中学校3年生 園城寺弁慶鐘から文化財保護を考える 奈良ESDコンソーシアム 1.教材開発対象について 修験道は役行者を開祖とし、吉野金峯山寺執行長の田中利典氏が「仏教を父に神道を母に生まれ た」とおっしゃるように、日本古来の神々も仏教由来の仏菩薩も分け隔てなく尊祟するだけでなく、 道教や陰陽道なども混淆して成立した日本独特の宗教である。この修験道を実践する者は修験者あ るいは山伏と呼ばれる。山岳を主な修行の場とし、験(げん:験力・げんりき=霊力)を求めて修 行することから修験者と呼ばれ、山に伏して修行することから山伏と呼ばれる。 修験道の基盤となっているのは神仏習合という概念である。神仏習合とは、日本の神々はインド の仏たちが、日本の実情に合わせて神々の姿をとって現われたという考え方である。つまり神も仏 も本質は同じであり、両者とも日本列島に住む人々を救済するために働いてくださる。神々を崇め ることも仏たちを崇めることも同じことである、という神と仏が融合しているという考え方である。 修験道には大きく分けて真言宗系の当山派と天台宗系の本山派の2つに分類される。当山派は金 峯山で山岳修行を行った理源大師聖宝に端を発し、醍醐寺三法院を中心に発展した。 一方、本山派は園城寺(三井寺)と聖護院門跡を中心に発展する。慈覚大師円仁の門下が支配す る山上の山門派と対立した智證大師円珍門下が 993 年に山を下って園城寺に入り、それ以来延暦寺 を山門派、園城寺を寺門派と称するようになる。円珍は 854 年に那智の滝で一千日の参籠修行を完 遂し、役行者の縁起相伝を受け、熊野から大峯の入峯を行った。このことから現在も行われている 園城寺の大峯奥駆修行では、熊野から大峯に向かういわゆる順峯となっている。平安時代後期には、 園城寺の増誉が 1090 年に白河上皇の熊野三山参詣の先達を務めたことから、その功績により聖護 院を賜った。 この当山派と本山派の両勢力によって発展した修験道であったが、1868 年の神仏分離令、1872 年の修験道禁止令という明治政府による弾圧を受け、山伏達は強制的に還俗させられたが、その後 復興し、現在に至っている。 園城寺金堂 2.教材開発の視点 園城寺三重塔 園城寺弁慶鐘 2.ESD教材化の視点ついて 園城寺のESD教材開発にあたり、子どもたちに学ばせたいことは、文化財の保護を通して平和 な社会を築く当事者意識を持つということである。 園城寺の宝物の一つに、弁慶鐘がある。寺伝によると、この鐘は園城寺初代の梵鐘で、奈良時代 の作とされている。承平年間(十世紀前半)に田原藤太秀郷が三上山のムカデ退治のお礼に 琵琶 湖の龍神より頂いた鐘を園城寺に寄進したと伝えられている。その後、園城寺と比叡山延暦寺との 争いで弁慶が奪って比叡山へ引き摺り上げて撞いてみると ”イノー・イノー” (関西弁で帰りたい) と響いたので、 弁慶は「そんなに園城寺に帰りたいのか!」と怒って鐘を谷底へ投げ捨て、鐘に 見られる傷痕や破目などは、その時のものとされている。「寺門伝記補録」に文永年間に、この鐘 が比叡山の衆徒に持ち去られたという記事があり、弁慶が実在の人物であったとしても、1189 年に 平泉で死去していることから、1264 年~1275 年という文永年間には生存しておらず、伝説が作ら れていったことは明らかである。 しかし、鐘に多くの傷跡が残り、また火に当たったと思われる跡もあることは事実である。寺院 の鐘の受難として有名なものに、第二次大戦中の金属の供出がある。鐘の上半分に螺髪が施されて いることからも明らかなように、本来、鐘は仏教の教えを広く告げることが目的である。それが兵 器の材料にもされていた。園城寺の鐘が兵火に焼かれ、戦いに翻弄された事実から第二次大戦中の 金属供出へと学びをつなげ、地域の寺院の鐘、墓地に残る兵隊の墓石等へと関心を拡大することで、 戦争や紛争の身近さを感じ、平和をつくっていくという当事者意識を養いたい。 3. ねらい 〇 寺院の鐘を通して、戦争・紛争の事実を知り、平和をつくっていこうという心情を育てる。 4.単元展開の概要(全 5 時間) 主な学習活動 指導上の留意点 備考 1 園城寺の弁慶鐘の写真から 〇弁慶鐘の写真とともに寺伝を紹介し、傷跡 弁慶鐘の写真 鐘に遺された傷跡を調べ、そ の原因を話し合わせる。 寺伝の資料 の原因を予想する。 2 戦争や紛争によって危機遺 ○危機遺産リストをもとに白地図にマッピ 危機遺産リスト 産リストに登録されている世 ングすることで、戦争・紛争地との関わりを 白地図 界遺産があることを知る。 理解させる。 3 第二次大戦時の日本で行わ ○ 戦争や紛争が外国のことだけでなく日 地域の寺院の鐘 れた金属供出を調べる。また 本の歴史的事実であることを調査を通じて を事前に調査す 兵隊の墓石を調べる。 実感させる。 る 4 戦争・紛争後に市民によっ ○ワルシャワ歴史地区やドゥブロヴニク旧 て 復 興 さ れ た 世 界 遺 産 を 知 市街の復興を紹介する。 る。 5 平和をつくることをテーマ 〇追加資料などを支援する。作成したレポー レポート用紙 としたレポートを作成する。 トはグループ内でコメントをつけ合うなど 大きめの付箋 して、共有する。
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