サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 Application Note EL14017 ICP発光分光分析装置による石炭および石炭灰の分析 キーワード 石炭、 石炭灰、 煙道灰、 フライアッシュ 目的 このアプリケーションノートでは、マイクロ波酸分解した石炭および石炭灰試料の ICP-OES による元素分析について説明します。 はじめに 再生可能エネルギーは近年、さまざまな改善が図られ使用量も増 加していますが、世界の電力の約40%は依然として石炭火力発電 所で発電されています。この数値がかなり高い国もあり、例えば インドでは約70%、 南アフリカ共和国では90%超となっています。 石炭燃焼では二酸化炭素などのガスとともに大量の灰ができま フライアッシュやボトムアッシュの化学組成にはかなりの幅があ す。排煙とともに舞い上がる微粒子灰をフライアッシュまたは煙 り、燃焼する石炭の産地と組成によって変わります。これらには微 道灰、舞い上がらない重い灰をボトムアッシュと呼び、これらをま 量からパーセントレベルまでの幅広い毒性物質が含まれる可能 とめて石炭灰と呼んでいます。従来、フライアッシュは大気中に放 性があります。環境保護または石炭灰使用製品の品質と安全の確 出されていましたが、毒性作用のある可能性が懸念され、現在で 保のためには、生成灰の再利用や処分の前に、その組成を正確に は一般的に、電気集塵装置などの微粒子捕集装置により煙道タ 分析する必要があります。 ワー部で回収されます。その後、灰は処分されるか、ポートランド セメントに再生されます。 2 装置とメソッドパラメーター 試料の調製 この 分 析には Thermo Scientific™ iCAP™ 7400 ICP-OES 二つの認証標準物質(CRM ) (瀝青炭とフライアッシュ、ともに米 Duoを使用しました。この装置は、RF 出力とネブライザーガス流 国標準技術局(NIST )より入手)を、次の方法で 3 連で調製しま 量を完全制御できると同時に、Duoプラズマ測光による軸方向と した。約 0.1 g の 固 体 試 料に 対し、20 % HCl 6 mL と 20 % 横方向の測光モードを備え、優れた検出限界が得られるととも HNO3 2 mL を加え、試料を分解しました。その後、マイクロ波分 に、高濃度を含む広い濃度範囲の分析が可能です。メソッドパラ 解システムを用いて 220 ºC になるまで 35 分間加熱しました。 メーターを表1に示します。 試料を放冷後、超純水で 25 mL に定容しました。 そして、 1000 mg/Lと10000 mg/Lの 単 元 素 標 準 溶 液(Fisher Scientific Chemicals )から検量線溶液を作成し、試料分解物と酸 表1:メソッドパラメーター パラメーター 設定 RF 出力 1350 W ネブライザーガス流量 0.5 L/min マトリックスをマッチングさせました(HCl 4.8%、 HNO3 1.6% )。 結果 測光時間 軸方向 横方向 低波長 15 秒 15 秒 高波長 5秒 5秒 ネブライザー Mira Mist スプレーチャンバー ガラスサイクロン センターチューブ 2 mm 認定値および標準値と比較した二つの CRM 試料の分析結果を 表3に示します。空の試料チューブを試料と同様の方法で処理し て、この操作ブランクを 10 回繰り返し分析しました。この 10 回 の繰り返し測定の標準偏差を 3 倍してメソッド検出限界(MDL ) を算出し、これを三つの試験試料で行って平均値を求めました(表 3)。表3から、分析結果は認定値の ±5%、標準値の ±15% 以内 であり、石炭および石炭灰試料の分析におけるこのメソッドの信 頼性が実証されました。 10 mg/L のイットリウム(内標準)を、オンライン内標準キットを 注 意しなければならないのは、こうした試料タイプ、特にフライ 使用して導入しました。これにより、試料導入量の変化と試料マト アッシュでは、一般的にケイ素がかなりの組成割合を占めるとい リックスによる感度のばらつきが補正されます。使用した内標準 うことです。ケイ素を分析する必要がある場合は、少量(0.5 mL ) 波長を表 2に示します。Thermo Scientific Qtegra™ ソフトウェ の HF を分解手順で添加する必要があり、この処理を行わない場 アの波長切り替え機能を多くの元素に使用し、複数波長による較 合、ケイ素の回収率が低くなります。 正を同一元素の異なる濃度範囲で実施できるようにしたため、装 置の測定範囲が広がりました。 表 2:使用したイットリウムの内標準波長 軸方向 横方向 低波長 224.306 nm 224.306 nm 高波長 371.030 nm 371.030 nm 存在するスペクトル干渉を確認するために、さまざまな単元素溶 液を調製して分析しました。また、存在する干渉の寄与度を測定 し、元 素 間 補 正(IEC )を 適 用しました。これにより、干 渉は Qtegra ソフトウェアにより試料ごとに自動補正されます。 3 表3:NIST 認証標準物質の分析結果 (A )= 軸方向測光、 (R )= 横方向測光。各元素の波長は感度順に示しています。 *= 非認定標準値、 元素 Al As B Ca Cd Cr Cu Fe Hg K Mg Mn Na Ni Pb Se Ti V Zn 波長(nm ) MDL (µg/L ) 167.079(A) 396.152(R) 0.01 237.312(R) 9.4 189.042(A) 249.773(A) 6 .9 249.678(R) 422.673(A) 0.001 184.006(R) 228.082(A) 0.42 214.438(R) 283.563(A) 4.7 267.716(R) 324.754(A) 3.4 224.70(R) 259.940(A) 0.003 239.562(R) 184.950(A) 0.42 194.227(A) 766.490 0.01 (A+R) 279.553(A) 0.00002 285.213(R) 257.610(A) 2.6 279.482(R) 588.995(A) 6.4 589.592(A) 231.604(A) 0.23 341.476(R) 220.353(A) 0.96 216.999(R) 2.0 196.090(A) 334.941(A) 3.8 338.376(R) 0.56 282.402(A) 202.548(A) 0.11 NIST 1632 d 認定 / 標準値 % 0.791 0.912* 86 .7 12.81 12.35 103 .7 mg/kg 6 .026 6.1* 98 .8 27.18 26 * 104.5 mg/kg 58 .93 62* 95.0 282.5 NA - % 0.133 0.144* 92.3 5.526 5.71 96 .8 mg/kg <0.1 0.08* - 0.655 0.7 * 93 .6 mg/kg 12.70 13.7* 92.7 69.49 67 * 103 .7 mg/kg 5.736 5.83 98.4 64.84 NA - % 0.779 0.749 104.1 3.442 3.57 96.4 mg/kg <0.1 0.0928 - <0.1 <0.003 * - % 0.106 0.1094 96.8 1.063 1.04 102.2 % 0.034 0.039* 89.6 1.561 1.53 102.0 mg/kg 13.97 13.1* 106.7 313.00 300 * 104.3 mg/kg 286.5 296.9 96.5 2312.3 2400 96.3 mg/kg 11.99 NA - 47.78 46 * 103.9 mg/kg 3.750 3.845 97.5 35.75 39 * 91.7 mg/kg 1.418 1.29* 110.0 0.732 0.8 * 91.5 mg/kg 487.7 477 102.3 4946 5200 95.1 mg/kg mg/kg 22.77 14.21 23.74 12.9* 95.9 110.2 148.3 117.9 NA 120 * 98.2 単位 (石炭) まとめ 表3の 分析 結 果から、石 炭および フライアッシュ試 料を iCAP 7400 ICP-OES Duo で分析できることが実証されました。波長 切り替えなどの Qtegra ソフトウェアの機能を Duo 測光と組み 合わせることで、単一の分析メソッドにおいて、低い検出限界を達 成しつつ広い測定範囲を維持することが可能となります。また、内 標準補正、 IEC などの機能と高効率の RF 電源を組み合わせるこ とで、高マトリックス試料でも追加希釈を行うことなく正確に分 析できます。 NIST 2690 回収率(% ) 認定 /標準値 回収率(% ) (フライアッシュ) Application Note EL14017 Ⓒ 2014 Thermo Fisher Scientific Inc. 無断複写・転載を禁じます。 ここに記載されている会社名、製品名は各社の商標、登録商標です。 ここに記載されている内容は、予告なく変更することがあります。 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 分析機器に関するお問い合わせはこちら TEL 0120-753-670 FAX 0120-753 -671 〒221-0022 横浜市神奈川区守屋町3 -9 E-mail : [email protected] www.thermoscientific.jp E1409
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