豊かな自然環境を保全する根室自然環境保全区 ~2014 年の保全区における希少鳥類の調査結果から~ ■根室自然環境保全区における希少鳥類調査 牧の内保全区や槍昔保全区には、絶滅危惧Ⅱ類に指定されているタンチョウやオジロワシが毎 年繁殖しています。これら保全区で繁殖するタンチョウを守るため、日本野鳥の会と株式会社明 治は、2007 年に協定を結び、2つの保全区を野鳥保護区に設定しました。また、タンチョウや オジロワシだけでなく、保全区で生きる多様な動植物を守るため、共同で自然環境管理や動植物 の調査など、様々な保全活動を進めています。2014 年度には、①タンチョウおよびオジロワシ の繁殖確認調査と、②牧の内保全区におけるオジロワシの繁殖期行動圏調査を行いました。 図 1.野鳥保護区に設定した保全区の位置 図2.保全区の拡大図と風景。上が牧の内保全区、下が槍昔保全区 1 ①タンチョウやオジロワシの繁殖確認調査 牧の内保全区と槍昔保全区の周辺で繁殖するタンチョウやオジロワシには、保全区の中で営巣 して子育てをするものもいれば、保全区の周辺部で営巣し保全区を子育てに利用するものもいま す。そこで、毎年実施しているこの調査では、近隣で営巣するつがいも含めて繁殖状況を確認し ています。調査対象となるのは、牧の内保全区を利用するタンチョウとオジロワシの各2つがい、 槍昔保全区を利用するタンチョウ2つがいとオジロワシ1つがいです。 図3.タンチョウ(左)とオジロワシ(右) 2014 年には、牧の内保全区を利用するタンチョウが2つがいとも繁殖し、それぞれ1羽の幼 鳥を育てました。オジロワシについても、2つがいともに繁殖を成功させ、こちらも1羽ずつの 幼鳥が無事に巣立ちました。また、槍昔保全区を利用するオジロワシについては、保全区内で営 巣した1つがいから無事に1羽の幼鳥が巣立ちました。しかし、タンチョウについては、2つが いともに繁殖が成功せず、残念な結果となってしまいました。タンチョウやオジロワシは 20 年 以上生きる鳥類ですので、次回の繁殖に期待です。 図4.繁殖状況を観察する職員。左は牧の内保全区、右は槍昔保全区での様子。 2 ②牧の内保全区におけるオジロワシの繁殖期行動圏調査 オジロワシは、湿原や湖沼などの水辺と森林の境に生える 巨木の樹上に巣を構えて繁殖し、魚や水鳥、動物の死体など を食べて生活しています。そのため、彼らにとって巨木のあ る森林と餌資源の豊富な湿原などの水辺は重要です。牧の内 保全区は、標高 40m程の段丘上に広がる北側の草原部分と、 段丘下の沼との間に広がる湿原部分に分かれています。そし て、その間を繋ぐのが深い森林です。このような自然環境の 中、オジロワシはオンネ沼とタンネ沼の畔に約2㎞の間隔を あけて営巣しています。このような豊かな環境が残る牧の内 保全区だからこそ、2つがいものオジロワシが繁殖できるの 図5.樹上のオジロワシのつがい です。 図6.牧の内保全区の段丘下の湿原と沼 図7.牧の内保全区の段丘上の草原 また、彼らが繁殖する牧の内保全区は、市街地に隣接しており、自然観察会や環境学習の場と しても利用しやすい場所にあります。そのため、このような活動がオジロワシの繁殖に影響を与 えないように注意しなくてはなりません。そこで 2014 年には、繁殖期においてオジロワシの行 動する範囲を把握する調査を実施しました。 調査日を抱卵期の4月、育雛期の5月、巣立ち後の8月に設定し、保全区全体を見渡せる4ヶ 所に調査地点を設けました。調査地点では、午前7時から午後5時の間、調査員がオジロワシを 観察し、飛行しているルートや高さを記録します。同時に複数のオジロワシが飛ぶこともありま すので、複数人数で観察をしました。 図9.観察を行う調査員 図8.調査地点の位置 3 調査の結果、4月から8月までの間、2つがいのオジロワシは、保全区が面しているタンネ沼 とオンネ沼とその周辺湿原上空を隈なく利用していました。さらに、見晴らしの良い湿原に生え る木や、保全区内の森林の樹上などを休息の場として利用していることも分かりました。 図 10.オジロワシの飛翔軌跡(4月、5月、8月) 図 11.調査期間を通してオジロワシが止まった位置 図 12.オジロワシのよく止まる段丘斜面の森林(左)と、湿原に生える立木(右) また、保全区の段丘下となる湿原や森林部分、そして2つの沼はオジロワシが利用する重要な 区域であり、特に営巣木の近くは繁殖したオジロワシの重要な子育ての場になることが明らかに なりました。環境管理や環境学習などで利用する際には、段丘下の利用はオジロワシの生息を脅 かさないように十分に気をつける必要があります。 なお、2014 年の調査では、牧の内保全区のオジロワシに注目しましたが、同じ時期にタンチ ョウも繁殖を成功させています。タンチョウやオジロワシが繁殖するためには、湿原環境や森林 環境に加え、豊かな餌資源が必要です。調査を通して、この2種類が共に繁殖する牧の内保全区 は、非常に豊かな自然が残っていることが再確認できました。 4
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