世界のビジネス潮流を読む AREA REPORTS エリアリポート South Korea 韓 国 単身世帯が成長市場を生む ジェトロ海外調査部主査 百本 和弘 家計負債の増加などにより民間消費が伸び悩む一方 で、単身世帯向けの市場は成長が続く。少子化・晩婚 に、13 年の日本の合計特殊出生率は 1.43。平均初婚 年齢は男性 30.9 歳、女性 29.3 歳(13 年)である。 化の進展で単身世帯が急増しているためだ。マンショ このような変化もあって、世帯構成は大きく変化し ン(韓国ではアパートと呼ぶ)、小型家電などの販売 ている(図 1)。1980 年時点では世帯人員数 5 人以上 が好調なほか、ペット関連市場も堅調だ。韓国より先 の世帯が 397 万世帯と全世帯の半数を占めた。単身世 に小世帯化が進行した日本は単身世帯向けビジネスの 帯は 38 万世帯(4.8%)にすぎなかった。しかし 2010 経験が豊富である。日本企業は韓国の単身世帯向け市 年には単身世帯が 414 万世帯(23.9%)に増えた。今 場にチャンスを見いだせるのではないか。 後もこの傾向が続くとみられ、30 年には 709 万世帯 民間消費は伸び悩むが… (32.7%)になる見通しだ。 単身世帯とともに増えているのが 2 人世帯だ。世代 民間消費の停滞が長引き、2006 年以降、実質民間 構成は単身世帯は 20〜30 代前半が最も多く、2 人世 最終消費の伸び率は GDP のそれを下回っている。国 帯は 50〜60 代が最も多い。独立した若年層が晩婚化 民は所得が伸び悩む中で、さらなる消費の抑制を余儀 のために長期間単身で暮らす半面、子どもが独立し、 なくされている。消費抑制の最大の理由は家計負債の 夫婦のみが暮らす 2 人世帯が主体となったためだ。 増加だ。金利低下による住宅購入増や家賃保証金の高 騰により、銀行借り入れが増え、消費余力がなくなっ てきたのだ。消費の本格的な回復シナリオが描きにく い現状にある。 単身者向けマンションや家電に脚光 単身世帯の増加は新たな成長市場を生んでいる。ま ず挙げられるのは住宅市場だ。従来、韓国のマンショ 消費全体が伸び悩んでいるとはいえ、細かく見ると ンは 3〜5 人家族を想定したマンションが主流だった。 成長著しい分野もある。その一つが「シングル族」と しかし近年、各戸の専有面積が 60 平方メートル(㎡) 呼ばれる単身者向けの市場だ。 韓国では少子化や晩婚化の進展により、単身世帯が 急増している。13 年の合計特殊出生率は 1.187。12 年 図1 世帯人員数別世帯数の推移と将来推計 (1,000世帯) の統計では経済協力開発機構(OECD)諸国の中でポ 25,000 ルトガルに次ぐ低さだった。もはや、一人っ子が一般 20,000 的というわけだ。出生率の低下には若者の置かれてい 15,000 る環境や価値観の変化が影響している。大学卒業後の 人生設計として、結婚よりも就職を重視するのが最近 の傾向だ。また若者の就職難が深刻で、就職時の年齢 が上昇している。こうした理由から晩婚化が進展した。 平 均 初 婚 年 齢 は 男 性 32.2 歳、 女 性 29.6 歳(13 年) 。 30 代の独身者が珍しい存在ではなくなった。ちなみ 62 2015年4月号 1人 2人 3人 4人 5人以上 10,000 5,000 0 1980 85 90 95 2000 05 10 注1:2010年までは実績、2015年以降は推計 注2:2015年以降は外国人世帯などを含まない 資料:統計庁「人口住宅総調査」 「将来世帯推計」を基に作成 15 20 25 30(年) AREA REPORTS 以下のマンションの建設が増えている。例えばソウル 市では、09〜12 年にかけて 40㎡以下の単身者向けマ ンションの構成比が大幅に上昇した(図 2)。 建設会社各社は専有面積の小さなマンションの供給 に力を入れている。韓国のメディアは、各社の開発プ ロジェクトや購入競争率が 10 倍をはるかに超える事 例などを頻繁に報じている。 マンションだけではない。家電業界では小型の家電 が人気で、大手家電メーカー各社が小型家電製品を投 入している。LG 電子は 13 年 4 月に少量の洗濯物に 対応するミニドラム洗濯機「コマンス」を発売した。 大きさは幅 60cm、高さ 85cm、奥行き 36cm と省ス 図2 専用面積別住宅建設許認可戸数の構成比(ソウル市) (%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2007 135m2超 08 09 85∼135m2 10 60∼85m2 11 12 40∼60m2 13 (年) 40m2以下 出所:国土交通部「住宅建設実績統計」 ペースであることに加え、洗濯時間を短縮し節水や省 エネにつながることが売り。ミニドラム洗濯機に次い 急速に成長している」と述べている。農協経済研究所 で、ミニ冷蔵庫などその他の白物家電についても同じ では、ペット関連市場(ペットフード、ペット用品、 ブランド名で製品を出している。14 年 4 月にはミニ 動物病院、ペット保険など)は毎年 2 桁の割合で増加 家電 7 品目を「コマンス・コレクション」と銘打って しており、市場規模は 12 年の約 9,000 億ウォン(1 ウ パッケージとして売り出した。 「2 台目家電需要と単 ォン=約 0.1 円)から 20 年には 6 兆ウォンに大幅に 身世帯の増加に合わせた」と同社は販売の狙いを明ら 増加するとみている(13 年 4 月発表) 。ペット関連市 かにしている。LG 電子のみならず、サムスン電子や 場は量的に急成長すると同時に、質的には多様化・高 東部大宇電子も小型白物家電を市場に投入し、単身世 級化する見込みだ。ペットフードについては、従来は 帯の取り込みを図っている。 ドライタイプや缶詰が一般的だったが、最近は高級な ペット関連市場が拡大 ペット市場もまた、単身世帯の増加により市場拡大 機能性ペットフードや健康食品も登場している。ペッ ト用品についても、数十万ウォンもするベッドやベビ ーカーも市場に登場している。さらにペット関連サー に結びついた事例の一つである。孤独や寂しさを紛ら ビスでは、本格的なペット葬儀ビジネスも出てきた。 わすためペットを飼う人が増えている。もともと韓国 火葬から納骨まで厳粛な雰囲気の中で行われるという。 では伝統的に犬の人気が高い。農林水産検疫検査本部 10 年の日本の単身世帯比率は 32.4%だが、これは の推計によると、12 年時点で全世帯の 16%が犬を飼 30 年に韓国で予測される比率(32.7%)にほぼ等しい。 っている。猫は「不吉」や「泥棒猫」(韓国語で野良 つまり、この比率では日本は韓国より約 20 年先行し 猫の呼称)といった負のイメージが強く、人気が全く ているのであって、単身世帯ビジネスでは韓国の先を なかったが、近年変わりつつある。同本部は全世帯の 行く。日本人は一人でも飲食店で食事を取ることがあ 3.4%が猫を飼っていると推計。散歩の手間がかから る。一方、韓国ではもともと一人で食べる習慣がなく、 ず、日中家を空けておけることなどが人気の理由のよ 以前は一人で入れる店が少なかった。だが単身世帯の うだ。猫に限らず、最近では単身者でも飼いやすいイ 増加に伴い最近ではそうした店も増えてきた。日本は グアナ、ヘビ、カメなどへの需要が増えるなど、ペッ 「一人飯文化」が発達しているというイメージがある トの多様化が進みつつあるという。 からか、あえて日本語風の店名にする店もある。飲食 ペット関連市場も拡大基調にある。統計庁は 14 年 店に限らず、単身世帯ビジネスで先行する日本企業に 1 月に発表した新しい消費者トレンドに関する資料の とって、韓国の単身世帯向け市場にビジネスのチャン 中で、単身世帯数の増加傾向に触れた後、 「ペットと スが埋もれているかもしれない。 共に暮らす人口が 1,000 万人を超え、関連市場規模も 63 2015年4月号
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