アベノミクスから2年でも期待成長率が上がらない問題;pdf

リサーチ TODAY
2015 年 3 月 27 日
アベノミクスから2年でも期待成長率が上がらない問題
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今年3月3日に内閣府から発表された2014年度の「企業行動に関するアンケート調査」では、今後5年間
の企業の期待成長率(経済成長率の見通し)が、下記の図表にあるように名目ベースでは2%近くまで高ま
る一方、実質ベースでは1%台前半に止まる。企業の期待インフレ率は相応に高まったものの、実体経済
に対する先行き期待には、大きな変化が生じていないことが示された。アベノミクスによりこの2年で株式市
場は2倍以上になったものの、企業の投資行動に依然大きな変化が見られないのは、期待成長率が上昇
しない面も大きいだろう。みずほ総合研究所は『みずほ日本経済情報』で、この期待成長率をテーマとして
いる1。実質ベースでの期待成長率が足踏みしている背景には、生産性の改善が進んでいないなどの理由
から、潜在成長率の改善が小幅なものにとどまっていることがあると考えている。
■図表:日本企業の期待成長率推移
(年率、%)
5.0
名目ベース
実質ベース
4.0
3.0
2.0
1.0
(年度)
0.0
84
87
90
93
96
99
02
05
08
11
14
(注)経済成長率についての今後 5 年間の見通し。
(資料)内閣府「企業行動に関するアンケート調査」よりみずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所の試算では、次ページの図表にあるように、2014年度の潜在成長率は約0.7%と、ア
ベノミクス開始時点である2012年度の約0.6%からわずかな改善にとどまる見込である。ここで、潜在成長率
に対する労働投入・資本投入・生産性別の寄与度をみると、労働投入については、就業率が政府目標を
上回るペースで上昇することで、人口減少によるマイナスの影響を相殺している。他方、資本投入や生産
性の寄与度には明確な改善がみられていない。資本投入についてはアベノミクス開始後から更新投資が
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2015 年 3 月 27 日
増加するなどの改善の兆しはあるが、生産性については「第三の矢」である成長戦略の進捗が遅れている
こともあり、改善の目途がたっていない。
■図表:日本の潜在成長率推移
5
(%)
潜在資本投入
潜在労働投入
TFP
潜在成長率
4
3
2
1
0
(年度)
-1
90
92
94
96
98
2000
02
04
06
08
10
12
14
(注)みずほ総合研究所の推計値。
(資料)内閣府「国民経済計算」などよりみずほ総合研究所作成
今後は、生産性の向上をどう実現するかが、アベノミクスの成否と関連して問われる。報道によれば、政
府はサービス業の生産性向上に向けて、今夏に改訂予定の成長戦略でTFP(全要素生産性)を基にした
経営指標を主要業種ごとに設定する方針とされる。また、この経営指標を補助金の支給や税制優遇などの
際にも利用する方針とされる。こうした取り組みにより政府の限られた財源を効率的に配分して、生産性向
上のインセンティブを高め、潜在成長率の底上げに大きな効果をもたらすことが期待される。
アベノミクスの政策が始まって2年が経過した今日までに、「三本の矢」のうち、金融政策と財政政策の結
果、金融市場では株価が2倍以上、為替も50%以上の円安になるという転換が生じた。しかし、企業の期
待成長率は底上げされていない。まだ、企業は心の底からアベノミクスを信じてはいないのだろう。バブル
崩壊後の縮小均衡において生じた、企業金融の氷河期の下での企業のマインドは、依然として閉ざされた
ままにある。つまり、企業行動は未だ前向きに転じるまでに至らず、投資が抑制されたままで、リストラ圧力
が残存した状況にある。こうした状況のなか、企業が溜め込んだキャッシュをいかに投資に振り向けるか、
そして企業がバランスシート上で資産を圧縮し、レバレッジを低下させるという「持たない経営」からいかに
転換するかが、期待成長率の底上げを左右する。アベノミクスの3年目の課題は、真の成長戦略によって
期待成長率を底上げさせることだ。そのための具体的な施策が望まれる。昨年以降、コーポレートガバナン
スが重視される潮流になったが、今年は生産性向上に向けた取り組みに注目する段階だ。
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『みずほ日本経済情報』 (2015 年 3 月号 2015 年 3 月 11 日)
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