京都大学佐藤恵子先生パブリックコメント[PDF 160KB];pdf

医法研 被験者の健康被害補償に関するガイドライン(改訂案)に対するコメント
氏名:佐藤 恵子
所属:京都大学医学部附属病院 臨床研究総合センター EBM 推進部
コメント
「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」は、被験者に起きた健康被害をど
のように対処したらよいかを考える上で大変参考になり、感謝しております。
本ガイドラインは 11 年に制定後、新たに 21 年ガイドラインが発表され、昨年その
一部改訂されておりますが、基本的な考え方は一貫している必要がありますので、そ
れを提示するとともに、今回の改訂も含めて、初版から改訂版のそれぞれについて、
どこをどのように改訂したのかという変遷がわかるように、改訂点とその根拠のポイ
ントを巻末などに記録していただければと思います。
また、ガイドラインは、内容が適切であることはもちろんですが、それを担保する
ためにも、作成する過程(人選や元になる情報の適切さ、討議や意見集約の適切さ)
自体も適正である必要があります。したがって、策定・改訂の作業がどのような人が
関わり、どのような手続きで行われたかについても、提示していただければ幸いです。
Ⅰ 大きなコメント
1. 補償の範囲を「因果関係が否定できないもの」とする
「2.定義 2-3」に、健康被害の定義として、「被験者に生じた有害事象のうち治験
の実施と因果関係の認められるもの」という記述がありますが、範囲が狭いように思
います。
有害事象には、因果関係が「否定できるもの」と「否定できないもの」に分けられ、
「否定できないもの」の中に「因果関係が明らかに認められるもの」と「それ以外の
もの」が含まれます。補償の対象になるのは、「否定できないもの」全体と思われま
すので、定義としては、「因果関係が否定できないもの」としていただくのが妥当か
と思います。
2. 「因果関係が否定できないもの」が補償の対象になる理由を述べる
そして、何を補償の対象にするのかについて、理由と、さらにその根拠となる本質
的な考え方・方針を、「総則」の解説あたりに明記していただくとよいと思います。
治験に参加した被験者が健康被害を受けた際に救済な理由としては、以下のような
ものが考えられます。
①臨床試験は、新規薬剤にどのような副作用があるか、効果はどうかを調べるために
実施するものであり、未知の有害事象が出る可能性(リスク)があること
②被験者は、それを了解した上で、将来の患者のために貢献してくださること
③被験者が治験に参加することで受けた健康被害(参加しなければ受けなかったであ
ろうもの)については、本人の負担にするのは合理的ではなく、治験実施側が負担す
べき
したがって、補償の対象は、基本的には、治験に参加していなければ受けなかった
であろうものとしておき、因果関係の有無の判定などによって、補償の程度が変わる
とする、という形が妥当ではなかろうかと思います。
なお、現在の改訂案の規定(被験者に生じた有害事象のうち治験の実施と因果関係
の認められるもの)を変更しない場合でも、なぜそのような定義にしたかという根拠
の説明が必要と思います。
3. 因果関係の判定は治験依頼者のみでなく、第三者的立場の委員会などの関与が必
要ではないか
因果関係の判定は、治験依頼者が実施することになっていますが、現在の案ですと
「因果関係が強く疑われる証拠を出さず、因果関係なしとする」ということも可能に
なります。平成 21 年版の指針には「5-3 補償金は、因果関係の判定に必要な情報が
揃った後に改めて判定を行い、補償に関わる委員会等で補償の要否を検討する」とい
う文言がありますが、このような手順が必要と思います。
最近は、医療事故の調査委員会などにも外部の専門家を入れたり、会社法改正法案
でも社外取締役を入れていない場合はその理由を説明しなければならないなど、第三
者を参加させることが常識となりつつあり、被害者側の理解や納得を得るために重要
と思われます。
Ⅱ 小さなコメント
4.文言の修正:「同意説明文書」→「説明文書・同意書」
3-2 に「同意説明文書とともに・・」という文言がありますが、
「同意説明文書」は
「同意」が説明の前にきていて、適切ではないように思います。
「説明文書・同意書」
にしていただければと思います。
Ⅲ ガイドラインのありように関するコメント
5. 変更点の変遷がわかるように、まとめを付録としてつけてほしい
医法研のガイドラインは、改訂されておりますが、主な改訂点とその理由(なぜ文
章や文言が削除・変更されたか)がわかるように、巻末などにポイントを記載してい
ただければと思います。
6. 策定・改訂のプロセスがわかるように記載してほしい
冒頭にも述べましたが、ガイドラインが適正なものであるためには、策定・改訂作
業にしかるべき人(知識・技術をもつ内部・外部の専門家、当該問題に関係する人、
非専門家など)が関わること、正確で十分な情報に基づいて議論が行われること、適
切な課題設定とそれに対する意見の表出が十分に行われること、意見の集約を適切に
行うこと、などが求められます。これらを実施した上で、実際の作業がどのように行
われたかがわかるように提示していただければ幸いです。