、同行は 2015 年秋口をめ
4/7
どに追加金融緩和に踏み切るとみられるが、金融政策の波及ラグを考慮すると、追加緩和のタ
イミングが前倒しされる可能性もある。また最近、日本銀行の黒田総裁が、原油価格の動向次
第で目標の達成時期が多少前後するとの認識を示している点にも注意が必要だ。足下の原油価
格の低迷によって目標達成時期の後ずれが許容されることになれば、当然、追加緩和を早期に
実施する必要性が低下する。
図表5:東京のエネルギーの寄与(対コア)
0.8
(%pt)
図表6:コア CPI の水準(原数値)
102.0
(2010年=100)
2014年5月の水準
101.5
0.6
101.0
100.5
0.4
100.0
0.2
99.5
0.0
99.0
例年の季節
98.5
-0.2
パターン
2014年3月の水準
2014年4月の水準
98.0
-0.4
97.5
13
14
電気代
灯油
エネルギーの寄与度
(年) 15
13
ガス代
ガソリン
14
東京
15
全国
(年)
(注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合。
(注2)いずれも消費税の影響を除くベース、消費税の影響は大和総研による試算値。
(注3)右図の予測値は、今後の方向感を確認するために、例年の季節パターンで機械的に延長したもの
であり、幅を持ってみる必要がある。
(出所)総務省統計より大和総研作成
図表7:GDP ギャップと全国コア CPI
6
(%)
(前年比、%)
4
4
3
2
2
0
1
-2
0
-4
-1
-6
-2
-8
-3
-10
-4
85
90
95
00
GDPギャップ(2四半期先行)
05
10
全国コアCPI(右軸)
15
(年)
(注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、消費税の影響は日銀の試算値を用いて調整済み。
(注2)2015年1-3月以降のGDPギャップは大和総研予想。
(出所)総務省、内閣府統計、日銀資料より大和総研作成
5/7
他方、これまでのレポートで指摘してきたように、2015 年 1 月以降、食料品を中心に値上げ
が相次いでいることから、エネルギー価格を含まない内閣府試算の「特殊要因を除く CPI(生鮮
食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合)」は、コア CPI とは対照的に底堅く推移してい
る。政府が重視する「特殊要因を除く CPI」の推移を素直に評価すれば、3 月の月例経済報告で
消費者物価の基調判断が上方修正されるとみていたが、実際には「横ばいとなっている」と前
月から据え置かれた。最近の政府の基調判断では、「特殊要因を除く CPI」から除かれる石油製
品価格の下落も一定程度考慮されている公算が大きい。
図表8:値上げ動向
3月
4月
・アイスクリーム
・紅茶
・ウイスキー
・牛乳・ヨーグルト ・ドーナツ
・ティーバック
・家庭用ソース
・ケチャップ
・バター・チーズ
・小麦輸入価格
・オリーブ油
・トマトソース類
・食用油
・遊園地
・パスタソース
・コーヒー
・学校給食
(注)表の値上げ商品は、必ずしも消費者物価指数の調査対象銘柄(小売物価統計調査)とは限らない。
(出所)各種報道等より大和総研作成
6/7
財・サービス別にみたコアCPIの動き
全国コアCPIの財・サービス別寄与度分解
4.0
耐久消費財
(前年比、%、%pt)
0.4
3.5
0.3
3.0
0.2
2.5
0.1
(コアCPIへの寄与度、%pt)
0.0
2.0
-0.1
1.5
-0.2
1.0
-0.3
0.5
-0.4
0.0
-0.5
-0.5
-0.6
-1.0
12
13
耐久消費財
コアコア非耐久消費財
サービス
コアCPI
14
15
半耐久消費財
エネルギー
消費税の影響
-0.7
12
(年)
13
14
携帯電話
教養娯楽
冷暖房用器具
その他
15
家事用耐久財 (年)
消費税の影響
耐久消費財
(注)消費税の影響は大和総研による試算値、コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコア非耐久消費財は生鮮食品及びエネルギーを除く非耐久消費財。
(出所)総務省統計より大和総研作成
半耐久消費財
0.4
非耐久消費財(生鮮食品、エネルギーを除く)
(コアCPIへの寄与度、%pt)
1.2
(コアCPIへの寄与度、%pt)
1.0
0.3
0.8
0.2
0.6
0.4
0.1
0.2
0.0
0.0
-0.1
-0.2
12
13
14
15
家具・家事用品
被服及び履物
教養娯楽
自動車関連
身の回り品
その他
消費税の影響
半耐久消費財
12
(年)
13
14
15
食料
家事用消耗品
保健医療
教養娯楽
たばこ
その他
消費税の影響
非耐久消費財
(年)
(注)消費税の影響は大和総研による試算値。
(出所)総務省統計より大和総研作成
一般サービス
0.8
公共サービス
(コアCPIへの寄与度、%pt)
0.5
0.6
0.4
0.4
0.3
0.2
0.2
0.0
0.1
-0.2
0.0
(コアCPIへの寄与度、%pt)
-0.1
-0.4
12
13
外食
教育関連
その他
一般サービス
(注)消費税の影響は大和総研による試算値。
(出所)総務省統計より大和総研作成
14
家賃
通信・教養娯楽等
消費税の影響
15
(年)
12
13
家賃
医療・福祉関連
教育関連
消費税の影響
14
保険料等
運輸・通信関連
教養娯楽関連
公共サービス
15
(年)
7/7
他の関連指標の動向
輸入物価と企業向け価格
(前年比、%)
4
名目実効為替と原油価格
(前年比、%)
3
25
140
20
130
15
120
10
110
5
100
0
90
-5
80
-10
70
-15
60
-20
50
-25
15(年)
40
2
1
0
-1
-2
-3
-4
10
11
12
13
企業物価
14
(ドル/バレル)
(2010=100)
↑
円安
60
70
80
90
100
110
120
円高
↓
10
11
12
13
WTI原油先物価格
企業向けサービス価格
130
15 (年)
14
ドバイ原油スポット価格
名目実効為替(右軸、逆目盛)
輸入物価(円ベース、右軸)
(注)企業物価、企業向けサービス価格は消費税を除くベース。
(出所)日本銀行統計、Bloombergより大和総研作成
企業物価(最終財:うち耐久消費財)
25
企業物価(最終財:うち非耐久消費財)
(前年比、%)
(前年比、%)
20
20
15
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
-15
-15
10
11
12
耐久消費財
13
うち国内品
14
うち輸入品
10
15
11
12
非耐久消費財
(年)
13
14
うち国内品
15
うち輸入品
(年)
(注)企業物価は消費税を除くベース。
(出所)日本銀行統計より大和総研作成
家計の期待インフレ率(1年先)
6
ガソリン価格と灯油価格
(%)
175
(円/18リットル)
(円/リットル)
2,300
170
2,200
165
2,100
160
2,000
155
1,900
150
1,800
145
1,700
140
1,600
135
1,500
5
4
3
2
1
130
0
10
11
内閣府(旧)
12
13
内閣府(新)
14
日本銀行
15
(年)
12
13
レギュラー・ガソリン店頭価格
1,400
15 (年)
14
灯油店頭価格(右軸)
(注1)内閣府の期待インフレ率は消費税の影響を含む、日本銀行は含まない。
(注2)内閣府と日本銀行の期待インフレ率のいずれにおいても上方バイアスがあるため、方向や相対的な水準で評価する必要がある。
(出所)左図は内閣府、日本銀行、右図は資源エネルギー庁統計より大和総研作成