コンピューターは敬遠だ 中藤俊雄 昭和50年頃、職場にコンピューターが入った電算室から、購入して くれと参考書が持ち込まれた。コンピューター会社にいた同級生のもの だった。「こらあ、わしの同級生が書いちょうがの。おまえさんたち、 分かるかや?」と自慢したものだ。自分のことのように嬉しかった。 そのうちに、私が電算室に配属になった。あいさつに行き、「コンピ ューターは大の苦手で・・・」と、同僚に泣き言を言った。彼らは「君 にはコンピューターの権威の同級生がおるがの、大丈夫だわや」と仕返 しされた。 同僚からの坐学が始まった。教える方も下手だが、生徒が「わかりっ こない」という思いが強いので、なかなか進まない。同僚が先生ぶって 「コンピューターの世界には、0と1しか存在しない。いわゆる2進法 だよ」というので「日進月歩の進歩だね」というと「余計なことを言わ ずに早く理解しな」と叱られる。 解っても解らなくても、坐学の時間が終わった。理論の理解が進まず、 実技まで行かなかった。「後は君の勉強次第だ」と、私の責任になった。 締めくくりとして口頭試問があった。「コンピューターの3大特長は?」 と聞いてきた。「中央処理装置、演算装置」までは答えたが、後が思い 出せない。小さい声で「記憶喪失で・・・・」と言ったら、「そうだ、 記憶装置でいい」と合格になった。 コンピューターには付いて行けず、早期に退職した。ところがコンピ ューターはどこまでも付いてくる。ケータイを持たされたが、娘や孫娘 の手を借りねばならない。漸くメールの打ち方を覚えて、誰彼となく交 換している。車に乗れないので、用事は近くにいる娘に頼んでいる。こ の間など、「米を頼む」とメールをしたが返事が返ってこない。宛名の 指示先が、大阪の義弟の嫁さんになっていたらしく、向こうでは騒いで いたそうだ。また回転寿司の店に行っても、画面で注文するのでは不便 この上ない。 機械に弱くて車に乗れず、恐ろしくて飛行機にも乗れず、社会の波に も乗れずにいる。かくなる上はと、三千年前に中国で興ったという漢詩 に取り組んでいる。80の手習いだで大変だ、押韻や平仄の規則が並ん でいて、ほぼ絶望視に近い。それなのに詩聖とはいえ、李白は「酒一斗、 詩百編」と謳われているという。松江市雑賀町出身の若槻礼次郎は石橋 町で造る地酒が好きで、飲めば飲むほど頭が冴えるという。そして「李 白」と命名させたそうだ。若槻も松江に帰ったとき、嫁ヶ島に上陸して 漢詩を残している。私も徳に与かろうと飲んでいるが、「利薄」のよう だ。
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