内海正人 ●主な著書 “結果を出している”上司が密かにやっていること (2012 年/KK ベストセラーズ) 管理職になる人がしっておくべきこと (2012 年/講談社+α文庫) 上司のやってはいけない! (2011 年/クロスメディア・パブリッシング) 今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方 (2010 年/クロスメディア・パブリッシング) 質 QUESTION 問 <京電工事件> 仙台地裁 平成 21 年 4 月 23 日 残業はタイムカードの時刻を基準にすべきか? 管理をタイムカードで行っていたのであるから、その タイムカードに打刻された時間は、仕事に当てられたも 基本的に弊社は就業時間内でこなせるだけの入庫台数 のと推定される。 なのだが、繁忙期で台数が多い時は事前に断った上で残 業をしてもらっている。当然、残業代はこういったケー しかし、実際には「タイムカードの時間 = 残業時 スに限って付けているのだが、ある社員から「タイムカ 間」ではありません。残業時間は「決められた労働時間 ードの記録から考えると残業代が少ない」と言われてし に処理しきれない仕事を行うため、残って働いた時間」 まった。残業時間=タイムカードの時間とすべきなのだ なのです。ですから、 「タイムカードの時間が本当に残業 ろうか? 時間といえるか?」という論点があるのも事実です。タ イムカードが客観的なデータとはいえ、 残業の 「質と量」 回 ANSWER 答 を上司が把握して、それに対する結果での判断を行って 残業に関するご質問は相変わらず多いですが、その中 いるので、残業命令とその結果が優先となるのです。 でも「タイムカードの時間が残業時間でしょうか?」と 最近、裁判や労働基準監督署の調査でも「残業代の請 いうものがよくあります。 求」の事案が増え、その処理にかなりの時間がかかって 確かに、過去の裁判例等を見ると「タイムカードの時 います。しかし、相変わらずタイムカードや IC カードで 間から残業時間を推測している」ケースが見受けられま の時間把握は、客観性が高く、他に管理手法を導入して す。実際に、裁判所や労働基準監督署の考え方は「特段 いなければ、その時間が勤務時間となっていることは間 の事情がない限り、事務所にいる時間は労働時間である 違いありません。ですから、タイムカードの時間ではな 「労働時間の管理にタイムカード等を使用している場合 く、実際の残業時間を主張するならば、残業の事前承認 は、 その記録が労働時間と推測される」 となっています。 制などにより、この時間を把握する必要があるのです。 以下の裁判ではタイムカードの時間で労働時間が推定さ 最近の裁判でこの考え方の参考になるものがあります。 れています。 <ヒロセ電機事件> <イーライフ事件> 東京地裁 平成 25 年 5 月 22 日 東京地裁 平成 25 年 2 月 28 日 ○同社に勤務していた元社員が残業代の支払いを求めて タイムカードの時刻が退勤時刻と推定され、社員の主 裁判を起こした 張は妥当とされた。 →タイムカードがあるにも関わらず、支払われた残業 代は「残業命令書」に基づくものであった →「残業命令書の残業時間 < タイムカードの残業 せいび界 MARCH 2015 vol.589 1 内海正人の労務相談室 時間」だった 間が大きくかい離しており、 その日についての追及が 【厳 →タイムカードの残業時間が「本当の労働時間」と主 しく】行われました。 張 ちなみに、 その時は社内で数人が宴会をしていたので、 ※ ○未払いの残業代と付加金 を請求 「タイムカードの打刻は遅くなったが、残業でない」と 証明でき、問題はありませんでした。 ※割増賃金を支払わなかったことへの会社に対する一種の制裁金 そして、裁判所は以下の判断を行ったのです。 特に、タイムカードの打刻時間と報告書の終了時間が ○就業規則上、 「残業は上司の命令による場合のみ」とな 30 分以上かい離しているときは注意です。そんな時は、 っている ○PC のログイン、ログアウトのサーバーの記録 ○上司の命令が無い残業は認められない ○警備会社に保存されている入退出記録 ○実際の運用として、 残業は本人の希望を踏まえ、 毎週、 等が調査される場合もあるのです。 具体的に残業命令書によって命じられている これらのデータにより、残業代が計算されると大変な ○実際に行われていた残業についても、 本人が 「実時間」 ことになるので、こうならないためにも、残業の内容を として記載し、翌日にそれを上司が確認 会社側が把握し、時間を管理する姿勢が大切なのです。 ○残業時間は、残業命令書で管理されていたので、会社 そのためには、就業規則に残業の事前承認制などを明 の主張を認める 記し、かつ、残業報告書などを作成することが大切なの この裁判でのポイントは、 です。 ○残業は本人の希望を踏まえ、毎週の残業命令書により これら 2 つの運用を適正に回していけば、タイムカー 命じられている ドの時間が残業時間と認定される可能性は低いでしょう。 ○実際の残業について、本人が実時間として記載し、そ れを上司が確認している ということです。 ただし、残業の事前承認制のような制度を導入してい ないとしても、タイムカードの時間が必ず採用される訳 でもありません。例えば、 ○終業時刻が全員同じ →例:午後5時に全員にタイムカードを打刻するよう に指示 →実際に、大手住宅メーカーで発生し、報道もされた ○1か月の残業時間の上限を設定 →これを超えたら、タイムカードを定時に打刻させる →全員の残業時間が同じという非現実的な結果となる というような場合は、意図的な操作がなされていると推 測されます。 そして、 さらに厳しい調査が入ってくるでしょう。 私 が経験した実例ですが、タイムカードと残業報告書の時 せいび界 MARCH 2015 vol.589 2
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