リサーチ TODAY 2015 年 3 月 24 日 今年の転換は、「ベアがブル」になったこと 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 2015年春季労使交渉では、昨年を上回るベースアップが実現する可能性が高い。先週半ばに春闘の 集中回答日を迎えたが、民間企業の賃上げ率は昨年の2.19%(ベア率0.39%1)を大きく超えそうな勢いだ。 3月20日に連合が発表した賃上げ率(第1回集計)は2.43%と、昨年(2.16%)から大幅に上昇している。春 闘のベア率改善が日本の企業行動が前向きに変わるサインと受け止められ、株式市場では堅調な状況が 続いている。まさに、「ベアがブル」(ベースアップが強気に受け止められる)になったかの状況だ。みずほ 総合研究所は、2015年度の賃金動向に関するリポートを発表している2。改善傾向にある賃金動向のなか で依然として残った問題は、中小企業の賃上げの遅れである。2014年に中小企業の賃上げ率が伸び悩ん だ要因に業績低迷があったが、2015年には増税後の落ち込みからの回復、原油安による収益改善が中小 企業の賃上げを後押しすると展望している。 下記の図表は春季賃上げ率の推移であるが、2014年の賃上げにおいて大企業と中小企業には大きな 差が生じた。今回のアベノミクスに伴う経済の底上げは、金融政策が主導した結果の円安に多くを依存し ているため、輸出を中心とした大企業にメリットが生じやすかった。一方で内需系の多い中小企業は、原材 料価格の上昇によるマイナスの影響を受けやすかった。 ■図表:春季賃上げ率 3.0 (%) 2.5 大企業 2.0 1.5 中小企業 1.0 0.5 0.0 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 (注)大企業:従業員数 1,000 人以上、中小企業:従業員数 100~299 人。 (資料)厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」よりみずほ総合研究所作成 1 2011 2013 (年) リサーチTODAY 2015 年 3 月 24 日 前ページの図表で確認できるような大企業と中小企業に差が生じた背景には、下記の図表にあるアンケ ート調査からもわかるように中小企業の業績低迷や、原油・原材料価格の高騰があった。しかし、2015年の 大きな環境変化は原油価格の下落に伴う原材料価格の下落である。確かに、2014年は円安が中小企業 の業績にマイナスの影響を与えたが、2015年は一転して原油安の影響が中小企業の業績改善要因になり やすい。昨今、労働需給がよりタイト化していることを踏まえれば、これまで賃上げに慎重であった中小企 業にも、着実な変化が生じるとみていいだろう。また、先行きの賃金動向を見通すには、パートタイム労働 者の比率にも注目すべきだ。日本では長年、相対的に賃金水準が低いパート労働者の増加が平均賃金を 押し下げる要因になっていたが、最近では人材確保の目的から非正規社員を正社員に転換する動きも 徐々に増えている。 ■図表:中小企業で賃上げを行わなかった理由 71.7% 業績の低迷 賃金より従業員の雇用維持を優先 33.1% 原油・原材料価格の高騰 33.0% 23.9% 消費税率引き上げ 17.8% 他社との競争激化 12.6% 取引先からの値下げ要求 7.7% 同業他社の賃金動向 6.6% 設備投資の増強 2.1% 開発・新事業展開 0% 20% 40% 60% 80% (注)調査対象となった企業の 9 割以上は資本金 3 億円以下、もしくは従業員 300 人以下。 (資料)経済産業省「中小企業の雇用状況に関する調査 集計結果の概要」よりみずほ総合研究所作成 前ページの図表に示すように、1990年代後半から企業の賃上げが停滞していたのは、日本経済のバラ ンスシート調整と円高が続くなか、企業が生き残りをかけたリストラの一環として人件費の圧縮と変動費化を 行ったことによる。そして、こうした長年の企業行動が積み重なってデフレマインドが定着した。しかし昨年 来、円高が円安に転換し、バランスシート調整にも目途がついたなか、次第に企業のリストラモードに変化 が生じてきた。ただし、20年近い期間に定着したリストラモードはそう簡単には変わらない。この変化が中小 企業にまで行き渡るには、改善した環境が一定期間続くことが不可欠であり、足元の環境は企業に行動変 化に向けた第一歩を踏み出させるに過ぎないだろう。政労使会議に対しては官製相場としての批判がある が、インフレへの対処とデフレへの対処には非対称性がある。デフレマインド(リストラマインド)転換は、官 製相場とされても、敢えてマインド転換を促すようなものがないとなかなか実現できないほど、難しいものだ。 株式市場の評価は、企業のマインドに変化が生じたことを前向きにとらえたものだ。 1 2 定期昇給率 1.8%と仮定 「2015 年度の実質賃金は 1.2%増」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 3 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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