インタビュー 塗料は更に環境に優しく、 高機能性が求められる 株式会社大林組 技術本部技術研究所 生産技術研究部 副主任研究員 奥田 章子さんに聞く 2020年の東京オリンピック開催に向けて新たな施設や建築 開発しました。こうした動 物が竣工されるなか、省エネや耐久性、耐候性といった高機 きは業界全体で進んできて 能で環境に配慮した塗膜性能が要求されている。また、新築 おり、日本塗料工業会でも 着工の伸びの鈍化が予想される中で、建築ストック市場にお VOC削減を掲げて水系化を ける改修分野への期待感は高まっており、建物に新たな付加 推奨しています。また、東 価値を持たせる高機能性塗料が注目されている。 京都などの行政機関でも環 本稿では、㈱大林組技術研究所生産技術研究部副主任研究 境に配慮して塗料の水系化 員の奥田章子さんに、今求められている高機能性塗料の価値 を推奨しています。 と今後の展望についてお話を伺った。 耐久性についても当初の ▲「塗料は色んな事ができる凄い材料 だということを、もっと知って欲し いですね」と語る奥田さん 水系ふっ素樹脂塗料の性能 環境配慮の動きはより顕著に はあまり良くありませんでしたが、最近では2液の水系ふっ素 樹脂塗料など、溶剤並みの塗膜性能を出せる水系塗料が出て - 最近の塗料の傾向はいかがでしょうか きましたので、それがもっと使われていけば良いと思います。 最近の塗料のトレンドといえば、環境と改修です。特に環 我々は建築分野ですが、土木分野に目を向けてみても水系 境配慮は重要なキーワードになっています。塗装には加熱硬 防食が採用されてきており、塗料メーカーからオール水系防 化形と常温乾燥形とがあるのですが、加熱硬化形塗装に関し 食塗装や水系ジンクリッチペイントがPRされています。2020 ては、ものつくり大学名誉教授の近藤照夫先生を中心に日本 年の東京オリンピックに向けて環境配慮の動きは、ますます 建築仕上学会の環境配慮形塗装仕様検討委員会にて、環境に 進むと思いますし、改修分野においても水系塗料が採用され 配慮した塗装仕様の標準化を目指して取り組んでいます。こ ていけば良いと思います。 れまでアルミニウム合金の素地調整にクロム酸塩系の化成皮 膜処理を使用していましたが、それをクロムの含有しない化 成皮膜処理への変換を図っています。また、化成皮膜処理の コストはLCCを考慮して 上に塗装する塗料自体もVOCを含まない粉体塗料にしていこ - ふっ素塗料は若干コストが高いという話もあります うとしています。 ふっ素樹脂塗料は、ライフサイクルコスト(LCC)で考えた 同様に常温乾燥形塗料においても環境配慮の動きとして塗 場合、初期投資は掛かりますが、長い目で見ると改修の周期 料の水系化が主流になっています。水系塗料が登場した当初 を長く取ることが出来るので、LCCを抑えることが出来ます。 は溶剤系に比べ性能が落ちる部分も多かったのですが、最近 また、CO2の総排出量やトータルVOCを考えてもふっ素樹脂塗 では同程度の性能を確保できる製品が出てきています。当社 料のような高耐久性塗料を使用したほうが有利になります。 でも水系の塗料の開発を行ってきました。これまで、水系の 東京スカイツリーは100年の耐用年数を見越して設計されてい 塗装仕様においてもプライマーだけは溶剤系のものが使われ ます。ですから、それに合わせて塗料も高耐久のものが使用 ていました。しかし、適用する全ての塗料を水系にできるよ されています。将来に向けて建物を何年使うかを検討した上 うにプライマーも溶剤系と同程度の性能を発揮できるものを で、仕上げ材料の選定をしていただければと思います。10年以 8 No.465 2015 年 5 月号 特集/これからの改修市場に提案する高付加価値塗料 上使用するのであればふっ素樹脂塗料を使用したほうが有利 になると思います。 改修時に注意しなければならない点は、塗り重ねの問題だ と思います。ふっ素樹脂塗料は硬化する際の凝集力が強いた め、既存塗膜との相性を事前に確認することが重要です。そ のため、旧塗膜に対して確実な下地調整を行った上で、塗膜 付着性を考慮して浸透性プライマーなどを塗布してから施工 すれば問題はないと思います。 - ふっ素塗料とほかの塗料の相性のようなものはありますか 例えば一昔使用していたような塩化ビニル樹脂塗料のよう ▲㈱大林組が開発した環境配慮型塗装「エココート工法Ⓡ」 を採用している技術研究所の新しい実験棟 OL2 な柔らかい塗膜の上からふっ素樹脂塗料を塗ると、ふっ素樹 脂塗料の硬化時の凝集力が強いので、既存の塩化ビニル樹脂 ですが。昨年、私は水系錆止め塗料の研究をしていました。 塗膜を引っ張ってきてしまうという不具合がありました。そ 錆止め塗料の中で、ジンクリッチペイントを使用して頂けれ うした問題に対処するには、施工前に旧塗膜と改修する塗料 ば水系でも良い性能が出ることを確認しました。しかし、建 との相性を事前にチェックしてもらえば問題はありません。 築でジンクリッチペイントを使うというのはコストが高くな 付着相性が良くない場合は、旧塗膜を剥がせば大丈夫です。 りますし、かなり特殊なケ-スなので、あまり浸透していま また、硬質塗膜に弾性塗膜は比較的容易に施工できますが、 せん。予算がつけば水系のジンクリッチペイント、水系のジ 弾性塗膜の上に硬質塗膜は施工しにくいということはありま ンクリッチプライマーを採用してもらえれば性能面でかなり す。改修でコンクリートにひび割れが入っている場合、ひび 違うと思います。これらの塗料がなかなか採用されないのは 割れ処理をした後に防水形の弾性塗膜を施工する場合があり コストの問題が大きいですね。 ます。細かいひび割れにも注入処理、充てん処理ができれば やはり、業界では低コスト化が非常に重要になってきてい 良いのですが、なかなか難しいため、含浸性のプライマーや ます。特に昨年の消費税増税後には住宅やマンションをはじ 低粘度のエポキシプライマーを塗布してから、防水形の弾性 め様々な建物の改修が先延ばしになり、改修塗装工事が減っ 塗膜を施工することが良くあります。 たという話を耳にします。また、塗料の水系化が進まない要 因の一つに汚れやすいという点が挙げられます。外壁の汚れ - やはり環境と改修が大きなキーワードになりそうですね は瑕疵工事の一つにもなっているからです。汚れにくいもの そうですね。環境の面でいうと臭気の問題イコールVOCの を選んで欲しいという要望が施主からも設計事務所からもあ 問題になってきますから、強溶剤ではなく弱溶剤へ、更に水 ります。日本建設業連合会でも塗装の汚れ評価の研究が進ん 系へ移行していくと思います。本当は水系仕様を採用したい でいて、耐候性試験の評価結果をもとに、防汚性能の良い塗 けれども下地と付着が取れないとか、下地塗膜との相性で弱 料を選ぶための促進試験方法の開発に関する取り組みがなさ 溶剤に落ち着いてしまうケースが多いですね。特に屋根には れています。この暴露試験からも分かってきたことですが、 防錆・防食の問題があるため、弱溶剤が使用されています。 水系塗料は汚れやすいのです。どうしても塗膜にタックが出 住宅街など近隣への配慮の問題もありますから、水系塗料を やすく、汚れが付着しやすいです。本来は水系のほうが緻 採用したほうが良いと思います。そのためにも、更に性能の 密な塗膜ができるはずなのですが、透水性やガス透過性が上 高い水系塗料の開発が望まれます。 がって、汚れも浸透しやすいようです。逆に溶剤系は塗膜が 硬いですし、緻密に硬化が進みますから汚れが付着しにくい - 業界の流れは溶剤から水系へと移ってきていますが、錆 傾向があるようです。 止め塗料などはいかがでしょう 鉛やクロムなどの重金属フリーで水系のさび止め塗料とい うと、特に外部の場合には性能面で少し不安な部分があります。 結局は、性能と環境配慮とどちらを取るかということなの - 汚れ防止機能という事で言えば光触媒塗料などもありま すが 光触媒自体は酸化チタンなどの無機物を使用しているので、 No.465 2015 年 5 月号 9
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